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「ええ。はい。僕は無事です。上田龍平が隠れてコソコソ作った核シェルターのお陰で全く無傷ですよ。え? あぁ。ここは水も食料も豊富にありますし、自家発電装置もありますから」
石垣を模したように、ゴツゴツとした大きな石が不規則に埋め込まれた壁に囲まれた、薄暗い部屋の中央。
無垢の一枚板で作られたテーブルの上に置かれたランプが、オレンジ色の温かな炎をゆらめかせている。
神秘的な空間に響く若い声。
その口調は業務的でありながら、親しみと嬉しさが混ざっている。
「そうですね。五日から一週間ぐらいでしたら問題なく過ごせますよ。ええ。はい。そうですねぇ、問題と言えば、僕と彼女だけが“マトモ”な人間ですから、共通の話題があまりないのが、ちょっと辛いですね。あははは。では、毎日話し相手になってくださいよ」
たった独りぼっちだというのに、楽しそうに笑う彼。
彼は手首に巻いた最新通話手段である、リストバンド式ロボホに向かって話す。
ロボホとは人工頭脳入りスマートフォン。
スマホよりも、より使いやすく、より日常生活に取り入れやすく、更に賢い。
「ん? えぇ。勿論ですよ。僕は肉体派じゃないので。彼女が機転を利かせてくれたお陰で、アイツらは彼女が殺されたと思ったようで……ええ。そうですそうです。だから、彼女はあれから一人で自由に動くことが可能だったんですよ。頭まで筋肉かと思っていましたが、意外と使える人間でしたね。これは嬉しい誤算でしたよ」
薄暗い部屋の中。
淡々と話しつつも、どこか愉快そうに口元を緩めた後、通信している相手に何かを言われたのか、表情を引き締めた。
「当たり前ですよ。何の為に僕も彼女も一人になる機会を得たと思っているんですか。ちゃぁんと、多くのサンプルを回収しましたよ。P‐N、PSは勿論、H‐Bや大怪我を負ってはいますが、処女QUEENも、寄生したままシェルター内に連れて来てあります。それに、瀕死ではありますが、QUEENの『本体』は無事に回収しましたよ」
彼はロボホに向かって、「映像」と呟くと、デコボコした壁に、シェルター内の映像が浮かび上がる。
この映像は、通話相手にも見えている。
「P‐N、PSに関しては、今までの報告通りですね。ただし、このH‐B二体は、別格です。一方は処女QUEENを目の前にしても、全く動じることなく攻撃をしかけていました。変形も素晴らしく、身体は鋼のよう。もう一体は、真っ黒な体に筋骨隆々。学習能力と戦闘能力に長けています。これは、調教のし甲斐があるでしょう」
恍惚とした表情で熱く語る彼は、更に研究論文でも発表するかのように語りだす。
「でも、それ以上に今回、目を見張る結果だったのは処女QUEENですね。普通、蟻や蜂なら、次世代QUEENはいずれ巣から旅立つ。今のQUEENなんて関係ありません。ですが、この処女QUEENは、QUEENを守る為に、卵を産み、どんどん仲間を増やしていきました」
彼の熱弁は止まらない。
しかし、通話相手も、彼の話を興味深く聞き入っていた。
「最終的に、処女QUEENは、QUEEN奪還の為に、反逆軍まで作り出したのですよ。これがどういう事か分かりますか?」
興奮しきった彼はロボボに向かって叫んだ。
相手から何か答えが返って来たのか、嬉しそうに頷く彼は、目を輝かせた。
「そうなんですよ。QUEENは我が国のもの。そして処女QUEENは他国に広めれば、QUEENの為に他国のP‐NもPSも処女QUEENの命令の元で統制がとられたまま、上手に利用出来るわけです。以前に『paraíso』計画に反対した老害達をP‐Nにし、さっさと引退させた時と同じように……いいえ、もっと有効的に使えるでしょう」
真っ黒で艶やかな髪を掻き上げ、何かを企むような顏をして、そのクッキリとした二重の綺麗な目を細める。
