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episode 29
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バンッという大きな音と共に乱暴に開け放たれた扉。
両手で拳銃を構えたまま広くなった視界の先を見る。
そこには、重厚感溢れる扉とはミスマッチなほど、無駄を省いた景色が広がっていた。
部屋の中にあるものはみな高級感を漂わせているが、あるものといったら、応接セットと、所長用デスク。
観葉植物もなければ、絵画もない。
挙句の果てには窓すらないシンプル且つ閉鎖的な空間。
その奥には、壁一面に取り付けられた透明のパネルがあり、イルミネーションを映しているかのように様々な光を放つ。
そのパネルの前に白衣を来た、ひょろりと背の高い男が一人、こちらに背を向けて立っていた。
「ここまで来ましたか。上田克也君」
後頭部に目でもついているのか、一言も言葉を発していない俺の存在を言い当てた。
彼の背中に照準を合わせたまま、こちらの動揺を隠すように黙ったままでいると、いきなり声を上げて笑い出した。
「アハハハハッ! 今の君の心を読んであげましょうか?」
視線をパネルから外さず、手を動かしながら話しを続ける。
「そうですね。まずは、私の言葉に対し、『何で俺が上田克也だって知っているんだ? 後頭部に目でもついているのか?』ですかねぇ。そして、今も私の背中に銃口を向けている。即死を狙うのでしたら後頭部を狙うべきなのですが、そうは出来ない理由がある」
目を大きく見開き、息を飲む。
あまりにピッタリに当てる彼の言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がり、喉仏が上下した。
「おや。図星でしたか。ちなみに、私を生かしておかなくてはならない理由があるからだなんていう綺麗事は言わないでくださいね。あなたが私を殺したくない理由。それは、殺人犯になりたくはないからっていう事ぐらいお見通しですから」
厭味ったらしい言い方で、喉を鳴らして笑う所長。
後ろを向いたままなので、彼がどのような表情をしているのかは分からないが、相当、神経質で爬虫類のような顏をしているだろうと想像しながらも、彼の言っている事が間違ってはいないからこそ固まる俺。
見た目からして化け物へと変化したタカシさんに向けては、躊躇なく発砲できたが、目の前にいるのは生身の人間。
諸悪の根源ではあるが、寄生虫に脳を支配されていないナチュラルな人間だ。
銃を手にしただけでも、本土に戻れば銃刀法違反の罪に問われるし、人を殺めたとなると、どうなるかは想像に容易いが、それは俺が彼を殺したと警察や政府にバレた時の話。
俺達を含む反逆軍の目的は、あくまでも研究所だけでなく、この島全体を破壊すること。
そうなれば、逃げ遅れた犠牲者として所長の名が出るだけで、ここで彼を殺しても、誰が殺したかなんて永久に闇の中。
そんな事は多分ではあるが、余裕な態度で何か操作を続けている所長にだって予想出来ているだろう。
では何故、わざわざ俺に「殺人犯になりたくはないから」などと言ったのか。
確かに俺は、罪に問われるからだとか、法的に間違っているからだとか、そんな理由で彼の命を奪いたくないわけじゃない。
女王を助け出さなくてはいけないから?
研究所内に監禁されている反逆軍の仲間達を助け出す為に彼が必要だから?
