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本編
⑨壁の花をつかまえて
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パーティーまでの日は、矢のように速く過ぎていった。メリルの手配でダンスの講師が呼ばれて、レッスンを受けたが、やはり酷い音楽センスで、ぎこちない動きしか出来ず、早々に諦めた。
当日、ダンスは若い人に任せて、と言いながら、壁にへばりついて、微笑んでいようと決めた。
テレシアについては、前回、気持ちを持ち上げる事に失敗したので、パーティーでは、やる気になるような声かけをしようと心に決めた。
しかし、正直なところ。シオン王子は、どうも戯れが過ぎるというか、あんな性格だったのかと、引いている部分もある。テレシアは王子と結婚するのが、幸せだと思ってきたが、何が良いのかよく分からなくなってきた。
だが、王子との結婚の問題がクリア出来ないと、実家の問題が付いて回るのだ。
テレシアは王子と結婚する事により、うるさい父親とも離れる事が出来る。彼らもさすがに、王家にまで金の無心にはいけないので、父親から解放されるというのも、テレシアの結婚のテーマになっているのだ。
どうすることが、一番良いのか、決めかねたまま、当日を迎えた。
会場へ向かう馬車の中では、アルヴィンと二人きりになった。
「ダンスの練習で、足を痛めたと聞いたけど、大丈夫?」
「大したことは無いです。無理をすると少し痛むくらいで。ただ、今日はお見苦しいところを見せたくはないので、私はダンスは遠慮させていただきますね」
出来れば、ダンスという、言葉も聞きたくないくらいなんです、という言葉を飲み込んで、曖昧に痛みでとごまかした。しかし、この手は何度も使えないので、後々レッスンはちゃんと受ける必要があるだろう。
どうして、社交とダンスはセットなのか、憂鬱な気持ちで、視線を上げると、向い合わせで座っているアルヴィンと、バッチリ目が合った。
「アルヴィン?」
「ん?」
呼び掛けて答えてくれたが、いっこうに視線を外してくれない。こちらも、タイミングが分からず、ずっと見つめ合う感じになってしまい、恥ずかしくなってきた。
「あの、あまり、見ないでください。何だか恥ずかしいです」
とうとう耐えきれずに、手で顔を覆った。
「ふふっ、ごめん。グレイスがとても可愛いから、つい見てしまうんだ。それに、今日は、その首飾りも付けてくれたし、嬉しくてね」
(なんだ…、首飾りを確認していたのかな…?)
アルヴィンが顔を覆っていた私の手に触れた。
「グレイス、ほら、手をどけて。私にまた君の顔を見せておくれ」
「だめです。今、とても変な顔をしていますから」
「いいよ。どんな顔でも笑わない」
多分、真っ赤で、ゆでダコのようになっているだろう。しかし、ずっと隠しているわけにもいかないので、そっと手を外して、アルヴィンの方を見た。
笑わないと言っていたはずのアルヴィンだが、やっぱり声を出して笑った。
「ひどいっ、やっぱり、笑った!」
抗議するように、伸ばした手を、アルヴィンが掴んで、そのまま自分の方へ引き寄せた。
離れて座っていたのに、今はアルヴィンの膝の上に乗って、少し見下ろすようになってしまった。
「不思議だ。グレイスは、私よりも年上のはずなのに、ちゃんと話してみると、ずっと年下の少女と話しているみたいだ」
核心をついた意見に、ドキっとさせられる。確かにその通りだし、背伸びしている事を見抜かれているようだ。
言い訳でもいいし、もしくは、話題を逸らせようと、考えを巡らしていたら、アルヴィンの手が私の頭の後ろに添えられた。
「ほら、よそ見しないで、可愛い人」
添えられた手に力が加わって、アルヴィンの方へ引き寄せられた。初めは右の目、次は左の目、最後はおでこにキスをされた。
「わわわっ、アルヴィン!!何を?」
「ふふふっ、だめかな?」
「あ、あの……だめって、訳じゃないですけど!心の準備が……」
アルヴィンは、いったい、どういうつもりなのか。そういえば、最近、二人だけになると、視線を感じたり、やけに絡んできたりしておかしかった。
(もしや、大人とは、このくらい、みんな挨拶程度に交わすものなのか、自分でもそんな事ないだろうと突っ込みたくなるが、アルヴィンは、からかっているとしか思えない)
旦那様の意外な一面を知ってしまい、軽くショックと、ドキドキとで、頭はパンクしそうになった。
