百談

壽帝旻 錦候

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家具

第六話【最高の寝具】

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『睡眠時間は変えられなくても、睡眠の質は変えられる!身体に負荷のない、無重力のような心地よさと、ふんわりと包み込まれているかのような安心感を貴方に』

 耳に流れ込む、魅力的なフレーズ。
 正直、連日の深夜までの残業続きに、心身ともに疲れていた。
 しかも、昔から眠りが浅く、朝起きると昨日の疲れが残ったままだ。

 ふと、テレビに目をやると、『通常価格、三十九万八千円のところ。なんと! 税込、十八万九千円! しかも、送料込みで十八万九千円!』と、驚きの半額以下の金額を発表していた。

 マットレスに十八万九千円も出すなんて、普通に考えたら高いと思いがちだが、睡眠は毎日の事。
 しかも、日頃から睡眠の質に悩まされ、疲労困憊している自分にとっては、なんとも心惹かれるフレーズであった。

 フラフラと。
 検討する間もなく、ボーッとした頭で電話に手をかける。

「あの……注文お願いします」

 一週間後。

 ピンポーン!

 日曜日の朝。
 耳に響くチャイムの音で目が覚める。
 誰だ……こんな朝っぱらから。
 休みの日くらい、ゆっくりさせてくれよ……

 ピンポーン!

 再度鳴るチャイムの音。
 のそりとベッドから起き上がると、重い身体を引き摺りながら受話器を上げる。

「はい」

 低い声で返事をすると、『宅急便です!』と、自分とは全くテンションの違う快活な声。

”宅急便……あ!”

 その言葉に、自分が注文したものが、到着したのだという事を理解し、慌てて、玄関へと向かう。

ガチャリッ

「すみません。ご苦労様です」
「いえいえ。それより、これ、結構重いんで。良かったら奥まで運びましょうか?」

 爽やかな笑顔で、そう言われれば、その好意に甘える事にする。
 奥のベッドルーム迄案内すると、青年は、まるで重さを感じさせない足取りで、荷物を運び、「では、ここにサインして頂けますか?」と、マニュアル通りのセリフを告げた。

「では。ありがとうございました」

 サインをし、品物を受け取ると、丁寧な態度で去って行った。

 チャイム音で起こされた時には、苛立っていた気持ちが、待ち望んでいた物が到着した事。
 そして、爽やかで丁寧な青年の対応で、一気に気分が上がる。

 さて。

 バリバリバリッ
 ガサガサガサッ……

 包みを開けると、中にはしっかりした段ボール箱。

 ビリリリリリッ

 ガムテープを剥がし、段ボール箱を開けると、中には真っ白なマットレスと説明書。

 細かい成分や、取扱い云々よりも、目に止まったのはたったの一文。

『あなたに、かつてない程の極上の眠りを』

 そう。
 その一文だけが、頼りなのだ。

 早速、ベッドから今まで使っていたマットレスを外す。

『極上の睡眠』を与えてくれるマットレスを取り付け、真新しいシーツを張る。
 その上にゴロリと寝転がる。

 ふわりと柔らかい。
 それでいて、身体全体を包み込むような安心感。
 確かに、今までの寝心地とは違う。
 今まで感じた事のないような。

 なんと表現したらいいだろう?
 小さな頃に憧れた、アニメの中に出て来る雲の上に、寝ころぶ事が出来たような。

 そうだ。

 きっと、雲に寝ころぶ事が出来たとしたら、こんな感じなんだろうな……

 ふわふわと宙に浮かんでいるような……
 優しい空気に包まれているかのような……
 徐々に……
 瞼が……
 重く…なっ……て……

**********************************************

 ――この度は。
 お悔やみ申し上げます。

 あの日は……
 生真面目な彼には珍しく、三日も無断欠勤し、しかも、連絡すらつかなかったので……
 管理人さんに頼んで部屋に入れて貰った時には……

 えぇ。
 はい。
 既に冷たくなっていました。

 えぇ。
 直ぐに、救急車を呼びました。

 はい。

 えぇ。
 死亡原因は心筋梗塞だったそうです。

 いえ……


 え?
 表情……ですか?

 はい。
 確かに。
 心筋梗塞にしては、何といいますか。
 仰る通り、なんとも幸せそうな顔と言いますか。
 安らかな表情をしていましたので。
 私も、最初は寝ているのかと勘違いした程でして。

 え?
 いいえ!

 会社側としましては、そのような事実はありません。
 勤務時間や休日につきましては、きちんと取って貰ってますから。
 過労死という事は無い筈です。

 ですが、私共で何かお手伝いする事がございましたら……そうですか。

 いいえ。
 本当に、この度は……

*********************************************************

 人口増加が止まらないのにも関わらず、税収は減っていくばかり。
 高齢化が進むお陰で、福祉への予算はかさむ。
 このままでは、この国の存続は危うい……そんな時に目をつけたのが、誰もが毎日必ず使う「寝具」である。
 健康の為。
 良質な睡眠の為。
 肩凝りや首凝りの軽減の為、年齢が上がれば上がるほど、枕やベッド、布団。
 高額であろうと、「いい」と言われる物を皆が買い求める。
 そこに目を付けた政府が作り上げたのが、この、「極限の心地よさ」を謳った、マットレス。
 収益は、政府へ。
 そして、このマットレスを使った者は……永遠の眠りへ。
 その秘密は、「マットレスの成分」にあるのだが……

 その成分は記載されずに。
 今日もまた。
 どこかで……

『快適な睡眠』

 あなたも試してみませんか?


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