憧れのスローライフは計画的に

朝顔

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「えっ……帝国に戻られるんですか?」

「ああ、うるさいやつに呼ばれてな。ずっと無視していたが、そろそろ面倒になってきたから、黙らせてくる。すぐに戻ってくるつもりだから心配するな」

 いつものように早朝、教会へ向かうと、ねぼすけのパラディはとっくに起きていて、旅支度をしていた。
 まさかもう帰って来ないのかと、胸が締め付けられるように苦しくなったが、仕事だと言われて一気に力が抜けた。
 そういえばエパヌイ神父も数年に一度は会議に呼び出されると言っていたのを思い出した。
 数日前に机の上に手紙の束を見つけたので、きっとその呼び出しなのだろうと察知した。

「うるさいやつって……、教皇庁の会議のことですよね。またそんな風に口悪く言ったらみんなびっくりしますよ。エロ神父だし、問題児だからここへ飛ばされたんだってことは想像できました」

「くっ……エロいのはランの前だけだ。他のやつには勃つものも勃たん」

「はいはい、忘れ物はないですか? 名前を呼ばれてもすぐには行けませんよ」

 外に馬車が着いた音がしたので、上着を取った俺はパラディの背中にかけた。
 いつもしている事なのに、しばらく会えないのだと思うと、胸が痛くなってしまった。

 ドアの前でくるりと振り返ったパラディは、ガバッと俺を力強く抱きしめてきた。
 パラディの広い胸の中に埋もれて、温もりを感じたら、何か込み上げてくるものがあった。

「帰ってくる……必ず、ランのもとに……、お前を愛しているから……」

「…………」

「………行ってくる」

 頭が真っ白になって何も言えなくなってしまった。
 パラディは俺の唇に軽く触れるだけのキスを落としてから、今度は振り返らずにドアから出て行ってしまった。

 木製のドアがギギッと閉まる音。
 パラディが土を踏みしめて歩く音。
 馬車に乗り込む音。
 カタカタと馬の蹄が鳴る音。
 遠ざかっていく車輪の音。

 全ての音が消えて静寂が訪れても、俺は動くことができなかった。


「あ……あい………なに…を、誰を……」

 胸に熱い思いが込み上げてきて、思わず両手で服の上から掻きむしった。

「大げさだ……まるで今生の別れじゃないか。あんなこと……あんな言葉を残して……」

 エパヌイ神父がいなくなった時、風が吹き荒れていた胸はいつしか穏やかな温かさで満たされていた。
 パラディがいないのだと思うと、無性に寂しくてたまらない。
 時々おかしなことを言っては、大胆なことをして俺を翻弄した男。
 一度目にしたら忘れられないくらい印象的で、研ぎ澄まされた剣のような輝く瞳に、いつだって吸い込まれてしまいそうになった。

 俺の口を塞いで、快感をもたらせた唇で、とんでもない言葉を残して行った。

「愛……愛なんて……愛なんて……」

 いらないと思っていた。
 愛されていたかも分からない、曖昧な記憶しかない前世。
 愛よりも強い憎しみを向けられた今世。

 傷つけられるくらいなら、全てから解放されて一人で生きていきたいと思っていた。

 でも分かった。
 分かってしまった。

 何もかも空虚で、本当に生きているのかすら分からない日々の中で、俺が求めていたもの……
 無愛想で不器用な男、だけど本当は優しくて、俺に笑顔が似合うと言ってくれた人。

 愛されたい。

 パラディに愛されたかった。

 なぜならとっくに、俺も、パラディを愛していたから……

「……言えなかった」

 閉められたドアを見つめながら、俺も愛していると呟いたが、静寂だけしか返って来なかった。








 よく晴れた青空。
 俺の心とは逆に、ずっと気持ちのいい晴れの日が続いていた。

 すぐ帰ると言っていたくせに、パラディはひと月経っても帰って来なくて、手紙すらなかった。

 神学校にでも顔を出しているのか知らないが、さすがに遅いだろうと気がつくとイライラしてため息ばかりついていた。

「不審者?」

「そう、行商じゃなさそうだし、みんな見たことがないやつがウロウロしてるって……」

「子供を狙った人買いかもしれないな。ロキ、ソニア、気をつけるんだぞ。一人で行動しちゃいけない」

 いつものように家に遊びにきたロキとソニアが、椅子に座るなり物騒な話をしてきたので、怖い顔をして注意をしておいた。
 俺が作った胡桃のタルトを食べながら、ロキとソニアは目をパチクリと瞬かせた。

