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episode 25
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車内は各々がそれぞれ異なった悲鳴を上げて、鼓膜が破れそうなほどの騒音。
人並み外れた運動神経と腕力の持ち主なのか、晴香さんは片腕に自分とたいして変わらない大きさのボンを抱え、もう片方の腕でパイプ状の持ち手をしっかり握りしめて床に踏んばっていた。
シートベルトを締めているにも関わらず、頭は自分の意志とは関係なく、ヘヴィメタバンドのコンサートでヘドバンしているように、上下左右に振り回され、ヘッドレストに何度もぶつけた。
その度に、鈍い痛みが走るが、それよりも厄介なのは、脳ミソが揺さぶられ、平衡感覚が失われ、目が回りそうなこと。
一際大きく車体が跳ね上がり、地面に叩きつけられたような破壊音と全身に伝わる衝撃。
外部からの攻撃にある程度耐えられるよう重厚な造りをしている車体と、シートベルトのお陰(晴香さんに至っては、彼女自身の持つ身体能力のなせる業ではあったが)で、皆、目立った傷は負わずに済んだが、一体、今、何が起きたのか?
窓の無い車内からでは外の状況が全く分からない。
自分の体勢から判断出来るのは、車体に巨大な何かが猛スピードで激突したことと、そのショックで車体が横転し、横倒しの状態で停止したことぐらいだ。
「いててて……何が起きたんだ?」
頭をさすりながら、シートベルトを外す松山さんのボヤきを打ち消す剣幕で操縦席から鶴岡さんが兵員室へと駆け寄り俺達に指示を出す。
「上田君、君は本郷さんから武器を預かったと言ったね? それはすぐに使えるかい?」
使い方は昨夜、鶴岡さんから聞いていた。
同じタイプの自動式拳銃を四丁本郷さんからは預かっている。
それら全部にマガジンは予め挿入されてあり、使用するにはスライドを引いて安全装置を外し、狙いを定めて引き金を引くだけという簡単なもの。
ご丁寧に、弾薬が装填されたマガジンは予備を含めて幾つかあるので、弾切れしてもマガジンさえ入れ替えれば、すぐにまた攻撃出来るようになっている。
ライフルに比べ、かなり小さなものだとはいえ、拳銃なんて使った事はない俺達。
上手く使えるかと聞かれたら、その答えに頷くことは出来ない。
黙ったままの俺に向かって、「君も佐々木君も、それを手に取ってアイツの攻撃に備えてくれ」と、有無を言わせず、切羽詰まった声を上げた。
その間に、ボンを抱きしめ守ってくれていた晴香さんは、さっさと自分の荷物からライフルと拳銃を取り出し、何か指示を出しながら米澤さんと松山さんに手渡していた。
彼女自身は、ずっと持ち歩いていた黒く長細い数個の袋の中から、これまた長く細い武器を取り出した。
「日本刀?」
博物館に並んでいるものよりも反りが少ないところを見ると、太刀ではなく刀だと思われるが、重さは一本でもかなりのもの。
そんなものを何振りも担いでいただなんて、彼女の筋力は一体どれだけ凄いんだと俺や大介が目を丸くしている中、黙々と流れるように彼女は作業を続けていった。
背中でバッテンになるような形になるタスキ掛け背筋ベルトのような使い古した革製のベルトの背の部分にある金具に鞘を固定していく。
六本分しっかりと固着したところで、そのベルトを自身の体に装着した彼女は、更に、腰のベルトに手榴弾とサバイバルナイフを装着し、両手に一振りずつ刀を持つ。
無駄のない動きに目が釘付けになっていると、凄まじい爆発音と、大きな振動が発生した。
それを合図に、即座に後面の乗降用ドアの前に集まる松山さんと米澤さん。
そして、兵員室の椅子と椅子との間の通路のど真ん中で、クラウチングスタートのような姿勢をしている晴香さん。
その後ろでは何故かボンまでもが、姿勢を低くして、いつでも飛び出せるように構えていた。
「大介。ボンの興奮を抑えておけっ!」
何故だか、外に得体の知れない何かがいるような気がして、嫌な胸騒ぎがした。
普通の人間や動物相手であれば、熊を相手でも果敢に立ち向かう秋田犬。
逆に相手を傷つけないように注意するぐらいだが、今は違う。
大介や俺達を守る為に、自分よりも強い敵にすら立ち向かってしまうボンを抑えておかなくては、ボンが危ない目に遭うと、俺の第六感が警鐘を鳴らしていた。
俺と大介は一丁はズボンの背面側に差し込んで、もう一丁を手に取った。
予備のマガジンは出来るだけポケットに詰め込む。
それから大介は、扉が開いても直ぐには走り出て行かないようにボンの首に腕を回した。
再び、爆撃音と車体全体が吹っ飛ぶような揺れ。
どう踏ん張っていても、よろめく震動の元となっているのは、操縦席の後ろにあるモニターから周囲を確認しながら、鶴岡さんが発射しているミサイルのようだ。
という事は、周りに俺達の命を狙う敵がいるということか?