これから、パーティーだというのに、動揺させたり期待させるのはやめて欲しい。
心臓に悪い馬車ドライブが終わり、やっと会場についた頃には、精神的にヘトヘトになっていた。
アルヴィンの、腕に手をかけて、会場入りすると、早速、テレシアが近づいてきた。アルヴィンと、軽く話をしたあと、アルヴィンは挨拶があるからと、私とテレシアを残して会場を回りに行った。
「お姉さま、また可愛くなられました?というか、なんか、ピンク色のムンムンとしたオーラが……」
「なによそれ。ムンムンってなに?」
「私にも分かりませんよ。言葉に言い表せないものです」
テレシアが、わけの分からない、スピリチュアル的なことを言っていたが、そんなものに、ハマっている場合ではないので、私は早速、本題を切り出した。
「テレシア!アナタは芋洗いの煮っころがしで、金持ちなんてやめて、近くので我慢しなさい」
「はぁ?お姉さま?何を言っておられますの?」
「だから、私に言われたことで、奮起して!もっと上を目指そうと…」
「お姉さま!ちょっと黙ってください!報告があるのです。私、イーサンとお付き合いすることになりました」
「へ?お付き合い?おっ、おめでとう……、ん?んんん?いっ…、イーサンですって!?」
思いもよらない名前が出て来て、後ろにのけ反りそうになった。
(よりにもよって、イーサン!?)
「まだ、お父様には、内緒です。お姉さまに、気が合う相手がいたら、すぐに告白しろと助言を頂いたので、私から思いを伝えて、付き合うことになりました」
(そういえば、そんな事言ってたー!!嘘でしょ!あの、トンデモアドバイスが!?っていうか、テレシア積極的スキル、そんなところで発揮してどうする!?)
「お姉さま、どうして、そんな困った顔をしていらっしゃるの?私、愛は、お金ではないと気がついたのです。違いますか?」
気がつくと、周りで聞き耳を立てている連中が、チラホラいた。こういった、令嬢のゴシップネタはかっこうの餌なのだろう。
テレシアが興奮して、声を上げるものだから、よけいに目立ってしまう。
「それは、そうですけど……」
「私は、お金があっても、幸せではない、お姉さまのようになりたくないのです!!」
ハッキリと肯定しない私の態度に、テレシアはカっとなって口を滑らせてしまったようだ。
口に出してから、言い過ぎたという顔をして、パタパタと、会場の奥の方へ行ってしまった。
周りからは、クスクスという誰ともない、笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ、お子様ねぇ……。愛とお金は表と裏、どちらかが欠ければ、どちらも形が崩れてしまうのに。ねぇ、グレイス、そうでしょう?」
リアル恋愛マスターの、格言みたいなのが聞こえてきた。色っぽい声に思わず、振り向くと、艶のある紫の髪の毛に、たれ目に涙ぼくろ、ぽってりした赤い唇、出るとこ出て、締まるとこ締まった、まさに師匠みたいな神々しい女性が立っていた。
(まっ…眩しい、知り合い?名前呼ばれたし)
「そうね、そういうこともあるかしら」
適当に話を合わせて、周りの声に耳を傾けてみた。
見ろよ、ラブリ様は今日もなんて美しい……みたいな事を言っているのが聞こえた。この女神は、ラブリというのだろうか。
「それにしても、グレイス?ずいぶん雰囲気が変わったわね。ずっと姿が見えなかったし。今度は誰とラブゲームをしているの?」
「らっ……ラブゲーム!?」
これは、恐れていたというか、想定していたことだ。グレイスが遊んでいたことを、知っている人はたくさんいるだろうけど、誰か詳細を知る、仲間みたいな人がいるかもしれないと思っていたのだ。
「ゴホンッ、私そういったお遊びは、やめにしました。人妻であるのですから、本来の旦那様を支えることが、大事であると気がついたのです」
こういった悪友には、きっぱりと言っておかないと、後々まで声をかけられても困ることになる。
「そう……、つまらないわね。もっと一緒にブイブイ言わせたかったのに。残念。でも、グレイス、これでアナタも……やっと」
ラブリー女神が近づいてきて、私の耳元に口を寄せた。
「本当に女になれるのね」
ゾクゾクっと、痺れるような感覚が広がり、別の世界に引き込まれそうになって、慌てて顔を振って、後ろに下がった。
(女神!手強すぎる!どういう意味?しかし聞きたくても、火傷しそうで近寄れないわ!)
