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episode 22
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「寄生虫っ?」
「やっぱり!」
「うげぇぇぇぇぇっ」
「だから、松山は汚いっ!」
食事の後、第五ミーティングルームに集まった俺達は、まず、飛行場でウィルスに感染されたと言われていた兵士達が、実際には軍事機密研究所で開発された生物兵器の実験台であろうことを伝えた。
脳に寄生し、宿主をコントロールする寄生虫。
それがこの島で研究し開発された生物兵器の正体。
手帳を見せながら説明すると、食後すぐということもあってか、松山さんがえづいた。
この人は、第一印象こそマトモだったが、本当にヘタれだ。
いいや、こういう反応こそがマトモなのかもしれないけれど、ある程度の情報を持って、この島に来たのだから、もう少し、しっかりして欲しいものだ。
ツッコミを入れている女性陣の方が、タフで頼りになるっていうのもどうかと思う。
「ん? ちょっと、ダイちゃん、アンタやっぱりって言った?」
誰に対しても愛称をつけて呼ぶ自由奔放でフレンドリーな晴香さん。
『paraíso』計画についての爆弾発言投下でざわめく中、「ほらね」といった感じで、さほど驚きを示さない大介の発言にすかさず食いつく。
どんな小さな情報も聞き逃さない彼女は、やっぱりそんじょそこらの一般人とは違うと改めて思う。
彼女の発言に、夫婦漫才さながらなコントを繰り広げる米澤さんと松山さんもピタリと静まる。
「うん。言ったよ。だって、飛行場のオッサン達。どう考えても異常だったでしょ?」
夕食についた一口ゼリーを口に放り込み、もぐもぐと口を動かしながら、当たり前のように言う大介。
「ちょ、ちょっと! それ、どういう事?」
「大介。食べるか喋るかどっちかにしろよ。行儀悪いぞ」
「はぁ~い」
飛び掛かるような勢いの米澤さんと、同時に俺が大介のマナーを注意してしまったものだから、彼女の質問を華麗にスルーしてしまったような感じになってしまった。
テーブルに身を乗り出したまんま固まっている彼女の姿に皆の視線が集まる。
「え、あ、う……うぅ。コホンッ」
どうでもいいことで注目を浴びたせいで、居心地悪そうに目を彷徨わせた後、気持ちを切り替えるように咳払いをして、表情を引き締めた。
「で、代々木君。飛行場にいた感染者達が異常なのは、誰の目から見ても明らかだったわ。あれはまるで映画で見るゾンビそのものだもの。でも、彼らがこの手帳に書かれてある軍事機密研究所で開発された、新種の寄生虫に寄生されたという点については、私はまだ信じられない」
彼女の目は真剣そのもの。
手帳も見せ、尚且つ、俺や鶴岡さんの口から話しを聞いても、彼女はあの化け物じみた兵士達が、『paraíso』計画の実験台だとは信じられないという。
その理由は何か?
答えは、直ぐに彼女の口から聞かされた。
「私達は政府というよりも、ある情報筋から『島で伝染病が発生した』と聞いていた。政府からは、その伝染病が沈静した後、私達に『島は安全で、何の被害もない』事をアピールして欲しいと依頼してきたのよ? 情報筋と政府共に『伝染病』と言っている。この事は、日野浦さんの言う『ウィルス感染』と一致するわ」
彼女としては、寄生虫を使った生物兵器に関しては否定するつもりはないが、飛行場にいた常軌を逸した兵士達については、ウィルス感染者なのではないかと言いたいようだ。
彼女の力説は更に続く。
「あんな危険な生物兵器の実験台をウロウロさせていたら、私達が何を報道するか分からないでしょう? 政府がそんな馬鹿なことすると思う? とは言っても、アレがウィルス感染者ならウィルス感染者で、伝染病も沈静化していなかったことになるんだから、日本国民どころか、全世界に新型ウィルスの脅威と猛威を発表することになってしまうけどね」
流石は報道関係者。
理路整然と意見を述べる。
「だいたい、日野浦空将がわざわざ嘘をつく必要性があるかしら? 研究所に私達を連れて行けば、下手したら、軍事機密である生物兵器の研究まで辿り着いてしまうかもしれない。そんな危険を冒してまで、ウィルス感染の症状を抑える薬があるなんていう嘘をついて、研究所まで一緒に来いだなんて言うかしら?」
そこで俺はハッとした。
彼女も冷静なようで、混乱している。
理論的でいて、矛盾ばかりが含まれている。
彼女の話の通り、『paraíso』計画は表面上、高齢化社会問題対策の計画。
島で研究開発している生物兵器云々は隠したい。
だとすれば、島での伝染病発症事件というのは、政府が作り上げたガセネタという風には考えられないだろうか?
