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第一章
⑨おねだり上手は愛され上手
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夜の帳が下りて、たくさんの人々が、舞踏会の行われる大ホールに集まった。
開始の挨拶は、生徒会長のフェルナンド王太子殿下が務めた。
静寂の中、新入生を歓迎し、これからの学園生活をより豊かにするために、在校生とともに互いに努力し、協力していくこと目標として掲げた。
そして、次のダンスの参加者が紹介された、主にサファイア王国の王族の方々が踊るようだ。
(なるほど、各国の王族が全員出るわけではないのね)
優雅な音楽が流れ、ワルツが始まった。
「ほら、ダンスが始まったら行くんでしょ。私は適当にやってるから、はやく殿下の所へいきなさいよ」
「ええ…その、なんとか、上手くやるわ」
ローリエに背中を押され、リリアンヌは生徒会の控え室に向かった。
途中ユージーンに会った。
友人達と楽しげに談笑していたので、軽く手を振って合図すると、素っ気なく、そっぽをむかれてしまった。
すっかり、反抗期に入ってしまったらしい。姉としてはちょっと悲しい。
会長控え室と書かれたドアをノックすると、どうぞ、という声が聞こえた。
「失礼します」
「あぁ、リリアンヌ、よく来てくれたね。余計なやつがいるんだけど、すぐ帰ってもらうから気にしないで」
中には出迎えてくれたフェルナンドと、奥のソファーには、なんと…アルフレッド王子が座っていた。
(まずい…、ご本人を前に…今日の事をきりだせないわ)
「あの、お仕事は大丈夫ですか?お忙しかったら、また後にでも…」
「あぁ、コイツは仕事の関係じゃないんだ。ダンスが嫌で隠れているだけだから」
「フェル兄!ひでーな。夜会はうちの親族のダンス大会みたいなもんだから、遠慮したんだよ。連中顔合わせるとうるさいんだよ」
ソファーにふんぞり返って、アルフレッドは不機嫌そうだ。
「それより、貴女がリリアンヌ嬢か!俺はサファイアのアルフレッドだ。よろしく」
「どうも。アレンスデーン王国のリリアンヌ・ロロルコットです」
王族らしく尊大な感じは否めないが、アルフレッドの方から握手を求めてきたので、それに応じた。
ところが、自然に離そうとしても、なかなか握手を解いてくれないアルフレッドは、リリアンヌを上から下まで眺めた。
「あのぉ…」
「これは、フェル兄が夢中になるのも分かるなー。すごい胸とおしっ…イデッ!!」
バチーーン!!と音が響いて、フェルナンドが後ろからアルフレッドの頭を叩いた。
「いい加減にしろ!失礼だぞ!ほら、もうかくれんぼは終わりだ。さっさといけ!」
(…アルフレッド、王子のくせに一日何回叩かれるのよ)
それじゃまたー!とリリアンヌに言いながら、アルフレッドは部屋から追い出された。
(んー…アルフレッドは、オレ様というより、おバカキャラじゃね?)
「申し訳ない、悪いやつではないのだか、頭のネジが抜けていてね、もう修復不可能なんだ。気にしないでくれ」
「ええ、はい。私は大丈夫です。それより、お話の方なのですが」
「あぁ、すまない。こちらにかけてくれ」
そういって、ソファーをすすめてくれた。しかも王太子殿下自らお茶を入れて出してくれたので驚いた。
「学園に入るとね、ある程度、自分の事は自分でやらなくてはならないんだ。勉強になるよ」
「そうですか。それは確かに良い勉強になりますわね」
「うんうん」
フェルナンドは、アルフレッド王子が、出ていってからは一転、機嫌が良さそうで、始終ニコニコしている。頭に花が咲きそうな勢いだ。
いつだったか、ローリエがフェルナンドの事を鉄仮面と呼んでいた事があった。
それを聞いたとき、少し違和感があった。確かに、胡散臭い笑顔の時もあるが、リリアンヌといるときのフェルナンドは比較的よく表情の変わる男に見える。
「あのー………」
「なんだい?」
「…どうも、おかしい気が」
「ん?もしかしてお茶の温度とかかな?」
