多分、愛じゃない

リンドウ(友乃)

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恋と呼びたいだけだった

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 家に着いて暗い部屋の電気を点ける。靴を脱いで先月よりは幾分か薄くなった上着をハンガーに掛け、何気なくリモコンのスィッチをオンにしてテレビをつけた。

 駄目だ、もう我慢できない。

 そう思った途端に両方の目が急激に熱を帯び、頬も喉も煮えたぎるように熱くなった。

 電気を点ける時、いつも克巳が率先して扉を抑えてくれていた。脱いだ上着を亭主関白の妻の如く、受け取って掛けてくれていた。テレビの前にある男二人にしては狭苦しい渋い緑のソファにはいつも克巳が、でかい身体を頑張って小さくして座っていた。

 でも今は、その気配が何一つない。それがとてつもなく寂しくて心細くて不安でたまらないんだ。

 いつからだろう、こんなに感情を剥き出しにするようになったのは。

 手で拭っても拭っても流れ続ける涙が、更に俺の感情に追い討ちを掛ける。

 もしも今、この瞬間にもあのぶりっ子の上擦った声で克巳に言い寄っていたら、無駄にデカい胸を擦り付けていたら。

 俺は涙を目に溜めながら玄関に置いたお揃いのキーケースだけを手に、走り出していた。

 きっと克巳は困っているはずだ、引き攣った笑顔を貼り付けて帰るタイミングをずっと見計らっているはずだ、そう言い聞かせていたし、思い込んでいた。

 だから、正直、驚いた。というより、今、自分が目にしているものが現実なのか妄想なのか、咄嗟に上手く判断が出来なかったと言った方が正しいと思う。

 息を切らしながら入ったファミレス、そこにいたのは笑顔で彼女たちと楽しそうに会話をしていた克巳だった。

 嘘だろう。ショートしかけた脳が正常なルートを見つけてすぐに思ったことはその一言だった。

 その笑顔もリラックスして寛ぐ姿も何もかもが、俺の前で見せるものと同じだったのだ。

 客足は俺が店を飛び出した時よりも落ち着いていて、入って突き当たりを左に曲がると見晴らしが良いせいで克巳と目が合うまでにさほど時間は掛からなかった。

「あ、奏ッ…!!」

 思わず俺を苗字の戸崎先生ではなく、奏と呼んだ克巳の声が何故焦っていたのか。

 考えることを振り切るように俺はまた、勢いに任せてファミレスを飛び出した後、迷う事なく今度こそ良樹の家へと続く左方面に全速力で走り出していたのだ。
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