6 / 101
episode 2
1
しおりを挟む
数か月後――
『S共和国は、I国からの空爆を宣戦布告だとして非難した模様です。
I国は、S共和国からの報復攻撃を懸念した為、S共和国との国境地帯へミサイル防衛システムの砲台5台を移動しました。
I国は今月七日深夜、兵器・武器庫や軍事化学研究所他、大統領護衛隊の詰所もあるS共和国の首都・ダガシカシ近郊の軍事施設を空爆したとのことです。
I国政府高官筋の情報によりますと、I国とS共和国に隣接するR社会主義共和国のオスラム教タジン派組織であるヒドラが所有しているIR国製ミサイル数十個がテロ活動防止の為、空爆の標的としたところ、誤ってS共和国へ空爆してしまったということです。
S共和国、R社会主義共和国、IR国、各国の情報筋では、この情報を否定しております。
また、空爆の犠牲者に関する情報も錯綜している模様です。
地元メディアは、空爆により軍人、研究者、並びに一般人を含む数十人が死亡したと伝えていますが、政府発表では数人が死亡、八十人以上が重軽傷を負ったとのことです。
この空爆によって、日本人の犠牲者は今の所確認されておりません。――プチン――』
「え? 俺、今、見てたんだけど?」
「テレビをボケーっと見てて、箸が進んでないわよ? もう、時間でしょ?」
「あ?」
時計を見てみると、既に時計は七時五十分。
八時には、大介がやって来る。
「いっけねぇ!」
俺は、慌てて朝食をかきこみ、歯を磨いていて家を飛び出すが、いつも門の所で待っている筈の大介の姿が見当たらない。
「なんだ? 休みか?」
俺は、胸ポケットからスマホを取り出すと、大介に電話をかけた。
トゥルルルル
トゥルルルル
「もしもしぃ~……」
数回のコール音の後、起きたばかりのような、眠そうな声が聞こえた。
「おい。お前、今何時だと思ってんだ?」
少しイラついた口調で言う。
「あぁ~……う~ん……まだ八時じゃないかよぉ~……」
呑気な声で、寝ぼけた事を抜かす大介に、俺は怒鳴った。
「もう、八時だ! 学校に遅刻すっだろが!」
「……」
ようやく、事の重大さに気が付いたのか、受話口からは沈黙が続く。
「待っててやっから、早く支度しろ」
フンっと鼻を鳴らしながら言ってやった。
いつもは、待たせてる身分のクセに、我ながら偉そうだよなぁ……と思いつつも、幼馴染と共に、遅刻になってやるんだから、感謝しろよ!という気持ちも若干入っていた。
すると……
「……ぶわっはっはっはっはっは!」
キーン!
あまりの大きな笑い声に、鼓膜が悲鳴を上げる。
「かっつん……今日、創立記念日……ック……ププ……ぶわっはっはっは!」
“かっつん”とは、この俺。
上田 克也(うえだ かつや)の事。
無愛想で強面な見た目に反して、可愛いあだ名だって?
それは、こいつが、小さい頃から勝手に、俺の事をただ一人“かっつん”って呼んでいて……って、まぁ、それは、別にいいんだが……
いい加減、笑い過ぎだろ?
ちょっと人が、創立記念日を忘れていたからって、ここまで笑う事は無いんじゃねぇか?
