59 / 114
第三章 後継者
第57話 襲来
しおりを挟む右頬に大きな紅葉を付けながら、俺はミズガルの街中を歩いている。
後ろにはご機嫌なララと不機嫌なリインが付いてきている。
現在、俺達は街の住民に聞き込みを行っている。光の勇者アーサーが何処に居るのか、最後に目撃されたのは何時なのか、何か変わったことはないかと聞き回った。
すると不思議なことに、三年もの間音信不通だったというのに、ミズガル内ではアーサーは日常的に目撃されていると言う。最後に街で目撃されたのは凡そ一週間前。それ以前はよく街を警邏していたらしい。
今アーサーがどこに住んでいるのかと問えば、住まいは城にあると返ってくる。
城はかなり厳重であり、関係者以外は立ち入り禁止。謁見も一定の立場の者しかできず、俺達にその権限は無い。アーサーの義兄であったとしても、この国での俺の知名度はあまり無い。
俺は確かに魔王を殺してはいるが、表向き殺したのは勇者になっているし、その真実を知っているのは大戦当時の王達と極々一部の者達。この国の王も俺のことを知ってはいるが、俺を嫌う一人でもある。特別な理由が無い限り門前払いを受けるだろう。
昼時、街の酒場で昼食を摂りながら、これからどうするかを考える。
「ねぇ、光の勇者様が御健在なら、目的は殆ど達成したものじゃないの?」
ふと、リインがそのようなことを口にした。
確かに、俺の最初の目的であるアーサーを探すという目的はほぼ達成させたようなものだ。城に住んでいると言うし、ここ一週間は違うが日常的に警邏もしているという。それだけ知れれば、別に会わなくともエリシアに報告できる。
だが事はそんな単純な話ではなくなっている。アーサーが黒き魔法に関わっている可能性がある。それに船上で襲われた件も、アーサーが何か企んでいるのは間違いない。義兄として、それを明かした上で止めなければいけない。
「アーサーの目的をはっきりさせないことには、帰れないよ」
「……ねぇ、光の勇者様ってどんな人なの?」
「それは私も気になる」
酒場のカウンターでジョッキを傾けながら、アーサーのことを思い出す。
「アイツは……そうだな。一言で言えば生真面目だ。それに頑固。一度決めたら絶対に曲げない。正義感も強くて、一番勇者らしい青年だよ」
「ふーん……。どれぐらい強いの?」
「勇者の中で一番強かったな。光の魔法と剣技、それから人族の技である盾技を駆使する」
その時、俺の隣のカウンター席に客が座った。
俺は気にせず話を続ける。
「よくエリシアに懐いていた。エリシアが俺に付いて回るから必然的にアーサーも付いて回った。だからいつも俺のことを嫌ってた。姉さんを盗るからだって」
「可愛らしいじゃない」
「あのゴリラ女に懐く? 信じられんな……」
今思い返せば、幼い頃のアーサーは可愛いもんだった。一番年下ってのもあるが、あいつは何だかんだ言って家族が大好きな奴だった。親父にも一番懐いてたし、エリシア以上に親父に付いて回っていた。
「そう言えば、親父と戦うのもアイツが最後まで反対していたな――」
「そう――そして兄さんは父さんを殺したんだ」
刹那――。
俺は顔面を強打されカウンター席から吹き飛ばされた。そのまま入り口を突き破り、外まで転がり出る。打たれた箇所から全身に渡って焼けるような激痛が走る。上手く身体に力が入らず、地面の上でのたうち回る。
「は、離せ!」
「ッ!? ララ!」
ララの声が聞こえた瞬間、魔力を練り上げて全身に走る『光の魔力』を打ち消す。立ち上がってナハトを握ると、ララの手首を掴んだ青年が突き破られた入り口から出て来る
。
金髪に蒼い瞳、白いコートと白銀の軽装を纏った若い男だ。腰には剣を携えており、鋭く冷たい視線で此方を睨み付けている。
「……ララを離せ」
「……ララ、と言うのか。父さんの娘は」
「っ、父さん……!?」
チラリと、酒場の中へと視線をやる。どうやらリインも彼にやられたようで、潰れたカウンターに身体を沈めて痛みを堪えていた。
「いったい何の真似だ、アーサー……!?」
俺を殴り飛ばし、ララの手首を掴んでいるのは光の勇者であるアーサー・ライガットだ。
五年ぶりの再会は、どうやらかなり面倒な状況に陥ってしまっているようだ。
俺達の周りを、白銀の鎧を纏った兵士達が取り囲み、アーサーはララを兵士に引き渡した。
「さ、触るな! センセ!」
「ララ!? アーサー! ララを離せ!」
「離してほしいか? なら、そうさせてみろよ」
アーサーが剣を抜いた。周りの兵士達は手を出さないようだ。
何が何だか分からないが、やることは分かりきっている。
馬鹿な愚弟を叩きのめしてララを助け出すことだ!
「アーサー!」
「ルドガー!」
俺とアーサーの剣がぶつかり合う。
アーサーの剣技と力は俺よりも僅かに劣るが、魔法力で圧倒的大差を付けられる。盾技も相当な腕前。使われる前に――!?
「お前、盾はどうした!?」
アーサーは盾を持っていなかった。剣一振りだけで、どこにも盾らしき装備が見当たらない。
「盾など、とうに捨てたさ!」
ガキンッ、と俺の剣が大きく弾かれる。
以前よりも力が上がっている。殺す気の本気じゃなかったにしろ、俺が力負けするとは思わなかった。
「ルドガー、よく僕の前に顔を出せたな」
「なに?」
「父を殺しておいて……よく僕の前に顔を出せたな」
「っ――、お前、まだ……!?」
――何で父さんを殺すんだ!?
――僕達の父親じゃないか!
――兄さん! 駄目だ!
あの時の、アーサーの叫びが脳裏で木霊する。その声に気を取られ、動きを止めてしまった。
アーサーが懐に入ってくる。下から振り上げられた剣を辛うじてかわし、返す刃で振り下ろされた剣をナハトで受け止めると、重すぎる一撃に膝を着いてしまう。
「ぐっ!?」
「だけど来てくれて助かったよ。これで復讐を果たせる」
「復讐……!?」
「ルドガー兄さん……父さんの為に死んでくれ」
「あがっ!?」
顎を蹴られ、後ろに転がる。
その隙にアーサーが剣を上に掲げ、光を剣身に集束していく。
俺はナハトを盾にして全力で防御障壁を展開する。
「――ライト・オブ・カリバー」
アーサーが振るった剣身から、光の斬撃が集束した砲撃が放たれる。
光に呑み込まれた俺は衝撃と共に吹き飛ばされ、意識を失った――。
「センセ!? センセェ!」
光に吹き飛ばされ、空高く消えていくルドガーを見て、ララは悲鳴を上げる。
剣を鞘に収めたアーサーは乱れた髪を整え、ララへと向き直る。
その時、酒場からリインが飛び出し、アーサーへと斬りかかる。
しかしアーサーは拳一つでリインを地面に叩き落とし、リインは意識を狩られてしまう。
「牛女!?」
「衛兵、コイツらを城へ連行しろ」
「くそっ! 離せ!」
ララは兵士達に引っ張られ、連行されていく。意識を失っているリインも拘束されてしまう。
「センセェ! センセェェ!」
「……奴ならまだ生きてるさ――まだ生きててもらわなきゃ困る」
アーサーはルドガーが消えていった空を一瞥し、そう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる