美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根立真先

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ep77 サッドプログラム③

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 *

 午後。
 
 思いのほか俺は勉強に集中している。
 朝、イヌヨが来てから色々あったにもかかわらず。
 ネーコやトラエたちがいなくなってむなしくなっていたけど、イヌヨが来たことでひとつ確信したんだ。

(ネーコたちは必ず戻ってくるって!)

 そう強く思えてからは、気分が切り替わってやる気が出てきたのだ。
 
 それに、〔サッドプログラム〕はメンドクサくても、イヌヨ自体は基本的に大人しいので、その点はウサよりはずっと楽だった。

「よし。午前中なまけていたぶんを取り返すぞ」

 俺は一段とエンジンをかける。
 とその時。

「フミヒロさん」

 俺の名を呼ぶ声とともに、コンコンとノック音が鳴った。
 十中八九、イヌヨだ。
 出ていってやり取りすれば、またいつあのネガティブスイッチが押されるかわからない。
 かといって出ていかなければいかないでやっぱりネガティブスイッチは押されるだろう。
 したがって、出迎えるしかない。

「イヌヨ?」
「あ、フミヒロさん。お茶とお菓子をお持ちしました」

 イヌヨはおぼんにきゅうすと湯飲み茶碗と和菓子を添えて立っていた。
 まさに和風美少女アンドロイド。
 
「失礼します」

 イヌヨはお行儀良く部屋へあがると、テーブルにお茶菓子を配膳する。
 それから彼女はスッと床に正座した。
 反射的に「イヌヨも?」とこうとしたが、ぐっと言葉を飲みこんで床に腰をおろす。
 直感的に地雷ワードになりそうだと思ったから。

「じゃあ、いただきます」

 俺は茶菓子に手を伸ばした。
 イヌヨは遠慮がちにも幸せそうに微笑んでいる。

(よし。うまくいっているぞ!)

 実は......イヌヨの〔サッドプログラム〕について、ひとつの対策を考えていた。
 それは......イヌヨの言葉をとにかく肯定すること!
 これなら、ネガティブスイッチも入りようがないはずだ。
 
「フミヒロさん。お勉強ははかどっていますか?」

 ふいにイヌヨが話しかけてきた。

「おかげさまではかどっているよ」

「おかげさま?イヌヨはなにかお役に立てたの?」

「あっ、う、うん」

 俺はぎごちなく返事した。
 特に深い意味はなく言った言葉だったので。

「う、嬉しい。イヌヨはフミヒロさんのお役に立ててとても幸せです」

 イヌヨは照れながらも幸せそうに顔をほころばせた。
 よし。問題ないようだ。
 この流れでそのまま締めるぞ。

「......ごちそうさま。じゃあ俺は勉強に戻るよ」

 そう言って立ち上がろうとする。

「えっ?もう少しイヌヨとお話してくださらないの?」

 イヌヨはびっくりしたように言った。

「夜になれば下に降りるし、続きはまた夜にでも......」

「フミヒロさんは、イヌヨとは話していたくないの?」

「えっ、そんなことないよ」

 答えながらも心の中で「ヤバい!キタ!」と思った。

「じゃあなぜそんなに早く懇談を終わらせようとなさるの?」

「こ、懇談?いやその、もうおやつは食べ終わったから勉強に戻ろうとしているだけで...」

「終わったらさっさと帰れと、そういうことなのね......」

「なんか意味が変わっちゃってるんですが!」

「そう......でも、そうよね」

「?」

「所詮イヌヨは、ただの都合の良いオンナなんだわ」

「はっ??」

「奥さん(勉強)とは別れてイヌヨと一緒になる(ゆっくりおやつタイムを楽しむ)と言ったのはウソなのね!?」

「なんのハナシ!?」

「ひどいわ!でも...それでもイイって言ったのはそもそもイヌヨのほうよね......取り乱して御免なさい......」

 イヌヨはうなだれた。
 
「いやいやよくわからないんだけど!?」

「きっと、フミヒロさんの幸せのためには、イヌヨはいないほうがいいんだわ......」

「いきなりなに言ってんの!?」

「わかりました」

「なにが??」

「イヌヨは今すぐ車に轢かれてきます!」

「ちょっ!!」

「いえ、イヌヨは未来のアンドロイド...それぐらいじゃダメだわ」

「それぐらいでもダメだよ!?」

「溶鉱炉に落ちて溶けてくるわ!」

「なんか映画で観たことあるけど!」

「行ってきます!」

「ダメだって!!」

 部屋から飛び出していきそうになったイヌヨの手を両手でしっかりと掴んだ。

「はなして!イヌヨは居ぬよ...!」

「とりあえず落ち着いてくれぇ!!」
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