「……おい……」
未だに笑いが止まらない大介に対し、地の底から這い上がるかのような低い声でスマホに話しかける。
すると、その絶対零度な雰囲気を察知したのか、ピタリと笑うのを止める。
「……大介。笑い過ぎだ」
「……ごめんなさい」
シュンとした声。
多分……嫌、絶対、こいつが犬だったら、お座りして、首は項垂れ、耳を下げているだろう。
そんくらい、反省しているっぽい声で謝ってきた。
ま、しゃぁない。
許してやるか。
ってか、休みなのを勘違いして、朝から電話したのは俺の方だしな。
「こっちこそ悪かったな。じゃぁ、週明けに。またな」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間
「あ! かっつん! 待って!」
いきなり、大声を出す大介。
「あん? なんだぁ?」
訝しげな声を出すと
「そんな、あからさまに不機嫌な声を出すなって! 明日か明後日暇?」
「明日は空手があるしな……明後日なら暇だぞ」
「じゃぁさ、洋一郎が久々に、塾もカテ教も生徒会も無いって言ってたから、三人で集まろうよ!」
さっきまでの、しおらしさはどこへやら。
いつもの明るい口調に戻っている。
「……どこにだ?」
「そりゃぁ~……」
「俺んちだわな?」
「うん!」
さっき尻尾下げてた犬が、直ぐに尻尾降ってキャンキャンいってる様子が目に浮かぶ。
大介って奴はそんな奴だ。
ま、だから憎めないんだけどな。
「わかった」
「じゃ、明後日ね!」
どちらともなく、電話を切った。
今日は休みか……
だったら、あのニュースしっかり見れたじゃねぇか。
内心ブツブツ言いながら、玄関へと引き返すと母がビックリした様子で出迎えた。
「あら? 克也、学校は?」
「創立記念日で休みだって」
「あんた! そんな事も忘れてたの……プ……ぷふふ…………ど、鈍臭い……」
ぷはははははは! と、お腹を抱えて笑う母の横を、ギロリと睨んで通り過ぎると、直ぐに自室に戻り、部屋着に着替えた。
そして、冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出し、リビングへ。
テレビを点けて、チャンネルを変えていく。
あのニュースが何故か気になる。
海外の。
それも、遠く離れた場所での空爆。
そこでは、数年前から紛争が起きていたものの、ここ最近ではS共和国もI国も、使用不可とされている化学兵器の使用が確認されたり、緊迫した状況が続いている。
その為、S共和国とI国だけの問題ではなく、国際問題にまで発展していた。
そして、世界から見た日本の【軍事力】の在り方も、この数年で劇的に変わっていた。
日本は世界で唯一の被爆国で、第二次世界大戦での過ちを繰り返さないために戦争の参加を放棄した国であり、世界で唯一の戦争に参加しない国であった。
だからこそ、今までは軍隊ではなく、【自衛隊】という、自衛隊法第三条一項により
「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」
組織を結成し、我が国への侵略行為に備えると共に、人命救助などの人災・災害派遣や国連PKOへの派遣などの国際平和協力活動を副次的任務とした、あくまでも『防衛』『救助』としての『力』しか持つ事は無かった。
しかし、二XXX年。
国際情勢が悪化し、世界の至る所で紛争やテロ活動が過激化する中、それらに対処しようとすれば、多額の費用や人員を要する事となる。
その為、世界のリーダーシップを取り続けていたA合衆国も、R連邦国も、CH共産国等の国際的連盟国も、かなりの負担を負い、自国の内部情勢の悪化と混乱を招く恐れがあった。
いや。
昔は『軍需景気』『戦争が齎す経済』などと言われていた時代もあったが、今では各国で同じような兵器が開発され、兵器の輸出というメリットはない。
兵士に関しても、訓練だけで紛争地域に派遣される軍隊よりも、紛争地域で実際に実践している兵士の方が優れているに決まっており、敵地に派遣したとしても、ただ、 国際連盟国軍の被害が広がるばかり。
実際、世界の秩序を守る『連盟国』各国は多額の赤字を抱え、そして、内部情勢も殺伐としたものとなってきていた。
だからこそ、未だ小さな巨人と言われ、経済大国として君臨する「日本」に白羽の矢が向けられた。
【国際法】の名において。
数年前、それまでの憲法九条の解釈を変更し、集団的自衛権――要するに、「「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」を行使できるようになっていた。
だが、今回、世界が日本に求めていたものは、その更に上をいく。
とうとう、日本は憲法第九条の改正と共に、【自衛隊】は【日本国防軍】と名を変えた。
基本的な任務は変わらない。
しかしだ。
国際連盟国軍としての参加が追加された。
それは、人命救助だけでなく【軍】として、各国の紛争やテロ活動に対して、鎮圧、武力行動を行う為に海外派遣が可能となった。
