悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

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第一章

⑫暫しの別れと決意

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 主人公は、やはり主人公。

 最初のパーティーイベントが抜けてしまっても、ちゃんと調整が入るものだ。

 昼休み、急いで校舎裏の茂みへ行ってみたら、次のイベントに遭遇できた。

 そこでアルフレッドはお昼寝をしている。
 王子がそんな所で!というツッコミシーンだ。

 そこにエリーナが現れて、こんな所でお昼寝したら風邪ひきますよ!と言ってアルフレッドを起こす。最初は機嫌の悪いアルフレッドだか、主人公の優しさに触れてだんだん心を開いていくのだ。

 今回すでに二人は揉めているので微妙な空気が漂っていたが、エリーナが謝罪して、寝ぼけ状態のアルフレッドはすんなり受け入れていた。
 それから毎日、お昼休みにこっそり教室を抜け出すエリーナの姿が見れる。
 順調に進んでいるようだ。

 そして、フェルナンドやフレイムといった、三学年生達は、春の強化合宿に行ってしまった。山籠りをして剣術や体を鍛えることを目的としたもので、一月ほどの期間だ。
 毎年ご令嬢の中からお世話係と呼ばれる、マネージャーみたいなものが選ばれる。
 フェルナンドやフレイムを攻略していると、このお世話係に選ばれて、一緒に過ごす事となるが、エリーナは選ばれなかった。
 アルフレッドもしくは、ルカリオのルートが確定したという事だ。

 やっかいな男もいないし、リリアンヌはしばらく平和な学生生活を送れると浮かれていた。

「一週間ね、そろそろ寂しくなって来たんじゃない?」

「フェルナンド様の事?全然、平和で楽しい毎日よ~」

 休み時間、ローリエとのんびり会話するのも、癒しの時間であるのだ。

「あれだけ泣いてしばらくのお別れをしたのに?」

「あのさ、ローリエ。泣いたのは私じゃなくて向こうだから」

 合宿出発前夜、宿舎を訪ねてきたフェルナンドは、リリアンヌを抱きしめて、また会えなくなるのが寂しいと大泣きしたのだ。

 まさかの子供のようなフェルナンドに、キャラが崩壊したのかと心配になったくらいだ。

 帰ってきたら、かたもみをする事を約束して、何とか帰したのだか、これが、宿舎の真ん前で行われていたから、同じ宿舎のご令嬢全員(ローリエ含む)に見られていて、後から大変な冷やかしにあった。

「仕方がないわよ。あれだけリリアンヌ大好きで半年待って、やっと会えたのに、当人は全然つれなくて、しかもまたしばらく会えないなんて、あー殿下、お可哀想に」

「やめてー、なんか私が悪いことしてるみたいじゃない。変な罪悪感生まれたら困るわよ」

「策士としては、そこを狙っていらっしゃると思うのだけどねー」

「え?何?」

「ふふふ、何でもないわ」

 ローリエとくだらない話をしながら、過ごしていると、何やら視線を感じて、リリアンヌは振り返った。

(・・・だれもいない)

 教室の出入口付近から感じたのだが、それらしい人物がいない。

(ここ最近、ずっとなんだよねー)

 特に何かあるわけでもないので、ローリエに言って心配をかけたくないので、今のところ静観しているが、こう何度も続くと気のせいに出来なくなってきた。

 透哉だったとき、この手の視線は嫌と言うほど感じてきた。
 体に染み込んで覚えているのである。

 全く期待もされていなかった透哉は、地元の公立の学校へ入った。
 しかし、実情はどうあれ、誰もが知る大企業のお坊っちゃまである。
 初めは遠巻きにして見ていた者達も、コミュニケーション力ゼロで、下を向いてばかりいる暗い透哉を段々バカにし始めた。
 妬み蔑み、様々な悪意に満ちた目で見られてきた。
 時に直接攻撃される事も多々あった。
 言葉の暴力から、体への暴力。
 透哉は、終始我慢をした。誰に相談できるわけでもない。蘭に心配をかけたくない。
 ずっとずっと我慢して耐え抜いたのだ。

 嫌な視線から、透哉の嫌な記憶を思い出して、気持ちが滅入ってしまった。

 放課後、教師に呼ばれていたローリエは、先に教室を出て、リリアンヌはのんびり帰る事にした。

 帰り支度をもたもたしていたら、いつの間にか教室には、誰もいなくなっていた。

「ちょっとよろしいかしら」

 見上げると、そこには、二人の令嬢が立っていた。

「私はシシリー・ロザンヌ。ロザンヌ公爵の娘よ」

「私はマリア・ローズレッド。ローズレッド公爵家の娘です」

 二人とも、アレンスデーンの公爵家の令嬢だ。
 ただ、話をした事も、パーティーなどで、顔を合わせた事もない。

「はぁ、何か…」

「リリアンヌ・ロロルコット!ただの伯爵令嬢のくせに、いい気になっているみたいね」

 アイスブルーの真っ直ぐなロングヘアーをかきあげながら、シシリーが同じくアイスブルーの瞳をギラつかせて睨み付けてきた。

「私達公爵家の令嬢を出し抜いて、フェルナンド様に取り入るとは、無礼もいいところだわ。この学園に入って、一人になる機会をずっと狙っていたのよ!」

 マリアはローズレッド家の名の通り、くるくるとした真っ赤な髪で、意思の強そうな金の瞳をしていた。

 二人ともゲーム内では全く出てこないキャラである。

(はぁ、私の平和と平穏な日々が・・・)

