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俺の彼氏のバースデイ
(3)-1
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部屋の机に教科書とノートを広げ、今日の復習とペンを持つが、書かれている言語がまるで見たことのない外国語かのように全く頭に入ってこない。
代わりに頭を占めるのは、やはりバースデイパーティのことにそれから、と浮かんだそれに俺は思わず首を横に振っていた。
無邪気に笑う南沢、なんて。
秋、というにはまだ早いが、クラスメイトの何人かがブレザーやカーディガンを羽織る姿にすっかり秋めいてきたと、生温かい風にそう感じていた。ということは、同時に南沢の誕生日が近づいてきているということでもある。
最近、めっきり学校への足が重いことに辟易しながら、それでも将来のためと言い聞かせて何とか皆勤賞をキープしている。
月日は早いと、最近になって白髪の目立つ叔父が口癖のように言う通り、時は9月半ば。
南沢の誕生日まで残すところ、一週間だ。今日も終業のベルが校舎内に鳴り響く。
「榊!モタモタしてないで、行くよ!」
いつの間にか榊くんから榊呼びになった件については特段申したことはない。
余計なことを言うと逆鱗に触れるか突かれるかと、これも叔父から耳にタコができるほどに言われている。
女子の波に連れられ着いたのは校舎内のとある部室。今は同好会として人数は少ないながら活動している漫画研究会の部屋。
そこが女子with俺の最近の溜まり場となっている。
「残すところあと一週間!各々準備は進んでいますか?」
そう仕切る声は斉藤さん、ではなく三浦さん、この部屋の実権を握る三年生の先輩だ。
何故、先輩が。当初は俺も疑問に思い首を傾げていたが、疑問は幸いにもすぐに解決される。何故なら、彼女は漫画研究会部長兼「南沢 雪 親衛隊」の部長であったのだ。
おやつ係、クラッカー係、装飾係、料理係、ケーキ係、プレゼント係。
パーティというのはこんなにも係が分かれるのか、そしてこんなにも忙しいものか、これじゃあ最早アルバイト並みの労働ではないか。
だが、彼女らの熱はそんなこととは無縁だという事実に俺は些か感動すらしている。
しかし、と俺は今ひとつ真夏並みな温度感の集まりについていけないまま、頭を抱えたい。
あれから、南沢とまともに会話すらできていない、どころか俺の予測が正しければ避けられている気すらするものだから。
あまりの接点のなさに一度、勇気を出してメールを送ったことがある。
―遅くに悪い。どうしても確認したいことがある。良かったら返信がほしい
女子with俺が発足してから割とすぐのことだった。
時刻は夜も更けた午後10時、生憎にも南沢の就寝時間を把握していなかったため、それが非常識な時間だったか判断がつかず、自室で唸っていたところ、背中を押してくれたのは叔父だった。
叔父は最初、真面目な顔をして俺にそっと近づいて、しかもいつもは呑んだくれているのにココアまで入れてきたのだが、俺が友人にメールを送るか迷っていると打ち明けると態度を一変させ、まるでたった今から酔っ払いましたというようにヘラヘラと携帯を覗き込まれた。
「哲太は昔から深く物事を考えすぎる!時には人生思い切りが必要だ!」と、その一言で送信ボタンを押したのがちょうど午後10時だったのだ。
返信が来たのは午後10時半。一瞬、ぬか喜びしかけた自分を制し、深呼吸をして見たメールに冷静な判断をしていた自分を思わず褒めていた。
メールには―俺こそ遅くなってごめん。今から風呂入らないと妹が怒るから、また今度でもいいか?と書かれていたから。
以来というもの、南沢は部活に陽キャ仲間に、俺は女子にと、まるで見えない何かに遮られているかのように俺たちは見事にすれ違っている。
教室で顔を合わせれば挨拶はする、けれどと。
俺のルーティンである高校入学祝いに叔父からもらった机に向かってその日の授業の教科書とノートを開き、ペンを走らせていた。
だが、もちろんその内容は授業の英単語でも架空の人物マイクが話す英文章でもなく、南沢という日本語の単語である。
今日も今日とて、南沢との距離感は変わらずといったものだった。
顔を合わせれば、たとえば廊下で目が合えば帰りがけにばったりとすれ違えれば挨拶はできているから、完璧に避けられているもしくは嫌われているわけではないだろうとは思うが、それでも何故か南沢のことが気になって仕方ない。
