御姉様なんて、私にはハードル高すぎます!

朝顔

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本編

⑬素敵な恋

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「ほら、よく見せてくれ」

「もう大丈夫ですよ。そんなに言われるほど、腫れてないですから」

 実家から、帰りの馬車の中。
 アルヴィンは私の隣に並び、口元の傷に、濡らしたハンカチを当てた。

 冷たさがしみて、少し痛んだが、目をつぶって耐えた。

「君はそうやって、一人で耐えていたんだね」

「アルヴィン、私に話があるといってくれましたよね、それは、今日が五年目になるからという事ですか?」

 本当は屋敷について、落ち着いてからとも思ったが、黙っていられなくて、聞いてしまった。

「そうだ。改めて今後の話をしようとしたんだ」

「以前、取り決めについて聞いたとき、気持ちは変わらないと言っていましたよね?」

「ああ。グレイスと結婚した時、私はこの結婚をずっと続けていくつもりだった。君が自由恋愛と決めて、好きに付き合うようになっても、その気持ちは変わらなかった。もちろん、その間、私とて、聖人のように生きていたわけではない。だが、心にはいつも、君がいて、いつか心を開いてくれるのではないかという、淡い期待を持っていた」

 いつまでも待っていないで、ちゃんと向き合うべきだったが、拒否されるのが、怖かったんだと、アルヴィンは言った。

 グレイスはアルヴィンに嫌われていると思い込んでいた。アルヴィンは、嫌われたくないから、近づかなかった。

 なんだか、みんな勝手に思い込んだり、結論出したり、待ってみたり、そんなまどろっこしい事しているから、結局すれ違ってしまっている。大人の恋愛というのは、難しいものだ。

 もっと、シンプルでいいと思った。
 ちゃんと言わないからこそ、こんがらがってしまうんだ。

「アルヴィン」

「うん?」

「私、アルヴィンのこと、好きです」

「ぐっ……グレイス……」

 突然の告白に、パンチをくらったみたいに、アルヴィンは、びっくりした顔をしていた。

「多分、ずっと前、初めて会った時から、好きだったんだと思います。ちゃんと自覚したのは、最近ですが。今日もきっと、離縁を言い渡されると思っていました。アルヴィンは、あのティファニーさんと一緒になるのかなとも」

「え!?ちょっと、待って!それは…ない!」

「だって…、元恋人で、いまも親しくしていて、ティファニーさんも、次は自分だと宣言してましたし!」

「なっ!アイツ!そんな事を言ったのか!……確かに元恋人だが、それは、グレイスとの結婚前で……、サイモンの関係があって、親しくしているが、その、アイツは今、別の方に目覚めていて……それは、まぁいい」

 どうやら、違うようでホッとした。焦り出して、軽くパニックになっているアルヴィンを見るというのも、なかなか楽しく思えてきた。

「叶わないなら、気持ちは隠したほうがいいと思いましたが、もうやめます!私、アルヴィンが大好きです!アル……うぐっ」

 自分の事をどう思っているのか、聞こうとしたが、続きは、唇を奪われて、言うことが出来なかった。

「待って、待って、それ以上、先に言わないでくれ。男のプライドというものもあってね。少しはリードさせて欲しい」

(だってしょうがないじゃん!心は16歳だから、ガツガツしていますよ!)

「……グレイス、愛してる」

 真剣な目をしたアルヴィンに、見つめられたまま言われたら、体がゾクゾクと波打ったように震えた。

「……ずるい、そんな、大人な言い方」

 だってもう大人だろうとアルヴィンに笑われた。れんの話はいつかしたいが、今はややこしいのでやめおこうと思った。

「じゃあ、次は大人のキスをしようか」

「え?そんなものがあるの?」

「君は……どういう……」

 アルヴィンが、なぜか責めるような目で見てきて、なんのことかと思った。

「分かった。煽ったのはグレイスだからな」

 大人を甘く見ていた私は、この後、身をもって知ることとなったのであった。



 □□□


 その後、数々の罪が暴き出されたお父様は、禁固刑となり、地下牢におくられた。

 マルクは、お父様に命令されていたということで、不問となり、家督を継いで、今はアルヴィンの下で働いている。

 テレシアは、無事、イーサンと婚約して、近々、結婚の予定だ。

 そして、モンティーヌ伯爵邸は、今日も騒がしかった。

「今度、私の家に遊びにいらして。絶対退屈はさせないわ。女同士の楽しいお話をしましょう」

 お父様の件が片付いて以来、ティファニーがよく訪ねてきて、お茶の時間を一緒にするようになってしまった。すっかり友人のようだ。ちゃんと話してみると、気さくなお姉様という感じだった。

「ええ、それはいいけど」

「当日まで、絶対にアルには内緒よ」

「絶対にだめだ!!」

 どこで聞いていたのか、扉がバンと開き、アルヴィンが入ってきた。

「あら!アルいたの。今日は仕事でしょう」

「嫌な予感がしてね。戻ってきて良かった」

 この二人は、未だに、仲が良いのか悪いのか分からない。

「グレイス、絶対にティファニーの家に行ってはいけないからな」

「まぁ、男の嫉妬ほど、醜いものはないわね」

「うるさい!ティファニー、お前の趣味にグレイスを付き合わせるな!」

「趣味?趣味で片付けないで、今や私の人生そのもの。そして、もう、見ているだけで、食べたくてたまらないのよー!」

「なんですか?お菓子作りとかですか?」

「グレイス!君はいいんだ。ティファニーのことは考えるな!」

「何よ!自分だって同じ事を考えてるくせに!」

「ティファニー!もう!出入り禁止!」

(やっぱり、仲良いのか謎の関係だ…)


 □□□


 ティファニーが帰った後、やっと屋敷に静けさが戻った。

「アルヴィンが、今日早くお帰りになったので、ちょうど良かったです」

「なに?どうした?」

「ずっと、一人の方が気楽だったので、自分の部屋にいましたけど、さっきティファニーにも言われて、やっぱり、夫婦は一緒の部屋でないとおかしいと……」

「くっ………、アイツに言われるとは………」

「その、だめですか?」

「え?何がだ?」

「アルヴィンと一緒に寝たいです。だめですか?」

 アルヴィンは、気まずそうな、なんとも言えない顔をした。

「ダメなわけないだろう。ずっと言いたくて、機会を逃して、いつ、言おうか、悩んでいたのに……、また君に先を越されてしまった」

 悩んでいて、言えなかったということらしく、全く大人というのは、面倒だ。

「もういい!男のプライドなんて知るか!グレイス、ほら、私たちの部屋にいこう」

「え?お昼寝ですか!?そんなにお疲れだったとは……」

「……いや、疲れるのはこれからだ」

「え?」

「今日はもう離さないから」

 アルヴィンに手を引かれて歩いた。

 それは、甘い甘い夫婦の時間の始まりで、

 私の恋が、愛に変わる、その始まりでもあった。


 □□完□
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