 このまま黙って耐え続ける日々を送るか、リリアンヌは迷った。
 透哉の時も同じだ。あの時も、平和と平穏を求めていた。
 しかし、ずっと下を向いて耐えていても、事態は悪化するだけだった。
 リリアンヌとして、人生をやり直し、また同じ間違いをするわけにいかない。

「黙っていても、何も分からなくてよ。どうせ汚い手を使って取り入ったんでしょう。お父様が王宮にお金でもバラまいたのかしら」

「あらー、この大きな胸を使ったのかしら、まるでメス豚ね!尻軽女!」

 リリアンヌは、顔を上げて、二人の顔を真っ直ぐに見た。
 今は透哉じゃない。リリアンヌの人生だ。

「私は、汚い手なんて使っていません。うちの家族も同じです」

 リリアンヌの真っ直ぐな視線に動揺したシシリーが、カっとなって、手を振り上げた。

 打たれると、目を閉じた瞬間。
 パンパンと手を叩く音が聞こえた。

「そこまでよ!シシリー、マリア、いい加減にしなさい!」

「ローリエ!」

「ごめんねぇ、リリアンヌ。途中から聞いていたのよ。二人の目的が知りたくて、すぐに止めに入らなかったのだけど。この二人、私の従姉妹なのよ」

 アレンスデーンの公爵家は、そう多くない。同じ公爵家であれば、親戚の繋がりがあっても不思議ではない。

「あれだけフェルナンド様に熱を上げていたのに、婚約後はやけに静かだと思ったら、リリアンヌに直接嫌がらせをしようと考えていたのね。私の従姉妹が失礼な事をしたわ。本当にごめんなさい。」

「ローリエ!どうして謝るのよ!悔しいじゃない!こんな女に!」

 シシリーが、リリアンヌを指差して叫んだ。
 その瞳に、小さい涙の粒が光っていることをリリアンヌは見つけてしまった。

「貴女たちがリリアンヌの何を知っているのかしら。王太子殿下から婚約の申し込みがあれば、アレンスデーンの貴族であれば、どうあっても受け入れなければいけないのは周知の事実。リリアンヌにも、こうしたいという意志があったはずよ。受け入れようと今頑張っているのよ。それを…」

「ローリエ、いいのよ。ありがとう」

 ローリエがリリアンヌを思っていてくれた事に、胸を打たれた。
 同時に、このまま助けてもらってばかりではいけないと、リリアンヌも心を決めた。

「二人ともきっと幼い頃から、殿下のために自分を磨き、好きになってもらえるように、努力を積み重ねてきたのよね。それが、突然出てきたよく知らない女に、希望が奪われてしまったら。ショックだし、腹も立つし、何か言ってやらないと気がすまない気持ちは分かるわ」

「リリアンヌ…」

「私は、好きって気持ちがよく分からない、どうしようもないやつで、ただ状況として受け入れるしかないかくらいに浅く考えてた。さっき、シシリーの目から涙かこぼれたのを見て、ショックだった。あれは、シシリーの気持ちが溢れた涙だった。正直…今の私では、二人に何も言い返す事も出来ないし、言われて当然だと思う」

「ずっと、考えないようにしようと思っていたけど、殿下の事も自分の気持ちにも、ちゃんと向き合わないといけないと決めた。シシリーにもマリアにも、認めてもらうのは難しいけど、この女性ならと思ってもらえるように努力する。それで…」

「リリアンヌ、もう、いいわ。あなたの正直な気持ちは二人にも少しは伝わったでしょう。今はそれで十分でしょう。シシリーもマリアも気持ちは分かるけど、言っていい事と悪い事があるわ。その辺り、ちゃんと謝りなさい」

 二人は下を向きながら、言い過ぎた。悪かったと小さな声で言った。
 二人とも悪い子ではないのよ、出来れば許して欲しいと言ったローリエが、もう天使に見えた。

 ローリエさまさまで、おかげで、解決とはいかないけど、事態が悪くなることは避けれた。

 リリアンヌは、自分の浅はかな考えを反省して、フェルナンドが帰ってきたら、逃げずに向き合おうと決めた。

 しかし、この出来事は、やがて学園を巻き込む大騒動の序章でしかなかった。

 不穏な影は、静かに広がっていくのであった。


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