深淵に囚われて

朝顔

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10、楽園

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「殺したい」

 薔薇の花のような美しい唇から、その言葉が紡がれた時、俺はもう彼のために生きると決めた。

「分かった。それなら僕があの二人を殺したら、僕とずっと一緒にいてくれる?」

 そう言うとその人は、唇の端を上げて微笑んだ。
 水に濡れたような瞳の奥に吸い込まれていきそうだった。
 いや、その時に、俺はもう囚われてしまったのだと思う。








「ああ、うん、分かった。お金は振り込んだから、確認したらもう辞めてもいいよ。また必要だったら言って」

 そう言って電話を切ってペットボトルに入った水をごくごくと飲み干した。
 昔から金で動いて金で話がつく相手だから分かりやすくていい。
 父と別れてあの家から出ていく時も、金回りが悪くなった父と喧嘩したからだ。
 再婚して生活は落ち着いたらしいが、まだギャンブルはやめられない。
 バカな人だと思うが、そのおかげで色々と使えるので利用している。

 チラリと寝室を覗くと、兄の春樹は気持ち良さそうに寝息を立てて寝ていたので、クスリと笑ってからそっとドアを閉めた。





 春樹と初めて会った時、本当に春の桜の木から現れたような美しい妖精のような姿に、言葉を失い目が釘付けになった。

 色白の肌に赤い唇が映えていて、綺麗だと思った。
 そして、黒目がちで大きな瞳は鴉の羽のように黒くてしっとりと濡れていた。

「初めまして、理玖くん。これからよろしくね」

 ふわりと微笑んだ顔を見たら、やはり桜の花びらが舞っているかのように錯覚してしまった。

 思わず妖精なの? と聞いてしまい、また笑われてしまった。

 当時俺は体が弱く、すぐに体調を壊して寝込むことが多かった。
 春樹はそんな俺の部屋に遊びに来て、よく話し相手になって遊んでくれた。

 俺の親子関係は複雑だった。
 物心ついた時から、両親は喧嘩ばかりだった。二人とも我が強くて好き勝手やる性格なので、まともに俺の相手などしなかった。
 外には出れなかったので、本やスマホを与えられて一人で過ごすことが多かった。
 そのため、母が離婚して家を出ていく時も、これでうるさいのがいなくなったくらいの達観した性格の子供に成長していた。

 そんなことだったから、父が再婚すると聞いた時、うんざりした気持ちになった。
 変なのが来て、うるさく身の回りの世話なんて始められたら不快だと思った。
 もうその頃は自分のことはほとんど自分でやっていたからだ。

 だから再婚相手の女性を見た時、心底嫌な気持ちになった。
 化粧臭くてタバコの臭いもするし、猫撫で声で父に絡みつく気持ちの悪い存在だとしか思えなかった。

 そんな鬱屈した日々に、吹いた風が春樹だった。

 生きているのか死んでいるのか、楽しいこともなく希望すらない日々を、鮮やかな色に塗り替えてくれたのが春樹だった。

 内緒だよと、そっと甘いものを台所から持ってきて二人で隠れて食べたり、少しだけど外へ出て散歩したこともあった。

 春樹との日々は、全てが美しかった。
 どんなに寒い冬の日でも、春樹の周りだけ春が訪れたみたいに暖かかった。

 だがある時から、春樹から笑顔が消えて、満開の桜が枯れてしまったように色褪せた表情ばかり見るようになってしまった。

 春樹はなんでもないと力なく笑っていたが、その理由が分かってしまった。
 俺の部屋は離れにあったが、ある夜ドスドスと何かぶつかるような音がして目が覚めた。

 熱があって重い体を何とか動かして、這いつくばりながら母屋へ行くと、縁側に転がされて父に腹を蹴られている春樹の姿を見てしまった。
 鬼のような顔をして春樹を蹴り続ける父親、我関せずでキッチンで爪を整えている春樹の母親。
 春樹は歯を食いしばって耐えていて、鈍い音だけが聞こえてくる異様な光景だった。