これは仮定だが、もしも。
もしも仮に、研究所から生物兵器の実験台にされた人間が逃げ出したとしたら?
島に連れて来られた高齢者達は、ここで何が行われているか何も知らない。
平和でのんびりと暮らしている彼らの目の前に、飛行場で見たような、おぞましい化け物が現れたら?
もしも、その化け物に噛まれた人が、同じような状態になったら?
安全・安心がウリの老後の楽園が阿鼻叫喚の巷と化すだろう。
軍人達が脱走した生物兵器を捕獲し、処分したとしても、島民の不安と疑惑は晴れない。
外部には、そんな騒ぎがあったことなどバレる心配は一切ないが、島民が命の危機を感じ、不信感を増していけば、意地でも島から脱出しようとする者達や、相手が武装した国防軍であろうと歯向かう者達が出て来るだろう。
そうなれば島内は混乱を極め、軍事兵器を開発するどころの騒ぎではない。
むしろ、真の『paraíso』計画である軍事機密研究所で行われている、非人道的な生物兵器の開発が明るみに出てしまう可能性だってでてくる。
騒ぎを鎮静化させ、今後も彼らを有効的に実験台に使用するには、政府に対して絶対的な信用を持たせることと、島の治安を維持するよう対処しなくてはならなくなった。
じゃぁ、どうする?
狂犬病さながらに荒ぶる行動を取る、得体の知れない感染者を、新種のウィルスによる伝染病だと政府は発表し、すぐさまワクチンを島民に打つ。
既に感染してしまった人間に関しては、武装した国防軍によって捕獲され、『治療』という名の研究材料、もしくは殺処分されたのかもしれない。
そうやって、島内の環境が整ったところで、何事も無かったかのように、平穏な島をアピールさせる為に報道関係者を呼び寄せた。
そのように考えた方がしっくりくるんじゃないのか?
だが、収束したかに見えていた生物兵器逃亡事件も、見えないところで、その火種はくすぶっていた。
研究者達が生み出したのは寄生虫だ。
いくら寄生された宿主全員を保護して、島民の目の見えないところに隔離したとしても、寄生していた小さな虫、それを全て回収し処理出来たかと問えば、どうであろうか?
宿主ごと特殊な袋に密封されたとしても。
想像もしたくないが、宿主ごと焼き殺したとしても。
僅かな隙間。
僅かな隙をついて、小さな虫が逃げ出さないとは誰が言いきれる?
だとするならば、日野浦さんの『嘘』だって辻褄が合う。
彼は政府側の人間。
この島で人間を使った生物兵器を開発しているだなんてことは、絶対に知られてはならない。
だから、ウィルス感染だと強調した。
研究所があることも、優秀な研究員がここにいることも。
そして、自分自身がワクチンの人体実験の被験者となっていると話すことで、俺達の疑惑を少しでも軽くしようとしたのではないか?
では、研究所についてはどう説明する?
タカシさんが感染してしまった以上、日野浦さんの言う『薬』とやらが、嘘か本当かは分からなくても、ほんの少しでも可能性があるのなら、仲間を救う為に危険を覚悟で誰かは必ずついてくると睨んでいただろう。
島に到着した途端に災難に見舞われ、島の内部で何が起きているのか不信感を抱いている俺達に、表面上の研究内容や、研究施設の役割を説明し、クリーンなイメージを植え付けようという魂胆か?
その程度のことであれば、島に来た人間全員を研究所に連れて行こうとは思わないだろう。
そうだ!
思い出した!