「勿論。まだまだ修正する必要性はありますけれど。ええ。研究員の中で優秀な人材は、アイツに任せたので、間違いなくヘリで本土に戻っている途中だと思いますよ。アイツは変なところで正義感が強くて、義理堅いところがありますから、僕の『最期のお願い』は間違いなく達成させますよ」
『最期のお願い』を強調させる彼は、自分の右手に拳をつくり、中指を愛おしそうに撫でた後、奥歯をギリリと噛み、中指に薄っすらと残っている傷跡に、血が滲むほど爪を立てる。
その短く真っ直ぐな赤い線は、傷跡と十字になるように刻まれた。
彼の表情が穏やかなものに変わり、話している相手に言い聞かせるような口調で話し出した。
「ちゃんと、明正製薬に伺うように言い聞かせてあります。あはっ。もし行かなかったら彼らの体内に埋め込んだマイクロ爆弾が爆発するだけです。何も問題はありませんよ。秘密の漏えいは有り得ない」
話していくうちに、少々語気を荒くし、自分の言動に間違いはないと言い切る彼はかなりプライドが高い。
相手から何かを言われたのだろうか。
彼の眉間に小さく皺が寄った。
「あぁ。僕はそういう人間が一番嫌いです。老人よりもタチが悪い。親にたかり、国にたかり。彼らは生産性のある事を何一つしていない。生活保護? ニート? ホームレス? 一度や二度は、救済処置を与えましょう。仕事は選ばなければ、沢山あります。それなのに、楽がしたいから、こうすれば国から貰えるからといった生活保護『商法』が、まかり通っている時点で国が赤字になるんですよ」
綺麗な顏を歪め、真っ赤にして声を荒げた。
肩で息をし、「失礼しました。興奮し過ぎました」と、一度謝ってから、再び口を開いた。
「高齢者もParasiteなら、彼らは根っからのParasite。寄生虫に寄生された宿主は、寄生虫に栄養を取られたり、体内を喰い尽くされたりして、いずれ死に至る。今の日本はまさにソレ。国民の義務を全うしている人達の血税を使うなんて以ての外」
はっきりと断言した彼の言葉は、確かにと思うことばかり。
国民の義務を果たしている人に対して、恩恵を与えられていない。
その反面、子狡い手段を使って働きもせず、生活保護をもらってのうのうと生きている人がいるという現実。
色々な理由があって、やむを得ず生活保護や母子手当が必要な人はいる。
そういった人達のことを言っているのではない。
彼はニートやプー太郎、働けるのにも関わらず、働かずに生活保護を受給し、楽して国の恩恵に与っている人の事を言っているのだ。
「自分の意志とは関係なく、お国の為に働いてくれる。素晴らしい事じゃないですか。国を守るにしろ。公共事業での工事をさせるにしろ。または世界に兵士として派遣するにしても。危険な戦地や、事故が絶えない危険な現場に率先して行くようになる彼らは、Parasiteから国の宝となるんですよ。」
彼の視線は、ランプの中でオレンジに揺らめく炎を見つめているようで、実際には、彼の思い描く未来に思いを馳せて、うっとりとしていた。
「死んだら死んだで、彼らを養う為に使っていた税金を使わなくて済むわけですし。日本は今後、『paraíso』になるとは思いませんか? 日本は『宝』となる人材の宝庫なのですから。ねぇ父さん……いいえ、百瀬 琥太郎報道官」
怪しく揺れるオレンジの炎が一瞬、大きく燃え上がった。
それはまるで、彼の決意と情熱を表しているかのようであった。
「僕は必ず、百瀬報道官を首相にしてみせますよ。この日本を『paraíso』にする為に」
そこで彼はロボホのスイッチを一旦切った。
彼の左手の中には、小瓶が握られていた。
その中には薄っすらと青く光る真っ白な虫が一匹、特殊な液体の中でウネウネと動いていた。
「なんて綺麗なんだろう。君がきっと、奇跡を齎してくれる。僕の父さんを、宜しく頼むね」
