長い長い衛星 構想:空をぶち抜くエレベータを作ってみる

東洋クイーン

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三 建設地

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○国際機関の会議室
   人がたくさん集まっている。アンヌが演台に立つ。
 アンヌ「では、貢献度に応じてエレべータ利用権を決めるということにします」
   赤道諸国A(三十代男性アタワルパ人)と先進国A(三十代男性アメリカ人)の討論になる。
 赤道諸国A「待ってください。静止軌道は赤道諸国の天然資源です。天然資源を所有、使用、処分する権利は赤道諸国にあります」
 アンヌ「(赤道諸国は排除したはずなのに…)」
 先進国A「それでは、使い終わった静止衛星の処分をお願いしたいのですが、見積もっていただけますか?」
 赤道諸国A「……それは……できませんが……」
 先進国A「権利はあるけど使えない。……権利がないのと同じですね」
 赤道諸国A「だからといって、先進国に所有権があることにはならない」
 先進国A「ですから、エレべータに貢献できれば利用できます。貢献できなくても利用権のある国から権利を買えばいいんですよ」
 赤道諸国A「それが、先進国に有利な仕組みだと言っているんです」
 先進国A「井戸を掘った人に報酬を払わない仕組み……ですか。それでは井戸水が手に入らなくてお困りでしょう」
 赤道諸国A「とにかく、赤道諸国に報酬を払わなければ、エレべータの建設に協力できません」
 先進国A「ならば、建設に協力してくれる国を探しますよ」
 アンヌ「議論も尽きたようなので、法務会議は終了します。お疲れ様でした」
 赤道諸国A「待ってください」
   多くの人が会議室から去る。
 赤道諸国A「議長。静止軌道は誰のものですか」
 アンヌ「静止軌道はだれのものでもありません。だから、開発を律するための『国際的な制度』を作っているんです」
 赤道諸国A「先進国主導の『国際的な制度』じゃないですか」
 アンヌ「それでは、赤道諸国主導の『国際的な制度』を作って開発してはどうですか?」
 赤道諸国A「……財政的に難しいので……」
 アンヌ「ならば、世界銀行に相談なさってください。技術的な相談には、応じますわ。では、失礼」
   アンヌが会議室から去る。

○廊下
   アンヌは歩きながら国際機関の創立時を回想する。

   ×    ×    ×
○国連の国際会議室
   会議が終わって、人々が出口に向かっている。アンヌがケイト(二十代女性アメリカ人)に話しかける。
 アンヌ「話があるの」
 ケイト「なに? 男ができたの?」
 アンヌ「違うわ。イーラも一緒に話したいから、探してくれない?」
 ケイト「まだあそこにいるわ」
   ケイトが席を指差す。アンヌがイーラ(二十代女性ロシア人)に近寄って話しかける。
 アンヌ「三人で話がしたいんだけど。いいかしら」
 イーラ「なんの話?」
 アンヌ「場所を変えて話すわ」

○控室
   三人は飲み物を手にして話し始める。
 アンヌ「話の前に、会議の感想を聞かせてくれない?」
 ケイト「退屈だったわ」
 イーラ「なにも決められない、無意味な会議ね」
 アンヌ「なにも決められない理由は、何だと思う?」
 イーラ「参加国が多すぎるのよ」
 ケイト「宇宙開発に縁のない国が、邪魔してるんだわ」
 アンヌ「そこで、この組織を捨てて、静止軌道エレべータを作るための、少数精鋭の新しい組織を作ったらどうかしら?」
 イーラ「いいわね。この組織じゃ静止軌道エレべータの役に立たないし」
 ケイト「面白そうね。参加国はどうするの?」
 アンヌ「衛星の打ち上げ能力で絞り込むというのは?」
 ケイト「技術を精神年齢が低い国に横流しされたら困るわ」
 イーラ「それなら、国際宇宙ステーションの参加国かしら?」
   話は続く。
   ×    ×    ×

