アンダーヒューマン

ガム

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十一話――《一期一会》

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 私は照れ隠しをする潤をジッと見ながら、能力の考察を始めた。
 
 見たところ、管理者と革女へ気を配りながらもこちらの様子に気づいていたともとれる発言から推察すると、私と同じような『予知能力』である可能性は考慮しなければならない。だけど、気になる点が一つ。確か、二階堂潤はランク《A》の能力者。ということは、予知能力である私のランク《C》と同等の能力者と考えるのは私が運営者なら絶対にしない行為。
 予測や予知といった類は個々の身体能力によってランクがかなり左右されると考えるべきなのかしら?
 でも、よくよく考えると、女性を守る男気溢れる行動と革女の拳銃にも怯まない態度。
 まさかとは思いたくはないけれど、革女の銃弾にも対応できる能力者と考えた方がいいのかしら――いえ、もっと別の何か。身体的なものなのかしら?
 杏子のように運動神経が異常発達したとか。或いは何処かの感覚器官が異常なのか。

 そんなことを考えていると、杏子がストレートな問いかけを潤に投げかけた。

「因みに、お前は一体どんな能力を持っているんだ?」

 まさに、私が一番聞きたかったこと。手探りで相手の事を考えながら発言する私と違い、杏子は直感で物事を判断している様子。私はマジマジと聞き耳を立てる。

「俺が教えたらそちらの二人の能力も教えてくれるのか?」

 いや、それは少しリスクがある。やっぱり訊かない方が――

「いいぜ、こっちは全く無問題だ」

 杏子が勝手に話を進めている。『ちょっと待って!』『大いに問題があると思いたいのだけど?』などと思いながら杏子の背中をポンッと叩こうとする私。
 しかし、その手も杏子の背中に触れる直前で止まる。それは、互いに能力を共有し合う意思が相手にあるということは、もしかすると『能力を開示』すれば仲間になれるかもしれないと感じたからだ。
 
 琴葉は私と同じ《E》ランクの能力者だが、潤は《A》ランクの能力者。是非、仲間に引き入れたいところ。
 私は思い留まると、流れのまま潤の話を聞くことにした。

「俺の能力は『視聴覚異常発達』だ。集中すると半径数百メートルの状況が把握できる」

 ランク《A》なのが一瞬で頷けた。戦闘に取って周囲の状況をいち早く把握できるのは何よりもの『アドバンテージ』になる。左程運動神経が悪くても、誰よりも早く、危険を察知できるのだから。
 しかし、 腑に落ちない点がある。
 私は琴葉の方へ視線を向けると、

「なるほど――すごく便利な能力ね。でも、その能力で一体どうやって革女から三乃下さんを守ることが出来たのかしら?」

 考え込むような素振りを見せながら小首を傾げる私は未だに理解出来ていない。

「おいおい、沙織。こいつの能力は『視聴覚異常発達』だぜ?」

 杏子の言葉に目を丸くする私。

「ということは、革女の銃撃による初動なんかを即座に把握して対応できるんじゃないのか?」

 なるほど。そういう見方もあるのね。どうやら私は、能力の『意味』よりも潤に開示された能力の『説明』に耳を傾けていたようだ。
 徐々に能力の意味を理解した私は、精錬すればその能力が『万能な能力』だということに気づく。
 心の奥底から震えが止まらない。込み上げてくる嬉しさは表情に現れる。そして満面の笑みを浮かべながら、

「……ということは、すっごく便利な能力じゃない!」

 急に大声を出して笑みを浮かべる私の姿に半歩後退りながら驚く杏子。

「だから、そう言ってんじゃねぇか」

 私たちのじゃれ合う様子を見て琴葉は「くすっ」と笑い、「二人の能力をお聞きしてもいいですか?」と小さく囁いた。

「あたしは『身体能強化』だな。因みにランクは二階堂と同じ《A》だぜ」
 
 杏子に先を越されてしまった。杏子の後に私の能力を伝えると、能力に落差がありすぎて聞き手の反応が予想できるから怖いんだけど。そんなことを考えながら目を泳がす私は、胸の《E》の文字が見えていることに気づかず、「ふふん」とわざとらしく胸を張って見せる。