 悪い人間はどこにでも来る。
 幼い子供を狙った人攫いはよく聞く話だったので、心配になってしまった。

「大丈夫、ソニアの蹴りは痛いよ」

「あのなぁ……」

「僕達のことより、ランの方が心配だよ。パラディ神父がいないうちに悪い虫がつかないか、見張ってくれって頼まれているからさ」

「あ……あいつ、そんなこと言って行ったのか!? 」

「そうよー、愛されてるわね、ランちゃん」

 子供になんてことを教えて行ったのか、純粋な目で見られて、俺は真っ赤になった。

「そ、そういう話は二人にはまだ早いから」

「えー、なんでさ。人が人を愛するっていうのは素敵な話だろう。恥ずかしがって隠すもの?」

「いや……まあ、そうだけど……」

「二人って子供の目から見てもラブラブだったわよ。早く結婚すればいいのに、村の人みんな言ってるんだから」

「みんな……みんなが!?」

 パラディはところ構わずくっ付いてきたが、人のいる場所では距離を取っていたのに、周りにはすでに知られていたらしい。
 そんなに分かりやすかったかなと考えてしまった。

「お互い好きなんでしょう? もうこっちから熱い告白しちゃえば?」

「ええ!?」

「そうだよ。七色の池の伝説、知ってるでしょう」

 この村には言い伝えがあって、近くにある森の中にある、七色に輝く池のほとりで、恋人同士が愛を誓うと一生愛し合えると言われている。
 ここに来た当初はその話を聞いて、ゲームのラブラブイベントかよと一人でツッコんでいたが、まさかその伝説にあやかろうなんて日が来るとは思わなかった。

「……ひどい男だよ」

 何の連絡も寄越さないパラディに、つい漏れてしまった言葉をロキとソニアに聞かれてしまった。
 ロキとソニアはニッと歯を見せて笑った。

「本当に好きなんだねぇ、ランちゃん」

 こっちの世界の子供はずいぶんとませている。
 なんでもお見通しみたいな二人の並んだ目を見て、観念するしかなかった。

「ああ、好きだよ」

 二人の透き通った目を見つめながら、俺はその向こうに金色の瞳を見ていた。
 早くその瞳に会いたくて、不器用に笑う顔を思い出して目を閉じた。






 明け方、ふと庭に気配を感じて目を開けた。
 いつもなら気がつかないが、その時は浅い眠りが続いていて半分起きていた。
 だから、ガサガサと草を踏む音に気がついてしまった。
 眠気の残る頭だったが、浮かんできたのは不審者、という言葉だった。
 そして少し前、他の村の男達が話していた恐ろしい話。

 まさか、気のせいだろうと思いながら、気になったらもう寝付けなくて、むくりと体を起こした。

 音を立てないようにして台所に行った俺は、フライパンを手に窓から外を覗いた。
 まだ外は薄暗かったが、サッと影のようなものが動いたのが分かった。

 まだよく見えなくて、今度はドアを少し開けて、隙間から外に目を凝らした。

 薄暗い中で動いた影はやはり人で、顔はよく見えないが、男が一人、俺の家の様子を伺うように立っていた。
 村の人間には見えない。
 やはり、不審者、泥棒の類だろうか。
 裏口から外へ出た俺は、そっと男の方へ近づいた。
 背を低くして、だいたい距離を詰めたら、威嚇するために走り出した。

「誰だ!? 泥棒か!? こんな時間に何の用だぁぁ!!」

「ううっ、うわっ! ちょっ……」

 ブンブン振り回していたら、男の手か何かに当たった手応えがした。
 男は驚いた様子で背を向けて走り出した。

 説明もせず、逃げるということは、明らかに悪意があってあそこに立っていたのだろう。
 さっきまでビビっていたが、相手が逃げるやつだと分かったら、俺は俄然勢いづいて裸足で男を追いかけて走り出した。

「待てーーーー! このぉ、不審者め! 何が目的か話してもらうぞ!」

 俺は村の代表になったつもりで、無我夢中で走った。気がついたら森の中に入っていて、尖った木の枝を踏んで痛みで足を止めた。
 男は逃げ足が速くて、背中が見えていたのに、あっという間に消えてしまった。
 ここまで追いかけて見逃してしまうなんてと、その場に力尽きて座り込んだ。

