三日月の竜騎士

八魔刀

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第2章 竜剣編

第21話

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 ファタの攻撃を斬り裂いたアナトは、ガンブレイドの魔力を炸裂させてファタへと突撃する。
 脚力を魔力で強化し、一歩でファタへ肉薄する。
 ファタの懐に入り込んだアナトは、ガンブレイドを一気に振り払う。
 魔力によって大きな光刃と化したガンブレイドを、ファタは【竜剣】ではなく紅い槍で受け止める。だが瞬間的な爆発力に敵わず、後ろへと大きく飛ばされる。
 アナトは追撃を行うが、良いようにやられるファタではなかった。
 ファタは槍をアナトに向けると、アナトの足下に魔法陣を展開させ、それを爆発させていく。
 アナトはジグザグに動きながら爆発を避けていき、ファタに迫る。

「失せよ!」

 爆発を避けさせる事で時間を稼いだファタは、【竜剣】を近くに寄せて魔力を瞬時に充填する。そして【竜剣】から衝撃波を放ち、アナトへと走らせる。
 アナトはガンブレイドで衝撃波を斬り裂き、一度後ろへと下がる。
 ガンブレイドのシリンダーから空の薬莢を落とし、左手に装填用の弾丸を六発出現させてシリンダーに装填する。

「アナト! 何で来たんだ!?」
「助けてやったのに何だその言い草は? アナト様ありがとうございます。この御恩は一生を懸けてお返しいたしますって、ほれ言ってみろ。つか言え」

 髪をバサッと広げ、女王様よろしくの態度をレギアスに見せつける。
 こんな状況でも相変わらずな態度でいられるアナトにレギアスは呆れ返ってしまう。
 ブルブルと首を振り、レギアスはアナトの隣に立つ。

「助けてくれてありがとよ! だが奴の狙いはお前とベールだ!」
「知ってる。だから態々来てやったんだ。売られた喧嘩は買えってのが、マスティア家の家訓だ」
「嘘つけ。そんな家訓があって堪るか」
「姉さんがお前を助けると言って聞かない。だから気絶させて私が代わりに来てやったんだ」
「気絶!? もういい! 気を付けろよ、アレは【竜剣】だ!」
「アレが……」

 アナトは興味深げにファタの背後で佇む【竜剣】を見る。
 灰色の剣身の周りには紅い魔力が纏い、いつでも次の攻撃を放てる状態になっている。
 ファタは再び槍を左手にも出し、二槍と一剣で構える。

「面白い」

 アナトはペロリと唇を舐め、ガンブレイドを肩に担ぐ。

「で? クレイセリアは生きてるのか?」
「さっきまで元気に俺を虐めてたけどな。今はファタが精神を乗っ取ってるみたいだが」
「あの婆さんに頼まれたんだろう? 助けてくれって……助けるのか?」
「当然。俺の魔力で突いて分かった。先輩はアレに利用されてるだけだ」
「……はぁ、手伝ってやるから帰ったら奢れよ」

 アナトはもう一振りのガンブレイドを取り出し、レギアスに投げ渡す。
 それを受け取ったレギアスは握ったり回したりして具合を確かめる。
 アナトが今握っているガンブレイドと同型で、予備として持っていた物のようだ。
 シリンダーに弾丸が六発、アナトの魔力が込められた物だ。

「使い方は分かるな?」
「ああ。だが壊すぞ、たぶん」
「だったら弁償してもらうだけだ!」

 アナトが先に動く。レギアスも後に続いて走り出す。
 レギアスはガンブレイドに魔力を込めてコーティングを施した。するとガンブレイドの剣身は深紫へと変色し、レギアスの魔力を帯びた魔剣と化す。

 ファタは冷静に二人を目で追いかけ、二槍と【竜剣】を操る。
 【竜剣】を魔法の動力として二槍を振るい、魔法攻撃を仕掛ける。
 紅蓮の炎と紅の雷を発生させ、二人に降り注ぐ。
 レギアスとアナトは互いにカバーし合い、迫り来る魔法をガンブレイドで斬り裂いてファタに迫る。
 魔法を放てない距離までアナトが詰めると、ファタは二槍で迎撃する。
 槍とガンブレイドが交差し、【竜剣】が振るわれてもレギアスのガンブレイドが止める。
 【竜剣】の一撃は衝撃波を放たなくても、凄まじいものだ。レギアスがガンブレイドを魔力でコーティングしなければ容易く叩き折られていただろう。
 白銀と深紫が紅に迫り、剣閃を叩き込んでいく。