政府や日本国防軍に目的がバレた?
最悪なシナリオが頭をかすめるが、そんな事よりも、もし、周りに敵となるものがいるとして、こんな横倒しになった車体からミサイルなんて発射しても命中などしないだろう。
では、単なる威嚇?
一体、何の為に?
「研究所までは、ここから約三キロ。さほど遠くはない。この装甲車はここで捨てていく!」
モニターを見ながら叫ぶ鶴岡さんに、大人達は後部のドアに集中しながら頷いた。
武装の準備をしている最中に、座席の上に置いた無線機をチラリと横目で見た晴香さんは、「鶴岡っち! 無線頼んだよ!」と声を大きく張り上げる。
その後、この装甲車に体当たりをかました相手が何かを仕掛けてくる事も、鶴岡さんがミサイルやマシンガンを車内操作で動かす事もなく、静かすぎる時間が少しの間流れた。
皆が沈黙し、鶴岡さんはモニターを凝視する。
米澤さんや松山さんは、後部のドアの両サイドで身構え、晴香さんは相変わらず短距離走のスタートポーズのまま微動だにしない。
異様に緊迫した空気が流れた。
唾を飲み込む音でさえ響き渡る感じがする。
「準備はいいか?」
「来るの?」
「ああ」
単語だけの会話。
鶴岡さんと晴香さんだけが、この状況を把握しているっぽい。
「皆は私に構わず、外に飛び出したら、兎に角、一番高いタワーに向かって走って走って走りまくって」
一番高いタワー。
それがこの島の中枢。
軍事機密研究所。
残り3キロなら、車外に出た瞬間に目に飛び込んでくるだろう。
走れば10分強といったところか。
何もなければの話だが。
「まっつん、ヨネちん。合図をしたら扉を開けて。私が一番最初に飛び出すから、その後、様子を見て、真っ直ぐ研究所へ向かうのよ」
いつになく真剣な目。
愛称で呼ぶのは変わりないが、それ以外は口調すらも変わっている。
勇ましく、どこか近寄りがたいオーラを放つ彼女からは、殺気がビンビン放たれていて、外に敵がいることを確信させた。
「鶴岡っちは、皆を背後から守りながら進んで頂戴」
「勿論そのつもりだ」
「高校生二人組は人の事はいいから、自分の事だけに集中して。これから何を目にしても、決して人を助けようとは思わないで。そんな余裕、君達には無い筈だから」
抑揚がなく、そっけないような話し方。
子供扱いしているような言い方ではあるが、その真意は俺達の事を本気で心配し、思いやってくれているのが伝わって来る。
晴香さんの言葉に大介と俺は互いに顏を見合わせ、大きく頷いた時、鶴岡さんの口からカウントダウンが始まった。
「さーん、にぃー、いぃーちぃっ……Go!」
バンッという大きな音と共に、観音開きに扉が開け放たれた。
人並み外れた運動神経と腕力の持ち主なのか、晴香さんは片腕に自分とたいして変わらない大きさのボンを抱え、もう片方の腕でパイプ状の持ち手をしっかり握りしめて床に踏んばっていた。
シートベルトを締めているにも関わらず、頭は自分の意志とは関係なく、ヘヴィメタバンドのコンサートでヘドバンしているように、上下左右に振り回され、ヘッドレストに何度もぶつけた。
その度に、鈍い痛みが走るが、それよりも厄介なのは、脳ミソが揺さぶられ、平衡感覚が失われ、目が回りそうなこと。
一際大きく車体が跳ね上がり、地面に叩きつけられたような破壊音と全身に伝わる衝撃。
外部からの攻撃にある程度耐えられるよう重厚な造りをしている車体と、シートベルトのお陰(晴香さんに至っては、彼女自身の持つ身体能力のなせる業ではあったが)で、皆、目立った傷は負わずに済んだが、一体、今、何が起きたのか?