多分ラブリは、フンフン鼻歌を歌いながら、手をヒラヒラさせて、行ってしまった。
こんなところにいたら、心臓に悪すぎると、アルヴィンを探すが、人が多くて、目に入らない。
とりあえず、目立ちたくないので、人気のない場所を探して、会場の奥へ奥へと進んだ。
広間では、音楽が聞こえてきて、ダンスが始まったらしい。
みんな、そちらに、吸い寄せられるように集まっていったので、一気に人気はなくなった。
ほっとして、長いカーテンの近くに寄ったとき、隙間から手が出てきて、カーテンの中に、引き込まれてしまった。
「うわぁ!……何?えっ………!?」
びっくりして、つぶってしまった目をゆっくり開くと、そこにはサラサラの銀髪をなびかせて、シオン王子が立っていた。
「グレイス、捕まえた」
鬼ごっこの、鬼に捕まったみたいに、言われて、状況が飲み込めずに体が固まった。
「君とゆっくり話してみたかったんだ」
ただのお話では、終わらない予感しかない。
全く、今日はなんて日なのと、目まぐるしい展開に、ため息しか出なかった。
□□□
当日、ダンスは若い人に任せて、と言いながら、壁にへばりついて、微笑んでいようと決めた。
テレシアについては、前回、気持ちを持ち上げる事に失敗したので、パーティーでは、やる気になるような声かけをしようと心に決めた。
しかし、正直なところ。シオン王子は、どうも戯れが過ぎるというか、あんな性格だったのかと、引いている部分もある。テレシアは王子と結婚するのが、幸せだと思ってきたが、何が良いのかよく分からなくなってきた。
だが、王子との結婚の問題がクリア出来ないと、実家の問題が付いて回るのだ。
テレシアは王子と結婚する事により、うるさい父親とも離れる事が出来る。彼らもさすがに、王家にまで金の無心にはいけないので、父親から解放されるというのも、テレシアの結婚のテーマになっているのだ。
どうすることが、一番良いのか、決めかねたまま、当日を迎えた。
会場へ向かう馬車の中では、アルヴィンと二人きりになった。
「ダンスの練習で、足を痛めたと聞いたけど、大丈夫?」
「大したことは無いです。無理をすると少し痛むくらいで。ただ、今日はお見苦しいところを見せたくはないので、私はダンスは遠慮させていただきますね」
出来れば、ダンスという、言葉も聞きたくないくらいなんです、という言葉を飲み込んで、曖昧に痛みでとごまかした。しかし、この手は何度も使えないので、後々レッスンはちゃんと受ける必要があるだろう。
どうして、社交とダンスはセットなのか、憂鬱な気持ちで、視線を上げると、向い合わせで座っているアルヴィンと、バッチリ目が合った。
「アルヴィン?」
「ん?」
呼び掛けて答えてくれたが、いっこうに視線を外してくれない。こちらも、タイミングが分からず、ずっと見つめ合う感じになってしまい、恥ずかしくなってきた。
「あの、あまり、見ないでください。何だか恥ずかしいです」
とうとう耐えきれずに、手で顔を覆った。
「ふふっ、ごめん。グレイスがとても可愛いから、つい見てしまうんだ。それに、今日は、その首飾りも付けてくれたし、嬉しくてね」
(なんだ…、首飾りを確認していたのかな…?)
