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episode 28
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後ろが気にならないわけじゃない。
むしろ、気になって仕方がない。
けれども、俺が戻ったところで祖父の足手まといになるだけだ。
俺は俺に課せられた使命を全うすることだけに専心しなくてはならないんだ。
汗が噴き出す。
心臓が踊り狂う。
息が上がる。
全身が酸欠を訴えるが、俺の意志が体の悲鳴から耳を塞ぐ。
一刻も早く辿り着かなくてはという、その思いだけに突き動かされ、自分でも信じられないが、壁に書かれた回数を知らせる50の数字を見たと同時に、足がもつれ、最後の一段で大きく躓いた。
「っつぅーー」
躓いた拍子に、そのまま高速でんぐり返しをグルグルグルとかまして、通路の反対側まで転がり壁に激突した。
漫画やアニメでは見たことがあるが、まさか、自分自身がそんなコケかたをするとは夢にも思っていなかったが、ヤラセやコントじゃなく、本当にこんな転び方ってあるんだなと、息が整わず、酸欠でボーッとした頭でそんなくだらないことを考えていた。
「所長室ってどこだ……ってか、このフロア、誰も居ないのか?」
物音一つしない周りの様子に不審感を抱く。
武装兵力は一階部分に集結させたのだろうか?
それにしたって、人っ子一人おらず、何の気配も感じないというのもおかしいだろ。
研究室や実験室、生物兵器や実験台を管理・監視する場所に人員を総動員させたといえど、ここは所長室があるフロアだ。
警備員の一人や二人いたっておかしくはない。
それとも、所長室には部屋の主以外入れない仕掛けや秘密でもあるのか?
壁に背をつけ、腰を下ろしたまま考えるが、このまま座って落ち着いてしまうと、疲労感が急に襲って来て立てなくなる可能性がある。
興奮によるアドレナリンが分泌されている間に動かなくてはと思い、酷使した足を叱咤して立ち上がった。
「所長室ってどれだよ……」
何のプレートも掲げていない部屋を一つ一つ空けていくが、会議室のように殺風景なものや、書庫、倉庫といったものばかり。
奥へ奥へと足を進めていき、二回目の角を曲がった時、とうとうソレらしき部屋にぶち当たった。
そこには所長室というプレートは掲げられていない。
けれど、これまで中身を確認してきたドアとは明らかに面構えからして違っていた。
今までのものは、どこにでもありそうなシンプルな扉。
俺がいま目にしている扉は、銀行の金庫室の扉に使うような鋼板でつくられた重々しいもの。
耐火性も防弾、防音措置も施されているのは明白。
ここまでこの奥にある、重要な場所を守る為に、ここに存在しているのだと堂々とアピールしているようなその扉は、ここを突破出来るものならしてみろと挑発しているようにも見える。
無機質VS有機質
勝つのはどっちかって?
セキュリティがきちんと機能している状態であれば、俺一人じゃどうしようも無いだろう。
本郷さんや、洋一郎のどちらかがいてくれなくてはお手上げだ。
でもそれは、あくまでもセキュリティシステムが機能していた場合であり、ロックがかけられている時に限ってだ。
祖父の言った通り、今しかない。
ここには居ないが、離れたところにいても、俺の大親友は頼りになる奴。
彼のお陰で、屈強で最大の難関となったであろうこの特殊な扉は、侵入者を防ぐという一番大事な役目を果たすことが出来ず、誰でも難なく通る事の出来る、単なる分厚いだけの扉になってしまっている筈。
試しに、壁に設置してある暗証番号を入力する装置の蓋を開くと、ロック解除中というマークが点滅していた。
それでも実際に扉が開くかどうかは分からない。
扉に埋め込まれた指紋認証装置はシャットダウンし画面が真っ暗。
真ん中にある船の舵のような大きなハンドルを両手で持つ。
実際に中に入れるかどうかは、ここに掛かっている。
緊張しながらゆっくりと力を入れて回す。
キィーと、出だしに小さな金属音をたてて回りだすハンドル。
ホッと胸を撫でおろし、そこからはひたすら回転が止まるまで回し続ける。
低く鈍い金属音がした。
そのままハンドルを両手で持ったまま体重を後ろにかけ、扉を手前に引く。
金属製の厚みのある扉は、『重々しい』のではなく、実際に重いのだが、一度力が加われば、最初はゆっくりではあるが、徐々にスムーズに開いていった。
大きく外に開いた扉の中には、今度は格子戸。
そこにもパスワードロックが仕掛けられていたが、これも洋一郎の手によって解除されていた。
「どんだけ手際がいいんだよ。ここまでお膳立てされたら、俺一人でもやるっきゃねーよな」
眉を八の字に下げ、苦笑いすると、格子に手をかけスライドさせた。
仄暗く、短い廊下の先にあるアンティーク調で高級感漂う扉。
疑う余地もなく、この研究所において一番権力を持つ人間が使用する部屋だ。
あの扉の向こうにいる人物を倒し、女王を助け出し、所長室にある建物内部の設備を操作出来る機械で、全ての扉のロックを解除すればいいだけだ。
この研究所の最期の時は、もう目前だ。
左拳を握りしめ、胸を二回叩く。
ここには居ない、二人の親友の思いを込めるようにして気力を高めた。
一歩。
二歩。
三歩――――
最後の扉の前に立つ。
ノックはしない。
真ん中にある二つのドアノブ。
両手で二つ同時に手をかけ、一気に開ける?
右手に拳銃を構えたまま、左側だけ開ける?
答えは――――両方、ナシだ!