   暗い中、歩く音が続いている。

○控室
   三十代日本人男性Aがソファーに座っている。そこにアンヌが入ってくる。
 アンヌ「技術会議はどうだった?」
 男性A「ケーブル問題は協会の協力を求めることになりました。この問題が解決次第、次の開発フェーズに入ります」
 アンヌ「協会の協力を求めるために、何をするという話は?」
 男性A「出ませんでした。技術会議ですからね」
 アンヌ「じゃあ、二人で考えましょう。ケーブルの代わりに何を出せるか」
 男性A「何が欲しいか聞いたらダメですか?」
 アンヌ「無茶な要求が来たときの交渉材料が必要なのよ」
 男性A「協会を『国際的な制度』に参加させるのは?」
 アンヌ「国以外を参加させるのは難しいわ。協会の建設国を参加させることは可能だけど…」
 男性A「『ボゴタ宣言』みたいに静止軌道の主権を主張するかも知れませんね」
 アンヌ「やっとできた、新しい『国際的な制度』を壊したくないわね」
 男性A「だとすると、交渉材料は……」
 アンヌ「打上げを許可する代わりに……」
 男性A「そもそも、打上げを禁止する根拠が……」
 アンヌ「だめね。本社に戻ってから考えましょう」
   アンヌと男性Aは荷物をまとめ控室から出る。

○国際機関本社の一室
   アンヌと男性Aが椅子に座って話している。
 アンヌ「ケーブルの交渉材料、なにか考えた?」
 男性A「いいアイデアが、思いつかなくて……」
   内線が入る。アンヌが内線を取る。
 アンヌ「はい……こっちに回して」
   壁に真世の顔が映る。
 真世(壁面映像)「こんにちは。用件に入っていいかしら」
 アンヌ「ええ。ちょうど話がしたいと思ってのよ」
 真世「国際機関へ静止軌道エレべータのケーブルを提供しようと思うの」
 アンヌ「ありがとう。助かるけど、その見返りに何か欲しいんでしょ」
 真世「ええ。静止軌道エレべータのケーブルが宇宙からマタラム共和国までつながる日に、マタラム共和国大統領が『宣言』するの。その『宣言』を賛成して欲しいのよ」
 アンヌ「『宣言』の内容が分からないと何とも言えないわね」
 真世「まず、『宣言』の内容を国際機関以外には秘密にすること。守れる?」
 アンヌ「守るしかないわね。守るわよ」
 真世「じゃあ、携帯に『宣言』の内容を送るわ」
   アンヌは携帯電話を操作した。男性Aが携帯電話をのぞきこむ。
 アンヌ「これは……」
 男性A「『ボゴタ宣言』よりは現実的に妥協してますが……」
 アンヌ「領有権を主張しなければいいってもんじゃないわ。こんなの『国際的な制度』と言えない!」
 真世「マタラム共和国に建設するなら、アンヌが作った『国際的な制度』への参加も考えるわ」
 アンヌ「そんな条件、無理よ」
 真世「なら、『宣言』の内容をほかの国と話し合って、妥協点を探してちょうだい」
   ビデオ通話が切れる。
 男性A「どうしますか?」
 アンヌ「ケイトとイーラをビデオ通話に呼び出して、今のことを伝えて」
 男性A「はい」
   男性Aがパソコンを操作している。ケイトとイーラが壁に映る。男性Aがケイトとイーラに経緯を話し終える。
 ケイト(壁面映像)「秘密は守るわ。『宣言』の内容を教えて」
 イーラ(壁面映像)「私も秘密は守るわ」
 アンヌ「今、送るわね」
   アンヌは携帯電話を操作する。
 ケイト「ん……私たちが賛成とか反対とかするものではないはね。宇宙空間平和利用委員会が判断すベきだわ」

○イーラの部屋
   イーラが座っている。ケイトとアンヌが壁に映る。
 イーラ「協会はここまで進んでいると、自慢しているようにも見えるわね」
 イーラ「(ロシアが推すモルディブに近いマタラム共和国に建設することでモルディブ派が有利に…それだけでなく、モルディブ派の協力を誘っているようにも……)」
 アンヌ(壁面映像)「そうね。私たちはいまだに建設地を決められないでいる……」
 ケイト(壁面映像)「でも法務が弱いと思っているから、『宣言』の『賛成』が欲しいのよ」
 アンヌ「『宣言』に『ノーコメント』と答えるベきかしら」
 イーラ「『ノーコメント』よりも、協会に協力的な表現の『黙認』ではダメかしら」
 アンヌ「協会に良い印象を与える『黙認』……『賛成』や『反対』では委員会と対立してしまう……」

