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「なっ……なになに? なんで君がいるの?」
人の原稿を勝手に見ているのは、かつて王宮で第一王子の側近候補として、一緒に生活していたやつだった。
ノーバート・アイゼナー。公爵家の次男。
僕よりふたつ年上で、今は側近として王子の元で護衛騎士をしているはずだ。
それがなぜここに、伯爵領内の僕の家にいるの?
頭の上にハテナを飛ばしながら、ノーバートの手から原稿をひったくる。
「久しぶりに実家に帰って来たから、寄った」
机の脇に積んであるペン入れ済みの原稿に手を伸ばしながら、ノーバートは言った。
「確かに領地は隣同士だけど、寄ったって?」
「おまえが王都を出てから、会える機会が減ったからな。元同室に会う機会があるなら来るのはおかしくないだろ?」
いやいやいや、おかしいだろ。
馬を飛ばして半日以上掛かる場所にわざわざ来るか?
同室だったのは十二歳までで、僕が候補を辞めて王宮を出てから、もう六年も経つのに。
僕がぐるぐるしている間も、ノーバートは原稿をめくり続けていた。
ハッとして手を伸ばすが、ひょいとかわされる。
「勝手に読まないで! 返してよ!」
前世でも学生の時に同じことされたな。
クラスの陽キャ男子に見せろよって、クロッキーしてたスケブをやられた。
あの時は美術部の課題だったからまだよかったけど、今はエロありBLの漫画原稿だ。
僕の手が届かないように高く掲げられたそれは、濃厚なキスシーンが描かれたページが表に来てる。
「エリアス、おまえは俺にこうされたかったのか?」
ノーバートのいやらしい笑みが、さらに深くなる。
いや、おまえそんな顔する奴だったのか?
ていうかそもそも僕、キャラに自分重ねない方なんだけど。
「どういうこと?」
僕が聞き返すと、パラパラとページをめくり、一枚の原稿を僕の前に提示した。
「こっちの黒髪がバート、金髪がエリス。俺たちの名前だ。容姿も似ている。こんな絵物語は初めて見たが、俺たちのことを描いているんじゃないのか?」
僕は目を大きく見開いた。
気にもしていなかったが、言われてみれば……キャラの名前、僕たちの愛称みたいじゃないか。
容姿も、言われてみれば似ているかもしれない。
攻めは黒髪碧眼設定で、受けは金髪蒼眼。
攻めはガタイがよくて、受けは小柄で華奢。
ファンタジーBLにありがちな設定だし、僕の性癖だ。
だから偶然の産物なんだけど。
「いやらしい事とは無縁な顔をして、頭の中は花畑だったんだな」
ノーバートは全部読み切って、原稿を机に戻した。
そっくりそのまま返したい、その言葉。
王子の隣に立ってる時の清廉な顔が、こんなに崩れるの?
僕の中のノーバート像を返して欲しい。
「……それ、実践してやろうか?」
目を細めて、ノーバートが顔を近づけてくる。
椅子を回転させて逃げようにも、肘置きを抑えられ、動かせない。
体を丸めて顔を下げるが、顎を掴まれ強引に上を向かされた。
ぎゅっと目を瞑っている暗闇の向こうで、唇にふにりと柔らかいものが触れた。
二度三度と啄むように触れてくる。
いやいやと首を振るが、顎を掴む手の力に勝てず、背けることが出来ない。
更に口付けが数度続いて、ふっと眼前の気配が遠くなる。
顎を掴んだ手から力が抜け、下唇をむにゅっと軽く摘んでから名残惜しそうに離れた。
止めていた息を吐き出すと、ぜーぜーと荒い呼吸が漏れた。
そろりと目を開けると、ノーバートが笑顔で見つめている。
さっきまでのいやらしさは薄れて、心なしか柔らかさがある笑顔。
ノーバートの顔を睨みつけながら、僕は手の甲で唇を何度も擦った。
「初めてだったのか。あんな絵を描いているから、経験くらいはあるのかと思ったが」
「あっ……ある訳ないだろ……! いきなり何するんだよ!」
ファーストキスだったんだぞ!