「身体強化能力者か。因みにどんな身体能力を使えるんだ?」
「そうだな~、試してないから何とも言えないが、気持ち的に百メートルを『秒』で走れる気がするな」
「うひゃぁ、それはすごいな」

 驚く潤を見て得意げにガッツポーズをして見せる杏子はノリノリだった。

「それで? そちらの金髪のお嬢さんの能力は?」
「き、金髪って……」

 何なのよ、こいつ。調子に乗ってるところが腹立つわ。しかし、杏子の後の報告。戦闘に全く意味がないのだと知ったら愕然とすると思う。『はぁ~』時間が経つにつれて気が滅いってくる。私が言葉を詰まらせ、モジモジしていると、

「どうした? 沙織。腹でも痛いのか?」
「ち、違うわよ! 杏子の後だから言いづらくなっているだけよ!」
「そういうことか、ならあたしが代わりに言ってやるよ」

 ――へっ?

 俯いていた私は咄嗟に杏子の方へ振り返る。

「こいつの能力は《予言者》だ。未来を見据える能力を持っているんだってよ」
「ちょ――――ッ! その言い方は見え張り過ぎでしょ⁉ あからさまに私が、次に何が起こるのか知っているような言い方はやめてよね!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。《予知》も《予言》も同じだろ?」
「違います! ぜーんぜん違いますぅ!」

 私達が言い合いをする中、潤と琴葉は眼をキョトンとさせ、急に笑い出す。

「あんたら、仲いいねぇ。全く羨ましいぜ、ははっ」
「本当に。私にも沙織さんと杏子さんみたいに仲良くできる友人がいれば、どれだけ学校生活が楽しかっただろう」

 思いにふけりながら琴葉は天井を仰ぎ一人呟く。

「さ、最後になったが琴葉の能力を教えてもらってもいいか?」

 杏子は床に腰を落とし、どっしりと胡坐をかきながら座り込む。

「わ、私の能力は胸の《E》の文字を見ても分かりますように、戦闘には特に使いようがない能力でして――」

 異様な遠回しの言い方がやけに気になる。しかし、琴葉の様子を伺う限り、別に何かを隠している様子はなく、何処か恥ずかしそうにしているようにも思える。

「小難しく言われても分からん。――単刀直入に頼む」

 モジモジしながら小さく丸まる琴葉は肩をビクッと竦めると、

「は、はい! 記憶です!」

 歯切れのいい言葉遣いで背筋を伸ばしながら言う琴葉は挙動不審。

「記憶……記憶ってことは人一倍、何かを覚えているとか?」

 小首を傾げ、頭を捻らす私は両腕を組んで考える。しかし、琴葉は首を小刻みに左右に振る。

「人一倍とか、そういうレベルではないと思います」
「どういうこと?」
「……見たもの全て、訊いた事全てを覚えている、ようなのです」

 琴葉の震える言葉に三人は驚愕する。普通であれば、多少親身になって共感してあげるところ。
 しかし、私は琴葉の《記憶》という能力が何故ランク《E》なのか疑問に思っていた。見聞きした物事を全て記憶しているということは、情報戦略であるバトルロワイヤルでは最強といっていいほどの能力だと認識していたからだ。

