49 / 182
A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】
(49)
しおりを挟む
洗髪し、コンディショナーを流した後、軽く息を吸って止めた。シャワーヘッドから降り注ぐ湯を顔に当てる。それから顔をゆっくりとのけぞらせて、止めていた息を吐く。喉に湯が当たっている。背後で揺れる濡れた髪が重い。
加賀谷も桜木も湊も昨日のことは何も言わない。
彼らは既に時間が動いている。
しかし、遥も時間を進めなくてはならない。
湯を体にあてる。手で自分の体を撫でる。手首から腕、肩へと手のひらをすべらせていく。
凰になると決めたのは、そうしなければ父の行方がわからないからだ。加賀谷はそう遥を誘導してきた。
これでは遥は、ただ周囲の思惑に流されているだけだ。
首筋から鎖骨、胸を撫でおろし、下腹へと手は移動する。萎えているそれをふだんと同じように包みこみ、洗う。
ため息をつく。
それから向きを変え、背に湯をあてた。左腕を背中へ回し、その手の甲で届く範囲だけ撫でる。
この体のすべての場所に加賀谷は触れた。
遥自身は触れたことのない場所、あるいは体の中まで。
遥は喘いだ。
両手で腰から尻を丸く撫でてから、閉ざされている双丘を開き、その部分を洗う。
自分の意思で選びたいとずっと思ってきた。
それは今回のことだけではないのかもしれない。
この体は、遥の体だ。加賀谷の物ではない。
同時に遥は父ではない。父と同じ人生は歩みたくはないし、仮に同じでありたいと望んでも不可能だ。
遥は遥の人生しか作り出せない。そしてそれは遥自身の意思から始まる。
簡単に脚を撫でてから、もう一度肩に湯をあてて、湯を止めた。
浴室を出て、用意されている白いバスローブに身を包む。それから同じように準備されていたタオルで髪を拭く。
戸をノックされた。
「遥様、お出になりましたか?」
桜木だった。
「うん……」
「開けます」
戸が開いて、桜木が顔をのぞかせた。
「やはり洗髪なさいましたか。出かける前にちゃんと乾かさないといけないですね。さ、ダイニングの方へお急ぎください」
促されて、浴室を後にした。
ダイニングテーブルの上には、きっちりと握られた小さめのおむすびとみそ汁が用意されていた。
遥はそれが置かれている上座に素直に座る。
手を合わせる。
「いただきます」
それから、箸を取ってみそ汁を飲んだ。
(温かい……)
「お茶をお出し致しますね」
キッチンの方から湊が言った。
遥は深いため息をついた。
朝食の後、寝室に戻って着替えた。
淡いブルーの縞の入ったワイシャツに、濃い青に緑と金色に近い色がちりばめられたネクタイを締める。
万年筆のインクのブルーブラックを思わせる色のスーツが用意されていて、遥はそのスラックスをはく。
「髪を乾かしましょう」
ブラシとドライヤーを手に、桜木が入ってきた。
クローゼットの鏡の前で、桜木は器用に遥の髪をブラシですくいなから乾かしていく。鏡越しにその手つきを目で追いながら、遥は思わず言った。
「昨日の美容師みたいだ」
桜木がにこっとした。
「恐れ入ります」
その手はよどみなく遥の髪を乾かす。
遥は視線を落として自分の姿を見た。それからいったん目をつぶり、また開けた。
そこにいるのは高遠遥だ。
加賀谷も桜木も湊も昨日のことは何も言わない。
彼らは既に時間が動いている。
しかし、遥も時間を進めなくてはならない。
湯を体にあてる。手で自分の体を撫でる。手首から腕、肩へと手のひらをすべらせていく。
凰になると決めたのは、そうしなければ父の行方がわからないからだ。加賀谷はそう遥を誘導してきた。
これでは遥は、ただ周囲の思惑に流されているだけだ。
首筋から鎖骨、胸を撫でおろし、下腹へと手は移動する。萎えているそれをふだんと同じように包みこみ、洗う。
ため息をつく。
それから向きを変え、背に湯をあてた。左腕を背中へ回し、その手の甲で届く範囲だけ撫でる。
この体のすべての場所に加賀谷は触れた。
遥自身は触れたことのない場所、あるいは体の中まで。
遥は喘いだ。
両手で腰から尻を丸く撫でてから、閉ざされている双丘を開き、その部分を洗う。
自分の意思で選びたいとずっと思ってきた。
それは今回のことだけではないのかもしれない。
この体は、遥の体だ。加賀谷の物ではない。
同時に遥は父ではない。父と同じ人生は歩みたくはないし、仮に同じでありたいと望んでも不可能だ。
遥は遥の人生しか作り出せない。そしてそれは遥自身の意思から始まる。
簡単に脚を撫でてから、もう一度肩に湯をあてて、湯を止めた。
浴室を出て、用意されている白いバスローブに身を包む。それから同じように準備されていたタオルで髪を拭く。
戸をノックされた。
「遥様、お出になりましたか?」
桜木だった。
「うん……」
「開けます」
戸が開いて、桜木が顔をのぞかせた。
「やはり洗髪なさいましたか。出かける前にちゃんと乾かさないといけないですね。さ、ダイニングの方へお急ぎください」
促されて、浴室を後にした。
ダイニングテーブルの上には、きっちりと握られた小さめのおむすびとみそ汁が用意されていた。
遥はそれが置かれている上座に素直に座る。
手を合わせる。
「いただきます」
それから、箸を取ってみそ汁を飲んだ。
(温かい……)
「お茶をお出し致しますね」
キッチンの方から湊が言った。
遥は深いため息をついた。
朝食の後、寝室に戻って着替えた。
淡いブルーの縞の入ったワイシャツに、濃い青に緑と金色に近い色がちりばめられたネクタイを締める。
万年筆のインクのブルーブラックを思わせる色のスーツが用意されていて、遥はそのスラックスをはく。
「髪を乾かしましょう」
ブラシとドライヤーを手に、桜木が入ってきた。
クローゼットの鏡の前で、桜木は器用に遥の髪をブラシですくいなから乾かしていく。鏡越しにその手つきを目で追いながら、遥は思わず言った。
「昨日の美容師みたいだ」
桜木がにこっとした。
「恐れ入ります」
その手はよどみなく遥の髪を乾かす。
遥は視線を落として自分の姿を見た。それからいったん目をつぶり、また開けた。
そこにいるのは高遠遥だ。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる