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A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】

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 玄関でサングラスを手渡された。
「何?」
「おそらく見張られているでしょう。隆人様より、まだ顔を見せるなとのご指示をいただいておりますので」
 黙ってサングラスを掛ける。室内では色の濃いレンズは不便だ。
「あらかじめお知らせしておきますが、車の中ではアイマスクをしていただきます。ご承知おきください」
 遥はため息をついてうなずいた。
 加賀谷たちのやり方にももうずいぶん慣らされた。遥がどう思おうと、そうすべきだと彼らが考えたことは実行される。
 遥はたたきに並べられている靴を履く。
 ここには遥の物は何もない。すべて与えられたものだ。しかし、どれも遥の体に合うように用意されている。
 湊が玄関のドアを開けた。
 遥の頬や体を撫でるように、風が流れ込んでくる。
 何日ぶりなのかわからない、外の空気だった。

 エレベーターで地下に降りるまでにもうひとりが途中の階から合流した。
「おはようございます。失礼いたします」
 桜木たちに似た雰囲気の男だ。物腰は柔らかだが、意思が硬そうだ。
「後ほどご紹介いたします」
 桜木が遥にそう言った。
 マンションの地下は駐車場だった。そこに大きめのセダンが待っていた。
 運転席の男が素早く降りてきて、遥に頭を下げた。
「おはようございます。本日ご案内させていただきます、桜木諒さくらぎりょうと申します。よろしくお願いいたします」
 また桜木だった。
「諒、早く」
 桜木が言うと、諒が素早く車の後部座席のドアを開けた。
 遥の横には桜木が座った。諒は運転席で、湊が助手席だ。エレベータの中で一緒になった男は、別の車の助手席に乗り込む。
 遥は桜木にサングラスを返し、渡されたアイマスクを自ら付ける。

 少なくとも五人の人間が遥の移動に関わっている。もしかしたら、他にもいるのかもしれない。
「横になって休まれた方がよろしいですよ」
「ん……」
 遥はシートを探りながら、ゆっくりと身を横たえる。
 どうしても頭の来る位置に桜木がいる。
「枕代わりになさってください」
 黙って遥は桜木の腿に頭を置く。頬に桜木の体の温もりを感じる。
「出発いたします」
 諒の声がした。
 動き出した車の中で、桜木が言った。
「諒は私と湊の従弟に当たります。先ほどエレベーターの中に参りました者は桜木則之のりゆき。則之の乗る車を運転しているのがその弟の喜之よしゆきと申しまして、諒同様従弟です」
「みんな桜木なのか?」
「はい。わたくしども桜木家の者は現在全員、遥様の護衛に当たっております」
「全員?」
「そう申しましても、わたくしを筆頭に七名に過ぎません。他の二名は離れた場所から遥様をお守りしております」
 遥は小さく息を吐いた。
「ありがと」
「は?」
「寝る」
「はい。おやすみなさいませ」
 何かがふわっと体にかけられた。感触からすると、タオルのようなものだ。遥はその端をつかんで胸元に引き寄せると、目を閉じた。

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