因果は巡るよまだ続く

夏生青波(なついあおば)

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(前)


 駅の改札を出ると、榊原は真っ直ぐ駅前のレンタカー屋に行ってしまった。俺もついていくが、中へは入らず外で並んだ車をながめていた。
 レンタカーを借りるのは、駅周辺のラブホテルではなく、郊外のホテルに行くという榊原の意思表示だろう。
 賢い選択だ。駅近くのホテルを選んだら、即解散するところだった。朝っぱらから男二人でホテルに入るところは、さすがに見知らぬ人間にも見られたくはない、断じて。

 手続きが済んで、よくある小型車が用意された。

「さあ、デートしましょ」

 耳元で囁くな。


 実は、榊原浩一とは初めてではない。
 こいつが新人の時に、味見をしたことがある。悪くはなかったが、榊原自身が別の男を選んだので、それっきりになった。


 ハンドルを握る榊原は楽しそうだ。仕事では理知的な横顔が笑みに崩れている。

「信田さん、触ってくださいよ」

 どこを、とは訊かない。変化が見て取れるから。

「事故られたら困るから、嫌だ」
「じゃ、くわえて」

 なんで要求が過激になっているんだ、馬鹿者。

「警察にフェラってましたなんて言えるか」
「お堅いなぁ」
「お前がゆるゆるなんだよ」

 俺は窓枠に肘をつき頬を支える。

「今はフリーなのか」
「そうでっす。小林の奴、二股をかけやがったので別れました」

 二股は学生の時で懲りてるなどと言っている。
 に、しても、小林さんは俺の一期上だ。呼び捨てとはよほど腹に据えかねたのだろう。

「信田さんは?」
「俺は固定は作んないの」
「セフレオンリーですか」
「そ」
「立候補しようかなぁ」

 脅迫だろ?と思ったが、黙っていた。


 住宅街を抜けて更に坂道を上っていく。インターチェンジの方向だな。そこで、車が左折する。

「行き先決まってんのか?」
「ええ、さっきWeb予約しました」

 手際がいいこと。慣れすぎだ。


 坂道にずらりと並ぶホテル。この通りは知る人ぞ知るラブホの集中地なのだ。
 何軒かを通り過ぎ、やけに白い建物がある入り口で、車は左折した。
 榊原が慣れたようすでフロントでカードキーを受け取ると、床に部屋までの案内灯がともった。それに従って部屋までご案内だ。至りつくせり。


 部屋につくと、その場にバッグを置かされ、すぐに榊原が抱きしめてきた。口づけながら擦り付けられる股間は、既にかなりの硬さを持っている。

「飢えてんなー」
「だからあんなの見せられて我慢できなかったんですよ」

 俺のグレーの上着を脱がしながらワイシャツの胸を吸ってくる。ずくんと刺激が走った。
 押しのける。

「馬鹿、ワイシャツが染みになるだろう」
「そんなこと言うと、これ、おおっぴらにしますよ」

 取り出したのはiPhone。案の定、動画と静止画で俺の犯罪行為を撮られていた。


 榊原の目をのぞき込む。

「こちらの条件はそれらを消すこと」
「そっちから条件出すんですか」

 からかう口調を無視して続ける。

「エアドロップでiPadに保存した分もな」

 榊原がぎょっとしている。やはりか。

「ばれてました?」


「俺をやりたいんだろ?」

 榊原の頬を撫でながら首を傾げて問うと、榊原は目を輝かせた。

「いいんですか?」
「仕方ない。残されたら、俺の会社員生命が終わる」
「大袈裟だなあ」

 大袈裟なものか。便利な機械は扱いを間違うと凶器だ。

「シャワー浴びてくる」

 ソファにネクタイ、ワイシャツ、スラックス、靴下を投げる。

「潔すぎですよ」

 ため息交じりの榊原のひとり言が聞こえた。



 駅のトイレで抜いたものの、電車の中で漏れ出ていた液がついた下着を脱ぎ捨て、シャワーを浴びるのは爽快だった。
 また犯罪行為をやりたいかと訊かれたら疑問だが、スリルだけはあった。ただ、自分の雄を出して相手にかけるほどの変態かつ周囲にばれた時に危険な行為までは進む気にはなれない。
 とりあえず満足はしたので、もうすることはないだろう。


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