窓の無い車内からでは外の状況が全く分からない。
自分の体勢から判断出来るのは、車体に巨大な何かが猛スピードで激突したことと、そのショックで車体が横転し、横倒しの状態で停止したことぐらいだ。
「いててて……何が起きたんだ?」
頭をさすりながら、シートベルトを外す松山さんのボヤきを打ち消す剣幕で操縦席から鶴岡さんが兵員室へと駆け寄り俺達に指示を出す。
「上田君、君は本郷さんから武器を預かったと言ったね? それはすぐに使えるかい?」
使い方は昨夜、鶴岡さんから聞いていた。
同じタイプの自動式拳銃を四丁本郷さんからは預かっている。
それら全部にマガジンは予め挿入されてあり、使用するにはスライドを引いて安全装置を外し、狙いを定めて引き金を引くだけという簡単なもの。
ご丁寧に、弾薬が装填されたマガジンは予備を含めて幾つかあるので、弾切れしてもマガジンさえ入れ替えれば、すぐにまた攻撃出来るようになっている。
ライフルに比べ、かなり小さなものだとはいえ、拳銃なんて使った事はない俺達。
上手く使えるかと聞かれたら、その答えに頷くことは出来ない。
黙ったままの俺に向かって、「君も佐々木君も、それを手に取ってアイツの攻撃に備えてくれ」と、有無を言わせず、切羽詰まった声を上げた。
その間に、ボンを抱きしめ守ってくれていた晴香さんは、さっさと自分の荷物からライフルと拳銃を取り出し、何か指示を出しながら米澤さんと松山さんに手渡していた。
彼女自身は、ずっと持ち歩いていた黒く長細い数個の袋の中から、これまた長く細い武器を取り出した。
「日本刀?」
博物館に並んでいるものよりも反りが少ないところを見ると、太刀ではなく刀だと思われるが、重さは一本でもかなりのもの。
そんなものを何振りも担いでいただなんて、彼女の筋力は一体どれだけ凄いんだと俺や大介が目を丸くしている中、黙々と流れるように彼女は作業を続けていった。
背中でバッテンになるような形になるタスキ掛け背筋ベルトのような使い古した革製のベルトの背の部分にある金具に鞘を固定していく。
六本分しっかりと固着したところで、そのベルトを自身の体に装着した彼女は、更に、腰のベルトに手榴弾とサバイバルナイフを装着し、両手に一振りずつ刀を持つ。
無駄のない動きに目が釘付けになっていると、凄まじい爆発音と、大きな振動が発生した。
それを合図に、即座に後面の乗降用ドアの前に集まる松山さんと米澤さん。
そして、兵員室の椅子と椅子との間の通路のど真ん中で、クラウチングスタートのような姿勢をしている晴香さん。
その後ろでは何故かボンまでもが、姿勢を低くして、いつでも飛び出せるように構えていた。
「大介。ボンの興奮を抑えておけっ!」
何故だか、外に得体の知れない何かがいるような気がして、嫌な胸騒ぎがした。
普通の人間や動物相手であれば、熊を相手でも果敢に立ち向かう秋田犬。
逆に相手を傷つけないように注意するぐらいだが、今は違う。
大介や俺達を守る為に、自分よりも強い敵にすら立ち向かってしまうボンを抑えておかなくては、ボンが危ない目に遭うと、俺の第六感が警鐘を鳴らしていた。
俺と大介は一丁はズボンの背面側に差し込んで、もう一丁を手に取った。
予備のマガジンは出来るだけポケットに詰め込む。
それから大介は、扉が開いても直ぐには走り出て行かないようにボンの首に腕を回した。
再び、爆撃音と車体全体が吹っ飛ぶような揺れ。
どう踏ん張っていても、よろめく震動の元となっているのは、操縦席の後ろにあるモニターから周囲を確認しながら、鶴岡さんが発射しているミサイルのようだ。
という事は、周りに俺達の命を狙う敵がいるということか?