「いえ、そんな細かいところではなくて。この位置です。普通、対面ではないのですか?」
ソファーは机を挟んで、対面に置かれており、リリアンヌは奥に案内されたので、正面にフェルナンドが座るかと思いきや、なんと隣に座ってしまった。
「これだと、横を向かないといけないので、話しづらいのですが」
「あぁ、それなら」
フェルナンドは、最初は一人分ほど空いていた間を詰めてきて、真隣になってしまった。
「これなら、正面に座るより声も近いし、リリアンヌの顔もよく見えるし、お互い知り合うにはこのくらいの距離感が大事だと思うんだよね」
「それにしても、近すぎるような」
「そんなに、緊張しないで。それで、話ってなにかな」
何やら勢いで丸め込まれたような気がするが、とにかく、まずは目的を果たすことにした。
「お話というのは、今日会場の外で起こったアルフレッド王太子殿下とサファイアのご令嬢の揉め事についてです」
「あぁ、それだね。報告は来ているよ」
ぐいぐい聞いてきたのに、話が期待したものと違ったのか、フェルナンドは全く興味がなさそうに明後日の方向を見てしまった。
(ぐっ…正攻法でいくか)
「私は実際に見ておりませんし、部外者であることは承知しております。ですが、学園生活の初日に、同じ門をくぐったご令嬢が、非があるとはいえ、悲劇にみまわれるような事はどうしても、納得できなくて。せめて、生徒会の方で仲裁であるとか、ある程度の罰をあたえて、という事も考えられませんか?」
本当に興味がないのだろうか、フェルナンドは、あーとか、んーとか言って、リリアンヌの髪で遊び始めた。
(…っ、こいつ)
¨ちゃんと可愛くお願いするのよ¨
ローリエの言葉が、頭の中で反芻はんすうする。
(あーもーー!くそ!やるっきゃないか!!)
「…………」
「…リリアンヌ?」
「…………」
「何をしているのかな…?」
(これで、合っているはず。あれ?違ったの?か?)
リリアンヌは、にゃんこの手の状態で、フェルナンドの胸部を軽くパンチし続ける。
「リリアンヌ?おーい?」
されるがままのフェルナンドは、困った顔をしている。
(違うの?あれ?自信なくなってきた…)
ついに、ボカスカ叩いていた手をフェルナンドに捕らえられ、ちゃんと説明してと言われてしまった。
「こっ、これは、その…、殿方へお願いするときの方法だと、ローリエ様に伺って…」
「これが?」
「え!?違う!?だって、あの時、ローリエも私の胸を叩いてきて、お願いするときは武器にしろって…意味が解らなかったから、同じようにすればいいのかと……って、違ったみたい…デスネ…」
さようならと、そのまま逃げてしまいたかったのを、フェルナンドが手を引っ張って、そのまま、さっきみたいに、腕のなかに捕らわれてしまった。
「あー可愛い、反則だよね」
「えええ!?ちょっ……」
ジタバタしてみたが、細身に見えてしなやかな筋肉が付いているのだろう、抜け出すことが出来ない。
「いつも、狸みたいな連中を相手にしているけど、こんなに可愛いお願いをされたのは、君が初めてだよ」
(かわい…って!ん?結局合っていたのか)
「あぁ、不敬罪のご令嬢の件だけど、話はついていて、アルフレッドが撤回にしたよ。ここは、王国内ではあっても王国じゃない。もともと、生徒会の介入なしに、処罰は決められないからね。ただ、暴力ではあるから、今日は反省室に入って、明日から通常通り過ごせるよ」
(なんだ、解決してんじゃん。骨折り損のくたびれ儲けかよ)
「なに?嬉しくないの?」
「それは、もちろんです。安心しました」
結果として主人公離脱は避けれたから、良かったのだろう。入学パーティーに出られなかった事がどう影響するか分からないが、後は主人公次第で頑張ってくれればいい。
「それで、あの、そろそろ離してもらえませんか」
「どうして?」
フェルナンドはいっこうに腕の力を緩めてはくれない。それどころか、どんどん顔が近くなってしまった。
「誤解していたとはいえ、婚約者を叩くのはいただけないよねぇ」
フェルナンドの瞳が怪しく光っている。
(目がー!怖い怖いー!)