 高熱があった俺は上手く動けなくて止めに入ることができなかった。
 ただ障子の隙間から、苦しそうに呻いている春樹の声を聞いて、何もできない自分が悔しくて泣いていた。

 俺の世界を変えてくれた春樹を、壊している父親も無関心な義母も、憎くて憎くてたまらなくなった。

 次の日、俺の部屋に来てまた無理して笑っている春樹に、俺は可哀想にと声をかけた。
 ハル兄は何も悪いことをしていないのに、どうしてみんなハル兄を傷つけるんだろうと。
 ずっと一人で戦っていたのだろう、張り詰めた糸が切れたみたいに春樹は泣き出した。

 おいでと言って手を広げると、春樹は俺より小さな子供のようになって、俺の胸に顔を寄せて大声で泣いた。

 悔しい、悲しい、痛いよと言って泣き続ける春樹のことを、俺はずっと撫でて、撫でてあげることしかできなかった。


 そんな日々が続いた時、いつもより数倍ぐったりした春樹が俺の部屋に入って来てすぐに倒れて畳に転がった。
 体にはロープで縛られたような痣があって、ひどすぎる姿に言葉を失った。

 あんなに輝いていた春樹はボロボロになって、手折られて枯れてしまった花のようになっていた。

 もういやだ、こんなことはもういやだ。
 春樹の目は光を失っていて、心が壊れているように見えた。

 許せない

 春樹をこんな風に壊してしまったやつらが許せない。

 俺は春樹に言った。
 春樹はどうしたいのかと、春樹の願いは俺が何だって叶えてあげると言った。

 慰めようとして安易に出した言葉ではない。
 本気で、叶えると覚悟して口にした。

 春樹はずっと床に伏せていたが、俺の言葉にゆっくりと糸を引かれたように顔を持ち上げた。

「俺はね、理玖。あの二人を……義父と母を殺したい」

 魂の抜けた人形のようだった。
 しかし、ただ泣くだけだった春樹に隠されていた仄暗い部分がようやく顔を出したかのようだった。
 そしてその顔は今まで見た中で、一番妖しく、壮絶に美しかった。

 だから俺は言った。
 自分がやると。

 そして、それが叶ったら、春樹が欲しいと言った。

 すると春樹は笑った。
 本当に嬉しい報告を聞いたみたいに目元を赤らめて、この世のものとは思えないくらい美しい顔で笑った。

 そんな、笑顔を見せてから数ヶ月して、春樹は逃げるように家から出て行ってしまった。
 出ていく春樹と目が合って、約束は必ず果たすからと伝えたかったが、春樹は泣きそうな顔でごめんと繰り返して走って行ってしまった。




 そこから俺は春樹の願いを叶えるため、全てのことに力を注いで生きてきた。

 まずは苦手な薬を飲み、とにかく食べて体力を作り、ひ弱な体を変えた。

 健康になったら今度は地盤作りだった。
 本を読み、勉強をして知識を増やして、誰にも文句を言われない環境を整えた。

 小中と優秀な成績で卒業して、高校に入ったらずっと作っていたプログラムを使ってアプリを作り上げた。
 発表後すぐに爆発的人気となり、多額の収入を得た。問題が出てくることは予想通りだったので、早々に権利を一番大きな金額を提示してくれた企業に売り払った。

 開発のベースになったものは、のちに使用できるように改良を繰り返しながら残しておいた。

 そして、今度は本懐である二人を消すために動いた。
 と言っても、この頃にはもうすでに二人は俺の言いなりになって動くようになっていた。
 春樹には暴力を受けたように演じてみたが、実際に暴力を繰り返したのは俺だ。

