俺達は全員ワケありの最強従者 ~マーヴェリック家は本日も平和です~

八魔刀

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第2章 クレア・オルレアン

第二十話 真実・現実

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 マーヴェリック家最強の騎士と呼ばれ始めたのは、いつ頃だろうか。
 俺がお嬢の傍から離れて、外の世界で戦い始めてからか。
 あの頃は、マリナの件もあって荒れていたからな。
 八つ当たりみたいな感じで、魔物達を狩りまくっていた。
 それが結果的に評価に繋がったみたいなもんだ。
 最初は今まで戦いに姿を現さなかった臆病者だとか、愚か者だとか色々言われたもんだが、片っ端から魔物を狩りまくっていたらそんな言葉は聞かなくなった。

 俺は爺さんに連れられ、マーヴェリック家に宛がわれた今回の拠点に足を運んだ。
 ある部屋に入ると、そこにはボスが葉巻を吸いながら書類を眺めていた。

「ご当主様、エードリアン並びにヴァルト、ただ今戻りました」

「おう! 戻ったか!」

「ボス、急を要するものとは?」

「ウム、まぁ先ずは休め。ほれ、お前も吸うか?」

「……いただきます」

 ボスから葉巻を貰い、火を付けて吹かす。

 俺は本来、葉巻が好きだ。ただ葉巻を吸うとなると吸い終わるまでに時間が掛かる。煙草ならすぐに吸い終えるが、葉巻はそうもいかない。だからたっぷりと時間を確保してからじゃないと手を出さない。屋敷に居た頃は、葉巻を吸う時間を確保し難かったのと、マリナとの一服を望んでいたから煙草にしていた。

 葉巻を吹かしていると、ボスが俺に屋敷の様子を訊いてきた。

「それで、セラはどんな様子だった?」

「まだ魔力による弊害は現れてません。回復しているとも言えないので、現状維持の状態です」

「そうか……。クレア達とはどうだ?」

「親友そのものですよ。クレアの存在が、セラの精神を安定させていると言えますかね。他の皆では、年齢や性別によって限度がある。クレアなら同じ年齢の女の子で、全面的に気を許せるでしょう」

「それは良かった。クレアを家族に迎え入れられたことは幸運だった。で、そのクレアはどうだ?」

「騎士としての実力は一人前と言っても良いでしょう。荒い面もありますが、それもすぐ洗練されるでしょう。正直、才能は俺以上のモノを秘めているでしょう」

「ほう? お前がそこまで言うか?」

「俺は幼少期から剣を握る環境で育ってきました。十数年かけて今の実力を身に付けた所を、クレアは僅か1年で援護があれどB級を相手取りました。それが何よりの証拠でしょう」

 実際そうだ。クレアは人造悪魔になるまではただの一般人。戦いを知らない何処にでもいる普通の少女だった。それが1年、稽古を付けただけで力をモノにして魔物を撃破できるようになった。成長速度が尋常ではない。このまま育てば、俺をも遙かに超える存在になる。

 あ、何か今、上から目線で見下ろしてはニヤついているクレアの顔が浮かんだ。腹立つ。

「クレアの力はどうだ? 何か変わった様子は?」

「今のところは。ただ、やはりまだ悪魔の本能を完全には抑えきれていないようです。本人は寸前の所で抑えられたと思っているようですが、やはり暴食の力は大きいようです」

 そう言って、俺は首を指した。

 あの時、クレアの膝に寝転がっている時だ。あの時実は俺は起きていた。
 クレアから悪魔の気配を感じたと思ったら、クレアは俺の首筋に噛み付いてきた。
 肉は喰われなかったが、まるで物語に出てくる吸血鬼のように血を吸われた。
 クレアは半分意識を飛ばしており、俺が退魔の力で少し刺激してやって正気を取り戻させた。
 傷口は魔力で即時に塞いで、クレアに気付かれないようにした。
 クレアが気付いてしまうと、自分を強く責めてしまうだろうからだ。

 普段はそんなことは無いようだから、たぶん原因は俺なのだろう。
 クレアに自覚があるかどうか分からないが、アイツは俺に依存に近い何かを抱いている節がある。それが本能を刺激してしまったんだろう。

「ふぅむ…………お前も罪な男だ」

「何の話だ……」

 今の内容からどうしてそんな話になる。相変わらずボスの思考は分からん。

「マリナとはどうだ? 少しは話せたのか?」

「……まぁ、前向きに、とだけ言っときますよ」

「ガハハハッ! まぁ良いだろう!」

 ボスは葉巻を置き、大きなカーテンを開いた。
 カーテンの向こう側は壁一面の大きな窓だった。

 そこから見える光景は――――――――死んだ世界だった。

 一面緑で豊かだったであろう自然はクロク燃え尽き、残っているのは燃えカスのみ。
 大地は捲れ上がれ、溶岩が流れ出ていたり、巨大なクリスタルが突き出ている。
 あのクリスタルは魔力の塊だ。膨大な魔力が結晶化したものが大地を侵している。
 そこに生命は存在しない。入ったら最後、魔力に侵され死に至る。
 唯一入れるのは、魔の存在か、魔に耐性を持つ者だけ。

 此処は人間界と魔界の狭間である。
 正確に言うならば、人間界と人間界に侵攻してきた魔界の境界線上である。

「さて、本題だ。先日、本部が消失した」

「……は?」

 本部が消失? 何の冗談だ?