「おのれ! 調子に乗るでない!」

 ファタは【竜剣】を床に突き立てる。【竜剣】から凄まじい魔力が吹き出し、ファタを中心に強烈な衝撃波を発生させた。
 レギアスとアナトはトリガーを一度引き、剣身から魔力を炸裂させ衝撃波に向けて解き放つ。
 三色の魔力が相殺し合い、レギアスとアナトは怯まず前に足を踏み出す。
 だがファタは二槍と【竜剣】を一つに束ね、回転してレギアスとアナトを薙ぎ払う。
 ガンブレイドで一撃を受け止めるが、勢いを殺せずにそのまま弾き飛ばされる。
 ファタはその隙に【竜剣】へ魔力を注ぎ込み、【竜剣】を媒体にした魔法を発動させる。

「万雷の果てに闇へ静め! 果てよ! ダークネス・ダムネイション!」

 【竜剣】が紅ではなく黒く輝き、空に大きな虚空を穿つ。その虚空から無数の黒い雷が雷鳴の轟きと共にレギアスとアナトに向かって落ちる。
 アナトはガンブレイドのトリガーを引き、自身に魔力を炸裂させる。全身から魔力が瞬間的に上がり、限界を超えた魔法を発動可能にさせた。

「我が名において顕現せよ、聖なる極光――アイギス・ヴェール!」

 アナトがガンブレイドを床に突き刺すと、そこを中心に白銀の魔法障壁が展開される。
 障壁は黒い雷を防ぎ、アナトとレギアスを守る。
 だが雷の威力は障壁を上回っているのか、障壁をボロボロに剥いでいく。

「レギアス!」

 全力で障壁の維持をしながら、アナトがレギアスの名を呼ぶ。
 レギアスもトリガーを引き、弾丸の魔力を剣身に炸裂させて剣身を強化させる。
 深紫の剣身に白銀の閃光が入り、レギアスは己の魔力を練り上げる。

「喰らい尽くせ――闇竜破!」

 空に穿たれた虚空へ、レギアスはガンブレイドを振るって魔力を解き放つ。
 解き放たれた魔力はドラゴンの咆哮を上げながら、虚空へと飛翔する。
 レギアスが放った技は黒い雷を呑み込みながら虚空に直撃し、大きな爆発を起こした。
 その爆発で虚空は消え去り、ファタの魔法を打ち破った。

「馬鹿なっ!?」

 自身の魔法が破れた事に驚愕するファタはぐらりと蹌踉めき膝を着く。
 魔力が急激に失われていくのを感じ取り、ファタは忌々しそうにレギアスとアナトを睨み付ける。

「人間風情が……よくも妾の魔力を此処まで……!」
「レギアス、アイツの魔力が弱まった。どうやら【竜剣】に振り回されてるようだぞ」
「今がチャンスだ。先ずは【竜剣】を奪い取るぞ!」

 レギアスとアナトはファタを挟み込むようにして分かれて走り出す。
 ガンブレイドでファタが握る槍を手から叩き落とし、アナトがファタの延髄に蹴りを叩き込む。ファタが地面に叩き付けられたその隙に、レギアスは頭上に浮かぶ【竜剣】に向かって跳ぶ。
 レギアスは手を伸ばし、【竜剣】の柄を掴んだ。

 直後、レギアスの魔力が【竜剣】に凄まじい勢いで吸われる。

「くそっ、何だ!?」

 レギアスは床に転がるようにして着地し、【竜剣】から手を離そうとする。
 だが右手は柄を固く握り締めたまま離そうとしない。
 その間も【竜剣】はレギアスの魔力を空になるまで吸い取ろうとしている。
 目眩と吐き気が現れ、それでも右手は【竜剣】を離そうとしない。
 そしてとうとうレギアスは【竜剣】を握ったまま倒れてしまう。

「レギアス!?」
「っ――!」

 倒れたレギアスに気を取られたアナトは、一瞬の隙を突かれてファタの反撃を許していまう。
 床から紅い棘が突き出し、アナトはその場から跳び退いてファタから離れる。
 ファタは【竜剣】を取り返そうとレギアスへと手を伸ばして飛び掛かる。

「レギアス、しっかりしろ!」

 アナトはファタを追いかけようとするが、床から伸びた紅い棘に足を貫かれ転んでしまう。
 その隙にファタはレギアスへと蹌踉めきながら近付く。
 レギアスは意識はあるものの、【竜剣】に魔力を吸われて立ち上がる事ができない。