 力がつくようになってから、義母、そして父に、じわじわと攻撃を仕掛けて、力で屈服させるところまで来ていた。

 でもどうせ死んでもらうなら派手方がいいと思って、車に乗れと命令した。
 山の中腹にあった家では、まず登りきってからでないと下に降りれない造りになっていて、父は言われたままに山道を登っていった。
 そこからは事前にブレーキに仕込んでおいた殺虫用のスプレー缶が効果を発揮してくれたらしい。

 怪しむ人間がいないように、外面は徹底的に穏やかで優しい少年であるように近所にも印象付けておいたから、みんな不幸な事故だと言って可哀想な目で見て慰めてくれた。

 そしてついに春樹に再会することができた。
 心優しい春樹なら、必ず俺を引き取ると言ってくれるはずだと信じていた。

 その通り、以前と変わらない様子で接したら、春樹は俺に一緒に暮らそうと提案してくれた。

 春樹は記憶にあった頃の幼い雰囲気は消えて、すっかり大人の男になっていたが、儚くて危うい雰囲気はそのままでより濃い色になっていた。

 この退廃的な美しさは、平穏な人生を送っているようなやつには理解できない。
 ある種の鬱屈した思いを持った連中が見ると、抗えない魅力を感じてたちまち魅了されてしまう。

 十年経っても変わらず、俺を一瞬で再び恋に落としてしまう、春樹の魅力の恐ろしさをそのとき思い知った。

 だが、離れていた時間は、春樹の内面に大きな影響を与えていた。
 俺のことをすっかり、守るべき対象の弟だと思い込んで、それはそれは潔癖なデカい囲いを作っていた。
 当時のことを思い出させて、無理矢理迫っても春樹は壊れてしまいそうだった。
 俺は春樹の心も体も全て手に入れたかった。

 だから、春樹の食事に睡眠薬を混ぜて眠らせて、毎日少しずつ体に覚えさせていくことにした。
 俺への守りたいという気持ちを、少しずつ少しずつ、俺を見るだけで性的な欲求が湧いて徐々に恋心だと思い込んで支配されるように……

 同時に春樹自身の環境も、俺に向いていくように管理し始めた。
 春樹が寝ている間に、スマホにあるアプリを入れた。
 それはもともと俺が開発していたものを改良したもので、当時から使用者本人に気づかれないように、勝手にインストールして使用できることが問題になっていたが、連絡を取り合う相手にも知られないように送りつけて、相手のスマホにも秘密裏にインストールできるような仕組みを作った。

 堀川先生には少し悪かったと思うが、いいタイミングに出てきてくれた彼は大いに活躍してくれた。
 だが、調子に乗って春樹を手に入れようと積極的に動き出したので、彼には悪役になってもらい、春樹を恐怖で揺さぶって愛情がより俺に向かうように仕向けた。

 ストーカーらしき演出をしたのも、アプリを使えば簡単に操作できた。
 実際に店舗を荒らすのは、念のためと細々と繋がっていた母親を金で利用して、事前に忍び込ませていたので上手くやってくれた。

 堀川を追い詰めるために、色々と嘘の情報を流して、他の教師や校長と対立するように仕組んだ。
 堀川はさすがに俺の動きに気がついたが、接近して春樹との仲をわざとアピールしてやった。
 そうすれば、必ず春樹に何か言わずには気が済まないだろうと分かっていたから……
 最終的に警備の環境を強化させて、同僚を使い堀川を捕まえるように動かしたのは上手くいったが、春樹が怪我をしたのは予想外だった。

 しかし怪我は大したことがなくて良かったのと、このおかげで春樹はますます俺を頼りにして離れられなくなったのでプラスの方向に進んでくれた。

 後はわざとらしく薬の袋だけを食器棚に残しておいて、春樹が見つけてくれるのを、今か今かと待っていた。
 さすがに春樹も事態の違和感に気がついてきた頃だったが、俺への罪悪感が爆発して大きな愛情に変わってくれた。
 多少強引ではあったが、これでやっと、春樹の全てを手に入れることができた。







