多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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かつてそれは恋だった

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「どうかしましたか?」

 鞄をひっくり返して何かを探している彼にそう声を掛けると、彫りの深い目をうるうるとさせて「ノートとペンを忘れました」と言ったのだ。

 たかがノートとペンを忘れただけでこの世の終わりみたいな顔、と当時は驚いたが後に聞けば日本人は真面目を絵に描いたような人柄だと母に言われていたそうで、随分と焦っていたそう。

「これ使ってください」

 さすがに目の前で困っている人を放っておくことはできないと、ノートを何枚か破りペンと消しゴムもついでに貸した。

 すると、彼は目を点にしてしばらく黙り込んだ後、「いいんですか?!」と教授が思わず静かにと注意するくらいの大声で言ったのだから、その場にいる全員の視線を一斉に浴びることとなった。

 俺が国語、彼が英語を専門に勉強することで互いの苦手ジャンルを克服という名目も着き、必然的に仲良くなりこれまた自然と付き合うに至ったわけである。

「じゃあ、彼が奏のことを可愛いティーンって言った人ってこと?」

「まあ、そうなる、な?」

 改めてそう言われると過去だとは言え、気恥ずかしいものがある。

 良樹にはユウリと付き合っていたことは話してはあった。その感想がめちゃくちゃいい彼氏だったじゃんなのも承知済み。

 ということは、と俺は何やら思案顔の良樹に嫌な予感が湧き起こる感覚を覚えていた。

「これは運命の再会じゃないっすか?」

 案の定、興奮気味に前のめりになった良樹が言うのは、運命という目には見えない説についてだ。

「だって!今、奏は克巳くんとの関係に悩んでいる、そんな時理想の塊だった元カレに再会!これだけでもう十分だよね?」

「いや、落ち着いてくれ。そもそも、俺の彼氏は克巳だし、もう別れてから結構経ってるからな?ユウリだって恋人の一人や二人くらいいるだろ?」

「そっか。っていうか何で別れたんだっけ?」

 とりあえずメシ食べようとまだ湯気の立つ料理に手をつけながら、過去を回想する。

「よくある話だよ。遠距離になるからって理由」

 大学4年と言えば、人生で一番大切な進路を決める時期だった。

 俺もユウリも例には漏れず、けれどそれとは別に交際は順調だった。

 イタリアの血なのか、とことん優しく甘えさせてくれるユウリは俺にとって理想の彼氏像そのまんまの人で、ユウリにとっても甘え下手な俺が可愛いとお互いに不満なんて一つもない、友人曰くバランスが良いカップルとして学内でも有名ではあった。
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