勿論、その事によって、日本自体も他国から報復される恐れもあるので、国が攻撃された場合、堂々と敵の軍事力を破壊する武力を持つ事も当然の権利としてもたらされていた。
だからこそ、あのニュースが気になる。
S共和国とI国の領土問題・宗教問題の紛争であったものが、徐々に変わりつつある。
それは、この日本にも関わってくる事なのだ。
テレビでは、午前中の中途半端な時間のせいか、地元のグルメや、流行り物などを紹介する情報番組が殆どであり、ニュースはやっていなかった。
「……くだんねー……」
そう悪態つきながら、ペットボトルから液体を喉へと流し込む。
シュワシュワっと弾ける感覚が心地いい。
「母さん、あのニュース気になんねぇのかな?」
ふと、思う疑問。
実は、俺には年の離れた兄貴がいる。
名前は直也。
年は二十五歳。
これがまた頭のいい奴で、小さな頃から“神童”と呼ばれていたらしい。
勿論、自分はどちらかというと勉強よりも運動。
年も離れ、性格も全く違うタイプのせいか、遊んだり話したりした記憶が殆ど無い。
しかも高校からアメリカに留学した兄貴は、飛び級制度を利用し、二十歳にして、特待生で某名門大学大学院を卒業。
化学・生物の博士号を取得となれば、正直どんな会話をすればいいのかも分らない。
そんな兄貴は、政府の研究機関……しかも、軍事関係の研究機関で働いている。
あちこち海外出張も多く、殆ど家には帰って来る事は無かったが、昨年、ブラジルから帰国してからは、ずっと、どこにあるかも分からない軍事機密研究所にこもりっきり。
新兵器開発の為、情報管理をかなり徹底されているらしく、開発チームに携わっているメンバーは全員、研究所の敷地内から出る事すら許されない状況。
勿論、電話やメール等も禁止。
外部との接触を全て遮断されているのだ。
もし、この紛争に日本が関わる事があれば、もしかしたら、兄貴達の研究している兵器が実験として使われるんじゃないか?
今まで学んできた歴史から、俺はそう感じていた。
新しい兵器の開発の為に、戦地やテロへの報復は、都合のいい「実験」の場所となる。
それは、いつの時代も同じ。
そして、今回の紛争と、兄貴達の兵器の研究……タイミングがいい。
しかも、今回の【空爆】。
日本国防軍を派遣するには、もってこいの理由となる。
そこで、きっと何かが……
何となくだが俺の勘がそう告げる。
兄貴達が開発した兵器。
何か嫌な胸騒ぎがする。
そんな思いを振り払うかのように、一気にソファから立ち上がると、テレビのスイッチを切った。
“こんな予感、当たる訳がない”
真っ黒になった画面を見つめ、そう願った。
『S共和国は、I国からの空爆を宣戦布告だとして非難した模様です。
I国は、S共和国からの報復攻撃を懸念した為、S共和国との国境地帯へミサイル防衛システムの砲台5台を移動しました。
I国は今月七日深夜、兵器・武器庫や軍事化学研究所他、大統領護衛隊の詰所もあるS共和国の首都・ダガシカシ近郊の軍事施設を空爆したとのことです。
I国政府高官筋の情報によりますと、I国とS共和国に隣接するR社会主義共和国のオスラム教タジン派組織であるヒドラが所有しているIR国製ミサイル数十個がテロ活動防止の為、空爆の標的としたところ、誤ってS共和国へ空爆してしまったということです。
S共和国、R社会主義共和国、IR国、各国の情報筋では、この情報を否定しております。
また、空爆の犠牲者に関する情報も錯綜している模様です。
地元メディアは、空爆により軍人、研究者、並びに一般人を含む数十人が死亡したと伝えていますが、政府発表では数人が死亡、八十人以上が重軽傷を負ったとのことです。
この空爆によって、日本人の犠牲者は今の所確認されておりません。――プチン――』
「え? 俺、今、見てたんだけど?」
「テレビをボケーっと見てて、箸が進んでないわよ? もう、時間でしょ?」
「あ?」
時計を見てみると、既に時計は七時五十分。
八時には、大介がやって来る。
「いっけねぇ!」
俺は、慌てて朝食をかきこみ、歯を磨いていて家を飛び出すが、いつも門の所で待っている筈の大介の姿が見当たらない。
「なんだ? 休みか?」
俺は、胸ポケットからスマホを取り出すと、大介に電話をかけた。
トゥルルルル
トゥルルルル
「もしもしぃ~……」
数回のコール音の後、起きたばかりのような、眠そうな声が聞こえた。
「おい。お前、今何時だと思ってんだ?」
少しイラついた口調で言う。
「あぁ~……う~ん……まだ八時じゃないかよぉ~……」
呑気な声で、寝ぼけた事を抜かす大介に、俺は怒鳴った。
「もう、八時だ! 学校に遅刻すっだろが!」
「……」
ようやく、事の重大さに気が付いたのか、受話口からは沈黙が続く。
「待っててやっから、早く支度しろ」
フンっと鼻を鳴らしながら言ってやった。
いつもは、待たせてる身分のクセに、我ながら偉そうだよなぁ……と思いつつも、幼馴染と共に、遅刻になってやるんだから、感謝しろよ!という気持ちも若干入っていた。
すると……
「……ぶわっはっはっはっはっは!」
キーン!