アルヴィンが顔を覆っていた私の手に触れた。
「グレイス、ほら、手をどけて。私にまた君の顔を見せておくれ」
「だめです。今、とても変な顔をしていますから」
「いいよ。どんな顔でも笑わない」
多分、真っ赤で、ゆでダコのようになっているだろう。しかし、ずっと隠しているわけにもいかないので、そっと手を外して、アルヴィンの方を見た。
笑わないと言っていたはずのアルヴィンだが、やっぱり声を出して笑った。
「ひどいっ、やっぱり、笑った!」
抗議するように、伸ばした手を、アルヴィンが掴んで、そのまま自分の方へ引き寄せた。
離れて座っていたのに、今はアルヴィンの膝の上に乗って、少し見下ろすようになってしまった。
「不思議だ。グレイスは、私よりも年上のはずなのに、ちゃんと話してみると、ずっと年下の少女と話しているみたいだ」
核心をついた意見に、ドキっとさせられる。確かにその通りだし、背伸びしている事を見抜かれているようだ。
言い訳でもいいし、もしくは、話題を逸らせようと、考えを巡らしていたら、アルヴィンの手が私の頭の後ろに添えられた。
「ほら、よそ見しないで、可愛い人」
添えられた手に力が加わって、アルヴィンの方へ引き寄せられた。初めは右の目、次は左の目、最後はおでこにキスをされた。
「わわわっ、アルヴィン!!何を?」
「ふふふっ、だめかな?」
「あ、あの……だめって、訳じゃないですけど!心の準備が……」
アルヴィンは、いったい、どういうつもりなのか。そういえば、最近、二人だけになると、視線を感じたり、やけに絡んできたりしておかしかった。
(もしや、大人とは、このくらい、みんな挨拶程度に交わすものなのか、自分でもそんな事ないだろうと突っ込みたくなるが、アルヴィンは、からかっているとしか思えない)
旦那様の意外な一面を知ってしまい、軽くショックと、ドキドキとで、頭はパンクしそうになった。
これから、パーティーだというのに、動揺させたり期待させるのはやめて欲しい。
心臓に悪い馬車ドライブが終わり、やっと会場についた頃には、精神的にヘトヘトになっていた。
アルヴィンの、腕に手をかけて、会場入りすると、早速、テレシアが近づいてきた。アルヴィンと、軽く話をしたあと、アルヴィンは挨拶があるからと、私とテレシアを残して会場を回りに行った。
「お姉さま、また可愛くなられました?というか、なんか、ピンク色のムンムンとしたオーラが……」
「なによそれ。ムンムンってなに?」
「私にも分かりませんよ。言葉に言い表せないものです」
テレシアが、わけの分からない、スピリチュアル的なことを言っていたが、そんなものに、ハマっている場合ではないので、私は早速、本題を切り出した。
「テレシア!アナタは芋洗いの煮っころがしで、金持ちなんてやめて、近くので我慢しなさい」
「はぁ?お姉さま?何を言っておられますの?」
「だから、私に言われたことで、奮起して!もっと上を目指そうと…」
「お姉さま!ちょっと黙ってください!報告があるのです。私、イーサンとお付き合いすることになりました」
「へ?お付き合い?おっ、おめでとう……、ん?んんん?いっ…、イーサンですって!?」
思いもよらない名前が出て来て、後ろにのけ反りそうになった。
(よりにもよって、イーサン!?)
