置き去りの恋

善奈美

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SS

20 どんでん返し? ■(暁視点)

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 まさか、連れ戻されるとは思わなかった。思いっきり抵抗してみたけど、頭のない不良なら勝てる自信はあっても、訓練を受けた大人の男数人に勝てるわけがない。
 
 氷室の相続に関する全てを放棄するかと訊かれたけど、それは秋保に関してもなんだって言われなくても分かった。彼奴等にしたら俺は存在自体が忌むべき者だ。放棄以前の問題だと思う。
 
「試させてもらった」
 
 試す?
 
「聖月から後継者は無能だと聞いていた。だからだ」
「後継者?」
 
 兄さんじゃない。あの人は無能なんかじゃない。どちらかと言えば人間離れしている。俺はあることが脳裏を過ぎった。俺と兄さんの年の差は十二歳。間に一人や二人いたとしてもおかしくない。
 
「!」
 
 目を見開いた俺に、宗一郎さんは目を細めた。
 
「本当に聡い。説明は不要のようだな?」
「莫迦達にまだ子供がいるの? 無能なのに……」
 
 俺を捨て置いたくせに。いや、だから捨て置かれたんだ。兄さんが野放しなのも後継者になりうる存在がいたから。
 
「こちらとしては、とばっちりを受けるつもりはない。大叔母二人は秋保と氷室から離れている。こうなると察したためだと私に言った。まさか、雪兎が秋保と氷室の関係者に熱をあげるなど、思いもよらなかった」
 
 今まで会社が傾いている話は聞いていない。もしかしたら兄さんは知っているかもしれないけど。莫迦親の代で傾いた話はないから、後継者の能力が低いのか? そうなったら、俺じゃなく、兄さんがやばいんじゃ……。
 
「私は雪兎に甘い。一番可愛がっている末息子の子だからな。それに、雪兎は愚かではない。その子が選んだ子だ。本来ならこのような試すことはしないが、大叔母の血筋では無視は出来ん」
 
 何を言いたいのか分かる。俺から見て秋保と氷室の祖父か祖母は宗一郎さんの従兄弟になる。疎遠になっていても、会社が傾いたとなれば泣きつくだろう。そこへ来て、放置していたとはいえ、孫である俺が草壁と面識があるなんて知れたら大変なことになる。
 
 俺が全ての権利を放棄し、秋保も氷室も他人だと突っぱね、更に、草壁側も縁を切っていると強く言えば何も言えなくなる。世間に知られて痛い目にあうのは草壁ではないのだから。
 
「しかし、本当に恋人なのか?」
 
 宗一郎さんの問い掛けは、当たり前のものと言えた。普通、受け入れがたい。
 
「暁は僕の恋人だもん!」
 
 遠巻きに見ていた雪兎が小走りに近寄り、俺の右腕に腕を絡めながら宣言した。……少しは控え目に言った方がいいと思うよ。いろんな意味で。
 
 おそらく、事前に聞いてはいたんだろうな。雪兎は両親には隠さず話したと言っていたから。
 
「曾孫を見せてはくれないのか?」
「そんなの、他の孫達に望んで! 沢山いるんだから!」
 
 いろんな意味で居た堪れない。俺は結婚する意思はないし、したとしても血筋を残そうなんて考えたくもない。
 
「勿体無い」
「そんなことないもん!」
「お互いに賢いだろう」
「そんなの関係ないから!」
 
 不毛だ。何がって、さっきから言ってるように、いろんな意味で。
 
「陽月、何か言ったらどうだ?」
「この子が頑固なのはお父さんの血のせいですから。諦めてください」
「孫はいいのか?!」
「まだ、僕達も若いですし、もう一人くらいね」
 
 陽月さん。鉄の心臓。草壁って、ある意味、凄い人達かも……。
 
「それより、もう済んだんだからお昼が先よ!」
 
 全員の名前を把握しているわけじゃないから分からないけど、陽月さんによく似た女性がそう叫んだ。うん、女性って男性より凄いよね。逆らわない方が絶対いい雰囲気。俺の心を読んだように微笑んできて、はっきり理解する。素直に従った方がいい。周りもそんな気配を漂わせていた。
 
 
■おまけ■(陽月視点)
 
「今回は早めに解放されてよかったわ」
 
 和香の言葉に僕は頷いた。雪兎と暁は車の後部座席で、仲良く眠りの国の住人になってる。
 
「あの子が親戚関係に慣れてないからだと思うけどね」
 
 本当に一人で居たんだろうな。解決した後、当然、隠れていた親族が二人を取り囲んだ。元々、雪兎は親族が集まると玩具状態だった。恋人の暁が親族だと知ると遠慮がなくなったんだ。それこそ、構い倒されてた。
 
 それを見た雪兎が自分のだからと、暁を抱き込んで威嚇したもんだから、更に大騒ぎだ。
 
「どうなさるつもりかしら?」
「多分だけど、秋保側の弁護士と接触するだろうね。あそこの弁護士はかなり有名な人だから」
 
 お父さんが調べて分かったことだけど、その弁護士は暁とその兄を擁護しているらしい。つまり、かなりの便宜を図っている。草壁側から接触することで、どういうことが起こっているのか、察してくれるだろう。
 
「それにしても、毎回、凄いわね」
 
 和香の呟きに僕は苦笑いを浮かべた。毎回、雪兎は親戚連中からありとあらゆる物を買い与えられる。勿論、本人が望んだ物ではなく、可愛いが故の買い与えだ。まあ、従兄弟の中で年が離れているからね。従兄弟達も小父さん小母さん感覚で買ってくるからね。そこへ来て暁だ。見た目が良いって言うのも関係があると思うけど。
 
「近いうちに、お兄さんの店に顔を出さないとね」
「そうね。雪ちゃんが凄く美味しいって言ってたわ」
 
 和香は嬉しそうだ。最近、食べに出掛けてないからね。挨拶にも伺わないといけないし。でも、もう少し先の話かな?
 
 
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