俺は、大きく深呼吸をすると、片手で握りしめていた拳銃を両手で支え、右足で中央の隙間目がけ思いっ切り蹴りを入れたのだった。
むしろ、気になって仕方がない。
けれども、俺が戻ったところで祖父の足手まといになるだけだ。
俺は俺に課せられた使命を全うすることだけに専心しなくてはならないんだ。
汗が噴き出す。
心臓が踊り狂う。
息が上がる。
全身が酸欠を訴えるが、俺の意志が体の悲鳴から耳を塞ぐ。
一刻も早く辿り着かなくてはという、その思いだけに突き動かされ、自分でも信じられないが、壁に書かれた回数を知らせる50の数字を見たと同時に、足がもつれ、最後の一段で大きく躓いた。
「っつぅーー」
躓いた拍子に、そのまま高速でんぐり返しをグルグルグルとかまして、通路の反対側まで転がり壁に激突した。
漫画やアニメでは見たことがあるが、まさか、自分自身がそんなコケかたをするとは夢にも思っていなかったが、ヤラセやコントじゃなく、本当にこんな転び方ってあるんだなと、息が整わず、酸欠でボーッとした頭でそんなくだらないことを考えていた。
「所長室ってどこだ……ってか、このフロア、誰も居ないのか?」
物音一つしない周りの様子に不審感を抱く。
武装兵力は一階部分に集結させたのだろうか?
それにしたって、人っ子一人おらず、何の気配も感じないというのもおかしいだろ。
研究室や実験室、生物兵器や実験台を管理・監視する場所に人員を総動員させたといえど、ここは所長室があるフロアだ。
警備員の一人や二人いたっておかしくはない。
それとも、所長室には部屋の主以外入れない仕掛けや秘密でもあるのか?
壁に背をつけ、腰を下ろしたまま考えるが、このまま座って落ち着いてしまうと、疲労感が急に襲って来て立てなくなる可能性がある。
興奮によるアドレナリンが分泌されている間に動かなくてはと思い、酷使した足を叱咤して立ち上がった。
「所長室ってどれだよ……」
何のプレートも掲げていない部屋を一つ一つ空けていくが、会議室のように殺風景なものや、書庫、倉庫といったものばかり。
奥へ奥へと足を進めていき、二回目の角を曲がった時、とうとうソレらしき部屋にぶち当たった。
そこには所長室というプレートは掲げられていない。
けれど、これまで中身を確認してきたドアとは明らかに面構えからして違っていた。
今までのものは、どこにでもありそうなシンプルな扉。
俺がいま目にしている扉は、銀行の金庫室の扉に使うような鋼板でつくられた重々しいもの。
耐火性も防弾、防音措置も施されているのは明白。
ここまでこの奥にある、重要な場所を守る為に、ここに存在しているのだと堂々とアピールしているようなその扉は、ここを突破出来るものならしてみろと挑発しているようにも見える。
無機質VS有機質
勝つのはどっちかって?
セキュリティがきちんと機能している状態であれば、俺一人じゃどうしようも無いだろう。
本郷さんや、洋一郎のどちらかがいてくれなくてはお手上げだ。
でもそれは、あくまでもセキュリティシステムが機能していた場合であり、ロックがかけられている時に限ってだ。
祖父の言った通り、今しかない。
ここには居ないが、離れたところにいても、俺の大親友は頼りになる奴。
彼のお陰で、屈強で最大の難関となったであろうこの特殊な扉は、侵入者を防ぐという一番大事な役目を果たすことが出来ず、誰でも難なく通る事の出来る、単なる分厚いだけの扉になってしまっている筈。
試しに、壁に設置してある暗証番号を入力する装置の蓋を開くと、ロック解除中というマークが点滅していた。
それでも実際に扉が開くかどうかは分からない。
扉に埋め込まれた指紋認証装置はシャットダウンし画面が真っ暗。
真ん中にある船の舵のような大きなハンドルを両手で持つ。
実際に中に入れるかどうかは、ここに掛かっている。
緊張しながらゆっくりと力を入れて回す。
キィーと、出だしに小さな金属音をたてて回りだすハンドル。
ホッと胸を撫でおろし、そこからはひたすら回転が止まるまで回し続ける。
低く鈍い金属音がした。
そのままハンドルを両手で持ったまま体重を後ろにかけ、扉を手前に引く。
金属製の厚みのある扉は、『重々しい』のではなく、実際に重いのだが、一度力が加われば、最初はゆっくりではあるが、徐々にスムーズに開いていった。
大きく外に開いた扉の中には、今度は格子戸。
そこにもパスワードロックが仕掛けられていたが、これも洋一郎の手によって解除されていた。
「どんだけ手際がいいんだよ。ここまでお膳立てされたら、俺一人でもやるっきゃねーよな」
眉を八の字に下げ、苦笑いすると、格子に手をかけスライドさせた。
仄暗く、短い廊下の先にあるアンティーク調で高級感漂う扉。
疑う余地もなく、この研究所において一番権力を持つ人間が使用する部屋だ。
あの扉の向こうにいる人物を倒し、女王を助け出し、所長室にある建物内部の設備を操作出来る機械で、全ての扉のロックを解除すればいいだけだ。
この研究所の最期の時は、もう目前だ。
左拳を握りしめ、胸を二回叩く。
ここには居ない、二人の親友の思いを込めるようにして気力を高めた。
一歩。
二歩。
三歩――――
最後の扉の前に立つ。
ノックはしない。
真ん中にある二つのドアノブ。
両手で二つ同時に手をかけ、一気に開ける?
右手に拳銃を構えたまま、左側だけ開ける?
答えは――――両方、ナシだ!
俺は、大きく深呼吸をすると、片手で握りしめていた拳銃を両手で支え、右足で中央の隙間目がけ思いっ切り蹴りを入れたのだった。
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