ひんやりとした自然クーラーが効いている部屋の中。
柔らかな炎に照らされた彼の笑みは、不気味に歪んでいた。
石垣を模したように、ゴツゴツとした大きな石が不規則に埋め込まれた壁に囲まれた、薄暗い部屋の中央。
無垢の一枚板で作られたテーブルの上に置かれたランプが、オレンジ色の温かな炎をゆらめかせている。
神秘的な空間に響く若い声。
その口調は業務的でありながら、親しみと嬉しさが混ざっている。
「そうですね。五日から一週間ぐらいでしたら問題なく過ごせますよ。ええ。はい。そうですねぇ、問題と言えば、僕と彼女だけが“マトモ”な人間ですから、共通の話題があまりないのが、ちょっと辛いですね。あははは。では、毎日話し相手になってくださいよ」
たった独りぼっちだというのに、楽しそうに笑う彼。
彼は手首に巻いた最新通話手段である、リストバンド式ロボホに向かって話す。
ロボホとは人工頭脳入りスマートフォン。
スマホよりも、より使いやすく、より日常生活に取り入れやすく、更に賢い。
「ん? えぇ。勿論ですよ。僕は肉体派じゃないので。彼女が機転を利かせてくれたお陰で、アイツらは彼女が殺されたと思ったようで……ええ。そうですそうです。だから、彼女はあれから一人で自由に動くことが可能だったんですよ。頭まで筋肉かと思っていましたが、意外と使える人間でしたね。これは嬉しい誤算でしたよ」
薄暗い部屋の中。
淡々と話しつつも、どこか愉快そうに口元を緩めた後、通信している相手に何かを言われたのか、表情を引き締めた。
「当たり前ですよ。何の為に僕も彼女も一人になる機会を得たと思っているんですか。ちゃぁんと、多くのサンプルを回収しましたよ。P‐N、PSは勿論、H‐Bや大怪我を負ってはいますが、処女QUEENも、寄生したままシェルター内に連れて来てあります。それに、瀕死ではありますが、QUEENの『本体』は無事に回収しましたよ」
彼はロボホに向かって、「映像」と呟くと、デコボコした壁に、シェルター内の映像が浮かび上がる。
この映像は、通話相手にも見えている。
「P‐N、PSに関しては、今までの報告通りですね。ただし、このH‐B二体は、別格です。一方は処女QUEENを目の前にしても、全く動じることなく攻撃をしかけていました。変形も素晴らしく、身体は鋼のよう。もう一体は、真っ黒な体に筋骨隆々。学習能力と戦闘能力に長けています。これは、調教のし甲斐があるでしょう」
恍惚とした表情で熱く語る彼は、更に研究論文でも発表するかのように語りだす。
「でも、それ以上に今回、目を見張る結果だったのは処女QUEENですね。普通、蟻や蜂なら、次世代QUEENはいずれ巣から旅立つ。今のQUEENなんて関係ありません。ですが、この処女QUEENは、QUEENを守る為に、卵を産み、どんどん仲間を増やしていきました」
彼の熱弁は止まらない。
しかし、通話相手も、彼の話を興味深く聞き入っていた。
「最終的に、処女QUEENは、QUEEN奪還の為に、反逆軍まで作り出したのですよ。これがどういう事か分かりますか?」
興奮しきった彼はロボボに向かって叫んだ。
相手から何か答えが返って来たのか、嬉しそうに頷く彼は、目を輝かせた。
「そうなんですよ。QUEENは我が国のもの。そして処女QUEENは他国に広めれば、QUEENの為に他国のP‐NもPSも処女QUEENの命令の元で統制がとられたまま、上手に利用出来るわけです。以前に『paraíso』計画に反対した老害達をP‐Nにし、さっさと引退させた時と同じように……いいえ、もっと有効的に使えるでしょう」
真っ黒で艶やかな髪を掻き上げ、何かを企むような顏をして、そのクッキリとした二重の綺麗な目を細める。
「勿論。まだまだ修正する必要性はありますけれど。ええ。研究員の中で優秀な人材は、アイツに任せたので、間違いなくヘリで本土に戻っている途中だと思いますよ。アイツは変なところで正義感が強くて、義理堅いところがありますから、僕の『最期のお願い』は間違いなく達成させますよ」
