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春から梅雨

墓参(1)

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 今日通る廊下は明るかった。昨日通った質素な廊下とは違い、欄間に彫刻も施されている。
 遥がきょろきょろしていたせいか、達夫が教えてくれた。

昨日さくじつお使いいただいたのは、五家用の通用口でございまして、玄関は鳳様凰様のみお使いになります」
「じゃあ隆人、さん、の家族は?」
「玄関脇の内玄関をお使いになります」
「隆人、さんは、ここで生まれ育ったのか?」
「いえ、隆人様は東京のお生まれです。頻繁にお戻りではございますが」

 言葉に残念そうな何かを感じた。当主が本邸ここに在るということは特別なのかもしれない。

「鳳様凰様がおそろいになったことで、儀式も正式な形で行うことができます。うれしい限りでございます」
「儀式ってのが、あるんだ」
「ございますとも。春先の萌芽出葉祈念ほうがすいようきねんの儀は過ぎてしまいましたが、夏鎮なつしずめの儀、捧実ほうじつの儀、年越しの儀と控えております」
「そんなにあるのか」

 内心遥はげっと思った。そうとは知らない達夫はそのまま説明してくれる。

「一番大切なのは、年越しの儀となります。ですが、ご心配には及びません。桜木の衆が必ずお役に立ちますので」

 遥はふっと微笑った。

「達夫は桜木贔屓だな」

 達夫は直接の言葉では答えなかったが、小さく頭を下げた。

「わたくしは隆人様の手下てかでございますゆえ」


 達夫が「こちらになります」と膝をついて、襖を開けた。

 うっと遥は唾液を飲み込んだ。
 そこには八畳の畳敷きのスペースがあって式台、土間とつながり、その向こうに外がひらけている。
 遥が、唸ったわけはその土間から玄関外への両側にずらりと人が並んでいたことだ。

「おめでとう存じます!」

 一斉に頭を下げられた。
 達夫を振り返ると、

「この本邸にお仕えする、我が樺沢本家の者たちでございます。これから間接的にではございますが、凰様のお世話をさせていただきます。よろしくお願い申しあげます」

 遥は頭を上げない彼らに、自分が言葉をかけなければならないことに気づいた。

「あ、ありがとう。これから、よろしくお願い、します……」

 小さくなってしまう声に、皆の「ははっ」という返事が返ってきた。


「しおらしいことだな」

 笑いを含んだ声が背後からかかった。隆人だ。遥は顔に血が集まるのを感じた。

「慣れてないんだ。仕方ないだろう?」

 突っかかると髪から頬をひと撫でされた。

「さ、行くぞ」

 隆人が先に式台に降り、横からさっと差し出された靴べらで靴を履く。遥もそれに続いた。

「行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ち申しております」

 また、一斉に言われ、びくりとしてしまった。

「留守を頼む」

 隆人が鷹揚に答えた。


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