いいや。
そうでもない。
彼の言う通り、そんなのは建前だ。
俺はただ、自分の手を汚したくない。
自分は人殺しなんだと、自分自身を蔑むようなことはしたくない。
カッコいい事ばっか言っている癖に、俺は彼の言う通り、偽善者なだけだ。
自分自身が持つ醜い部分を突きつけられ、プルプルと両手を震わせる俺に向かって、彼は嬉しそうな声を上げた。
「ほぉ~! 上田君。こっちに来なさい。面白いものが見れますよ」
相変わらずこちらを一切見る事なく、背中を向けたままの状態で片手を上げて、こっちに来いという仕草をする。
用心しながら恐る恐る近付くと、徐々に透明のパネルに浮かび上がる光が何なのかがハッキリと見えてきた。
彼の手にはタブレット端末。
十本全ての指先には変わったサックを付けている。
糊の利いた真っ白な白衣。
綺麗に七対三に分けられた髪。
いかにもインテリだといわんばかりの眼鏡。
切れ長な目に薄い唇。
自分が想像していた以上に、潔癖で人間味のない男。
彼が口元を緩めているだけで、虫唾が走る。
生理的に受け付けないとパッと見の印象でそう思った。
両手で拳銃を構えたまま広くなった視界の先を見る。
そこには、重厚感溢れる扉とはミスマッチなほど、無駄を省いた景色が広がっていた。
部屋の中にあるものはみな高級感を漂わせているが、あるものといったら、応接セットと、所長用デスク。
観葉植物もなければ、絵画もない。
挙句の果てには窓すらないシンプル且つ閉鎖的な空間。
その奥には、壁一面に取り付けられた透明のパネルがあり、イルミネーションを映しているかのように様々な光を放つ。
そのパネルの前に白衣を来た、ひょろりと背の高い男が一人、こちらに背を向けて立っていた。
「ここまで来ましたか。上田克也君」
後頭部に目でもついているのか、一言も言葉を発していない俺の存在を言い当てた。
彼の背中に照準を合わせたまま、こちらの動揺を隠すように黙ったままでいると、いきなり声を上げて笑い出した。
「アハハハハッ! 今の君の心を読んであげましょうか?」
視線をパネルから外さず、手を動かしながら話しを続ける。
「そうですね。まずは、私の言葉に対し、『何で俺が上田克也だって知っているんだ? 後頭部に目でもついているのか?』ですかねぇ。そして、今も私の背中に銃口を向けている。即死を狙うのでしたら後頭部を狙うべきなのですが、そうは出来ない理由がある」
目を大きく見開き、息を飲む。
あまりにピッタリに当てる彼の言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がり、喉仏が上下した。
「おや。図星でしたか。ちなみに、私を生かしておかなくてはならない理由があるからだなんていう綺麗事は言わないでくださいね。あなたが私を殺したくない理由。それは、殺人犯になりたくはないからっていう事ぐらいお見通しですから」
厭味ったらしい言い方で、喉を鳴らして笑う所長。
後ろを向いたままなので、彼がどのような表情をしているのかは分からないが、相当、神経質で爬虫類のような顏をしているだろうと想像しながらも、彼の言っている事が間違ってはいないからこそ固まる俺。
見た目からして化け物へと変化したタカシさんに向けては、躊躇なく発砲できたが、目の前にいるのは生身の人間。
諸悪の根源ではあるが、寄生虫に脳を支配されていないナチュラルな人間だ。
銃を手にしただけでも、本土に戻れば銃刀法違反の罪に問われるし、人を殺めたとなると、どうなるかは想像に容易いが、それは俺が彼を殺したと警察や政府にバレた時の話。
俺達を含む反逆軍の目的は、あくまでも研究所だけでなく、この島全体を破壊すること。
そうなれば、逃げ遅れた犠牲者として所長の名が出るだけで、ここで彼を殺しても、誰が殺したかなんて永久に闇の中。
そんな事は多分ではあるが、余裕な態度で何か操作を続けている所長にだって予想出来ているだろう。
では何故、わざわざ俺に「殺人犯になりたくはないから」などと言ったのか。
確かに俺は、罪に問われるからだとか、法的に間違っているからだとか、そんな理由で彼の命を奪いたくないわけじゃない。
女王を助け出さなくてはいけないから?
研究所内に監禁されている反逆軍の仲間達を助け出す為に彼が必要だから?
いいや。
そうでもない。
彼の言う通り、そんなのは建前だ。
俺はただ、自分の手を汚したくない。
自分は人殺しなんだと、自分自身を蔑むようなことはしたくない。
カッコいい事ばっか言っている癖に、俺は彼の言う通り、偽善者なだけだ。
自分自身が持つ醜い部分を突きつけられ、プルプルと両手を震わせる俺に向かって、彼は嬉しそうな声を上げた。
「ほぉ~! 上田君。こっちに来なさい。面白いものが見れますよ」
相変わらずこちらを一切見る事なく、背中を向けたままの状態で片手を上げて、こっちに来いという仕草をする。
用心しながら恐る恐る近付くと、徐々に透明のパネルに浮かび上がる光が何なのかがハッキリと見えてきた。
彼の手にはタブレット端末。
十本全ての指先には変わったサックを付けている。
糊の利いた真っ白な白衣。
綺麗に七対三に分けられた髪。
いかにもインテリだといわんばかりの眼鏡。
切れ長な目に薄い唇。
自分が想像していた以上に、潔癖で人間味のない男。
彼が口元を緩めているだけで、虫唾が走る。
生理的に受け付けないとパッと見の印象でそう思った。
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