Parasite

壽帝旻 錦候

文字の大きさ
5 / 101
episode1

しおりを挟む

「おはよー」
「おっす!」
「おはよう」

 教室に入ると、皆が声を掛けてくれる。
 それに対し、大介は愛想よく返事を返しつつ皆の輪に入り、俺は短く「おう」と答えて席に着く。
 すると、もう一人の幼馴染、百瀬 洋一郎が近付いてきた。
 コイツとも腐れ縁。
 頭脳明晰、一年にして生徒会役員。
 スラッとした体型に、俺程ではないけれど、178cmと高身長。
 クッキリとした二重に、スッとした鼻の涼しげな顔立ち。
 所謂、“イケメン”ってやつだ。
 もっとレベルの高い高校にだって行けたのに「君達と一緒の方が面白そうだ」って理由だけで、大学はこの国で一番賢いとされる所に入る事を約束してまで、この学校に入るくらい変わり者だが、常に冷静沈着で物事を判断出来る、頼りになる奴。

「で……。今日だったんだよね?」
「あぁ」

 そう――――
 コイツも祖父が七十歳を迎え、政府の奴らに連れていかれた事を知っている。
 しかも、コイツの親父はエリート官僚。
 政府に携わり、議会での決定事項を実行していく人間。
 しかし、親子の会話なんて、微々たるもので、洋一郎は物心ついた時から、殆ど父親と会話した事などなかったらしい。
 だから、勿論、『paraíso』についても、公になっている情報しか知らない。

「こんな事を言うのもなんだけど……」
「ん?」
「僕達には信じて祈る事しか出来ない」

 真っ直ぐ目を合わせ、そう言った。
 客観的な物の言い方だが、コイツなりに、俺の事……そして祖父の身を案じているのは確かだ。

「……あぁ。分かっている」
「克也は、克也らしくいろ。それが龍平ジィの望みだ」

 昔から。
 小さな頃から、うちに遊びに来ていた洋一郎と大介は、祖父に可愛がられていた。
 二人とも、祖父母が居なかったから、まるで、本当に自分の爺ちゃんかのように、懐いていた。
だからこそ、コイツの言う事には素直に頷く事が出来る。

「……そうだな」

 そうだ。
 ここで、俺がクヨクヨ悩んだって。
 安否を心配していたって、もう、どうする事も出来やしない。
 それなら、祖父が安全で楽しく、幸せに生活していることを祈って、俺は俺らしく、精一杯生きていくしかない。
 勿論、そんなに簡単には、納得出来るような事ではないけれど、俺は信じている。
 最後に言った、「心配はいらん。元気でな」という言葉。
 そして、実際に、本当に怪しい施設であるのならば、もっと、多くの人達がデモなり抗議なりする筈なのに、それらが一向にない所を見ると、今は、“信じる”しかないと思った。
 それから、数日間は、我が家はどこか暗く、それぞれが無理に明るく振る舞っているような、そんなギクシャクした空気が流れていたものの、次第に、普通の“三人”家族として、日常生活を平穏に送れるようになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...