アンダーヒューマン

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六話――《沙織の考察》

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「ふわぁあ……、それにしても静かだな? あんなにいたやつらが今では一人も見当たらないぜ?」

 セントラル施設より南西部に位置する半壊した建造物の集合区、《アペル》。
 その荒廃した十階建ての建物にある、一際目につきにくい場所で路上を見下ろしながら呟く杏子。

 かれこれ、街へ飛び出して数時間は経過していた。空を見上げても天気は変わらず曇り。昼なのか夜なのか把握できない。
 携帯用端末にも時間は表示されていないところを確認すると、恐らく管理者側からの情報操作だろう。頼みの綱は、定時連絡のアラームのみ、か。

 私はそう思いながらも携帯用端末を長い間、見続けていた。

 そして、気づく。この端末には充電機能がないことに。
 そして更に気づく。携帯のバッテリーの値がないことに。

 携帯の充電値を隠しているのか、必要がないのか……。恐らく、後者だろう。

 そもそも、そこを隠蔽するのであれば、電池が切れた場合の定時連絡や支給品などは与えることが出来ないことになる。それは不公平に値する。そんなことを管理者側が把握していないはずはない。

 空は常に曇りだし、ソーラーパネルなどもなければ周囲に充電するスポットもない。ということは、いつでも見られるように端末自体に何らかの細工をして電池切れを無くしているのだと私は思った。

 今現在、携帯端末で得られる情報は四つ。

 一つは、休息時間の終始報告。

 一つは、毎日千円という多いのか少ないのか分からない支給金。

 一つは、現在この街に点在する能力者達の数。

 そして、一番気になったのが最後の一つ。

 殺傷した数が表示されていた。私は不思議に思う。――何、これ? と。
 確か、規則の《その八》にはこう書かれていたはず。



 『その八、生存確認は行わない。故に、殺傷は自由である』



 そして、携帯端末の表示。もう、殺すことで何かが有利な方向へ傾きますとでも言っているような文言。
 言葉では『共存してください』なんて言っている裏で実際は『殺し合って生存権を奪ってください』とも取れる情報。管理者の悪意が感じられる。

 私達は取り敢えず、現在の時間が分からない為、交互に周囲を警戒しながら定時連絡までの間、休息を取ることにした。

「なぁ? それにしても、沙織はいつまで携帯端末で調べごとをしているんだ?」

 周囲の気配が無くなって安心したのか杏子は私の横にきて携帯端末を覗き込む。

「えっとね、私達って今現在千円という数字が携帯端末の中に入力されているでしょ?」
「ああ……」
「これって、街中で買い物をして飲食や、更には武器なんかをこの所持金額で購買してくださいって言っていることだと私は思うの」
「それで?」
「つまるところ、一日千円の飲食をしていると、身を守る護身用の武具が買えなくなっちゃうってことだと思うの」
「なるほどな。確かに、拳銃一つでもありゃあ沙織の戦力は一気に跳ね上がるから必要だよな? ――んで、その護身用の武具とやらはおいくらなんだ?」
「それが……調べてはいるんだけど、武器の名前や画像、説明はされているんだけど、金額が何処にも表示されていないの」

 私は困った様子で携帯端末のモニター画面をコツコツと叩く。

 そうなのである。支給された携帯端末及びガイドブックには広大な地理の名称や構造や場所ならびに、付近に設置されてある様々な店舗の情報は明確に表示がされているものの、そこで販売されている物品の金額が表示されていないのだ。

 これは、現地へ赴いて自分の眼で確かめろと管理者側から言われているようにも思える。

「それに、もう一つ気になったのが……」
「気になったのが?」

 私の言葉を後追いで言う杏子。
 私はそんなことを気にする事無く、思ったことを説明する。

「各店舗の営業時間が記載されていないこと」
「それって、どういうことなんだ?」

 眉をひそめながら杏子は問う。

「うん、恐らくこれは、私の推測だけど……同じ店舗の店でも、場所によって営業時間帯が違うと言っているように思えるの」
「なんだそりゃぁ? ――そんなことをして意味があるのか?」

 腕を組み、首を傾げながら考える杏子。私は考える。その意図を。そして、一つの考えに辿り着く。

「例えば、だけどね。――もし、開店時に入りたいお店があったとして開いていなかったらどうする?」
「まぁ、普通に待つだろうな」
「その時、待ち伏せされていて襲撃を受けたら?」

 間髪入れずに、質問をする。

「待ち伏せか」
「そうなの、このバトルロワイヤルは如何に多くの情報を手にして相手を欺くか、もしくはうまく立ち回るかが勝負だと思うの」
「それで? その感じだと、今後、どう立ち回っていくか考えているんだろ?」

 杏子は私の真剣な表情から洩れる笑みを感じ取り、私が何かを考えていることに気づいていた。

「うん。私たちの今後の計画は、こうよ。――まず、戦闘は極力避けること。次に、行動するのは終業時間後。そして、夜から行動するということもあって、始業時間から終業時間までは休息を取りつつ、自分たちの能力強化。そして、交互に見張りながら警戒するってところかしら」

 杏子は頭を捻る。表情を見るからに、どうして行動するのが終業時間後なのかが分かっていない様子。

「どうして、夜に――」
「行動するのかって? それは、安全だからよ」
「でもよ、安全っていっても、規則を破って襲ってくるかもしれないぜ?」

 一理ある。問題はそこなのであった。

 規則、《その三》にはこう書いてある。



 『その三、これを破るものは多大なるペナルティが与えられる』



 多大なるペナルティとは何なのか。どんなペナルティなのか不明な点であった。

 破ると殺されるのか? はたまた、支給金の没収程度とか持ち物の没収程度で済むのか? 

 ――今の私には分からなかった。

「ふぅ、多大なるペナルティ……か。――少し様子を見ながら調べる必要がありそうね」

 私は軽い溜息を洩らすと、携帯端末を閉じて暗雲とした作り物の空を見上げるのだった。
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