『最期のお願い』を強調させる彼は、自分の右手に拳をつくり、中指を愛おしそうに撫でた後、奥歯をギリリと噛み、中指に薄っすらと残っている傷跡に、血が滲むほど爪を立てる。
その短く真っ直ぐな赤い線は、傷跡と十字になるように刻まれた。
彼の表情が穏やかなものに変わり、話している相手に言い聞かせるような口調で話し出した。
「ちゃんと、明正製薬に伺うように言い聞かせてあります。あはっ。もし行かなかったら彼らの体内に埋め込んだマイクロ爆弾が爆発するだけです。何も問題はありませんよ。秘密の漏えいは有り得ない」
話していくうちに、少々語気を荒くし、自分の言動に間違いはないと言い切る彼はかなりプライドが高い。
相手から何かを言われたのだろうか。
彼の眉間に小さく皺が寄った。
「あぁ。僕はそういう人間が一番嫌いです。老人よりもタチが悪い。親にたかり、国にたかり。彼らは生産性のある事を何一つしていない。生活保護? ニート? ホームレス? 一度や二度は、救済処置を与えましょう。仕事は選ばなければ、沢山あります。それなのに、楽がしたいから、こうすれば国から貰えるからといった生活保護『商法』が、まかり通っている時点で国が赤字になるんですよ」
綺麗な顏を歪め、真っ赤にして声を荒げた。
肩で息をし、「失礼しました。興奮し過ぎました」と、一度謝ってから、再び口を開いた。
「高齢者もParasiteなら、彼らは根っからのParasite。寄生虫に寄生された宿主は、寄生虫に栄養を取られたり、体内を喰い尽くされたりして、いずれ死に至る。今の日本はまさにソレ。国民の義務を全うしている人達の血税を使うなんて以ての外」
はっきりと断言した彼の言葉は、確かにと思うことばかり。
国民の義務を果たしている人に対して、恩恵を与えられていない。
その反面、子狡い手段を使って働きもせず、生活保護をもらってのうのうと生きている人がいるという現実。
色々な理由があって、やむを得ず生活保護や母子手当が必要な人はいる。
そういった人達のことを言っているのではない。
彼はニートやプー太郎、働けるのにも関わらず、働かずに生活保護を受給し、楽して国の恩恵に与っている人の事を言っているのだ。
「自分の意志とは関係なく、お国の為に働いてくれる。素晴らしい事じゃないですか。国を守るにしろ。公共事業での工事をさせるにしろ。または世界に兵士として派遣するにしても。危険な戦地や、事故が絶えない危険な現場に率先して行くようになる彼らは、Parasiteから国の宝となるんですよ。」
彼の視線は、ランプの中でオレンジに揺らめく炎を見つめているようで、実際には、彼の思い描く未来に思いを馳せて、うっとりとしていた。
「死んだら死んだで、彼らを養う為に使っていた税金を使わなくて済むわけですし。日本は今後、『paraíso』になるとは思いませんか? 日本は『宝』となる人材の宝庫なのですから。ねぇ父さん……いいえ、百瀬 琥太郎報道官」
怪しく揺れるオレンジの炎が一瞬、大きく燃え上がった。
それはまるで、彼の決意と情熱を表しているかのようであった。
「僕は必ず、百瀬報道官を首相にしてみせますよ。この日本を『paraíso』にする為に」
そこで彼はロボホのスイッチを一旦切った。
彼の左手の中には、小瓶が握られていた。
その中には薄っすらと青く光る真っ白な虫が一匹、特殊な液体の中でウネウネと動いていた。
「なんて綺麗なんだろう。君がきっと、奇跡を齎してくれる。僕の父さんを、宜しく頼むね」
ひんやりとした自然クーラーが効いている部屋の中。
柔らかな炎に照らされた彼の笑みは、不気味に歪んでいた。
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