睨みつける目に涙が滲んでくる。
「経験なんてなくても、これくらい描けるんだよ!シリアルキラーの小説書いてるからって、みんな殺人鬼なわけじゃないだろ!」
僕の言葉に、ノーバートは少し考えるふうに、明後日の方向を見上げた。
「……処女や童貞の方が、妄想は逞しくなるものなのかもな……?」
ぽそっとノーバートが言った。
聞こえないように口の中で小さく呟いたつもりかもしれないが、ちゃんと聞こえたからな。
人の原稿を勝手に見ているのは、かつて王宮で第一王子の側近候補として、一緒に生活していたやつだった。
ノーバート・アイゼナー。公爵家の次男。
僕よりふたつ年上で、今は側近として王子の元で護衛騎士をしているはずだ。
それがなぜここに、伯爵領内の僕の家にいるの?
頭の上にハテナを飛ばしながら、ノーバートの手から原稿をひったくる。
「久しぶりに実家に帰って来たから、寄った」
机の脇に積んであるペン入れ済みの原稿に手を伸ばしながら、ノーバートは言った。
「確かに領地は隣同士だけど、寄ったって?」
「おまえが王都を出てから、会える機会が減ったからな。元同室に会う機会があるなら来るのはおかしくないだろ?」
いやいやいや、おかしいだろ。
馬を飛ばして半日以上掛かる場所にわざわざ来るか?
同室だったのは十二歳までで、僕が候補を辞めて王宮を出てから、もう六年も経つのに。
僕がぐるぐるしている間も、ノーバートは原稿をめくり続けていた。
ハッとして手を伸ばすが、ひょいとかわされる。
「勝手に読まないで! 返してよ!」
前世でも学生の時に同じことされたな。
クラスの陽キャ男子に見せろよって、クロッキーしてたスケブをやられた。
あの時は美術部の課題だったからまだよかったけど、今はエロありBLの漫画原稿だ。
僕の手が届かないように高く掲げられたそれは、濃厚なキスシーンが描かれたページが表に来てる。
「エリアス、おまえは俺にこうされたかったのか?」
ノーバートのいやらしい笑みが、さらに深くなる。
いや、おまえそんな顔する奴だったのか?
ていうかそもそも僕、キャラに自分重ねない方なんだけど。
「どういうこと?」
僕が聞き返すと、パラパラとページをめくり、一枚の原稿を僕の前に提示した。
「こっちの黒髪がバート、金髪がエリス。俺たちの名前だ。容姿も似ている。こんな絵物語は初めて見たが、俺たちのことを描いているんじゃないのか?」
僕は目を大きく見開いた。
気にもしていなかったが、言われてみれば……キャラの名前、僕たちの愛称みたいじゃないか。
容姿も、言われてみれば似ているかもしれない。
攻めは黒髪碧眼設定で、受けは金髪蒼眼。
攻めはガタイがよくて、受けは小柄で華奢。
ファンタジーBLにありがちな設定だし、僕の性癖だ。
だから偶然の産物なんだけど。
「いやらしい事とは無縁な顔をして、頭の中は花畑だったんだな」
ノーバートは全部読み切って、原稿を机に戻した。
そっくりそのまま返したい、その言葉。
王子の隣に立ってる時の清廉な顔が、こんなに崩れるの?
僕の中のノーバート像を返して欲しい。
「……それ、実践してやろうか?」
目を細めて、ノーバートが顔を近づけてくる。
椅子を回転させて逃げようにも、肘置きを抑えられ、動かせない。
体を丸めて顔を下げるが、顎を掴まれ強引に上を向かされた。
ぎゅっと目を瞑っている暗闇の向こうで、唇にふにりと柔らかいものが触れた。
二度三度と啄むように触れてくる。
いやいやと首を振るが、顎を掴む手の力に勝てず、背けることが出来ない。
更に口付けが数度続いて、ふっと眼前の気配が遠くなる。
顎を掴んだ手から力が抜け、下唇をむにゅっと軽く摘んでから名残惜しそうに離れた。
止めていた息を吐き出すと、ぜーぜーと荒い呼吸が漏れた。
そろりと目を開けると、ノーバートが笑顔で見つめている。
さっきまでのいやらしさは薄れて、心なしか柔らかさがある笑顔。
ノーバートの顔を睨みつけながら、僕は手の甲で唇を何度も擦った。
「初めてだったのか。あんな絵を描いているから、経験くらいはあるのかと思ったが」
「あっ……ある訳ないだろ……! いきなり何するんだよ!」
ファーストキスだったんだぞ!
睨みつける目に涙が滲んでくる。
「経験なんてなくても、これくらい描けるんだよ!シリアルキラーの小説書いてるからって、みんな殺人鬼なわけじゃないだろ!」
僕の言葉に、ノーバートは少し考えるふうに、明後日の方向を見上げた。
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