百談

壽帝旻 錦候

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身体

第五話【君の耳に届く歌声】

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 最近、この辺ではちょっと有名なストリートミュージシャン“α”
 ギター片手にマイクも無しで。
 たった一人で歌う彼。
 日本人離れした容姿。
 プラチナゴールドに染めた髪に、ブルーのカラコン。
 ネオンに照らされ歌う彼は、そこだけが、月に照らされたかのように幻想的で。
 老若男女問わず、足を止める。
 奏でる音も、流れる美しきメロディーや、その切ない歌声も。
 その全てが人々を魅了する。
 そんな彼の一番近くにいるのが、私。
 まだ、彼が、誰にも見向きもされない時から。
 彼の髪の毛が黒く。
 眼鏡なんかもしちゃって。
 ギターを弾く、その手も覚束ない。
 そんな時からのファンであり“彼女”でもある。
 勿論、最初はただ、傍で歌っている姿を見ているだけで。
 観客は私しかいなくて。
 でも、それが却って。私だけに歌ってくれているかのようで、すごく特別な感じを受けてたなぁ。
 それから、徐々に観客は増えていったんだけれど、その中でも、私だけは、彼にとっても“特別”だったみたいで。

私達、二人とも無口だから、「付き合おう」とか、「愛してる」なんて言葉はなくても、自然と一緒に寄り添う事が多くなって、いつの間にか同棲するようになったんだ。

 ごく自然にそんな関係になるって、不思議だよね?
 でも、彼の歌を聴いて貰えば、きっと判る!
 私への愛のメッセージで一杯なんだもの。

 でもね。
 なんだか、ここんところ彼の様子がおかしいの。
 この間、大手レーベルから声が掛かって、それから打ち合わせやら何やらで帰りが遅くなる事もしばしば。
 それは彼の夢が叶う為に必要な事だから別にいいんだけど。
 なんだか顔色が悪くなって、少しやつれた感じがするし……
 しかも、たまに頭を抱えて、「消えろ! 近づくな!」とか、叫んでたり。
 少しノイローゼっぽいの。

 やっぱり、メジャーデビューって、相当なプレッシャーなんだろうなぁ。

 ただ。
 今日は何故か、彼、家に帰らないっていうの。
 変な服装をした男の人に連れられて、一晩、その人の家に泊まり込みするって言うの。
 レコーディングとかなら分るけど、今迄、一度も見たことのない人に連れていかれるって……
もしかして……

 私の頭の中に浮かんだのは……
 あれだけ綺麗な顔をした彼だもの。

 もしかしたら、デビューと引き換えに……“男娼”……?

 そう思ったら、居ても立っても居られなくなって。
 すぐに二人を追い掛けたわ!

 二人が訪れたのは、木造の建物。
 ぴったり窓も扉も閉められていて、更に、鍵でもかけているのか中に入る事も、覗く事も出来ない。
 中からは、打楽器の音に合わせて、決して綺麗な声とは言い難い、なんだか、不快感を覚えるような歌声が聞こえて来たの。
 普段、彼の美声を聴いているだけに、本当に酷くて。
 思わず耳を塞いだわ。

 それから一時間くらい経ったかしら?
 中がやけに静かになったかと思うと、何やらブツブツ気持ちの悪い声で、彼に話しているような雰囲気がしてきたの。
 しかも、障子に映る影から察するに、結構、密接している感じ。
 もうね……

「あぁぁぁぁぁぁ!」って雄叫びをあげそうになったわよ。

 でも、中には入れないし。
 悶々と色んなことを想像してイライラしていたら、扉が急に開いたの。

 で、中から、例の“変な服を着た男”が出て来たのね。
 その時、大きく扉は開いていたから、男が背を向けてる隙にサッと中に入ったの。

 バターン!

 丁度、私が入って直ぐに扉が閉まった。
『ギリギリセーフ!』とか言いながら、部屋を見渡すと、先程まで点いていた明かりが消えていて。
 辺りは真っ暗。
 月明かりが、障子越しに入ってきているものの、目が慣れないと、部屋の中がどうなっているのか全く分らない。
 仕方がないから、そのまま扉を背にしてジッとしてたの。
 徐々に目が暗闇に慣れて来て、うっすらと中の様子が分かって来たのだけれど、ガランと広い和室で、ヘンテコな楽器の前には、なんだか気味の悪い物があって背筋がゾゾゾゾゾってなって。

“ここにいちゃ行けない!”って、一瞬で理解したわ。

 でも、こんな所に彼を置いてはいけない。
 そう思って必死で探すんだけど、たった一部屋しかないのに、どこを探しても、どこにも居ないの。

“どういう事?”と焦りに焦った時。

 ふと私の右横に何かが浮いてる。
 恐る恐る首を右に向け、それを確認すると、それは……愛しい彼の耳が二つ。
 丁度、頭一個分開けて、並んで浮いてるの。
 私は思わず大きな声で叫びそうになったわ!

 だって、きっと。
 さっきの男に、彼は……

 私は、今はもうこの世にいない彼の。
 遺された、たった一つ……いいえ、二つの“証”をその手に取った。

 ビヂィビヂィビヂィィィィィィィィ!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 プシューッ!
 ドボドボドボ……

「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 私の耳に聴こえたのは、彼の最後の歌声。
 あぁ……なんて美しい……

 ――翌朝、坊主が山寺に帰ると、そこには、体中にお経を書かれ、両耳が引き千切られた男の亡骸が横たわっていた。

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