そう思い、ふと過去の自分を思い出した。
代わりに頭を占めるのは、やはりバースデイパーティのことにそれから、と浮かんだそれに俺は思わず首を横に振っていた。
無邪気に笑う南沢、なんて。
秋、というにはまだ早いが、クラスメイトの何人かがブレザーやカーディガンを羽織る姿にすっかり秋めいてきたと、生温かい風にそう感じていた。ということは、同時に南沢の誕生日が近づいてきているということでもある。
最近、めっきり学校への足が重いことに辟易しながら、それでも将来のためと言い聞かせて何とか皆勤賞をキープしている。
月日は早いと、最近になって白髪の目立つ叔父が口癖のように言う通り、時は9月半ば。
南沢の誕生日まで残すところ、一週間だ。今日も終業のベルが校舎内に鳴り響く。
「榊!モタモタしてないで、行くよ!」
いつの間にか榊くんから榊呼びになった件については特段申したことはない。
余計なことを言うと逆鱗に触れるか突かれるかと、これも叔父から耳にタコができるほどに言われている。
女子の波に連れられ着いたのは校舎内のとある部室。今は同好会として人数は少ないながら活動している漫画研究会の部屋。
そこが女子with俺の最近の溜まり場となっている。
「残すところあと一週間!各々準備は進んでいますか?」
そう仕切る声は斉藤さん、ではなく三浦さん、この部屋の実権を握る三年生の先輩だ。
何故、先輩が。当初は俺も疑問に思い首を傾げていたが、疑問は幸いにもすぐに解決される。何故なら、彼女は漫画研究会部長兼「南沢 雪 親衛隊」の部長であったのだ。
おやつ係、クラッカー係、装飾係、料理係、ケーキ係、プレゼント係。
パーティというのはこんなにも係が分かれるのか、そしてこんなにも忙しいものか、これじゃあ最早アルバイト並みの労働ではないか。
だが、彼女らの熱はそんなこととは無縁だという事実に俺は些か感動すらしている。
しかし、と俺は今ひとつ真夏並みな温度感の集まりについていけないまま、頭を抱えたい。
あれから、南沢とまともに会話すらできていない、どころか俺の予測が正しければ避けられている気すらするものだから。
あまりの接点のなさに一度、勇気を出してメールを送ったことがある。
―遅くに悪い。どうしても確認したいことがある。良かったら返信がほしい
女子with俺が発足してから割とすぐのことだった。
時刻は夜も更けた午後10時、生憎にも南沢の就寝時間を把握していなかったため、それが非常識な時間だったか判断がつかず、自室で唸っていたところ、背中を押してくれたのは叔父だった。
叔父は最初、真面目な顔をして俺にそっと近づいて、しかもいつもは呑んだくれているのにココアまで入れてきたのだが、俺が友人にメールを送るか迷っていると打ち明けると態度を一変させ、まるでたった今から酔っ払いましたというようにヘラヘラと携帯を覗き込まれた。
「哲太は昔から深く物事を考えすぎる!時には人生思い切りが必要だ!」と、その一言で送信ボタンを押したのがちょうど午後10時だったのだ。
返信が来たのは午後10時半。一瞬、ぬか喜びしかけた自分を制し、深呼吸をして見たメールに冷静な判断をしていた自分を思わず褒めていた。
メールには―俺こそ遅くなってごめん。今から風呂入らないと妹が怒るから、また今度でもいいか?と書かれていたから。
以来というもの、南沢は部活に陽キャ仲間に、俺は女子にと、まるで見えない何かに遮られているかのように俺たちは見事にすれ違っている。
教室で顔を合わせれば挨拶はする、けれどと。
俺のルーティンである高校入学祝いに叔父からもらった机に向かってその日の授業の教科書とノートを開き、ペンを走らせていた。
だが、もちろんその内容は授業の英単語でも架空の人物マイクが話す英文章でもなく、南沢という日本語の単語である。
今日も今日とて、南沢との距離感は変わらずといったものだった。
顔を合わせれば、たとえば廊下で目が合えば帰りがけにばったりとすれ違えれば挨拶はできているから、完璧に避けられているもしくは嫌われているわけではないだろうとは思うが、それでも何故か南沢のことが気になって仕方ない。
そう思い、ふと過去の自分を思い出した。
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