悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

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第一章

⑧再会は熱い抱擁で

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入学パーティーは一時休憩中。
この後、第二部、在校生も参加する夜会(舞踏会)が始まるのだ。

リリアンヌ達、新入生は、用意された控え室で各々休息をとる。
何せ長丁場、一晩中躍り狂う人もいるのだ。この時間に寝ておくといいとまで勧められた。

リリアンヌは、ローリエの控え室に来ていた。

「はぁ…、どうしたものか」

「あら、フェルナンド王太子殿下の事かしら?ふふふふっ」

「フェル?あぁ、いたね。そんなの」

「………リリアンヌ、あなたが不敬罪で捕まるわよ」

まぁそれもそれなんだが、今は主人公の身が気になって仕方がない。

「あの、捕まった令嬢のことよね?あれからずっと上の空よ。リリアンヌ関係あるわけ?」

「んー…ないっちゃないけど」

「微妙ね…」

「なんか、ほら、寝覚めが悪いのよ。同じ新入生で、このまま、死罪とかになったら」

傍観者を貫く予定だったが、主人公がいなくなったら、物語が予測できないものになってしまう。
それもそれで、何か実害が起きる事になったら困るのだ。

と言っても、ただの伯爵令嬢の身の上で何ができるとも思えない。

眉間にシワを寄せて考え込んでいると…。

「助けることが出来るかもよ」

「え?本当に?」

「ええ、頼めば良いのよ。フェルナンド殿下に」

「えええええっ!そんな!仮に言ってくれたとしても、他国の王子の決定に異を唱えるって、外交問題になりかねないじゃない」

リリアンヌが慌てると、ローリエは優雅に微笑んだ。

「各国の王族メンバーはね。幼い頃から、王族限定のパーティーで交流していてお互いをよく知っているわ。アルフレッド様はフェルナンド殿下の事を兄と慕っているみたいよ」

「何でも言い合える仲だったとしても、サファイア王国で起きたことだから、そこまで、言えるのかしら」

「それがね、学園内の揉め事は、国が関与するわけじゃないのよ。生徒会に一任されているの。そしてー、その生徒会長はフェルナンド殿下よ」

「!!」

(思い出した!フェルナンドルートは生徒会の話なんだ!生徒会に入ってフェルナンドと仲良くなる設定だった)

「…殿下はお手紙に、生徒会について書いていなかったのかしら」

「ん…確かに、そんなような事が書いてあったような」

今年は雑務が多くて大変とか、生徒同士の喧嘩で、校舎が壊れて予算がどうとか…。流し読みしたのでほとんど覚えてないけど。

「…殿下、お気の毒さま」

ローリエは深くため息をついた。

「という訳で、本来であれば、アルフレッド様が罪を下すのではなく、生徒会が間に入って処分をする話なのよ。だから、告げ口みたいだけど、リリアンヌ、あなたが脚色せずに殿下にお伝えすれば上手くいく可能性が高いわ」

「なるほど!ローリエ!あなた、天才だわ。もはや私の守護天使!」

「ふふふっ、ちゃんとお願いするのよ。淑女らしく」

ローリエの瞳が怪しく光る。

「え?どういうこと?」

「そりゃー、上目使いでかわいーく、甘えるように、ね。殿方にする正しいお願いの仕方よ」

ローリエが、にゃんこのお手てで、リリアンヌの胸をノックした。今日はしっかり谷間が出ているので、ふるふると揺れて扇情的だ。

「武器これを使ってもいいしね」

「なななななななっっっ!!!!胸?何するのよ!これで、ぶん回して叩いて言うことを聞かせればいいの!?それとも、ボタンを飛ばして顔に当てるとか????」

「しまった、こいつはお子様だったの忘れてたわ。忘れてちょうだい」

とにかく、上手くやれとローリエに控え室から追い出された。
しばらく寝るそうだ。リリアンヌは、気も落ち着かないので、少し歩くことにした。


□□□□□□□□□□

しばらく歩くと大きな噴水があった。
サファイア王国は、バナメンという加工に優れた石の産地で、この噴水も水の妖精が楽しげに遊ぶ様子が緻密な美しさで表現されている。

水の流れに目を取られていると、横から、あっ!という声がした。

声の方を向くと、オレンジの髪に褐色の肌、睨んでいるような強いグリーンの瞳、ちょっとイカつい男性が立っていた。

(おーー!!キタ!最後の攻略対象者!!)

フレイム・ルーミニア
砂漠の国の王子で、寡黙なタイプ。
人とあまり関わろうとしないが。
実は寂しがりや。主人公から色々と世話を焼き、恋に発展する。

「君、リリアンヌ嬢かな」

「えっ!?そうですが。あの、お会いしたことがありましたでしょうか…」

国同士も離れているし、何の接点もないはずだ。

「会ったことはないが、姿は知っている。俺はフェルナンドと宿舎が同室なんだ」

「はぁ…」

(話を聞いている?とか?)