「それを返せぇ!」
「く……そ……!」

 ファタが【竜剣】に触れそうになった、その時だ。
 一発の銃声が【覚醒の間】に響き、ファタの手を弾丸が貫いた。

「あああッ!?」
「銃声? まさか……!?」

 アナトは銃声がした方へと視線を向ける。
 レギアスも朧気になる意識の中、顔を上げた。
 二人の視線の先では、二挺の魔銃を構えたベールがいた。
 この場にいてはならない人が現れた事に、レギアスとアナトは理解が追い付かなかった。

「レギアスから離れなさい!」

 ベールはファタに向けて銃を連射する。クレイセリアの身体だろうがお構いなしに弾丸を撃ち込んでいく。
 ファタは魔法陣の盾を出して銃弾を防ぎ、ベールを怒りの形相で睨み付ける。

「生贄が邪魔を……!」
「っ――!」

 ファタがベールに反撃しようとしたのをレギアスは察知し、力を振り絞ってファタの足を蹴る。同時にアナトもガンブレイドから魔力波を射出し、それをもろに喰らったファタは大きく吹き飛ばされ床に転がった。

「レギアス!」

 ベールはレギアスの下へ駆け寄り、レギアスを抱き起こす。

「ベール……何で戻ってきた……!?」
「馬鹿ね、レギアスと妹を残して逃げるなんて真似できないわ」
「馬鹿はどっちだ……! 俺はお前を……!」

 レギアスは手から離れない【竜剣】を杖代わりにして立とうと踏ん張る。
 ベールの手助けもあって何とか立てたが、このままでは戦えそうになかった。

「姉さん!」

 アナトが大声でベールに呼びかける。
 その直後、レギアスとベールはファタから飛ばされた魔力によって吹き飛ばされる。
 ベールはレギアスを庇うようにして床を転がった。
 ファタは魔力を失って苦しいのか、息も絶え絶えになって立っている。

「おのれ……妾が……おのれ出来損ないが……! 母の為に魔力を出さぬか!」

 ファタはクレイセリアの身体を殴り付け、出来損ないと吐き捨てる。
 それに反応するように、ファタの身体から再び魔力が蘇ってくる。

「そうじゃ……! それで良いのじゃ……!」
「あんの野郎……! 先輩を物みたいに……!」
「……レギアス、彼女を助けたい?」
「……?」

 突然、ベールがそんな事を訊いた。
 ベールは至って真剣な眼差しでレギアスを見つめている。
 レギアスはどうしてそんな事をと思った。
 だが何かあるのだと思い、その問いに頷いた。

「……ああ。クソみたいな母親に操られてるのなら、助けてやりたい」
「……分かったわ。じゃあ、レギアス……私を信じてくれる?」
「ベール……? 何を考えて……っく」

 【竜剣】が魔力を吸い続けて喋るのも辛くなってきたレギアスを、ベールは優しく抱き締めた。
 そしてレギアスの耳元で言葉を囁く。

「レギアス……大好き」
「……!?」

 ベールはレギアスから【竜剣】を奪い取った。あれだけ右手から離れなかった【竜剣】がすんなりと離れてベールの手に渡った。
 それなりの重さがある筈の【竜剣】をベールは両手で持ち上げ、そのままファタへと突撃する。

「なに――なにやってるベール!?」
「姉さん!?」

 レギアスは踏ん張りが利かない足腰を強引に動かし、ベールを止めようと追いかける。
 アナトも足に突き刺さった棘を抜き、血を撒き散らしながら姉を止めに行こうとする。

 ベールは【竜剣】をファタに目掛けて振るう。

 だが、ベールが振るった【竜剣】はファタの魔法によって止められ、身体も動かなくされてしまう。

 そしてファタは【竜剣】をベールから奪い取り、ベールの身体を宙に持ち上げた。

 レギアスとアナトは叫びながらベールへと手を伸ばす。

 だがその手は届かず――。

「――愚かな」

 無情にもファタが操る【竜剣】に、ベールの身体は貫かれた。

「かふっ――」

 ベールを貫いた【竜剣】は彼女の血を浴びる。
 灰色だった【竜剣】に赤い脈が入り、まるで血が【竜剣】に巡っているように見える。

「覚醒の時は来たれり――」

 レギアスとアナトの前でベールを貫いたままの【竜剣】は宙を動き、【覚醒の間】の中心にある水鏡へと飛び込んだ。

 ベールの身体だけを残し、【竜剣】は水鏡の中へと潜った。

 残されたベールからは夥しい量の血が流れ、床一面に魔法陣のような形になって広がっていく。
 レギアスは床に着いている手に、生暖かい液体の感触を味わう。

 恐る恐るその手を見ると、真っ赤な血で染まっていた。

「べー……る……?」

 水鏡の上で横たわるベールは微動だにしない。

 頭の中が真っ白になる。
 
 そして、覚醒が始まった。




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