あの時、日野浦さんは、本郷さんや洋一郎の質問に全て答えたと思っていたが、それは違う。
一つ答えていないじゃないか。
俺達が乗ったヘリの着陸許可を出したのは、管制塔にいた彼だ。
飛行場で待機していた兵士やマーシャラーがあのような状態だったから、中々着陸許可を出さなかったとはいえ、結局は許可を出した。
ヘリの燃料の関係上、本土に引き返せという指令が出来なかったかもしれない。
けれど、彼の立場は日本国防軍の空将。
政府から依頼されてやってきた俺達を危険に晒す事は許されないだろうし、絶対に見せてはならないモノが飛行場にはいたのだ。
普通に考えても、着陸許可をギリギリまで引き延ばし、島の中にいる他の部隊に連絡を取って、俺達と鉢合わせさせないよう、あの感染者達をどうにかすることの方が先だった筈。
それをせずに着陸許可をした理由を、彼は答えていない。
彼は何を考えていたのか?
他の部隊を呼べない理由でもあったのか?
ただ悪戯に危険な目に遭わせたかっただけ?
いやいや。
そんな馬鹿な事するわけがない。
じゃあ、邪魔者は消せって思ったのか?
それもNOだ。
俺達が邪魔な存在だというのであれば、あんなタイミングよく助けに現れたりもしないだろう。
じゃあ、なんでだ?
逆に、考えろ。
彼にとって俺達が必要だった?
……そうか!
そうだよ。
彼はあんなにも必死になって、俺達全員を研究所とやらに一緒に連れて行こうとしていたじゃないか。
鶴岡さんが意見を出しても、やけにしつこく粘った。
あの凄惨な事件を目の当りにし、大事な仲間までもが感染したという状況を作り上げ、どうしても研究所に一緒について行かなければならないような場面を作り出したのは、彼じゃないのか?
では、研究所に何があるっていうんだ?
訳が分からない。
頭をグシャグシャと両手で掻き毟り、こんな時こそ、冷静な判断が出来る洋一郎がいてくれたらと思ってしまう。
洋一郎――――あぁっ!
俺の無二の親友。
彼の顔が脳裏を横切ると同時に、大事なことを思い出したのだった。
「やっぱり!」
「うげぇぇぇぇぇっ」
「だから、松山は汚いっ!」
食事の後、第五ミーティングルームに集まった俺達は、まず、飛行場でウィルスに感染されたと言われていた兵士達が、実際には軍事機密研究所で開発された生物兵器の実験台であろうことを伝えた。
脳に寄生し、宿主をコントロールする寄生虫。
それがこの島で研究し開発された生物兵器の正体。
手帳を見せながら説明すると、食後すぐということもあってか、松山さんがえづいた。
この人は、第一印象こそマトモだったが、本当にヘタれだ。
いいや、こういう反応こそがマトモなのかもしれないけれど、ある程度の情報を持って、この島に来たのだから、もう少し、しっかりして欲しいものだ。
ツッコミを入れている女性陣の方が、タフで頼りになるっていうのもどうかと思う。
「ん? ちょっと、ダイちゃん、アンタやっぱりって言った?」
誰に対しても愛称をつけて呼ぶ自由奔放でフレンドリーな晴香さん。
『paraíso』計画についての爆弾発言投下でざわめく中、「ほらね」といった感じで、さほど驚きを示さない大介の発言にすかさず食いつく。
どんな小さな情報も聞き逃さない彼女は、やっぱりそんじょそこらの一般人とは違うと改めて思う。
彼女の発言に、夫婦漫才さながらなコントを繰り広げる米澤さんと松山さんもピタリと静まる。
「うん。言ったよ。だって、飛行場のオッサン達。どう考えても異常だったでしょ?」
夕食についた一口ゼリーを口に放り込み、もぐもぐと口を動かしながら、当たり前のように言う大介。
「ちょ、ちょっと! それ、どういう事?」
「大介。食べるか喋るかどっちかにしろよ。行儀悪いぞ」
「はぁ~い」
飛び掛かるような勢いの米澤さんと、同時に俺が大介のマナーを注意してしまったものだから、彼女の質問を華麗にスルーしてしまったような感じになってしまった。
テーブルに身を乗り出したまんま固まっている彼女の姿に皆の視線が集まる。
「え、あ、う……うぅ。コホンッ」
どうでもいいことで注目を浴びたせいで、居心地悪そうに目を彷徨わせた後、気持ちを切り替えるように咳払いをして、表情を引き締めた。
「で、代々木君。飛行場にいた感染者達が異常なのは、誰の目から見ても明らかだったわ。あれはまるで映画で見るゾンビそのものだもの。でも、彼らがこの手帳に書かれてある軍事機密研究所で開発された、新種の寄生虫に寄生されたという点については、私はまだ信じられない」
彼女の目は真剣そのもの。
手帳も見せ、尚且つ、俺や鶴岡さんの口から話しを聞いても、彼女はあの化け物じみた兵士達が、『paraíso』計画の実験台だとは信じられないという。
その理由は何か?