○ケイトの部屋
   ケイトが座っている。イーラとアンヌが壁に映る。
 ケイト「この場で『黙認』に決めるのは早すぎるから、持ち帰って検討しましょう」
 アンヌ(壁面映像)「……そうね。ではまた、近いうちに」
   ビデオ通話が切れる。
 ケイト「(マタラム共和国に建設されてしまっては、アメリカが推すアタワルパ派に不利。協会がモルディブ派と連携する前に手を打たないと…)」

○協会本社の会議室
   会長、真世、野島、エレナが座っている。
 会長「今から国際機関のロシア代表と話をします。『国際的な制度』を作るという名目で引き抜いてみます。ダメでもともとですからね、エレナさん」
 エレナ「はい」
 野島「(エレナに笑顔で)君の笑顔は魅力的だよ」
   エレナは笑顔になる。野島はパソコンを操作する。イーラが壁に映る。
 エレナ「こんにちは。協会のエレナです」
 イーラ(壁面映像)「こんにちは。ロシア代表のイーラです」
 エレナ「早速ですが、用件に入ってよろしいですか?」
 イーラ「どうぞ」
 エレナ「マタラム共和国に建設する静止軌道エレべータのための『国際的な制度』のリーダーをお願いしたいのですが」
 イーラ「結論は分かりましたが、そこに至る経緯を説明して頂けますか」
 エレナ「協会では国際法問題より先に建設地をマタラム共和国に決めました。そうすると、アメリカやフランスなどの地理的に遠い国の協力が得にくくなって『国際的な制度』が作りにくい状態です。しかし、ロシアなら地理的に近く宇宙開発の実力から見てリーダーにふさわしい。モルディブにも静止軌道エレべータが建設されれば、静止軌道ステーションではお互いに協力しやすい位置になります」
 イーラ「モルディブとマタラム共和国は協力しやすい位置であることは気がついていました。だから、ロシアは『宣言』に対して『黙認』するように提案しました。しかし、結論は保留となっています」
 エレナ「協会は『宣言』の『賛成』を求めましたが、無理だと分かっていました。『黙認』でケーブル問題に協力します」

○イーラの部屋
   イーラが座っている。エレナが壁に映る。
 イーラ「(国際機関は、まだ建設地が決まっていない。協会が先にマタラム共和国に建設してくれた方が…、いや、完成させてくれた方が、モルディブにエレべータを建設しやすいのでは?)」
 イーラ「分かりました。では国際機関が黙認する方向に誘導します。協会の『国際的な制度』に関しては検討する時間をください」
 エレナ(壁面映像)「分かりました。色よい返事をお待ちしています。ありがとうございました」
 イーラ「こちらこそ、有意義は情報を提供していただき、ありがとうございました」
   ビデオ通話が切れる。
 イーラ「(建設地が先に決まっている『国際的な制度』……そんなの許されるはずがない……リーダーは断るしかないが……それでアタワルパ派の動揺を誘うなら……)」
   イーラはしばらく考えてから、パソコンを操作する。ケイトが壁に映る。
 イーラ「イーラよ。協会が私にビデオ通話してきたわ」
 ケイト(壁面映像)「何て言ってた?」
 イーラ「マタラム共和国に建設する静止軌道エレべータのための『国際的な制度』のリーダーをお願いしたい、って」
 ケイト「何て答えた?」
 イーラ「引き受けたわ。あと、国際機関が『宣言』を黙認すればケーブル問題に協力するって」