「本部があった場所が、魔界に呑まれた」

「馬鹿な……!? 本部の座標がバレたのか!?」

「理由は分からん。だが事実として、本部があった場所は魔界化し、魔に対抗できる者以外は死んだ。第二拠点である此処に、生き残りが向かっている。此処を本部とし、事に当たる」

「損害規模は? それに本部が消えたのなら、セラの件は?」

 ボスは俺に一つの資料を投げ渡してきた。
 それを受け取り目を通す。

 守護者の組織の7割が機能しなくなり、生き残っているのは力ある者と少しの人間だけ。
 これでは組織として機能しなくなる。事実上、壊滅に等しい。
 唯一の救いは、殆どの守護者は生きており、この拠点も本部よりは若干劣るが、設備も整っていること。
 ただ、本部に保管されていた今までの記録は失われてしまった。
 その量は膨大であり、まだ解析解読できていない物や貴重なサンプルまで含まれている。
 これではセラを助けることが、より難しくなってしまう。

 いや待て……魔界に呑まれただけで、物がなくなったわけじゃない。
 此処に向かえば、記録はあるのか?

「ボス、本部の魔界濃度は?」

「最も濃い地点で90%だ。つまり、お前の退魔の力でなければ侵入不可能。いや、お前でも厳しいかもしれない」

「俺を呼んだ理由はそう言うことか……」

 つまり、俺の次の任務は魔界化した本部に向かい、記録を回収することか。
 俺の退魔の力なら、魔力に侵されることなく魔界化した大地を歩くことが出来る。
 他の守護者には任せられない任務だ。そもそも他の奴らはセラを助ける気など全く無い。
 他の守護者にとって、魔力を持つ者は魔物と同視される。

 俺も最初はそうだった。今では力と立場を示して認めさせたが、内心でどう思われているのかは分からない。そんな奴らが態々危険を冒してまでセラを助けるはずがない。命令だとしても、少なからず反発が起こるだろう。それでは困る。

「いつ出発するので?」

「すぐに、と言いたいが、生き残った物達を向かえなければならん。出動はその後だ」

「……イエス・マイロード。所で、本部が無くなったと言うことは、今の指揮権は……」

「――――この私だ」

 ボスはニヤリと笑った。
 俺と爺さんも口を緩め、敬礼した。

 悲劇はあった。状況も苦しくなった。
 だが、ボスが組織の暫定的なトップになれた。
 これで、マーヴェリック家の立場は確立された。
 邪魔者は限りなく少なくなった。
 セラを救うため、組織には手足となってもらおう。




 今回の本部消失で、人間界の半分は魔界に呑まれたことになる。

 そう、半分だ。既に人間界は半分死んでいるのだ。
 この数年で魔界の侵攻は急激に進んだ。
 大地は魔界に呑まれ、魔物が蔓延る地獄と化した。
 世界の半分の人間は死ぬか魔物に変わり、人間を襲う。

 俺が今まで狩ってきたのは、魔界生まれの魔物だけではなく、魔物と化した人間も含まれている。あのガリア島と同じように、俺は人間を殺している。

 お嬢達は世界の事を知らない。領地に住まう人達も、世界の半分が魔界と化しているのを知らない。
 違う、知らないのではない。魔界に呑まれた大地は、人々の記憶から消えて無くなる。
 それがどういう原理なのか分からないが、それが魔界側から仕掛けられた魔法、呪いだ。
 俺達守護者は、魔に対抗できる力を持つが故に記憶は消されない。
 力を持たない組織の者達は、情報として知っている。
 故に、屋敷の外に出ないお嬢達には情報が行かない。

 それに、今は伝えるつもりもない。
 あの幸せに満ちている空間を、恐怖で染めるつもりはない。
 人間界と魔界の戦いは更に熾烈を極めるだろう。
 俺の力も、どこまで通用するのか分からない。
 だが、俺とボスでこの戦いに終止符を打つ。そしてセラを助ける。
 それが、ボスと交わした契約。
 俺とボスで、この戦いを終わらせる。

 例え―――――この命が尽きようとも、それが最後の命になるように。

 俺は生き残った守護者達の前に立ち、葉巻を吹かした。

 全ては、マーヴェリック家の、セラ・マーヴェリックの平和の為に。


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