月光の道標

笹井ひなか

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一章

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僕が半吸血鬼になってから数百年。その間に起こったことを言うと僕は母の死を看取った。

「あなた、ごめんなさいね」

そう言いながら僕の頬に触れる。母の記憶に僕はいない。

「大丈夫だからゆっくりお休み。愛してるよ」

「えぇ、私も」

柔らかく微笑んだ母はゆっくり目を閉じた。

そして息を引き取るのを見送った。父はどうなったのかわからない。僕は城内へ戻る。あらゆる場所を探しだが何も見つからない。

「父さん…頼むよ…何か手がかりがないか探してんだよ…」

母の死から数百年。何も見つからない。孤独に耐えられず遊び歩いたりもした。夜にしか会えない僕に彼女は不信感を抱きながらもそばにいてくれた。それでも最終的に化け物と呼ばれ皆、離れていく。仕方ない。僕は化け物なんだから。

『年老いた私を笑ってるんでしょ!?最悪ね…。あなたみたいな出会った頃から見た目も変わらない化け物にはわからないのよ!!醜い女を笑ってるんでしょ!!』

30年連れ添った彼女に言われた言葉。傷ついたのは確かだがそれ以上に彼女を傷つけた。僕の不用意な言葉で傷つけた。

それでも寂しくて誰かといたくて街に出ても時が経てば周りの人はいなくなる。

孤独が僕を苦しめる。永遠の命、不老不死そんなもの必要ない。誰かと歳を重ねることの素晴らしさも僕には不可能なんだ。


僕はずっと孤独なんだ……。




「おやおや、半吸血鬼とはいえ辛気臭いなぁ。吸血鬼の印象が悪くなるではないか?」

月明かりだけが差し込む真っ暗な城内の廊下。突然聞こえた声にあたりを見回す。小さな虫、いや無数のコウモリが人型のように集まっている。

「誰…?」

「私はノーブル。君とは違い生まれながらの吸血鬼だよ。だから君のような弱点は無いのだ。鏡にも映るし銀にも触れる。川だって超えられる。十字架なんて平気だしニンニク料理も大好きだ。臭いがキツイけどね」

コウモリがフワリと消えたかと思うと貴族のような男が現れた。長い髪をゆるく一纏めにしたシルクハットの男。手には杖を持っている。年齢は30代前後だろうか。

「始めまして。君に話があって探していたんだよ」

「どういうことですか?」

「半吸血鬼でも神に呪われたものにしか出来ない話があるんだ」

ノーブルはシルクハットを取るとゆっくり近づいてきた。改めてみると恐ろしいほど綺麗な男だった。






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