「ということは、何か? もうガイドブックの情報やこの付近の地形を把握しているってことなのか?」
「……はい」

 俯き恥ずかしがる様子の琴葉の肩をポンポンと叩く杏子は満面の笑み。

「すごいじゃないか! 是非、あたしたちのチームに入ってくれよ。――なッ?」
「私からもお願いするわ」

 杏子の意見に便乗する私は、この四人でチームを組めばもしかしたら『一年間生き延びることが出来るのかもしれない』という淡い期待が心の奥底で芽生え始めていた。

「ったく、調子のいい奴らだな。――ま、そういうのは嫌いじゃないけどな」

 潤は鼻息を鳴らし杏子へと目線を向ける。杏子は視線を感じていることに気づくと、

「なんだぁ? こっちばっか見てきてよ? あたしに惚れたか?」
「そんなんじゃねぇよ! ランク《A》の能力者が味方だと思うと、少し嬉しくてな」

 咄嗟にそっぽ向きながらの照れ隠し。
場の空気が和やかムードに変わりつつある雰囲気を肌で感じると、『ふと』私達の白一色の服装に目を向け――

「ねぇ……これから私達、チームを組むことになるんだから『チーム名』とか決めない?」
「おっ? いいねぇ、そういうの嫌いじゃないぜ」

 杏子は『にかッ』と笑顔になると、人差し指を立て――

「んじゃあ、あたしから。――『ホワイトパーティ』って言うのはどうだ?」
「う~ん。なんか、そのまんまだなぁ」

 腕を組み、渋るように顎頭にしわを寄せる潤は杏子のチーム名が気に入らない様子。

「ああッ⁉ あたしの考えた名前を即否定とか、喧嘩売ってんのか⁉」
「いや、そんなんじゃねぇよ。もっとかっこいいチーム名がいいと思っただけで――」
「じゃあ、テメェの考えた名前を教えろよ!」

 杏子の挑発に潤はニヤリと笑みを浮かべると、

「いいぜ。俺の考えたチーム名は――『白夜小隊』だ」
「却下」

 顎を上げ、見下ろすような視線を送る杏子は吐き捨てるように否定する。

「即答かよ! お前も人のこと言える立場じゃねぇな!」

 大袈裟にリアクションをして見せる潤は怒り気味。

「仕返しだ。ってか、小隊はねぇだろ。――あたしたちはどこぞの軍隊か? っての」

 二人の言い合いにキョトンとした表情で見ていた琴葉は小柄な拳を口元に当て、うっすら笑みを零す。

「ふふっ、杏子さんと二階堂君も仲がいいじゃないですか」

 確かに。これはこれで『相性がいい』と言えるべきなのだろう。男勝りの杏子と言いあうなんていい勝負。私は表情を崩しながら指をさし合う二人を見ていると、

「では、私の番ですね」

 琴葉は崩した脚を組みなおし正座。コホンと咳払いの後、恥ずかしそうに装う。

「『一期一会』と言うのはどうでしょうか?」
「一期一会か。今のあたしたちにはピッタリな名前だな」
「ありがとうございます。実はこのチーム名、私達の名前の頭文字を合わせた言葉でもあると思いまして」

 琴葉は照れるように俯くと次第に言葉が小さくなっていく。ハッキリとしない口調と精一杯自分の思いを伝えようと努力している姿を感じさせながら。

「名前を合わせた言葉? どういうこと?」

 私は頭を捻らせるが琴葉の言葉の意味を理解することが出来ずにいると、琴葉が慌てて補足説明を始める。

「えっと、九条さんの『九』と一宮さんの『一』、二階堂君の『二』、私の『三』を足した数字を一期《十五》と、かけて名付けさせてもらいました」
 「へぇ~、よく考えたな? 面白いし、いいんじゃないか?」

 潤は隣で座る琴葉に笑顔で応えると、琴葉は頬を紅く染める。

「そんな……とんでもないです」

 小さくなっていた琴葉が更に小さくなっていく。

「ふっ、『一期一会』で決まりだな?」

 杏子はこれで決定と言わんばかりに締めくくろうとする。だが、私はまだ意見を言っていない。半歩踏み出すが、咄嗟に場の空気を読む。三人が談話する中、一人取り残された気分になると杏子は私が会話の中へ入れていないことに気づく。

「どうした? 沙織。不服申し立てがあるなら今の内だぞ?」
「ちっ、違うわよ! 私はただ、こんな殺伐とした苦境の中、和やかに談話出来る様子に心がもどかしくなっただけ!」

 苦し紛れの言葉を必死に繋ぐ。
『安心出来る仲間』が出来たことに対して、嬉しく思う気持ちを押し殺しながら。
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