「は……はっはは……ひどい格好、泥だらけじゃないか……」

 冷静になってみたら、フライパンを持って何をしているんだろうとバカらしくなって、虚しくなってしまった。
 パラディがいたら、なんと言っただろう。

 真っ暗な森の中で、急に心細くなってぶるぶると震えてしまった。

 ゲームの世界では、物語の全容を知っているなんてチート能力だった。
 全て計画通りにしてきた。
 しかしもうそれは終わってしまい、今は何も分からない状態で武器も持たずに一人ぼっち。
 憧れのスローライフは計画通りにはいかなかった。

 好きだと気がついたのに、その人はそばにいない。

「遅い……」

 目頭が熱くなって、胸が張り裂けそうに痛んだ。
 今まで堪えていた感情が爆発して、思わず叫んでしまった。

「遅い……遅い遅い! 何年待たせるんだ! おじいさんになっちゃうよ! それで……腰が曲がって皺くちゃになって、それでも……それでも俺は……」

「それでも、待ってくれるのか」

「当たり前だろう! 好きなんだから……ずっと待つよ。いや、探しに行く! だってまだ、好きだって伝えてないのに、諦められない!」

「諦められたら困る。もう、離すつもりはないから」

「えっ……」

 感情に任せて叫んでいたが、途中から喋るように声を上げていた。
 そしてその声が、よく耳に馴染んだものだと気がついてばっと顔を上げた。

 気まぐれな森の妖精が俺に幻聴を聞かせているのかと思ったのに、今度は目の前に幻まで見えてしまって、ついにおかしくなったのかと愕然とした。

「はははっ……よくできた幻、髭まで生えているなんて……」

「待たせたな。まさか、ひと月以上かかるとは思っていなかった。それにしても、そんなものを持って夜中に走り出すなんて、いったい何をしているんだ?」

 幻のパラディはやけにリアルで、どしどしと歩いてきて、俺の横にしゃがみ込むと頬に流れ落ちていた涙を指で拭った。

「幻のくせに、カッコいいことして……」

「幻とはひどいな。さっき熱烈な愛の告白を俺にしてくれたんじゃないのか? ジジィになっても愛してくれるんだろう。最高のプロポーズだな」

「は…………ほっ……本物!?」

「そうだ」

「なんでこのタイミング!? いつ帰ってきたの!? 嘘だろう!?」

「さっき着いたばかりだ。途中の橋が長雨で流されて、二週間も渡って来られなかった。ようやく舟で移動して、馬を借りて夜通し走ってきたんだ。それで早く会いたくてランの家に……」

「嘘だろう!? え? えっ? じゃあ、さっき俺の家の前に立っていたやつはオランジュ? なんだ、だったらなんですぐにそう言って……」

「待て、なんだその話は……? 俺は家から走っていくお前が見えたから追いかけたんだ」

 どうも話が噛み合わなくて二人して顔を見合わせてしまった。どうやら不審者は別にちゃんといたようで、パラディに促されてここまで来た経緯を話すことになった。





「不審者に近づいてフライパン持って追いかけるとか……、はぁ……もう倒れそうだ」

 俺の横に座って話を聞いていたパラディは、両手で顔を覆ってしまった。確かに自分で説明していて、なんて無謀なことをしてしまったのかと、今さら恐ろしくなってしまった。

「ええと……あの時はもう、夢中で……。でも、オランジュじゃないってことは、俺の家の前にいたやつは他にいるってことだ。大変だ、村長に伝えて大捜索をしないと……」

「いや、いい。森の奥へ逃げたのなら、そのまま川を下って消えただろう。探しても無駄だ」

「えっ……、あ、そう……かな」

 珍しいなと思った。
 こういう不穏な事態には徹底的に動いて確かめそうなタイプだと思ったが、腕っぷしに自信があるからか、やけに諦めが早いなと思ってしまった。

「それより、約束してくれ。今回は側にいられなかったが、何かあったら俺にまず相談、できなければ無茶はしないと」

「わ……分かった。……というか、遅かった! 仕事だから、仕方がないけど、あんなことを言ってさっさと行ってしまうなんて、残された俺がどんな気持ちだったか分かる?」

「それは……すまなかった。しばらく会えないと思ったら、気持ちが昂ってしまって……。でもこうしてまた会えて、俺のことをずっと待ってくれるなんて言葉を聞けて、嬉しかったよ」

