番に見つからない街で、子供を育てている

はちも

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ヴィルヘルムの話

11話

 時間は無情に流れていった。
 自分の足でロアンを探しに行くことは、結局かなわなかった。
 辺境伯領へ自ら赴くのは、今の俺の立場では簡単なことではない。
 戦の最前線にさえ王は出ぬものだと、宰相を始めエーリクや辺境伯など事情を知る者たちに、何度も釘を刺された。
 幸い、近隣諸国との外交は大きく崩れず、内政もようやく細かな調整で済むところまで落ち着いてきた。
 天候にも恵まれ、農耕も酪農も大きな痛手はない。
 国は穏やかに回り始めているというのに、俺の中の時間だけが、あの日から少しも進んでいない気がした。
 即位から五年が経とうとしていた。
 ようやく、人目を縫って動けるだけの余地が生まれつつあった。

「ついに、お住まいを整えるお気持ちになられたのですね。
 すぐに手配いたします。ご要望があればお申し付けください」
 話を告げると、侍従は浮かれたような声で応じた。
 今使っているのは、王子時代から変わらない部屋だった。
 即位したら、父も使っていた王の部屋に移るか、王城内に家族で住まう建物を整えるのが、慣習だった。
 だが俺は、ロアンと一夜を過ごしたあの部屋を離れる気にはならなかった。
 最後に魔力を注いでもらった魔石も、使えないまま箱にしまってある。
 ロアンの気配がなくなるのが怖かったのもある。
 縋り付く気持ちも否定はできない。
「まずは王の部屋に移る。部屋の内装はそのままでよい。
 あとは、伴侶を迎えるための離れを建てる。これも調度はまだ入れなくていい。まずは建物を用意したい」
 侍従の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「では、ついに王妃様をお迎えになるのですね。
 候補をお出しいたしましょうか」
「いや、迎える伴侶は決まっている。断られたら、俺に伴侶はいらん」
 侍従を部屋から出すと、エーリクがいきなり吹き出した。
 そのまま、くつくつと背を曲げて笑う。
「あの調子では、懲りもせずに写真と釣り書きを積みますよ」
「知ったことか。……ようやく、ロアンを探しに行けるんだ。あやつの動きなど些細なことだ」
 あの日から、正規の方法で王都から出られない俺は、転移魔法を習得することにした。
 長距離の移動には、魔法の腕に加えて魔力も必要だ。
 執務の合間を縫って技術を磨き、魔力を鍛えるのは骨が折れた。
 だが、人を送り込んでも行方のわからない最愛を探すためには、これが一番現実的な策だった。
 エーリクもこれには何も言わなかったし、宰相初め大臣たちも、見ぬふりをしてくれた。
 二十代も半ばを過ぎ、番に固執してそれ以外の伴侶を求めない俺に、周囲も諦めを覚えたのかもしれない。
 あるいは、アルファとして憐れに思ったのかもしれないが、どちらでもよかった。
 いずれにしろ、国を安定させながら己の願いも手放さずにいる俺に、文句のつけようもなかったのだろう。
 しばらく周囲に仕事を任せられる段取りが整った。
 転移魔法での長距離の行き来はそれなりに疲れる。
 少しまとまった日にちの休みを取り、辺境伯領の離宮へ向かうことにした。
 何かあれば遠話で報せが届くし、転移で戻ることもできる。
 俺は認識阻害のマントを羽織り、商店街を中心に歩き回って噂を集めた。
 オメガは何人かいた。だが、どれもロアンの特徴には当てはまらない。
 写真の一枚も残さなかったことを、今さらながら後悔した。

 そんな折、商店街の外れにオメガが店を出したという話を耳にした。
 午前中に行ってみれば、店は閉まっていたが『魔石屋』の看板が出ていた。
 店に近づいてみれば、ほのかに涼やかな花の香りがした。
 俺だけの最愛の匂いだ。
 入り口にある呼び鈴を何度も押すが、返事はない。
 しばらく店の前で待つが、昼を過ぎても誰も戻らなかった。
 商店街を行き交う人々が胡散臭げな目を向けてくるのに気付く。
 今日は店の場所がわかっただけで、十分だろう。
 住まいを構えている以上、早々に逃げることはないだろう。今日は引こうと、店を離れた。
 

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