「話は一切聞かせてもらえない。けど、部屋中、アンタの似姿絵が貼ってあるから、嫌でも覚えた」

ぞわわわわっと寒気がして、背筋が凍るかと思った。

「ひっぃ…、そうで…すの。それはなんだか恥ずかしいですわね。おほほほほほほっ…」

(フェルナンドのやつ、なに考えているんだよ!恥ずかしすぎる!)

「…実物の方が、美しいな」

「それは、お褒めいただき光栄でございます」

リリアンヌは、何だかどっと疲れてしまった。

「それで、フェルナンド様は今どちらにおられますか?」

「代表で挨拶するから、多分、会場にいると思う」

「ありがとうございます。では行ってみます」

しばらく歩いてから、チラっと後ろを振り返ると、入学おめでとうと言ってフレイムが手を振っていた。

(おいおい、もう散ってくれ)

(見た目怖いけど、優しい不思議ちゃん。蘭もフレイムに関しては、選択肢が謎過ぎて一番苦労したと言っていたっけ…)

結局はただ世話を焼けば、好感度が上がる単純キャラだったらしいが。

(そういえば、確か、何かが飛び抜けているとか言ってたような…)

まぁ、関わることもないし、深く考えるのはよそう。

会場内はまだ、係りの者達が夜会用のセッティングに追われている。

舞台の方に見知った後ろ姿があった。
人格を疑いはじめていたが、さすが会長らしく的確に指示を出して準備を進めている。

(なんか、忙しそうだし、タイミング悪そうだな)

生徒会のメンバーは緑の腕章をつけているらしい。
ちょうど腕章を付けた上級生が前から走ってきた。リリアンヌとすれ違い様に目が合い、あっ!と声をあげた。

(え…デジャヴ)

「もしかして、私の名前ご存知ですか?」

「えっ、はい、いや…」

「まさか、私の似姿絵をご覧になっていたり、し・ま・せ・ん・よ・ね・!」

「そっ…それは…、勘弁してください。喋ったら殺されるー!」

ひぃーーー!と声をあげて、脱兎のごとく逃げられてしまった。

大きな声だったので、舞台の方からいっせいに視線が飛んできた。

「リリアンヌ!まさか君から来てくれるなんて」

フェルナンドが微笑んで、こちらに手をあげた。
忙しそうだったので、軽く会釈だけして、出直そうと思ったら、フェルナンドは、いつの間にかすぐ近くまで来ていた。

色々と解せないものがあったが、とりあえず気を取り直して淑女の礼をした。

「お久しぶりでございます。お忙しそうだったので、出直そうかと…」

「リリアンヌ!」

言い終わらないうちに、フェルナンドに抱きすくめられていた。

「フェ!でっ殿下!こっ…こんな場所で、ひぃ!みんなこっちを見ておりますー!!」

「いいんだ、別に、みんな知っている事だよ。それより、ずっとこうしたかったんだから、少し黙って」

「は…はい」

ガチガチだった体から、力を抜くと、上手い具合に馴染んだというか、苦しさはなくなった。

こんなことされたら、もっと、オエー!とか、キショー!とか嫌悪感がくるかと思ったけど、意外と心地良い。汗なのか、体臭なのか、フェルナンドの胸元をクンクン嗅いでみると、良い匂いがした。

「リリアンヌは女の子かと思っていたけど、子犬みたいだね」

「それは、その、良い匂いがしたから…気になっただけで…」

何だか悔しくなって、フェルナンドの顔を見上げると、見たこともない優しげな顔で笑っていた。

(あれ?いつもの口の端をあげるような笑い方じゃない。こんな顔して笑うことあるんだ)

フェルナンドの手が唇に触れた時、ビクッとして、慌てて腕の中から離れた。

「残念。逃げられてしまった」

「さすがに、もう、恥ずかしいですわ」

気まずくなったので、本題を切り出すことにした。

「お話したい事がございまして、夜会の時に少しお時間をいただけませんでしょうか」

「あぁ、もちろん。私の挨拶が終わったらすぐに控え室まで来てくれるかい?」

「それは、良いのですが。よろしいのですか?ダンスの方は?」

生徒会長の挨拶でパーティーが始まり、王族の人達がまずダンスを披露して、その後、他の貴族が参加すると聞いている。

「あぁ、それはいいんだ。問題ない」

「では…、あの、お忙しそうですね。何やら皆さんこちらを見ていらっしゃいますので…、私は失礼します。また後ほど」

「あぁ、必ず来てね」

舞台の方から、痛いほどの切実な視線を感じたので、リリアンヌは急いで会場を後にした。

(急に抱きついてくるから、逃げられなかった。しかも、何?何でこんなにドキドキしてんの…はぁ最悪)

ドクドクと鳴る胸を押さえながら、理解できない思いを抱えて、途方に暮れていた。




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