多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋じゃなくて、多分、愛じゃない

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 藤原さんの言葉が脳裏を過ぎる。そうだ、俺は克巳を良樹をユウリをそして結局、俺自身を守るためにここに来たんだ。

 自己保身、そう言われればその通りだ。結局俺は、怖かったんだ。

 克巳との関係に淡い期待を抱きながらも良いとこ取りをしようとしていた自分の欲深さに、心底呆れる。

 …こんな自分、もうやめたい。いっそのこと、一からやり直せればいいのに。

 クローゼットのパイプに掛かっている長袖に、ここを出る時はまだ暑かったなと感傷に浸っていた。

 ここの部屋を契約する決め手となったのは、職場である学校から遠すぎず近すぎない距離であることと、このクローゼットの造りが気に入ったからでもあった。

 部屋の扉の真隣から部屋の端まで、一面クローゼット。しかも、その中は衣装棚が備え付けられている。

 ファッションに大して興味がある訳でもなく、洋服の数も多くはない。だが、家事に対してもそれほど細かい訳でもない。尽くす相手がいれば別ではあるが。

 同棲を決めた当初、なるべく自分の粗を見せないようにと心掛けていた結果がこのクローゼットである。

 いざ、この部屋を出るとなれば少し寂しい気もしてきた。

 母親から片付けろと言われ何故か昔のアルバムを見つけて見入ってしまうかのような、そんな感覚に引き込まれそうになり、慌ててキャリーケースを広げ荷物を詰めることにした。

 長袖のトップス、パンツ、下着に靴下、スーツにネクタイ。

 詰めていけばいくほど、当たり前だが空になるクローゼットは俺がここを去ることを視覚的に示してくれている。

 まだ踏ん切りがつかないのは、克巳と正式に別れると話せていなかったせいもあるが、本当は克巳の口からこうなった原因を聞けていないせいもある。

 俺以外の人を好きになったのなら、それはそれで仕方ないのかとも思う。けれどそうならやはり、そうなった理由を知りたいと思ってしまうのも仕方ないのではないだろうか。

 かつて、ユウリに素直に言えなかった自分が何を言っているのか。そう自嘲する声がどこからか聞こえてきそうだが、今なら向き合える気がする。

 空になったクローゼットを見ながら、そんなことに思いを馳せていた時だった。
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