あまりの大きな笑い声に、鼓膜が悲鳴を上げる。
「かっつん……今日、創立記念日……ック……ププ……ぶわっはっはっは!」
“かっつん”とは、この俺。
上田 克也(うえだ かつや)の事。
無愛想で強面な見た目に反して、可愛いあだ名だって?
それは、こいつが、小さい頃から勝手に、俺の事をただ一人“かっつん”って呼んでいて……って、まぁ、それは、別にいいんだが……
いい加減、笑い過ぎだろ?
ちょっと人が、創立記念日を忘れていたからって、ここまで笑う事は無いんじゃねぇか?
「……おい……」
未だに笑いが止まらない大介に対し、地の底から這い上がるかのような低い声でスマホに話しかける。
すると、その絶対零度な雰囲気を察知したのか、ピタリと笑うのを止める。
「……大介。笑い過ぎだ」
「……ごめんなさい」
シュンとした声。
多分……嫌、絶対、こいつが犬だったら、お座りして、首は項垂れ、耳を下げているだろう。
そんくらい、反省しているっぽい声で謝ってきた。
ま、しゃぁない。
許してやるか。
ってか、休みなのを勘違いして、朝から電話したのは俺の方だしな。
「こっちこそ悪かったな。じゃぁ、週明けに。またな」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間
「あ! かっつん! 待って!」
いきなり、大声を出す大介。
「あん? なんだぁ?」
訝しげな声を出すと
「そんな、あからさまに不機嫌な声を出すなって! 明日か明後日暇?」
「明日は空手があるしな……明後日なら暇だぞ」
「じゃぁさ、洋一郎が久々に、塾もカテ教も生徒会も無いって言ってたから、三人で集まろうよ!」
さっきまでの、しおらしさはどこへやら。
いつもの明るい口調に戻っている。
「……どこにだ?」
「そりゃぁ~……」
「俺んちだわな?」
「うん!」
さっき尻尾下げてた犬が、直ぐに尻尾降ってキャンキャンいってる様子が目に浮かぶ。
大介って奴はそんな奴だ。
ま、だから憎めないんだけどな。
「わかった」
「じゃ、明後日ね!」
どちらともなく、電話を切った。
今日は休みか……
だったら、あのニュースしっかり見れたじゃねぇか。
内心ブツブツ言いながら、玄関へと引き返すと母がビックリした様子で出迎えた。
「あら? 克也、学校は?」
「創立記念日で休みだって」
「あんた! そんな事も忘れてたの……プ……ぷふふ…………ど、鈍臭い……」
ぷはははははは! と、お腹を抱えて笑う母の横を、ギロリと睨んで通り過ぎると、直ぐに自室に戻り、部屋着に着替えた。
そして、冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出し、リビングへ。
テレビを点けて、チャンネルを変えていく。
あのニュースが何故か気になる。
海外の。
それも、遠く離れた場所での空爆。
そこでは、数年前から紛争が起きていたものの、ここ最近ではS共和国もI国も、使用不可とされている化学兵器の使用が確認されたり、緊迫した状況が続いている。
その為、S共和国とI国だけの問題ではなく、国際問題にまで発展していた。
そして、世界から見た日本の【軍事力】の在り方も、この数年で劇的に変わっていた。
日本は世界で唯一の被爆国で、第二次世界大戦での過ちを繰り返さないために戦争の参加を放棄した国であり、世界で唯一の戦争に参加しない国であった。
だからこそ、今までは軍隊ではなく、【自衛隊】という、自衛隊法第三条一項により
「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」
組織を結成し、我が国への侵略行為に備えると共に、人命救助などの人災・災害派遣や国連PKOへの派遣などの国際平和協力活動を副次的任務とした、あくまでも『防衛』『救助』としての『力』しか持つ事は無かった。
しかし、二XXX年。
国際情勢が悪化し、世界の至る所で紛争やテロ活動が過激化する中、それらに対処しようとすれば、多額の費用や人員を要する事となる。
その為、世界のリーダーシップを取り続けていたA合衆国も、R連邦国も、CH共産国等の国際的連盟国も、かなりの負担を負い、自国の内部情勢の悪化と混乱を招く恐れがあった。