「まだ、お父様には、内緒です。お姉さまに、気が合う相手がいたら、すぐに告白しろと助言を頂いたので、私から思いを伝えて、付き合うことになりました」
(そういえば、そんな事言ってたー!!嘘でしょ!あの、トンデモアドバイスが!?っていうか、テレシア積極的スキル、そんなところで発揮してどうする!?)
「お姉さま、どうして、そんな困った顔をしていらっしゃるの?私、愛は、お金ではないと気がついたのです。違いますか?」
気がつくと、周りで聞き耳を立てている連中が、チラホラいた。こういった、令嬢のゴシップネタはかっこうの餌なのだろう。
テレシアが興奮して、声を上げるものだから、よけいに目立ってしまう。
「それは、そうですけど……」
「私は、お金があっても、幸せではない、お姉さまのようになりたくないのです!!」
ハッキリと肯定しない私の態度に、テレシアはカっとなって口を滑らせてしまったようだ。
口に出してから、言い過ぎたという顔をして、パタパタと、会場の奥の方へ行ってしまった。
周りからは、クスクスという誰ともない、笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ、お子様ねぇ……。愛とお金は表と裏、どちらかが欠ければ、どちらも形が崩れてしまうのに。ねぇ、グレイス、そうでしょう?」
リアル恋愛マスターの、格言みたいなのが聞こえてきた。色っぽい声に思わず、振り向くと、艶のある紫の髪の毛に、たれ目に涙ぼくろ、ぽってりした赤い唇、出るとこ出て、締まるとこ締まった、まさに師匠みたいな神々しい女性が立っていた。
(まっ…眩しい、知り合い?名前呼ばれたし)
「そうね、そういうこともあるかしら」
適当に話を合わせて、周りの声に耳を傾けてみた。
見ろよ、ラブリ様は今日もなんて美しい……みたいな事を言っているのが聞こえた。この女神は、ラブリというのだろうか。
「それにしても、グレイス?ずいぶん雰囲気が変わったわね。ずっと姿が見えなかったし。今度は誰とラブゲームをしているの?」
「らっ……ラブゲーム!?」
これは、恐れていたというか、想定していたことだ。グレイスが遊んでいたことを、知っている人はたくさんいるだろうけど、誰か詳細を知る、仲間みたいな人がいるかもしれないと思っていたのだ。
「ゴホンッ、私そういったお遊びは、やめにしました。人妻であるのですから、本来の旦那様を支えることが、大事であると気がついたのです」
こういった悪友には、きっぱりと言っておかないと、後々まで声をかけられても困ることになる。
「そう……、つまらないわね。もっと一緒にブイブイ言わせたかったのに。残念。でも、グレイス、これでアナタも……やっと」
ラブリー女神が近づいてきて、私の耳元に口を寄せた。
「本当に女になれるのね」
ゾクゾクっと、痺れるような感覚が広がり、別の世界に引き込まれそうになって、慌てて顔を振って、後ろに下がった。
(女神!手強すぎる!どういう意味?しかし聞きたくても、火傷しそうで近寄れないわ!)
多分ラブリは、フンフン鼻歌を歌いながら、手をヒラヒラさせて、行ってしまった。
こんなところにいたら、心臓に悪すぎると、アルヴィンを探すが、人が多くて、目に入らない。
とりあえず、目立ちたくないので、人気のない場所を探して、会場の奥へ奥へと進んだ。
広間では、音楽が聞こえてきて、ダンスが始まったらしい。
みんな、そちらに、吸い寄せられるように集まっていったので、一気に人気はなくなった。
ほっとして、長いカーテンの近くに寄ったとき、隙間から手が出てきて、カーテンの中に、引き込まれてしまった。
「うわぁ!……何?えっ………!?」
びっくりして、つぶってしまった目をゆっくり開くと、そこにはサラサラの銀髪をなびかせて、シオン王子が立っていた。
「グレイス、捕まえた」
鬼ごっこの、鬼に捕まったみたいに、言われて、状況が飲み込めずに体が固まった。
「君とゆっくり話してみたかったんだ」
ただのお話では、終わらない予感しかない。
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