「理玖………」

 少し掠れた声がして振り向くと、春樹が立っていた。
 俺がベッドから抜け出したから、心配になったのだろうか、目を擦りながら寝室から出てきたようだ。

「起こしちゃった? ちょっと喉が渇いて」

「んっ……、そっか。じゃあ、俺も」

 ペットボトルの水を渡すと、すぐに口にした春樹はごくごくと飲み込んだ。
 白い喉仏が上下する様を見たら、ぐっと下半身が熱くなってしまった。

「ひっ……わっっ、なっなに?」

 シャツ一枚羽織った扇情的な格好でウロウロしている方が悪いと、春樹の尻を撫でたら、驚いた春樹は一気に眠気が覚めたみたいに目を大きく開いていた。

「ん? ハル兄の格好、エッチだから触りたくなっちゃった」

「だっ……これは、さ…さっきまでシテたから……」

 真っ赤になった頬が美味しそうで、引き寄せてペロリと舐めた。
 散々ベッドの上で泣かせたので、少しだけ塩気を感じた。

「ね、ここで。シテいい?」

「え? いっ、今? だって……」

「ほら、まだすごい柔らかいし、すぐ入りそう。あ、中から俺のが出てきたし……」

「り……りく、あっ、あっ……」

 まだ完全に目の覚めていない春樹を言いくるめて、ソファーに手をつかせて後ろから自身をあてがった。
 亀頭をぐりぐりしながら挿入すると、中に放ったモノの残りが出てきて、ズブズブと簡単に飲み込んでくれた。

「ああ………、やばっ、ハル兄のナカ、気持ち良すぎ……」

「んっ……り……く、おおきっ……」

 まだ眠っていた春樹のソコを握って、ナカと一緒に擦ってやると、すぐにめきめきと硬くなって、春樹は熱い息を漏らし始めた。

「っつ……はぁ……ぁっ、ハッ……んっ……」

 春樹はあまり声を出さないようにいつも我慢しているように見える。
 それはおそらく俺への庇護欲、罪悪感、色々なものが混じって、この行為で乱れることにまだ抵抗があるのかもしれないと薄々勘づいていた。