答えは、直ぐに彼女の口から聞かされた。
「私達は政府というよりも、ある情報筋から『島で伝染病が発生した』と聞いていた。政府からは、その伝染病が沈静した後、私達に『島は安全で、何の被害もない』事をアピールして欲しいと依頼してきたのよ? 情報筋と政府共に『伝染病』と言っている。この事は、日野浦さんの言う『ウィルス感染』と一致するわ」
彼女としては、寄生虫を使った生物兵器に関しては否定するつもりはないが、飛行場にいた常軌を逸した兵士達については、ウィルス感染者なのではないかと言いたいようだ。
彼女の力説は更に続く。
「あんな危険な生物兵器の実験台をウロウロさせていたら、私達が何を報道するか分からないでしょう? 政府がそんな馬鹿なことすると思う? とは言っても、アレがウィルス感染者ならウィルス感染者で、伝染病も沈静化していなかったことになるんだから、日本国民どころか、全世界に新型ウィルスの脅威と猛威を発表することになってしまうけどね」
流石は報道関係者。
理路整然と意見を述べる。
「だいたい、日野浦空将がわざわざ嘘をつく必要性があるかしら? 研究所に私達を連れて行けば、下手したら、軍事機密である生物兵器の研究まで辿り着いてしまうかもしれない。そんな危険を冒してまで、ウィルス感染の症状を抑える薬があるなんていう嘘をついて、研究所まで一緒に来いだなんて言うかしら?」
そこで俺はハッとした。
彼女も冷静なようで、混乱している。
理論的でいて、矛盾ばかりが含まれている。
彼女の話の通り、『paraíso』計画は表面上、高齢化社会問題対策の計画。
島で研究開発している生物兵器云々は隠したい。
だとすれば、島での伝染病発症事件というのは、政府が作り上げたガセネタという風には考えられないだろうか?
これは仮定だが、もしも。
もしも仮に、研究所から生物兵器の実験台にされた人間が逃げ出したとしたら?
島に連れて来られた高齢者達は、ここで何が行われているか何も知らない。
平和でのんびりと暮らしている彼らの目の前に、飛行場で見たような、おぞましい化け物が現れたら?
もしも、その化け物に噛まれた人が、同じような状態になったら?
安全・安心がウリの老後の楽園が阿鼻叫喚の巷と化すだろう。
軍人達が脱走した生物兵器を捕獲し、処分したとしても、島民の不安と疑惑は晴れない。
外部には、そんな騒ぎがあったことなどバレる心配は一切ないが、島民が命の危機を感じ、不信感を増していけば、意地でも島から脱出しようとする者達や、相手が武装した国防軍であろうと歯向かう者達が出て来るだろう。
そうなれば島内は混乱を極め、軍事兵器を開発するどころの騒ぎではない。
むしろ、真の『paraíso』計画である軍事機密研究所で行われている、非人道的な生物兵器の開発が明るみに出てしまう可能性だってでてくる。
騒ぎを鎮静化させ、今後も彼らを有効的に実験台に使用するには、政府に対して絶対的な信用を持たせることと、島の治安を維持するよう対処しなくてはならなくなった。
じゃぁ、どうする?
