悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

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第一章

閑話 男達は夢のあと

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 年に一度の祭典もほぼ終わり。
 大人達のダンスパーティーになった会場を離れ、
 男達は打ち上げパーティーと称して、
 生徒会室に集まっていた。

 出席者は、
 アレンスデーン王国王子
 生徒会長のフェルナンド・アレンスデーン

 サファイア王国王子
 アルフレッド・サファイア

 ベイサイド王国王子
 ルカリオ・ベイサイド

 ルーミニア王国王子
 フレイム・ルーミニア

 そして、なぜか、僕・・・、
 アレンスデーンの伯爵家長男、
 ユージーン・ロロルコット

「お疲れさま。まずは新入生の三名、入学おめでとう。私とフレイムは今年で卒業だから、短い間だか、よろしく頼む」

 まずは、フェルナンドが口を開き、みんなでグラスを合わせて乾杯した。

「それにしても、災難だったなアルフレッド。初日から令嬢と揉めるなんてな」

「頬を張られて、つい頭にきてしまった。ルカリオ、お前がいてくれれば、俺ももう少し冷静になれていたかもしれない」

「もういいだろう。その件はカタもついた。お互い新入生だ上手くやってくれ」

 ドタバタを思い出して、各々が感慨に浸っていたら、ルカリオが思い出したかのように、口を開いた。

「それより!ユージーン君!君に言いたいことがある」

「ひぇぇ!!なっ、なんでありましょうか。というか、なんで僕は、こんなところに・・・」

 突然指名され、ユージーンは震え上がった。

「あっ、それね。もう身内ってことで」

「殿下ぁぁ。そんな、心臓が持たないです…」

「おい!ユージーン君!私の話を聞いてくれたまえ!」

 初対面のルカリオに、詰め寄られて、もう訳がわからない。

「なんでしょう・・・。僕が何か粗相でも?」

「いや、君がどうしたと言うわけではないのだが。アレンスデーンの男子諸君に思うところがあってね」

「確かに僕は、アレンスデーンの男ですが…」

「アレンスデーンの男は腰抜けなのか?」

 いきなりパンチが飛んできたような衝撃で、ユージーンは頭がクラっとした。

「え??それはどういう?」

「ルカリオ、それは私も容認できないんだけど。というか、一応私も、アレンスデーンの男子だよ」

「フェル兄さんについては、色々としがらみもあるし、自由にできないだろうから、除外させてもらいます」

 ルカリオの話によると、パーティーでとびきりの美人に出会って、ついつい声をかけてしまったそうだ。しかし、そのアレンスデーンから来たという令嬢は、褒めてもなかなかつれない。よくよく話を聞くと、今まで男性からアプローチを受けたこともないと言われた。
 その状態で婚約もしているからと言われ、去っていかれてしまった。
 断り文句にしては、滑稽なくらいだったので、非常に真に近いのではないかと考えた。
 百戦錬磨の自分の感覚では、男性と話すことに慣れていない雰囲気も感じ取ったという事だった。

「私の審美眼は間違っていない!あのような美人に誰も目もかけないとは!美というものは、皆に愛でられてこそ大成するものだ!だから、あえて、腰抜けと強い言葉を使わせてもらった。どうだ、ユージーン君、君を見ていると私はアレンスデーンの将来が心配だ」

「確かに、僕は女性には奥手で・・・、今までお付き合いをした事もないですけど・・・、それはこれからでも・・・」

「ユージーン」

 つらつら言い訳に徹しようとしているところを、フェルナンドに止められた。

「ルカリオ、心配には及ばない。我が国の男子は女性には紳士であるし、美を愛でることも惜しまない」

 フェルナンドは優雅な仕草でグラスを口へ運んだ。

「まぁ、その令嬢に関しては、心当たりがある。彼女に関しては、私はひどく狭量になってしまう節があってね。この場で話題になることも避けたいし、他の男が彼女の名前を呼ぶことも耐え難い思いなんだ。ということで、この話は終わりにしよう」

「あ!!」

 アルフレッドとユージーンが同時に声を上げた。

「姉様!」

「リリアンヌだろ!」

 また、二人が同時に声が揃った。

「そうだ!そう名乗っていた。今気がついたが、家名がロロルコットだから、ユージーン君のご家族だったのか」

「遅いぞ!ルカリオ!俺も会ったが、すごい体だったな!特にあの柔らかそうな・・・ひっ!!」

 絶対零度の視線を感じて、アルフレッドとルカリオは凍り付いた。

「確かに美人だった・・・」

 ここで、ずっと黙っていたフレイムが、ボソリと喋った。

「フレイム…貴様、このタイミングで入ってくるとは、いい度胸だ」

 手ぶらで戦場に入ってきたフレイムを見て、ユージーンが慌てて話題を変える。

「あぁあの!そういえば、サファイア産の石は見事な美しさですよね。学園の噴水を拝見しましたが、見事な細工に感動しました」

「そう、リリアンヌ嬢とは、噴水の前で会った」

「あーもー…」

 自ら地雷に飛び込んでいくフレイムを、ユージーンは諦めの目で見た。

「似姿絵で毎日見ているから。本人に伝えたら、驚いていたけど、性格は良さそうだった。良かったな、フェルナンド」

「フレイム…、剣技場の清掃係にお前を任命しよう。ちょうど人がいなくて困っていたところだ」

「な!なぜだ!!あの臭いの溜まり場を…!」

 ショックで固まってしまったフレイムを見て、ユージーンは小動物の本能で、危険を察知した。

「あのぉ、僕、そろそろ失礼しますね。先生から書いておくように言われた書類があったようなー、あの、それでは失礼します」

「ユージーン」

 フェルナンドは静かにユージーンの名を呼んだ。

「ひぃい!はい!殿下!」

「君には姉弟の過剰なスキンシップについて、聞きたいことがあってね」

 ご令嬢方が見たら、見惚れて気絶してしまうくらいの美しい笑顔のフェルナンド王子が、これほど恐ろしく見えるのはユージーンだけだろう。

「え?スキンシップ?なんの事でしょう」

「かたもみのことだよ」

「えっ、あーー・・・ですか」

 今朝、中庭でリリアンヌとたまたま顔を合わせた時、もし、かたもみについて、殿下に聞かれたら、よくやってもらってると言っておいてと言われた。何それと聞いたけど、大したことじゃないと言ってバタバタと行ってしまった。

 いまもって、意味は不明だが、一応話を合わせておかないと、姉は姉で恐ろしい。

「そうですね、よくやってもらっています、って!・・・ひぃぃ!!」

 絶対零度の視線に加えて、フェルナンドの背中から氷の炎が立ち上っている。

「君は大事な私の義弟だからね。サービスしてあげよう。ははははははっ」

「ひえええええええーーーー!!!お助けをーーーーーー!!」

 生徒会室の外を歩いていた者達は、その恐ろしげな声に慌てて通りすぎて行く。

 かくして、男達の楽しいパーティーは、まだまだ終わらないのであった。


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