Parasite

壽帝旻 錦候

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episode 24

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「あっちゃぁ~。マズった」

 片手で額を覆い天井を仰ぐと、大介が頬を膨らませて隣に腰掛けた。

「マズったじゃないよぉ~! なんで、そんな大事な話しをし忘れちゃうわけぇ?」
「いや。まじでスマン」

 両手を合わせて、片目を瞑ると、そんな事では誤魔化されない大介は悪態をつく。

「ったく。オレもさぁ~、昨日。自分が寄生虫だって言いだしたものの……あ、勿論、直也さんの手帳にも書いてあるのだから、寄生虫で間違いないんだけどさぁ。少し気になる部分があったんだよね」
「気になる部分?」

 フグのようにパンパンに膨らませた頬を萎ませたかと思えば、お次は、タコのように唇を尖らせた大介の口から飛び出した気になる言葉。
 そこに食いついてやれば、「よくぞ聞いてくれました」というような顏をして、堰を切ったように次から次へと気になった部分から導き出した自分なりの考えを話し出した。

 彼の話の内容はこういうものだった。

 手帳に書かれてあった、アマゾンの奥地で発見した寄生虫に脳を乗っ取られたウアカリ。
 彼らの行動から感じたのは、寄生虫というよりも、もっと別のものに洗脳されているのではないかということ。

 女王が君臨し、その女王の為にそれぞれが役割分担して生活する社会性。
 兵士もいれば、食料調達部隊に、大工部隊。
 子守りもいれば、見張り役もいる。
 全ては女王を守る為という一つの目的の為に統制がとれた集団。
 通常の寄生虫であれば、その寄生している虫だけの為に行動するものなのだが、彼ら……いいや、彼らに寄生しているモノ達は、自分達の女王の為に甲斐甲斐しく世話をする。

 これらから導き出される答えというのが、蟻や蜂だというのだ。

「で、蟻や蜂のようなものが寄生していたらどうだっていうんだ?」

 役割分担がしっかりなされている寄生虫だと言われても、だからどうした? というのが、正直な俺の感想。
 周りの皆だって、熱く語る大介の顏をポカンとして見つめているだけだ。
 そんな俺達の様子に、あからさまに落胆し、「なんで分からないかなぁ?」とボヤく。

「いい? 皆は知らないかもしれないけれど、蟻って、集団行動をする時には、きちんとリーダーが存在するんだよ」

 得意分野だけに、大介の目がキラキラと子供のように輝く。

「リーダーは別に誰かから推薦されたり、女王に任命されたりするわけでもないんだけどね。ただ、必要な情報や知識を豊富に持って、的確な指令が出せるモノが、自らリーダーを買って出るっていうところまで研究は進んでいるんだよ。だから、リーダーは変わることだってあるし、リーダーの言うことに他の蟻達はきちんと従うっていうことのも分かっている」
「そういうことかっ!」

 同じ寄生虫に寄生されていても、祖父はその『リーダー』という役割をしているのだと大介は言いたいわけだ。
 だから、あの紛争地帯を撮影した映像内でも、祖父は誰かに指示を出しているような雰囲気があったのは、祖父がリーダー的な役割をしていたってことが言いたいわけだ。

 じゃぁ、同じ寄生虫に寄生されているというのに、飛行場にいた、人としての理性を失い、血に飢えた獣のように俺達に襲い掛かってきた兵士達は、どういった役目を負っていたのか?

 役割分担がしっかりされているのであれば、あんな彼らであっても、何らかの役割があったということになる。
 そういえば、あの紛争地域での映像の中でも、彼らと同じように、日本兵が敵地の村に潜伏していた敵兵や戦いを余儀なくされた村人達からの攻撃で負傷し、死んでもおかしくない大怪我を負っても、自分を攻撃してきた人間に襲い掛かり、食らいついた。
 映像はそこでプツリと切れた為、その後、あの村の人間達がどうなったのかは分からないけれど、飛行場の兵士と全く同じような行動をとっていた。
 彼らは、自分達に攻撃を仕掛けて来た人間達を敵だと見なして、襲ったのだと考えるだけでなく、全ての行動がリーダーの指示によるものであったとしたら?
 あれが、俺のじいちゃんが指示しているものであったとしたら?
 飛行場の兵士達も『リーダー』の指示で動いていた?
 じゃぁ、誰の?

 まさか――――
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