狂犬病さながらに荒ぶる行動を取る、得体の知れない感染者を、新種のウィルスによる伝染病だと政府は発表し、すぐさまワクチンを島民に打つ。
既に感染してしまった人間に関しては、武装した国防軍によって捕獲され、『治療』という名の研究材料、もしくは殺処分されたのかもしれない。
そうやって、島内の環境が整ったところで、何事も無かったかのように、平穏な島をアピールさせる為に報道関係者を呼び寄せた。
そのように考えた方がしっくりくるんじゃないのか?
だが、収束したかに見えていた生物兵器逃亡事件も、見えないところで、その火種はくすぶっていた。
研究者達が生み出したのは寄生虫だ。
いくら寄生された宿主全員を保護して、島民の目の見えないところに隔離したとしても、寄生していた小さな虫、それを全て回収し処理出来たかと問えば、どうであろうか?
宿主ごと特殊な袋に密封されたとしても。
想像もしたくないが、宿主ごと焼き殺したとしても。
僅かな隙間。
僅かな隙をついて、小さな虫が逃げ出さないとは誰が言いきれる?
だとするならば、日野浦さんの『嘘』だって辻褄が合う。
彼は政府側の人間。
この島で人間を使った生物兵器を開発しているだなんてことは、絶対に知られてはならない。
だから、ウィルス感染だと強調した。
研究所があることも、優秀な研究員がここにいることも。
そして、自分自身がワクチンの人体実験の被験者となっていると話すことで、俺達の疑惑を少しでも軽くしようとしたのではないか?
では、研究所についてはどう説明する?
タカシさんが感染してしまった以上、日野浦さんの言う『薬』とやらが、嘘か本当かは分からなくても、ほんの少しでも可能性があるのなら、仲間を救う為に危険を覚悟で誰かは必ずついてくると睨んでいただろう。
島に到着した途端に災難に見舞われ、島の内部で何が起きているのか不信感を抱いている俺達に、表面上の研究内容や、研究施設の役割を説明し、クリーンなイメージを植え付けようという魂胆か?
その程度のことであれば、島に来た人間全員を研究所に連れて行こうとは思わないだろう。
そうだ!
思い出した!
あの時、日野浦さんは、本郷さんや洋一郎の質問に全て答えたと思っていたが、それは違う。
一つ答えていないじゃないか。
俺達が乗ったヘリの着陸許可を出したのは、管制塔にいた彼だ。
飛行場で待機していた兵士やマーシャラーがあのような状態だったから、中々着陸許可を出さなかったとはいえ、結局は許可を出した。
ヘリの燃料の関係上、本土に引き返せという指令が出来なかったかもしれない。
けれど、彼の立場は日本国防軍の空将。
政府から依頼されてやってきた俺達を危険に晒す事は許されないだろうし、絶対に見せてはならないモノが飛行場にはいたのだ。
普通に考えても、着陸許可をギリギリまで引き延ばし、島の中にいる他の部隊に連絡を取って、俺達と鉢合わせさせないよう、あの感染者達をどうにかすることの方が先だった筈。
それをせずに着陸許可をした理由を、彼は答えていない。
彼は何を考えていたのか?
他の部隊を呼べない理由でもあったのか?
ただ悪戯に危険な目に遭わせたかっただけ?
いやいや。
そんな馬鹿な事するわけがない。
じゃあ、邪魔者は消せって思ったのか?
それもNOだ。
俺達が邪魔な存在だというのであれば、あんなタイミングよく助けに現れたりもしないだろう。
じゃあ、なんでだ?
逆に、考えろ。
彼にとって俺達が必要だった?
……そうか!
そうだよ。
彼はあんなにも必死になって、俺達全員を研究所とやらに一緒に連れて行こうとしていたじゃないか。
鶴岡さんが意見を出しても、やけにしつこく粘った。
あの凄惨な事件を目の当りにし、大事な仲間までもが感染したという状況を作り上げ、どうしても研究所に一緒について行かなければならないような場面を作り出したのは、彼じゃないのか?
では、研究所に何があるっていうんだ?
訳が分からない。
頭をグシャグシャと両手で掻き毟り、こんな時こそ、冷静な判断が出来る洋一郎がいてくれたらと思ってしまう。
洋一郎――――あぁっ!
俺の無二の親友。
彼の顔が脳裏を横切ると同時に、大事なことを思い出したのだった。
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