11 / 102
恋と呼びたいだけだった
(11)
しおりを挟む
克巳は案の定、目をキョロキョロとさせて困り果てている。
「そ、その、彼女はいないです、ね?」
彼女はいないです、ね?
思わず俺は克巳の言葉を心の中で復唱していた。その間、約5秒ほど、僅かな時間だった。
けれども、その5秒が俺に冷静になる時間を与えてくれたのだから、普段はたったの1秒とないがしろにしていてごめんと素直に謝りたくなった。
つまり、克巳は今日より前に既に東雲先生に自分には彼女はいないと言っていた、それを今日再度確認されたのでそう言ったということだろう。
唯一、以前と状況が異なるのは東雲先生の友人と克巳の同僚兼恋人である俺がいること。
なあ、克巳。お前、恋人に目の前で「彼女はいない」と他の女性に告げられる側の気持ち、考えたことあるか?
しかも、「ね?」と同意まで求められるとは、俺はお前にとって一体なんなんだ、誰なんだよ。
同僚?同期?それか、セフレか?
そう思った途端に、俺の中で何かが弾けた音がした。
「…ごめん、東雲先生。俺、用事あったの忘れてました。お先に失礼しますね」
もしかして彼女さんですかぁ?と冷やかす東雲先生の声に愛想笑いもせず、隣に申し訳なさげに座る女性に会釈だけして俺は足早に店を出た。
馬鹿、馬鹿だ、克巳の馬鹿野郎!
「まあまあ、奏さん。とりあえず、これも食べなさい」
そう言うのはこの家の主であり、俺の親友でもありゲイ友でもある良樹だ。
これと視線で促されたのは良樹特製のカルパッチョ。
こんな時でなければあっという間に平らげられるほどの絶品に、良樹はいいパートナーになるだろうなと思っている。
けれども生憎、良樹は長いことフリーの身でしかも叶う見込みの少ない片思い真っ只中である。
一方でそれなりの家事しかできない俺は一応彼氏と呼べる奴はいるが、幸せとは程遠いのだから全く人生という奴は理不尽なものだ。
良樹が俺につまみを勧めるのは、俺が煽るように酒を飲むせいで良樹がゆっくりと腰を降ろしている暇がないせいもあるのかもしれない。
だが、それも全て克巳のせいだ。あれから数時間、いまだに鳴る気配のない携帯を見て俺は苛立ちを募らせていた。
「だってさ、克巳の野郎。なんて言ったと思う?」
「彼女はいないです、ね?って言ったんだよね。さっきも聞いたけど」
「俺はたしかに彼女じゃない!けど、彼氏だろ?恋人だろ?彼氏って言いにくいならせめて恋人って言うとかさ、あるよな?」
「そ、その、彼女はいないです、ね?」
彼女はいないです、ね?
思わず俺は克巳の言葉を心の中で復唱していた。その間、約5秒ほど、僅かな時間だった。
けれども、その5秒が俺に冷静になる時間を与えてくれたのだから、普段はたったの1秒とないがしろにしていてごめんと素直に謝りたくなった。
つまり、克巳は今日より前に既に東雲先生に自分には彼女はいないと言っていた、それを今日再度確認されたのでそう言ったということだろう。
唯一、以前と状況が異なるのは東雲先生の友人と克巳の同僚兼恋人である俺がいること。
なあ、克巳。お前、恋人に目の前で「彼女はいない」と他の女性に告げられる側の気持ち、考えたことあるか?
しかも、「ね?」と同意まで求められるとは、俺はお前にとって一体なんなんだ、誰なんだよ。
同僚?同期?それか、セフレか?
そう思った途端に、俺の中で何かが弾けた音がした。
「…ごめん、東雲先生。俺、用事あったの忘れてました。お先に失礼しますね」
もしかして彼女さんですかぁ?と冷やかす東雲先生の声に愛想笑いもせず、隣に申し訳なさげに座る女性に会釈だけして俺は足早に店を出た。
馬鹿、馬鹿だ、克巳の馬鹿野郎!
「まあまあ、奏さん。とりあえず、これも食べなさい」
そう言うのはこの家の主であり、俺の親友でもありゲイ友でもある良樹だ。
これと視線で促されたのは良樹特製のカルパッチョ。
こんな時でなければあっという間に平らげられるほどの絶品に、良樹はいいパートナーになるだろうなと思っている。
けれども生憎、良樹は長いことフリーの身でしかも叶う見込みの少ない片思い真っ只中である。
一方でそれなりの家事しかできない俺は一応彼氏と呼べる奴はいるが、幸せとは程遠いのだから全く人生という奴は理不尽なものだ。
良樹が俺につまみを勧めるのは、俺が煽るように酒を飲むせいで良樹がゆっくりと腰を降ろしている暇がないせいもあるのかもしれない。
だが、それも全て克巳のせいだ。あれから数時間、いまだに鳴る気配のない携帯を見て俺は苛立ちを募らせていた。
「だってさ、克巳の野郎。なんて言ったと思う?」
「彼女はいないです、ね?って言ったんだよね。さっきも聞いたけど」
「俺はたしかに彼女じゃない!けど、彼氏だろ?恋人だろ?彼氏って言いにくいならせめて恋人って言うとかさ、あるよな?」
2
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
エスポワールに行かないで
茉莉花 香乃
BL
あの人が好きだった。でも、俺は自分を守るためにあの人から離れた。でも、会いたい。
そんな俺に好意を寄せてくれる人が現れた。
「エスポワールで会いましょう」のスピンオフです。和希のお話になります。
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる