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episode 24
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今朝早く。
俺と大介がようやく眠りについた明け方頃、本郷さん達から無線連絡が来たらしい。
昨夜、タブレットに表示された地図は、俺達が無線機の存在を思い出す前に、向こうからこちらに無線連絡をしてくれていたのだが、誰も出なかった。
その後、彼らも無線に出られない状態になる為、せめて位置情報だけでもと思い、咄嗟の判断で送ったものだったそうだ。
兎に角無事でよかったと安心出来ただけでなく、彼らから齎された情報は、展開も急ならば、驚くべきことばかりであった。
こんなことなら、怪しくて胡散臭いと思っていても、日野浦さんと行動すべきだったと悔やむほど、俺にとっては一番重要な話しまで飛び込んで来たのだ。
「じいちゃんと一緒にいるってぇっ?」
開口一番に叫んだ言葉が、まさにコレ。
俺達以外というよりも、まさかこの島の内部の人間。
しかも、国家の元で働いている国防軍の人間達の一部までもが、『paraíso』の真の目的を知り、政府にも、この計画にも反発して、反逆軍を結成している事にもびっくりしたが、その彼らのリーダーとなっているのが、俺の祖父だというのだから、吃驚仰天するのは当然のこと。
考えてもみてくれ。
生物兵器の実験台にされたことは間違いない祖父が、仲間達を助けた上で軍事機密研究所を破壊し、『paraíso』計画そのものを消滅させようとしているんだぞ?
ということはだ。
祖父に寄生させた、生物兵器として完成させた寄生虫はどうなったんだ?
何等かの処置をされて、祖父の頭から取り除かれたのか?
だとしたら、俺は祖父と会い、祖父と共に戦い、祖父を家に連れて帰る。
選択肢はその一択だ。
ギュッと拳に力を入れた時、ふと、頭に過ったのは、実家にある俺の部屋で、大介と洋一郎と一緒に見た、あの紛争地域の映像。
そういえば。
あの時、絶対にあり得ないような惨たらしい映像を見た。
飛行場での惨事のように、人が人を喰らう瞬間。
あれこそが政府が兄に……いいや、軍事機密研究所に造らせた新種の寄生虫による行動だとすれば、あそこに映った、同じく生物兵器の実験台となっていた祖父の、理知的さの欠如がない冷静な態度。
同じ寄生虫に脳を支配されているというのに、この差は何なんだ?
今更こんな重要な事を思い出すなんて、俺も馬鹿だ。
きっと、手帳や大介の話を聞いた時点で、洋一郎であればすぐに気が付いただろう。
ん?
まてよ。
しまった!
「鶴岡さんっ! 本郷さん達には、手帳に書かれている事は?」
飛び上がるようにして大声を出すと、他の皆と今後の行動について話し合っている中、名前を呼ばれた本人が振り返った。
「簡潔にではあるけど伝えてあるよ」
報告・連絡・相談。
きっちりかっちり縦社会の中で働いている人だけある。
先に、あんだけインパクトのある話しをされては、普通ならこっちが得た情報を言い忘れるところなのに、その辺も抜かりない。
「それで、本郷さんや洋一郎は何て言ってました?」
この質問に、キョトンとした顏をする鶴岡さん。
「え? あぁ。日野浦空将の言うことは怪しいとはいえ、流石に飛行場にいた兵士達のウィルス感染については、嘘じゃないと思っていたみたいでね。研究所で開発されているものが新型の寄生虫。しかも人の脳を支配するものだという話しをしたら、びっくりしていたよ」
「それで?」
驚くのは分かっている。
問題はその先。
俺の祖父。
反逆軍のリーダーとして指揮を執っている彼に、既にその新種の寄生虫が施されていたという話しをした後の洋一郎の反応だ。
先を促された鶴岡さんは、「それでって?」と、質問を被せてきたものの、直ぐに、こちらが何について深く追求しているのか気が付いたらしく、「あぁっ」と、声を漏らした。
「勿論。君のお兄さんの手帳の事。私の妹が研究所にいる事も話したよ。だから、研究所を破壊する前に私の――」
「その事じゃないです。俺の祖父が既に生物兵器として実験台にされたっていうことも話したんでしょう? それを聞いた洋一郎の反応が聞きたかったんですよ」
研究所には、いくら政府の言いなりになっているとはいえ、生身の人間が沢山いる。
その中には、鶴岡さんの妹さんもいるのだから、当然、彼の一番の関心事と言えば、自分の肉親の安全だということは分かる。
俺だってそうだ。
けれど、昨夜、彼の口から告げられたんだ。
残酷なまでの現実。
祖父はもう、生物兵器と化していると。
その彼が反逆軍のリーダーとなっている時点で、不思議に思うのが普通じゃないのか?
それとも、あまりにも急展開すぎて、大事な情報もぶっ飛んじまったってことか?
苛立ちのあまり、大きな声を出してしまったせいで、あーでもない、こーでもないとか。
手助けに行こう、いいや先に脱出しようと、話し合いをしていた皆の騒めきがピタリと止む。
「え? 上田龍平さんまでもが研究の生贄に?」
「ちょっ! オレ、それ聞いてねぇよっ」
「はぁ? 寄生虫を仕込まれた人間は飛行場の奴らみたいに、化け物になってしまうんじゃないのか?」
口々に驚きの声が上がる。
そうだった。
彼らにも、手帳、研究所での生物兵器開発内容、日野浦さんの嘘。
そういった話しはしたが、兄貴が独房に監禁され、兄貴が兄貴じゃなくなっている……この件に関しては、俺にも鶴岡さんにも情報が無いからこれ以上のことは分からないが、兄貴の事も、祖父の事も、それに、今言った鶴岡さんの妹さんの事だって、話をした記憶は――――全くない。
色々な意見が出て、それに受け答えて。
そうしていくうちに新たな考えが生まれ、それについて話し合い。
そんな事を繰り返しているうちに、言わなければならない部分までも言い忘れていた。
俺と大介がようやく眠りについた明け方頃、本郷さん達から無線連絡が来たらしい。
昨夜、タブレットに表示された地図は、俺達が無線機の存在を思い出す前に、向こうからこちらに無線連絡をしてくれていたのだが、誰も出なかった。
その後、彼らも無線に出られない状態になる為、せめて位置情報だけでもと思い、咄嗟の判断で送ったものだったそうだ。
兎に角無事でよかったと安心出来ただけでなく、彼らから齎された情報は、展開も急ならば、驚くべきことばかりであった。
こんなことなら、怪しくて胡散臭いと思っていても、日野浦さんと行動すべきだったと悔やむほど、俺にとっては一番重要な話しまで飛び込んで来たのだ。
「じいちゃんと一緒にいるってぇっ?」
開口一番に叫んだ言葉が、まさにコレ。
俺達以外というよりも、まさかこの島の内部の人間。
しかも、国家の元で働いている国防軍の人間達の一部までもが、『paraíso』の真の目的を知り、政府にも、この計画にも反発して、反逆軍を結成している事にもびっくりしたが、その彼らのリーダーとなっているのが、俺の祖父だというのだから、吃驚仰天するのは当然のこと。
考えてもみてくれ。
生物兵器の実験台にされたことは間違いない祖父が、仲間達を助けた上で軍事機密研究所を破壊し、『paraíso』計画そのものを消滅させようとしているんだぞ?
ということはだ。
祖父に寄生させた、生物兵器として完成させた寄生虫はどうなったんだ?
何等かの処置をされて、祖父の頭から取り除かれたのか?
だとしたら、俺は祖父と会い、祖父と共に戦い、祖父を家に連れて帰る。
選択肢はその一択だ。
ギュッと拳に力を入れた時、ふと、頭に過ったのは、実家にある俺の部屋で、大介と洋一郎と一緒に見た、あの紛争地域の映像。
そういえば。
あの時、絶対にあり得ないような惨たらしい映像を見た。
飛行場での惨事のように、人が人を喰らう瞬間。
あれこそが政府が兄に……いいや、軍事機密研究所に造らせた新種の寄生虫による行動だとすれば、あそこに映った、同じく生物兵器の実験台となっていた祖父の、理知的さの欠如がない冷静な態度。
同じ寄生虫に脳を支配されているというのに、この差は何なんだ?
今更こんな重要な事を思い出すなんて、俺も馬鹿だ。
きっと、手帳や大介の話を聞いた時点で、洋一郎であればすぐに気が付いただろう。
ん?
まてよ。
しまった!
「鶴岡さんっ! 本郷さん達には、手帳に書かれている事は?」
飛び上がるようにして大声を出すと、他の皆と今後の行動について話し合っている中、名前を呼ばれた本人が振り返った。
「簡潔にではあるけど伝えてあるよ」
報告・連絡・相談。
きっちりかっちり縦社会の中で働いている人だけある。
先に、あんだけインパクトのある話しをされては、普通ならこっちが得た情報を言い忘れるところなのに、その辺も抜かりない。
「それで、本郷さんや洋一郎は何て言ってました?」
この質問に、キョトンとした顏をする鶴岡さん。
「え? あぁ。日野浦空将の言うことは怪しいとはいえ、流石に飛行場にいた兵士達のウィルス感染については、嘘じゃないと思っていたみたいでね。研究所で開発されているものが新型の寄生虫。しかも人の脳を支配するものだという話しをしたら、びっくりしていたよ」
「それで?」
驚くのは分かっている。
問題はその先。
俺の祖父。
反逆軍のリーダーとして指揮を執っている彼に、既にその新種の寄生虫が施されていたという話しをした後の洋一郎の反応だ。
先を促された鶴岡さんは、「それでって?」と、質問を被せてきたものの、直ぐに、こちらが何について深く追求しているのか気が付いたらしく、「あぁっ」と、声を漏らした。
「勿論。君のお兄さんの手帳の事。私の妹が研究所にいる事も話したよ。だから、研究所を破壊する前に私の――」
「その事じゃないです。俺の祖父が既に生物兵器として実験台にされたっていうことも話したんでしょう? それを聞いた洋一郎の反応が聞きたかったんですよ」
研究所には、いくら政府の言いなりになっているとはいえ、生身の人間が沢山いる。
その中には、鶴岡さんの妹さんもいるのだから、当然、彼の一番の関心事と言えば、自分の肉親の安全だということは分かる。
俺だってそうだ。
けれど、昨夜、彼の口から告げられたんだ。
残酷なまでの現実。
祖父はもう、生物兵器と化していると。
その彼が反逆軍のリーダーとなっている時点で、不思議に思うのが普通じゃないのか?
それとも、あまりにも急展開すぎて、大事な情報もぶっ飛んじまったってことか?
苛立ちのあまり、大きな声を出してしまったせいで、あーでもない、こーでもないとか。
手助けに行こう、いいや先に脱出しようと、話し合いをしていた皆の騒めきがピタリと止む。
「え? 上田龍平さんまでもが研究の生贄に?」
「ちょっ! オレ、それ聞いてねぇよっ」
「はぁ? 寄生虫を仕込まれた人間は飛行場の奴らみたいに、化け物になってしまうんじゃないのか?」
口々に驚きの声が上がる。
そうだった。
彼らにも、手帳、研究所での生物兵器開発内容、日野浦さんの嘘。
そういった話しはしたが、兄貴が独房に監禁され、兄貴が兄貴じゃなくなっている……この件に関しては、俺にも鶴岡さんにも情報が無いからこれ以上のことは分からないが、兄貴の事も、祖父の事も、それに、今言った鶴岡さんの妹さんの事だって、話をした記憶は――――全くない。
色々な意見が出て、それに受け答えて。
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そんな事を繰り返しているうちに、言わなければならない部分までも言い忘れていた。
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