「やっぱり、誤解だったのですね。その、許してはいただけませんか。危害を加えようとしたわけではないのです」
「それは分かっているよ。ただ、リリアンヌも反省しないとね」
「…その、反省とは…」
「あー、今日は一日中動き回って疲れてしまったよ。そんな私の疲れを一気に吹き飛ばしてくれるような事、リリアンヌがしてくれたら嬉しいな」
フェルナンドが片手を頭に添えて、何やらアピールしてきた。
「え…何かしたらいいのですか?」
「そう!罰と言うには可哀想だから、反省として私の喜ぶ事をして欲しい」
「…分かりました。では目を閉じてください」
リリアンヌは静かに立ち上がった。
□□□
開始の挨拶は、生徒会長のフェルナンド王太子殿下が務めた。
静寂の中、新入生を歓迎し、これからの学園生活をより豊かにするために、在校生とともに互いに努力し、協力していくこと目標として掲げた。
そして、次のダンスの参加者が紹介された、主にサファイア王国の王族の方々が踊るようだ。
(なるほど、各国の王族が全員出るわけではないのね)
優雅な音楽が流れ、ワルツが始まった。
「ほら、ダンスが始まったら行くんでしょ。私は適当にやってるから、はやく殿下の所へいきなさいよ」
「ええ…その、なんとか、上手くやるわ」
ローリエに背中を押され、リリアンヌは生徒会の控え室に向かった。
途中ユージーンに会った。
友人達と楽しげに談笑していたので、軽く手を振って合図すると、素っ気なく、そっぽをむかれてしまった。
すっかり、反抗期に入ってしまったらしい。姉としてはちょっと悲しい。
会長控え室と書かれたドアをノックすると、どうぞ、という声が聞こえた。
「失礼します」
「あぁ、リリアンヌ、よく来てくれたね。余計なやつがいるんだけど、すぐ帰ってもらうから気にしないで」
中には出迎えてくれたフェルナンドと、奥のソファーには、なんと…アルフレッド王子が座っていた。
(まずい…、ご本人を前に…今日の事をきりだせないわ)
「あの、お仕事は大丈夫ですか?お忙しかったら、また後にでも…」
「あぁ、コイツは仕事の関係じゃないんだ。ダンスが嫌で隠れているだけだから」
「フェル兄!ひでーな。夜会はうちの親族のダンス大会みたいなもんだから、遠慮したんだよ。連中顔合わせるとうるさいんだよ」
ソファーにふんぞり返って、アルフレッドは不機嫌そうだ。
「それより、貴女がリリアンヌ嬢か!俺はサファイアのアルフレッドだ。よろしく」
「どうも。アレンスデーン王国のリリアンヌ・ロロルコットです」
王族らしく尊大な感じは否めないが、アルフレッドの方から握手を求めてきたので、それに応じた。
ところが、自然に離そうとしても、なかなか握手を解いてくれないアルフレッドは、リリアンヌを上から下まで眺めた。
「あのぉ…」
「これは、フェル兄が夢中になるのも分かるなー。すごい胸とおしっ…イデッ!!」
バチーーン!!と音が響いて、フェルナンドが後ろからアルフレッドの頭を叩いた。
「いい加減にしろ!失礼だぞ!ほら、もうかくれんぼは終わりだ。さっさといけ!」
(…アルフレッド、王子のくせに一日何回叩かれるのよ)
それじゃまたー!とリリアンヌに言いながら、アルフレッドは部屋から追い出された。
(んー…アルフレッドは、オレ様というより、おバカキャラじゃね?)
「申し訳ない、悪いやつではないのだか、頭のネジが抜けていてね、もう修復不可能なんだ。気にしないでくれ」
「ええ、はい。私は大丈夫です。それより、お話の方なのですが」
「あぁ、すまない。こちらにかけてくれ」
そういって、ソファーをすすめてくれた。しかも王太子殿下自らお茶を入れて出してくれたので驚いた。
「学園に入るとね、ある程度、自分の事は自分でやらなくてはならないんだ。勉強になるよ」
「そうですか。それは確かに良い勉強になりますわね」
「うんうん」
フェルナンドは、アルフレッド王子が、出ていってからは一転、機嫌が良さそうで、始終ニコニコしている。頭に花が咲きそうな勢いだ。
いつだったか、ローリエがフェルナンドの事を鉄仮面と呼んでいた事があった。
それを聞いたとき、少し違和感があった。確かに、胡散臭い笑顔の時もあるが、リリアンヌといるときのフェルナンドは比較的よく表情の変わる男に見える。
「あのー………」
「なんだい?」
「…どうも、おかしい気が」
「ん?もしかしてお茶の温度とかかな?」
「いえ、そんな細かいところではなくて。この位置です。普通、対面ではないのですか?」
ソファーは机を挟んで、対面に置かれており、リリアンヌは奥に案内されたので、正面にフェルナンドが座るかと思いきや、なんと隣に座ってしまった。
