悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

文字の大きさ
16 / 44
第一章

⑯邂逅

しおりを挟む
 なぜあの時、フェルナンドの手を握ったかと言えば、透哉の記憶を思い出したからだ。

 透哉もよく悪夢にうなされた。
 しかし、母とは引き離され、離れに一人、誰も側にいなかった。

 だから同じように月を見上げて一人で喋っていた。
 ¨僕はここにいるよ¨と…………

 だから、たまらなくなってしまったのだ。



「ねぇ…それって…、それってつまりあれじゃない!!」

 フェルナンドと一歩近づいたと思えた翌日、昨日の出来事をローリエに話してみた。

「あの、その、タイミング云々は大目にみてよ。とりあえず言えたんだからさ」

「いいえ、そのタイミング、限りなくベストよ!」

「え?良かったの?」

「そして、リリアンヌが言ったのは、もうプロポーズにしか聞こえないわ」

「ええええ!!嘘でしょ!」

(君の作る朝食が食べたいみたいな、遠回しな表現でとらえられたってこと??)

「リリアンヌ、あなたは私の想像の右斜め上をいくわね」

「それは、褒めてるの?」

「あー、私もあなたが好きってことよー!もー、可愛すぎるやつめー!」

 ローリエに抱き締められ、髪の毛から制服からめちゃくちゃにされた。

(嘘でしょ…まぁあれかな、女子的な目線で見るとそうなのかな。ほら、男は鈍感だし、そこまで想像力ないでしょ)

「…リリアンヌ、あなた、とっても失礼なこと考えてない?」

「だってー、頭の中で否定しないと、もう恥ずかしくて生きていけないー」

 机に突っ伏してメソメソ泣いていると、ローリエに頭を撫でられて慰められた。

 そんな時、珍しく教師から呼び出しがあって、リリアンヌは職員室へ向かった。


□□□


 呼び出しの件は、リリアンヌが教師に配った茶葉の件だった。先日、フェルナンドのために用意した茶葉がたまたま、余ったので、職員室にお裾分けしたのだ。
 それが大変香りが良いと評判になり、秋のお茶会に使われる事になったのだ。
 お茶会は、全校生徒参加、各国の要人も訪れるもので、生徒達の歌や楽器の演奏発表会も兼ねて、盛大に開催される。

 ここで使われるとなれば、輸出事業の大チャンスなので、販売元を紹介して、喜んでアピールしてきた。

 ウキウキるんるんで歩いていると、初めて通る道だと気がついた。
 職員室のある棟が学園の中心にあり、そこから、一、三学年の校舎と二学年の校舎に分かれる。
 リリアンヌは職員室から、そのまま、二学年の校舎の渡り廊下まで歩いてきてしまったのだ。
 辺りはしんと静かで、誰もいない。

(まずい、方向音痴もいいところだ!早く戻らないと…)

「リリアンヌ・ロロルコット」

 慌てて踵を返して戻ろうとすると、突然声をかけられた。

「はい!」

 急に名前を呼ばれたので、勢いよく返事をしてしまった。

「ふふふっ、元気な返事だね。まさか君の方からこちらへ来てくれると思わなかったよ」

 振り向くと、深い海のような藍色の髪に、黄金色の瞳、彫刻のように整った顔立ちの青年が立っていた。

(知ってる人?誰だっけ?)

 学園生活は挨拶するだけでも、たくさんの人間と関わることになるが、これほどの印象的であれば、覚えがあるはずだと思った。何しろ向こうはフルネームも知っているのである。

「あの…、大変失礼なのですが、お会いしたことはありますでしょうか」

 男は何も言わず、つかつかとこちらへ歩いてきて、すぐ目の前まで来た。

「君は知らないだろうが、僕は知っているんだ。へぇー、これがあれのお気に入りか」

 男は上から下まで無遠慮にリリアンヌを眺めてニヤリと笑った。なんだか、ゾッとする嫌な笑い方だ。

「あれも、女には不自由しないだろうに。なぜ君なんだろうね。そう単純な理由にしては、らしくないんだけど」

 なぜだかすごくバカにされているようで、リリアンヌはムッときた。

「あの!アレとかソレとか、よく分からない事を仰ってますけど、あなたはそもそも、どこのどなたですか?」

 そう聞くと、男は少し驚いたように、片方の眉を上げた。

(なんだよ、こいつ、ちょっと顔が良いからって芸能人気取りかよ!)

「僕は、ジェイド・クラフト、クラフト王国の第一王子だよ」

 リリアンヌの背中に嫌な汗が流れた。

(やば…他国の王子に不遜な態度&フェルナンドに一切接触するなと言われていたんだ)

「あははは~、そういえば私、道に迷ってしまって~、そろそろ行かないと。それでは~失礼します~大変失礼しました~!!」

 リリアンヌは、淑女の礼もそこそこに、慌てて小走りでその場から逃げ出した。



 スカートを持ち上げたまま、慌てた様子で去っていくリリアンヌの後ろ姿を見て、ジェイドはおかしくて笑ってしまった。

「ふふっ、へぇー、なかなか面白いね。興味なかったけど、興味出ちゃったな」

「ただの貴族の分際で、あのような不遜な態度。我が国であれば処罰の対象になりますよ」

 誰もいないと思われた廊下の柱の影から、一人の男が現れた。
 ジェイドより一回り大きく頑丈な体躯で、目が鋭く頬に傷のある男だ。

「あの手の体に自信がある女は、僕が声をかけたら、大抵誘惑してくるものだが。見ただろ、人をゴミを見るような目で見ていたんだ」

「それが不遜な態度だと言うのです。ただの貴族のくせに汚らわしい」

「まぁ、使えるかどうかは分からないけど、調べてみる価値はありそうだね、よろしくね、ライル」

「畏まりました」

 ライルと呼ばれた男は、伸びて行く影のように音も立てずその場から消えた。

「さぁて、面白くなってきたね」

 ジェイドはそう呟いて、颯爽と校舎の中へ消えていった。



□□□
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...