いや。
昔は『軍需景気』『戦争が齎す経済』などと言われていた時代もあったが、今では各国で同じような兵器が開発され、兵器の輸出というメリットはない。
兵士に関しても、訓練だけで紛争地域に派遣される軍隊よりも、紛争地域で実際に実践している兵士の方が優れているに決まっており、敵地に派遣したとしても、ただ、 国際連盟国軍の被害が広がるばかり。
実際、世界の秩序を守る『連盟国』各国は多額の赤字を抱え、そして、内部情勢も殺伐としたものとなってきていた。
だからこそ、未だ小さな巨人と言われ、経済大国として君臨する「日本」に白羽の矢が向けられた。
【国際法】の名において。
数年前、それまでの憲法九条の解釈を変更し、集団的自衛権――要するに、「「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」を行使できるようになっていた。
だが、今回、世界が日本に求めていたものは、その更に上をいく。
とうとう、日本は憲法第九条の改正と共に、【自衛隊】は【日本国防軍】と名を変えた。
基本的な任務は変わらない。
しかしだ。
国際連盟国軍としての参加が追加された。
それは、人命救助だけでなく【軍】として、各国の紛争やテロ活動に対して、鎮圧、武力行動を行う為に海外派遣が可能となった。
勿論、その事によって、日本自体も他国から報復される恐れもあるので、国が攻撃された場合、堂々と敵の軍事力を破壊する武力を持つ事も当然の権利としてもたらされていた。
だからこそ、あのニュースが気になる。
S共和国とI国の領土問題・宗教問題の紛争であったものが、徐々に変わりつつある。
それは、この日本にも関わってくる事なのだ。
テレビでは、午前中の中途半端な時間のせいか、地元のグルメや、流行り物などを紹介する情報番組が殆どであり、ニュースはやっていなかった。
「……くだんねー……」
そう悪態つきながら、ペットボトルから液体を喉へと流し込む。
シュワシュワっと弾ける感覚が心地いい。
「母さん、あのニュース気になんねぇのかな?」
ふと、思う疑問。
実は、俺には年の離れた兄貴がいる。
名前は直也。
年は二十五歳。
これがまた頭のいい奴で、小さな頃から“神童”と呼ばれていたらしい。
勿論、自分はどちらかというと勉強よりも運動。
年も離れ、性格も全く違うタイプのせいか、遊んだり話したりした記憶が殆ど無い。
しかも高校からアメリカに留学した兄貴は、飛び級制度を利用し、二十歳にして、特待生で某名門大学大学院を卒業。
化学・生物の博士号を取得となれば、正直どんな会話をすればいいのかも分らない。
そんな兄貴は、政府の研究機関……しかも、軍事関係の研究機関で働いている。
あちこち海外出張も多く、殆ど家には帰って来る事は無かったが、昨年、ブラジルから帰国してからは、ずっと、どこにあるかも分からない軍事機密研究所にこもりっきり。
新兵器開発の為、情報管理をかなり徹底されているらしく、開発チームに携わっているメンバーは全員、研究所の敷地内から出る事すら許されない状況。
勿論、電話やメール等も禁止。
外部との接触を全て遮断されているのだ。
もし、この紛争に日本が関わる事があれば、もしかしたら、兄貴達の研究している兵器が実験として使われるんじゃないか?
今まで学んできた歴史から、俺はそう感じていた。
新しい兵器の開発の為に、戦地やテロへの報復は、都合のいい「実験」の場所となる。
それは、いつの時代も同じ。
そして、今回の紛争と、兄貴達の兵器の研究……タイミングがいい。
しかも、今回の【空爆】。
日本国防軍を派遣するには、もってこいの理由となる。
そこで、きっと何かが……
何となくだが俺の勘がそう告げる。
兄貴達が開発した兵器。
何か嫌な胸騒ぎがする。
そんな思いを振り払うかのように、一気にソファから立ち上がると、テレビのスイッチを切った。
“こんな予感、当たる訳がない”
真っ黒になった画面を見つめ、そう願った。
0
あなたにおすすめの小説
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる