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episode 4
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「克也」
たった数秒、自分の世界に入り込んでいただけだというのに、その声は、懐かしい響きで俺の鼓膜を震わせた。
その瞬間、ハッと、現実に意識が連れ戻され、顔を上げる。
心配と不安の入り混じったような瞳で、俺を見つめる二人。
洋一郎は、再び、俺に呼びかけた。
「克也」
「……なんだ?」
「アレは龍平ジィじゃない」
「……は?」
俺を元気づけようとしているのか?
じゃぁ、実際この目でハッキリと見た、あの映像をどう説明するんだ??
あまりにも無責任な洋一郎の言葉に、思わず苛立ちの声が漏れる。
だが、その声を聞かなかったかのように、静かに、洋一郎は言葉を続けた。
「正確に言えば、“肉体”は龍平ジィだが……“中身”は別のものなんじゃないかと思うんだ」
「「は?」」
あまりにも突拍子も無い言葉に、二人で同じような間抜面になりながら、思わず素っ頓狂な声を上げる。
こういう時、いつも大介とは息が合うっていうのも、微妙な若手芸人のコントのようで、どうなのかと思うが……
今は、そんな事を言っている場合ではない。
「どういう事だ?」
極めて冷静さを保ちながら言ったつもりだったが、少し声が上ずっているのが、自分でも分かる。
それだけ、この言葉の意図するところに、何かしらの希望。
そして、絶望。
そのどちらかを感じているのであろう。
こういう時は、大抵……“後者”である場合が多いのだが。
「これは、あくまでも、“仮定”だ。僕が勝手に想像している事であり、まだ、確証も何もない」
ゆっくりと。
まるで自分自身を落ち着けるかのように息を吐き、洋一郎は俺達に念押しした。
ゴクリ……
生唾が喉を下る音が部屋に響く。
「まずは。この映像データの入手先は『paraíso』のファイルからだ。さっきから、克也もブツブツ独り言を言っていたが、僕も、あの施設と日本国防軍は何等かの関係があると思う」
やはり……
あの施設で行われている『仕事』の一部に、軍事が絡んでいるのか?
俺の頭の中は、またもや、暴走しそうになるが、今は、まず、洋一郎の考えを聞く方が先だ。
そう言い聞かせながら、耳を傾けると、無情な言葉が流れ込む。
「しかも、かなりヤバい関係だ」
大介の顔は『ガーーーン!』と、大きな効果音がついたかのように、顔のパーツの全てが大きく開かれた。
いつもであれば、その、あまりのオーバーリアクションな顔芸(芸ではないのだが)にツッコミを入れるところだが、今の俺には、そんな余裕なんて無い。
「ヤバい関係?」
「あぁ」
俺がその部分に食いつく事を見越していたかのような、短い返事。
「あの施設では、勿論、介護を受けている老人もいるだろうし、自分がしている『仕事』が一体何なのかを聞かされなくても、何の疑問も抱かずに普通に過ごしている老人もいるだろう。それは、あくまでも“表向き”の楽園を創り上げる為に必要な事だ」
要するに“カモフラージュ”って事か。
じゃぁ、本当の目的は……?
「“モルモット”」
徐々に眉間に皺を寄せていく俺の顔を真っ直ぐに見ながら、ハッキリとその口で告げられた。
「大体……おかしいとは思わないか? あの施設……いくら広大な無人島を丸々一つ使っているとはいえ、七十歳以上の人間なんて、この日本の中にどれだけいると思っているんだ? しかも、毎年毎年……いや、毎日、必ず収容されていくんだぞ?」
その問い掛けから、少しずつパズルが組み合わさっていくものの、それを俺の頭が拒絶する。
「“誰か”が収容されるなら、“誰か”がそこから出なければ。島一つなんて、すぐに人間でキャパオーバーだ」
「そんな……」
淡々と語られる言葉に、とうとう大介の口から、悲痛な溜息が漏れる。
「あそこは軍事兵器の部品生産と、生物兵器の実験場なんじゃないかと、僕は睨んでる」
断言的なその物言いが、仮定ではなく事実なんじゃないかと、俺の中にあった希望の光が黒い闇に消されて行くような感覚に陥った。
しかし、そんな俺の様子を気にも留めず、独自の見解を話し続けていく。
「実際、島の周辺は海だけだ。何か就労をさせると言ったって、漁業や農業だけって訳にはいかない筈。勿論、そういった事をして、施設に住む人間の食事を賄っている部分もあるだろう。だが、これだけ大掛かりな施設を維持するには莫大な資金がいる。その資金を賄う為には……」
「何かしら生産して、販売する……」
「あぁ。しかも、『国』を相手にな……。事実、この施設は国が作り、国が全てを管理している。普通、高齢者に対して、そこまでする事に何かメリットがあると思うか?」
そうだ。
福祉の国、日本。
世界一の高齢化社会の平和な国。
豊かで、年配の人を敬う日本人。
そんなイメージばかりが先行し、こんな簡単な矛盾に気が付かなかった!
「この“誰にも知られない”“誰も出る事の出来ない”場所だからこそ、情報操作を簡単にする事が出来、そして、秘密裡に造れる。そう。国としても、どうしても、予算を割いてでも欲しい物……」
「軍事兵器か」
「あぁ」
「しかも、収容された高齢者は、施設での生活も何もかも外部に漏れないとなれば……」
「ちょ! 待ってよ! それって!」
「人体実験」
全てのパーツが組み合わさったかのように、俺達3人の思考も一致した瞬間、それが、俺の微かな希望すら打ち消す真っ暗な闇となる答えでもあった。
たった数秒、自分の世界に入り込んでいただけだというのに、その声は、懐かしい響きで俺の鼓膜を震わせた。
その瞬間、ハッと、現実に意識が連れ戻され、顔を上げる。
心配と不安の入り混じったような瞳で、俺を見つめる二人。
洋一郎は、再び、俺に呼びかけた。
「克也」
「……なんだ?」
「アレは龍平ジィじゃない」
「……は?」
俺を元気づけようとしているのか?