「用事は……ちゃんと終わらせて来たんですか?」

「なんだまた、かしこまって、もう普通に話してくれ。終わらせて来たぞ。これで静かになるだろう」

「良かった……。なんだかもう会えないみたいで……辛かった。すごく、すごく会いたかった」

「ラン……」

 二人で見つめ合った時、朝日が昇ってきて辺りがパッと明るくなった。
 そして二人が座っている前方が朝日を浴びて、それよりももっと明るい輝きを放ってきた。

「なんだあれは……」

「俺もこの目で見たのは初めて……、あれが七色に輝く池、明け方朝日が昇る瞬間だけ、水面が光るんだって……」

 不審者を追って迷い込んだ森、たまたま座った場所からほど近くに話に聞いていた池があったなんて驚いてしまった。それと同時に言い伝えを思い出した俺は、今だと息を呑み込んで、パラディの方に体の向きを変えた。

「俺の名前は、テンペランス・カラン・ヴィーヴル。ヴィーヴル公爵家の次男で、この帝国の皇太子であるフィエルテ殿下の婚約者だった。争いに敗れて、罰としてこの地に送られて、今は平民のランとして生きている。人を愛することなんてないと思ってきたけれど、今俺の心にはオランジュがいる。好きだ、愛してる。俺と一緒に生きて欲しい……これからもずっと……」

 緊張で声が震えてしまった。
 だけど精一杯気持ちを込めた。
 皇太子の元婚約者なんて、どう考えても面倒な相手だ。もし、やっぱり無理だと断られたら……
 嫌な想像ばかり浮かんできて、震えていた俺の手を、パラディは力強く掴んできた。

「ああ、もちろんだ。俺も愛している」

 ぐっと引き寄せられて、パラディの胸の中に閉じ込められるように、強く抱きしめられた。

「俺のことについては、複雑なものがあってすぐには打ち明けられないが……テンペランスを好きな気持ちは本当だ。お前のためなら命も惜しくない。信じてくれるか?」

「うん……、何が真実とかどうでもいい。オランジュが側にいてくれるなら、他には何もいらないし、何も望まない」

「ラン……今すぐ、お前を抱きたい」

 パラディこと、オランジュの掠れた低い声が耳元で聞こえてきて、ビクッと背中を揺らした。

 きっとオランジュ、という名前にも複雑な事情があるのだろう。
 時が来たら、オランジュはきっと話してくれるだろう。それまでゆっくり待とう、いつまでだって待ち続けられる。

 隙間なく抱き合っていたら、オランジュの昂りを押し付けられた。すでにガチガチに硬くなっていて、俺の尻の奥がぎゅっと疼いてしまった。

「丁寧に愛したいが、久しぶりのランが愛おしすぎて、もうこの時点で限界なんだ。すぐに挿入ってもいいか?」

 そう言いながら、オランジュは俺のズボンの前を開けて下着もスルスルと下ろしてしまった。
 剥き出しになった尻を揉まれながら撫でられて、俺もすっかり勃ち上がってしまった。
 同じく興奮ですぐにでも達しそうだが、男同士は色々と問題があるのではと冷静な俺が心の中で慌てていた。

「あ、ちょっ、待って。男同士って、その……色々と準備が……アソコに入れるんだろう?」

「準備?……貴族の令息だったくせに、房事のレッスンを受けなかったのか? ここは、前が勃って刺激を受ければ、女のソコと同じで自然に緩んで潤うんだぞ、ほら……」

「へ? うう、嘘っっ、あっっ……」

 オランジュが俺の後ろに指を這わせて、孔を刺激したら、すぐにするりと指が入ってしまった。
 しかも、自分でも蜜が溢れるのが分かるくらいで、指で弄られたらビチャビチャと卑猥な音が漏れてきた。