○ケイトの部屋
   ケイトが座っている。イーラが壁に映る。
 ケイト「本当?」
 イーラ(壁面映像)「黙認すれば協力するっていうのは本当よ」
 ケイト「リーダーを引き受けたのは?」
 イーラ「冗談よ。まだ引き受けていないわ」
 ケイト「(『まだ』……)」
 イーラ「ロシアは『宣言』を黙認することに決めたわ。ケーブル問題には協会の協力が必要よね」
 ケイト「(アメリカが『宣言』を黙認しなければ、ロシアは協会側に……)」
 ケイト「黙認すれば協力するって話を仲間に伝えるわ。ありがとう」
   ビデオ通話が切れる。ケイトは受話器を取る。
 ケイト「ケイトよ。今すぐ、私の部屋に来て」
   ケイトは部屋のドアを開けて座って待っている。部屋に三十代アメリカ人男性Bが入ってきて、ドアを閉める。
 男性B「何でしょうか?」
 ケイト「協会がロシアに接触したわ。協会がロシアに『国際的な制度』のリーダーにならないかって誘ってきたわ」
 男性B「ロシアは何と?」
 ケイト「まだ、引き受けていない、と」
 男性B「『まだ』……」
 ケイト「あと、国際機関が『宣言』を黙認すれば協会はケーブル問題に協力するらしいわ。ロシアは黙認に決めた、と」
 男性B「協会の『国際的な制度』って、国際的でなくて地域的ですね。建設地が決まってるんでしょ」
 ケイト「地域的であっても、多数の支持が集まれば……少なくともロシアは協会に協力的に見えるわ」
 男性B「マタラム共和国のエレべータ建設は避けられないですね」
 ケイト「それでは、モルディブ派が有利になってしまうわ。アタワルパ派が何か手を打たないと……」
 男性B「ん……エレべータをモルディブとアタワルパの両方に作るとか?」
 ケイト「それよ! マタラム共和国とブラジルに作るのよ」
 男性B「え? 誰が?」
 ケイト「協会よ」
 男性B「協会がブラジルにも作るように誘導する?」
 ケイト「
 男性B「協会にそんな資金があるんでしょうか?」
 ケイト「そういった問題を解決するのよ」
 男性B「協会は資金以外にも問題を抱えているでしょうから、接触して聞いてみますか?」
 ケイト「その前に資金源を探しておかないと。エネルギー開発の企業に打診して出資してもらうのよ」
 男性B「分かりました。ブラジル上空に太陽光発電所を作りたいと言って打診します」
   数日後。ケイトと男性Bが座っている。会長、真世が壁に映る。
 ケイト「こんにちは。アメリカ代表のケイトです」
 会長(壁面映像)「こんにちは。会長です」
 真世(壁面映像)「こんにちは。真世です」
 ケイト「早速ですが、用件に入ります」
 会長「どうぞ」
 ケイト「協会が建設しているマタラム共和国のほかに、ブラジルにも静止軌道エレべータを建設していただきたい。理由はマタラム共和国のエレべータがモルディブの建設候補地に有利に働くため、アメリカが推すアタワルパ共和国に有利に働く位置にもエレべータが欲しいためです」
 会長「協会の資金では、難しいのですが……」
 ケイト「そう思って、出資者を探しておきました」
   男性Bがパソコンを操作している。
 会長「(マタラム、モルディブ、ブラジル、アタワルパ……多すぎないか? いや『多くの人に宇宙旅行を』と言ったのは私か)」
 会長「では、資金はあるとして、協会のメリットはありますか?」
 ケイト「見返りに、アメリカは『宣言』を黙認します。アメリカが黙認すれば、国際機関も黙認するはずよ」
 会長「それだけですか?」
 ケイト「他に何かお望みですか?」

