多分、愛じゃない

リンドウ(友乃)

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あるべき恋の姿

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「藤原さん?どうかしましたか?」

 もしや、このこと以上に何か不満なことでもあったのだろうか。

 途端に不安が過り、そう聞いていた。俺にできる範囲であれば今すぐにでも改善しなければならない、そう内心で意気込んでいた。

 藤原さんは暫し悩んだ挙句、俺を手招きで呼んだ。呼ばれた俺もほんの少し、身を寄せる。

「確信はありません。ですが、あまり良くない噂を耳にしたので念のため」

「…はい」

 ごくり。唾を飲み込んでいた。

「先ほど声を高々にされていた方ですが、以前私が所属していた吹奏楽団体でご一緒していた方だと思います」

 それは目から鱗な情報だった。確かに東雲先生は産前産後休暇の井上先生の代打として今年の春に赴任したばかり。

 比較的社交的な性格のようだがあまり自分のことを話題にはあげないのか、何が好きか趣味は何かなどのプライベートなことを知る職員はいない。

 その証拠に同僚含め大体の職員は『可愛いけどミステリアス』と彼女のことを呼ぶ。

 もちろん彼女が吹奏楽団体に所属していたなんてことも、初耳である。

「東雲さん、ですよね。声と話し方が特徴的なので覚えていたんです」

 なるほど、確かに。頷きながら聞く。

「…以前、彼女と親しくしていた方がいまして、その方の友人から聞いたので又聞きですが彼女、随分と人に執着があるそうなんです」

「執着、とは?」

「意中の人に対して異常なまでに付き纏うとか」

 異常。その言葉に納得してしまう自分がいた。

 彼女の言動を振り返ればその節は充分にある。たとえ好きな人がいたとしても、その人が誰かと付き合っていれば大抵の人は無理矢理にその間に入っていこうとはしないだろう。

 ただ、大抵の人であり少ない割合の人はそうするのかもしれないが。

 だとしても、だ。少ない割合の人に彼女が当てはまるとしてもそれが異常なのか、正直判断しかねるところではある。

 異常の判断基準は結局、人それぞれなのだ。

「すみません、異常、というのは」

 職員玄関でしかも立ち話で特定の個人の話をするのはいかがなものかと思いつつも、いつも冷静で穏やかな藤原さんが神妙な顔をしていることがどうしても気に掛かり、小声でそう聞いていた。
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