 さすが恐るべきBLゲームの世界だ。本編は18禁ではなかったが、しっかりと体の作りまでそういう設定になっているのだと驚いた。

「で、ランの匂いでイッてしまいそうなくらい限界なんだが、もういいか?」

「んぁっ……ぁぁ……、あっ、う……うん、いい……よ」

 すでに指を何本か入れられて、ぐるりと中をかき回された。痛みはなく、代わりに込み上がってきたのは快感だったので、大丈夫そうだと思った俺はコクンと頷いた。

 草の上に押し倒されて、オランジュが覆いかぶさってきた。後ろの蕾に灼熱のモノを当てられて、息を吐く暇もなく、ズブズブと中へ押し挿入ってきた。

「くっっ……なんて、熱さだ。蜜でとろとろなのに、ぎゅうぎゅう締め付けてくる」

「んっぅ……ふぅ……、おおき……ぁぁ、すごい」

 痛みよりも圧迫感で苦しかったが、オランジュがしばらく馴染むように動かないでいてくれたので、だんだん体の一部のようになって苦しさはなくなった。

「すこ……し、動いてもいいか?」

「うん、いい……ぜんぶ、はいってる?」

「ああ、半分以上は……ラン、ちょっと力を緩めて……くれ」

「だっ……て、オランジュのおおき……の、きもちい……い、から、も……おく、へんになっちゃ……」

「くそっ、可愛すぎる……っっ」

 必死に堪えていたようなオランジュだったが、獣のように唸り声を上げた後、いきなり奥まで達するくらい深く突いてきた。
 強烈な快感に、目の前がチカチカと光って揺れてしまったが、休む暇もなく、ガンガンと腰をぶつけるように激しいピストンが始まってしまった。

「あっ、あっ……アン……あっ……いっ……ふっ……ああっ、そこぉ……あついぃ」

「ここか? ここを擦るとぎゅっと締まるな」

「ううっ……きもちい……そこっ、もっとついて、こすって……」

「ああ、たまらな……、俺ので乱れるラン……最高だ……ずっと見ていたい」

 強すぎる快感でおかしくなりそうで、頭を振って感じていたら、俺の足を持ち上げたオランジュは、深く突き入れながら唇を吸ってきた。
 俺も舌を出して愛撫に応えながら、オランジュの唇の甘さにクラクラと酔ってしまった。

 キスもセックスも頭がおかしくなりそうなくらい気持ちいい。世の中にこんなに気持ちいいものがあるのかと思ったが、それはオランジュに触れられるだけで、どこもかしこも気持ちいいのだと気がついた。

「くっっ、ラン……ラン、そろそろ……出そうだ」

「あうぅぅ、オランジュ、俺のも……さわって、一緒にイキたい……」

 お願いした通り、オランジュは俺のモノを手で掴んで擦ってくれた。
 前からも後ろからも強烈な快感を受けて、我慢できなくなった俺は大きく喘ぎながら白濁を飛び散らせた。
 止まらない快感にビクビクと腰を揺らしていたら、奥に深く突き入れたオランジュも熱い息を吐いて俺の中に放った。

「あぁぁぁ……っっ、ナカに……熱いの……いっぱい出てる」

 腹の中に熱い飛沫を感じたら、それもまた快感で、感じすぎて怖くなった俺はオランジュにしがみついた。
 オランジュはそんな俺を、優しく包み込むように抱きしめてくれた。

 しばらくそのまま、裸で抱き合ってオランジュに温められた俺は、意識がとろけてきて眠くなった。
 この胸にある温かさの名前が、ぼんやりと浮かんできそうだった。

「こんなに可愛いランを捨てるなんて、あの男もつくづくアホだな」

「もぅ……オランジュ、そんなことを言ったら……」

「未練はないんだろう?」

「もちろん……どうでもいいよ……。俺が好きなのはオランジュだから」

「良かった。未練があるなんて言われたら、ヤツに消えてもらうところだった」

「ふふふっ、またそんな冗談。でも、……そこまで想ってくれたのは、嬉しいな」

 本気で人でも殺しそうな鋭い目をしたオランジュに顔を寄せて、目元にキスをした。
 金色の目が俺を映した時、鋭さは消えて、甘く細められた。

「テンペランス、愛してる。永遠に……」

 胸の奥に宿った熱が、指先までじんわりと体を温めていく。
 ゆっくりと目を閉じると、もっと温かいものが唇に重なってきた。

 七色の光に照らされた俺達は、永遠に愛し合うことができる。
 ラブラブイベントみたいな伝説も、オランジュと一緒なら悪くないなと思って、キスをしながらこっそり笑ってしまった。


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