○協会本社の会長室
   会長、真世がソファーに座っている。ケイトが壁に映る。
 真世「では、アメリカが協会に安全保障の協力をしていただけませんか?」
 ケイト(壁面映像)「国民に説明しなければならないのですが……」
 真世「フライホイール蓄電技術と引き換えに安全保障の協力をする、と説明してください」
 ケイト「それでは、アメリカにフライホイール蓄電技術を提供してもらえるのですね」
 真世「『国際機関』にフライホイール蓄電技術を提供します」
 ケイト「……分かりました。安全保障の件、検討します」
 会長「こちらもブラジルの件、検討します」
 ケイト「ありがとうございました」
   ビデオ通話が切れる。
 会長「真世さん、安全保障を引き出してくれて、ありがとう」
 真世「『宇宙旅行を実現させるために技術を取引材料に』って言った会長の気持ちが良く分かってきました」
 会長「安全保障の件もですが、ブラジルの件をマタラム共和国大統領と相談しなければ」
 真世「高官に電話しますね」
   真世は携帯電話を操作して、通話している。
 真世「すぐ連絡するそうです」
   壁にマタラム共和国大統領と高官が映る。
 会長「こんにちは。宇宙旅行協会の会長です」
 大統領(壁面映像)「こんにちは。マタラム共和国大統領です。どうしました?」
 会長「静止軌道エレべータの建設場所ですが、マタラム共和国のほかにブラジルにも建設することになりそうなのです」
 大統領「どこからその話が出て来たのですか?」
 会長「静止軌道エレべータを作ろうとしている国際機関です。建設候補地によりモルディブ派とアタワルパ派で勢力争いをしています。マタラム共和国にエレべータができるとモルディブ派に有利と見られ、アタワルパ派のアメリカが接触して来ました。ブラジルにも建設するように誘導しています」
 大統領「マタラム共和国での建設は続けるんですね」
 会長「そうです。第一建設国です」
 大統領「第一建設国がマタラム共和国であれば、第二建設国がブラジルでも問題ないです」
 会長「分かりました。それに関連してブラジル政府の窓口を紹介していただきたいのですが」
 高官(壁面映像)「分かりました。後ほど連絡します」
 会長「お願いします。あと一つ……(真世に)安全保障の件を説明してください」
 真世「協会の真世です。こんにちは。アメリカと交渉している時に、私はある技術を交渉材料にして、アメリカから安全保障の協力を引き出す方向で交渉を始めました」
 大統領「交渉の見通しはどうですか?」
 真世「アメリカが国際機関に技術を引っ張って来た形になるので、国際機関の主導権が欲しいアメリカは応じると思います」
 大統領「分かりました」
 会長「用件は以上です。忙しい中をありがとうございました」
   ビデオ通話が切れる。
   後日、ブラジル政府との交渉で静止軌道エレべータを建設することになる。会長、真世が座っている。ケイトが壁に映る。ケイトは車の中にいる。
 会長「協会の会長です、こんにちは。ブラジルの件を報告したいのですが」
 ケイト(壁面映像)「お願いします」
 会長「協会はブラジルにも静止軌道エレべータを建設します」
 ケイト「ああ! 助かったわ。ありがとうございます」
 会長「安全保障の件はどうなりましたか?」
 ケイト「アメリカは協会の静止軌道エレべータの安全保障に協力することを確認しました」
 会長「ありがとうございます。では、国際機関として『宣言』を黙認してもらえるのですね?」
 ケイト「大丈夫なはずですが、直接アンヌに確認してください」
 会長「分かりました。確認します。では、失礼します」
   ビデオ通話が切れる。真世はパソコンを操作している。アンヌが壁に映る。
 真世「こんにちは。協会の真世です。用件に入るわね」
 アンヌ(壁面映像)「いいわよ」
 真世「協会はブラジルにも静止軌道エレべータを建設することになったわ」
 アンヌ「あら、おめでとう。それなら、国際機関は『宣言』を黙認するわ。アメリカが黙認の条件をつけていたのよ」
 真世「ならば、静止軌道エレべータのケーブルを提供します」
 アンヌ「ありがとう」
 真世「具体的な提供時期なんだけど、マタラム共和国の完成後でいいわね」
 アンヌ「もっと前に欲しいと言ったら?」
 真世「バカね」
 アンヌ「……バカならどうなるかって質問よ」
 真世「ケーブルの補強に技術と時間が必要よ」
 アンヌ「期間は?」
 真世「十五年」
 アンヌ「ほかに違いは?」
 真世「輸送力ね」
 アンヌ「どのくらい?」
 真世「はっきりしないけど、二倍以上違うと思うわ」
 アンヌ「分かったわ。マタラム共和国の完成後に提供をお願いします」
 真世「了解よ」
   ビデオ通話が切れる。部屋の電話が鳴る。会長が受話器を取る。
 会長「(電話に)会長です。……こちらに通してください」
   会長が受話器を置く。
 会長「(真世に)お客さんです」
 真世「どなたですか?」
 会長「すぐに分かりますよ」
   ノックの音がする。会長がドアを開ける。ケイトが入ってきて、笑顔で会長に握手する。会長も笑顔を返す。
 ケイト「(会長に)ご協力ありがとうございます。これでアタワルパ共和国のエレベータ建設が有利になりました」
 会長「(これでアタワルパ派も味方に……)」
   真世が二人に寄ってきて、笑顔でケイトに握手する。ケイトは笑顔を返す。



○次話へ続く。作者コメント
 建設候補国をどう表現するか……イメージが広がるように抽象的な「マタラム」「アタワルパ」になりました。検索すれば場所は推理できます。
 次話は未来ではなく、現在の課題です。
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