じゃぁ、実際この目でハッキリと見た、あの映像をどう説明するんだ??
あまりにも無責任な洋一郎の言葉に、思わず苛立ちの声が漏れる。
だが、その声を聞かなかったかのように、静かに、洋一郎は言葉を続けた。
「正確に言えば、“肉体”は龍平ジィだが……“中身”は別のものなんじゃないかと思うんだ」
「「は?」」
あまりにも突拍子も無い言葉に、二人で同じような間抜面になりながら、思わず素っ頓狂な声を上げる。
こういう時、いつも大介とは息が合うっていうのも、微妙な若手芸人のコントのようで、どうなのかと思うが……
今は、そんな事を言っている場合ではない。
「どういう事だ?」
極めて冷静さを保ちながら言ったつもりだったが、少し声が上ずっているのが、自分でも分かる。
それだけ、この言葉の意図するところに、何かしらの希望。
そして、絶望。
そのどちらかを感じているのであろう。
こういう時は、大抵……“後者”である場合が多いのだが。
「これは、あくまでも、“仮定”だ。僕が勝手に想像している事であり、まだ、確証も何もない」
ゆっくりと。
まるで自分自身を落ち着けるかのように息を吐き、洋一郎は俺達に念押しした。
ゴクリ……
生唾が喉を下る音が部屋に響く。
「まずは。この映像データの入手先は『paraíso』のファイルからだ。さっきから、克也もブツブツ独り言を言っていたが、僕も、あの施設と日本国防軍は何等かの関係があると思う」
やはり……
あの施設で行われている『仕事』の一部に、軍事が絡んでいるのか?
俺の頭の中は、またもや、暴走しそうになるが、今は、まず、洋一郎の考えを聞く方が先だ。
そう言い聞かせながら、耳を傾けると、無情な言葉が流れ込む。
「しかも、かなりヤバい関係だ」
大介の顔は『ガーーーン!』と、大きな効果音がついたかのように、顔のパーツの全てが大きく開かれた。
いつもであれば、その、あまりのオーバーリアクションな顔芸(芸ではないのだが)にツッコミを入れるところだが、今の俺には、そんな余裕なんて無い。
「ヤバい関係?」
「あぁ」
俺がその部分に食いつく事を見越していたかのような、短い返事。
「あの施設では、勿論、介護を受けている老人もいるだろうし、自分がしている『仕事』が一体何なのかを聞かされなくても、何の疑問も抱かずに普通に過ごしている老人もいるだろう。それは、あくまでも“表向き”の楽園を創り上げる為に必要な事だ」
要するに“カモフラージュ”って事か。
じゃぁ、本当の目的は……?
「“モルモット”」
徐々に眉間に皺を寄せていく俺の顔を真っ直ぐに見ながら、ハッキリとその口で告げられた。
「大体……おかしいとは思わないか? あの施設……いくら広大な無人島を丸々一つ使っているとはいえ、七十歳以上の人間なんて、この日本の中にどれだけいると思っているんだ? しかも、毎年毎年……いや、毎日、必ず収容されていくんだぞ?」
その問い掛けから、少しずつパズルが組み合わさっていくものの、それを俺の頭が拒絶する。
「“誰か”が収容されるなら、“誰か”がそこから出なければ。島一つなんて、すぐに人間でキャパオーバーだ」
「そんな……」
淡々と語られる言葉に、とうとう大介の口から、悲痛な溜息が漏れる。
「あそこは軍事兵器の部品生産と、生物兵器の実験場なんじゃないかと、僕は睨んでる」
断言的なその物言いが、仮定ではなく事実なんじゃないかと、俺の中にあった希望の光が黒い闇に消されて行くような感覚に陥った。
しかし、そんな俺の様子を気にも留めず、独自の見解を話し続けていく。
「実際、島の周辺は海だけだ。何か就労をさせると言ったって、漁業や農業だけって訳にはいかない筈。勿論、そういった事をして、施設に住む人間の食事を賄っている部分もあるだろう。だが、これだけ大掛かりな施設を維持するには莫大な資金がいる。その資金を賄う為には……」
「何かしら生産して、販売する……」
「あぁ。しかも、『国』を相手にな……。事実、この施設は国が作り、国が全てを管理している。普通、高齢者に対して、そこまでする事に何かメリットがあると思うか?」
そうだ。
福祉の国、日本。
世界一の高齢化社会の平和な国。
豊かで、年配の人を敬う日本人。
そんなイメージばかりが先行し、こんな簡単な矛盾に気が付かなかった!
「この“誰にも知られない”“誰も出る事の出来ない”場所だからこそ、情報操作を簡単にする事が出来、そして、秘密裡に造れる。そう。国としても、どうしても、予算を割いてでも欲しい物……」
「軍事兵器か」
「あぁ」
「しかも、収容された高齢者は、施設での生活も何もかも外部に漏れないとなれば……」
「ちょ! 待ってよ! それって!」
「人体実験」
全てのパーツが組み合わさったかのように、俺達3人の思考も一致した瞬間、それが、俺の微かな希望すら打ち消す真っ暗な闇となる答えでもあった。
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