「これだと、横を向かないといけないので、話しづらいのですが」
「あぁ、それなら」
フェルナンドは、最初は一人分ほど空いていた間を詰めてきて、真隣になってしまった。
「これなら、正面に座るより声も近いし、リリアンヌの顔もよく見えるし、お互い知り合うにはこのくらいの距離感が大事だと思うんだよね」
「それにしても、近すぎるような」
「そんなに、緊張しないで。それで、話ってなにかな」
何やら勢いで丸め込まれたような気がするが、とにかく、まずは目的を果たすことにした。
「お話というのは、今日会場の外で起こったアルフレッド王太子殿下とサファイアのご令嬢の揉め事についてです」
「あぁ、それだね。報告は来ているよ」
ぐいぐい聞いてきたのに、話が期待したものと違ったのか、フェルナンドは全く興味がなさそうに明後日の方向を見てしまった。
(ぐっ…正攻法でいくか)
「私は実際に見ておりませんし、部外者であることは承知しております。ですが、学園生活の初日に、同じ門をくぐったご令嬢が、非があるとはいえ、悲劇にみまわれるような事はどうしても、納得できなくて。せめて、生徒会の方で仲裁であるとか、ある程度の罰をあたえて、という事も考えられませんか?」
本当に興味がないのだろうか、フェルナンドは、あーとか、んーとか言って、リリアンヌの髪で遊び始めた。
(…っ、こいつ)
¨ちゃんと可愛くお願いするのよ¨
ローリエの言葉が、頭の中で反芻はんすうする。
(あーもーー!くそ!やるっきゃないか!!)
「…………」
「…リリアンヌ?」
「…………」
「何をしているのかな…?」
(これで、合っているはず。あれ?違ったの?か?)
リリアンヌは、にゃんこの手の状態で、フェルナンドの胸部を軽くパンチし続ける。
「リリアンヌ?おーい?」
されるがままのフェルナンドは、困った顔をしている。
(違うの?あれ?自信なくなってきた…)
ついに、ボカスカ叩いていた手をフェルナンドに捕らえられ、ちゃんと説明してと言われてしまった。
「こっ、これは、その…、殿方へお願いするときの方法だと、ローリエ様に伺って…」
「これが?」
「え!?違う!?だって、あの時、ローリエも私の胸を叩いてきて、お願いするときは武器にしろって…意味が解らなかったから、同じようにすればいいのかと……って、違ったみたい…デスネ…」
さようならと、そのまま逃げてしまいたかったのを、フェルナンドが手を引っ張って、そのまま、さっきみたいに、腕のなかに捕らわれてしまった。
「あー可愛い、反則だよね」
「えええ!?ちょっ……」
ジタバタしてみたが、細身に見えてしなやかな筋肉が付いているのだろう、抜け出すことが出来ない。
「いつも、狸みたいな連中を相手にしているけど、こんなに可愛いお願いをされたのは、君が初めてだよ」
(かわい…って!ん?結局合っていたのか)
「あぁ、不敬罪のご令嬢の件だけど、話はついていて、アルフレッドが撤回にしたよ。ここは、王国内ではあっても王国じゃない。もともと、生徒会の介入なしに、処罰は決められないからね。ただ、暴力ではあるから、今日は反省室に入って、明日から通常通り過ごせるよ」
(なんだ、解決してんじゃん。骨折り損のくたびれ儲けかよ)
「なに?嬉しくないの?」
「それは、もちろんです。安心しました」
結果として主人公離脱は避けれたから、良かったのだろう。入学パーティーに出られなかった事がどう影響するか分からないが、後は主人公次第で頑張ってくれればいい。
「それで、あの、そろそろ離してもらえませんか」
「どうして?」
フェルナンドはいっこうに腕の力を緩めてはくれない。それどころか、どんどん顔が近くなってしまった。
「誤解していたとはいえ、婚約者を叩くのはいただけないよねぇ」
フェルナンドの瞳が怪しく光っている。
(目がー!怖い怖いー!)
「やっぱり、誤解だったのですね。その、許してはいただけませんか。危害を加えようとしたわけではないのです」
「それは分かっているよ。ただ、リリアンヌも反省しないとね」
「…その、反省とは…」
「あー、今日は一日中動き回って疲れてしまったよ。そんな私の疲れを一気に吹き飛ばしてくれるような事、リリアンヌがしてくれたら嬉しいな」
フェルナンドが片手を頭に添えて、何やらアピールしてきた。
「え…何かしたらいいのですか?」
「そう!罰と言うには可哀想だから、反省として私の喜ぶ事をして欲しい」
「…分かりました。では目を閉じてください」
リリアンヌは静かに立ち上がった。
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