 そんな凝り固まったものをぶち壊して、ドロドロにしてやる瞬間がたまらなく興奮する。

 わざと浅いところを突いて、強い快感を得られないように攻めてやると、やはり春樹は切ない声を漏らして俺の名前を呼び始めた。

「んっ、あっ……り…く、理玖……ぁ……りく……」

「どうしたの? ハル兄? 気持ち良くないの?」

「気持ち……い、いけど。もっと……おく」

「奥? ここかな?」

「ち…がっ、あ……ふか……ふかく、いっ、挿入て……強く……して」

 ジリジリと、追い詰めるようにもどかしく攻めていると、春樹はたまらず自分から腰を揺らしながら俺のを奥へ飲み込もうとしてきた。

 そんなところがたまらなく可愛くて興奮する。

「自分で動かしてるの? 俺のを使って? 春樹は淫乱ってやつなのかな」

「あっ……りくっ」

 分かりやすくぎゅっと締まったので、たまらない気持ちになる。
 こんなに気持ち良くて苦しいくらい幸せになることは他にない。

 知っている。
 理玖はちょっとひどい言葉をかけてやると興奮することを。

「ハル兄、気持ちいいよ。ハル兄のナカ、最高、ずっといたいよ」

「りく……おれも……」

 知っている。
 優しく囁いてあげると、もっと興奮して喜ぶことも。

「ハル兄、いいんだよ。我慢しないで……、ちゃんと声を出して」

「りく……」

「好きだよ、ハル兄」

「あっ、あっ…ああっ!!」

 今までゆるゆると擦っていたのが嘘のように、今度は思いっきり突き入れた。

「好き……ハル兄、大好き…っっ…」

 春樹の腰をガッチリと掴んで、ぶつけるくらい激しくピストンすると、春樹はたまらなかったのかだんだん大きく声を上げ始めた。

「りっ……く……、あっ、アッアッ…ア……ンン……あああっ、りくっ、イクっイク……あああっっ!!」

 前も擦ってやると、春樹は我慢できなかったのか、びゅうっと白濁を放って達した。
 春樹がイったあと、余韻でぶるぶると体が震えるところがたまらなく好きだ。

 ぎゅうぎゅうと締め付けてくるのに我慢できずに、俺も何度か突き入れた後、ぶるりとアソコを震わせてナカに放った。

「ハァハァ……はぁ……、あつ……奥、熱いよ……」

「ハル兄、気持ち良かったよ」

 ズルリと引き抜くと、春樹は切ない声を上げた。
 ぐったりとする春樹をソファーに寝かせて、温めたタオルを持ってきて綺麗に拭った。
 指を入れて掻き出すのも最初は嫌がったが、俺が喜んでやるので諦めて声を我慢しながら大人しくしてくれる。

 そんな姿も愛おしくて仕方がなかった。






「そうだ、理玖。来月また休みが取れるから。旅行にでも行こうか?」

 食器を洗っていたら、今日は本社で会議があるとかで先に出る春樹が、やはり珍しくスーツを着てネクタイを締めながらリビングを横切ってキッチンまでやってきた。
 その色っぽさにドキッとしてしまい、言われた言葉が遅れて頭に入ってきた。

「え? 旅行?」

「ああ、もうすぐ受験で忙しくなるし、今のうちに近場でもいいから連れて行きたいんだ。理玖は、あまり遠出をしたことがないだろう?」

 春樹の目には、まだあの家で閉じこもって療養していた頃の俺が映っているらしい。
 時々、壊れものを扱うみたいに大事そうにしてくるから、その度に嬉しくなってしまう。

「理玖には今まで苦労した分、色々な所へ行って、色々な体験をして欲しい。……そうだな、牧場へ行こうか? 新鮮なミルクは美味いし、アイスクリームは最高だぞ」

 社員旅行で行ったという春樹は、よほど楽しかったのか、頬を赤くしながら嬉しそうに話してくれた。

「そうなんだ。食べてみたいかも」

「よし、じゃあ行こう! 楽しみだ」

 俺を喜ばせようと誘ってきたのに、ウキウキしている春樹の横顔を見たら、胸がキュッとしてしまった。
 なんて可愛い人なんだろう。

 布巾でサッと手を拭いて、横に立っていた春樹を抱きしめた。

 可愛らしい唇ごと、ベロリと舐めてから口に含んで舌で愛撫した。


「理玖……、だっ……め、そろそろ……出ないと」

「んっーー、残念。スーツのハル兄、触りたいのにぃ」

 もっと可愛がりたかったのに、今日は本当に大事な仕事なのか、真面目な顔になった春樹に押し返されてしまった。

 仕方ないけど寂しいなとムクれていると、クスリと笑った春樹は俺の目の下にチュッと唇を寄せてきた。

「俺、ネクタイは苦しくて苦手なんだ。だから今の仕事を選んだのもある。今日も苦しいけど、帰ったら理玖が外してくれるなら頑張れそう」

「ハル兄……」

「好きだよ。理玖、愛している」

 口の端を上げて春樹は艶やかに微笑んだ。
 大きな瞳はしっとりと濡れていて、その奥に見えたものに俺は体が痺れてしまった。

 行ってらっしゃい。
 手を振って声をかけて笑ったが、心臓はどくどくと波打つように鳴っていた。

 額から流れた汗に春樹は気がついただろうか。

 あの日覗き込んだ暗闇は、まだ春樹の中にある。

 底知れない暗闇に囚われたのは俺だけなのか、それとも……

 ただ一つ確かなことは、俺は自らその闇の中に身を投じた。
 帰ることなど考えなかった。
 一生そのまま、深淵の底で漂って生きることを選んだ。

「行ってきます」

 パタンとドアが閉まった音が、深い水の底まで響いて消えた。







 □終□
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