政府や日本国防軍に目的がバレた?
最悪なシナリオが頭をかすめるが、そんな事よりも、もし、周りに敵となるものがいるとして、こんな横倒しになった車体からミサイルなんて発射しても命中などしないだろう。
では、単なる威嚇?
一体、何の為に?
「研究所までは、ここから約三キロ。さほど遠くはない。この装甲車はここで捨てていく!」
モニターを見ながら叫ぶ鶴岡さんに、大人達は後部のドアに集中しながら頷いた。
武装の準備をしている最中に、座席の上に置いた無線機をチラリと横目で見た晴香さんは、「鶴岡っち! 無線頼んだよ!」と声を大きく張り上げる。
その後、この装甲車に体当たりをかました相手が何かを仕掛けてくる事も、鶴岡さんがミサイルやマシンガンを車内操作で動かす事もなく、静かすぎる時間が少しの間流れた。
皆が沈黙し、鶴岡さんはモニターを凝視する。
米澤さんや松山さんは、後部のドアの両サイドで身構え、晴香さんは相変わらず短距離走のスタートポーズのまま微動だにしない。
異様に緊迫した空気が流れた。
唾を飲み込む音でさえ響き渡る感じがする。
「準備はいいか?」
「来るの?」
「ああ」
単語だけの会話。
鶴岡さんと晴香さんだけが、この状況を把握しているっぽい。
「皆は私に構わず、外に飛び出したら、兎に角、一番高いタワーに向かって走って走って走りまくって」
一番高いタワー。
それがこの島の中枢。
軍事機密研究所。
残り3キロなら、車外に出た瞬間に目に飛び込んでくるだろう。
走れば10分強といったところか。
何もなければの話だが。
「まっつん、ヨネちん。合図をしたら扉を開けて。私が一番最初に飛び出すから、その後、様子を見て、真っ直ぐ研究所へ向かうのよ」
いつになく真剣な目。
愛称で呼ぶのは変わりないが、それ以外は口調すらも変わっている。
勇ましく、どこか近寄りがたいオーラを放つ彼女からは、殺気がビンビン放たれていて、外に敵がいることを確信させた。
「鶴岡っちは、皆を背後から守りながら進んで頂戴」
「勿論そのつもりだ」
「高校生二人組は人の事はいいから、自分の事だけに集中して。これから何を目にしても、決して人を助けようとは思わないで。そんな余裕、君達には無い筈だから」
抑揚がなく、そっけないような話し方。
子供扱いしているような言い方ではあるが、その真意は俺達の事を本気で心配し、思いやってくれているのが伝わって来る。
晴香さんの言葉に大介と俺は互いに顏を見合わせ、大きく頷いた時、鶴岡さんの口からカウントダウンが始まった。
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