置き去りの恋

善奈美

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09 青と紫と赤♦︎03(五箇視点)

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 秋保が仕事を辞めて実家から出て行った話は、本人からではないが知っていた。大学時代から何かと芝居染みた人生を歩んでいた奴だ。親しくなったごく少数の友達だけが彼奴の本性を知っていた。中性的な容姿で、その辺にいる女より綺麗な顔立ち。それなのに高身長。何より無能だと周りは思っていたようだが、あの頭の良さを隠すだけの演技力。本当に役者も真っ青のタヌキ野郎だ。
 
 音沙汰がなかったくせに、やっと連絡を寄越した内容が、まあ、有り得なかった。電話口で開口一発言い放った言葉が、レッドダイヤモンドを探せだ。お前、それがどれだけ大変か分かってるのか。しかも、会社にどう説明しろって言うんだと切り返してやった。
 
 そうしたら、奴は兄がキャッシュで払うとか宣った。おい、お前の兄貴、今大変なんじゃないか? 会社、傾いてるだろう? 責任取れるなら探してやると言ったら、取るから探せと、上から目線で言い放ちやがった。探してやろうじゃないか。お前が吃驚するようなやつをな!
 
 そんなことがあって半年くらいたった頃、やっと、目的のものを仕入れることに成功。しかも、ピアス加工必須とか言いやがったせいで、無駄に時間が掛かったんだ! ピアスは左右の色を合わせなきゃならないんだぞ! 産出量が極端に少ないんだぞ!
 
 見付けたから金を用意しろと言ったら、場所の指定をしてきやがった。全く、本性を知ってる奴には容赦ないのは変わらないってことかよ。しかも、場所だけじゃない! 曜日に時間指定だ! どれだけ俺様なんだ!
 
 closeと札のかかった店に入る。中には若干、客が残ってはいたが、時間的に休憩に入るんだろうな。こじんまりとした店だが、居心地が良さそうだ。
 
「すいません。休憩に……、もしかして、五箇さん?」
 
 声を掛けてきたのはえらい顔立ちの整ったシェフ。紫綺とは別種の綺麗さだな。柔らかい物腰だが、なんとなく危険な感じがするのは気のせいか?
 
「五箇 雫石です。秋保 紫綺は居ますか?」
「居るよ。ちょっと待ってね」
 
 口調も柔らかいな。裏表がありそうだけど。
 
「紫綺! 五箇さん来たよ!」
 
 二階の階段に向かって叫んだな。つまり、二階は住居空間か。
 
「適当なところに掛けててくれる? すぐ来るから」
 
 そう言うと、会計をするお客の対応に向かった。本当に無駄にいい男だな。あれで料理人か。勿体無い。
 
「時間通りだな」
 
 姿を現して、開口一発目がそれか? 仕事は時間厳守だ!
 
「相変わらず俺様だな。お前はさ。雲隠れから一転、無茶なこと言いやがって」
「お互い様だろう。それに、業績アップのお手伝いしてやろうってんだ。有り難がれよ」
「お前、どれだけ大変だったと思ってるんだ?」
「仕事っていうのは、大変が付き物だろうが」
 
 あれ? 此奴、変わったな? 自然な感じだ。
 
「へぇ。気の置けない友達ってところかな?」
「俺の本性を知ってる、数少ない友人だ」
「そう言う友達が居たんだね」
「隠しきれないのも中にいる。感がいい奴は特にだ」
 
 この人は秋保の何なんだ?
 
「その人が五箇さん?」
 
 もう一人登場だな。見た感じ高校生か。また、無駄に整った顔立ちで。居るところには居るんだな。モデルにしたいくらいだ。
 
「俺に宝石売りつけた悪党だ」
「悪党はお前だろう。大学時代のあれこれバラすぞ」
「やれるものならやれよ。この二人に比べたら、俺なんて赤子も同然だ」
 
 おい。何、恐ろしいこと言ってるんだ。
 
「シィ兄の本性知ってるんだ」
 
 高校生には思えない感じだな。身のこなしっていうか、全体的に近寄り難いっていうか。
 
「へぇ。キョウ張りなの? 面白い」
 
 キョウって誰だ。って言うか、この子は秋保の何?
 
「この子は俺の弟で暁、向こうは一番上の兄で貴羅。で、此奴は友人の五箇 雫石」
 
 はぁ?! 弟? 兄? まだ兄弟が居たのか?!
 
「今回、頼んだ宝石はこの子ので、金の出どころは貴羅だ。で、本当に手に入ったのか?」
 
 待て。あのダイヤモンドの依頼主が弟?!
 
「待てよ。今の話、本当なのか? 高校生が欲しがるものじゃないんじゃないか?」
「まあ、半分はお前のせいだ」
「俺のせい?!」
「そう。まず、見せてくれ」
 
 まあ、金さえ出してくれるなら、とやかくは言わないけどな。持っていたトランクケースからご所望の物を取り出す。色や質を望まれると、如何しても、大きさまでは叶わない場合が多い。今回もだ。リングやネックレスなら一石で考えられるが、ピアスやイヤリングになると、左右の色を合わせる関係で難しいんだ。
 
「ピアスだって言うからな。左右で0.5カラットが限界だった。色はまあ、いい方だろう。天然石だから若干、不純物が混じってるが、そこは目を瞑ってくれ」
 
 テーブルの上にピアスが入っているケースを乗せ、蓋を開けた。黒のベルベットの上に二粒の赤い宝石。本当にこれが限界だった。会社側からも是が非でも売って来いと言われている。
 
「本当にあったんだね。吃驚だよ」
 
 秋保の兄貴が少し目を見開いてるが、その人の左耳には青い宝石が光っていた。あれ、ブルーダイヤか? それも、かなり綺麗な色だ。
 
「これ、本当にダイヤモンドなの? ルビーじゃなくて?」
「鑑別書付きで、正真正銘のカラーダイヤになります。もう、買ってください!」
 
 本当にマジでお買い上げしてくれ。そうじゃないと泣くぞ。
 
「暁、どう?」
「兄さん的にこれが俺のイメージなんだ?」
「まあね。オレンジって感じじゃないでしょう? 毒がある感じだしね」
 
 そういう本人もかなり毒を感じますが?
 
「いいよ。俺、宝石は分からないから。大変だってことは、この人の必死さで分かるし」
 
 この子、淡白だな。秋保の兄貴が一つ頷いて、奥に引っ込んで行った。
 
「お買い上げ、だな」
「は? 本当か?」
「あの人、金銭感覚が破壊的だからな」
 
 おい。仮にも兄貴だろう? ん? 
 
「お前、ピアス開けたのか?」
「まあな。恋人にせがまれた」
「恋人なんて出来たのか?」
「出来たが、勿体なくて会わせられないな」
 
 奥から秋保の兄貴が袋を片手に戻って来た。目の前のテーブルにそれを無造作に置く。……って、まさか………。
 
「言われた金額分」
「はい?」
 
 キャッシュって、冗談じゃなかったのか?! 普通、簡単に出せる金額じゃないだろう?!
 
「破壊的だって言っただろうが」
 
 なんだ、この兄弟。俺、人種が違う奴等の前に生贄の如く、差し出された感じだ。なんだ、この、敗北感。いや、この際、契約成立だってことで喜ぶことにしよう!
 
「お買い上げ誠にありがとうございます」
 
 やけだ! 営業スマイルだ! 未踏の地に踏み込んだ感が満載だけどな……。
 
 
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