悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

文字の大きさ
21 / 44
第二章

①消えたローリエ

しおりを挟む
 招待状はシンプルなものだった。

 名前と、ぜひ二年の校舎にお越しください、お待ちしておりますとだけ記されていた。

(こんなに分かりやすいワナがあるのか。誰がいくかよ!)

 何かの証拠になるかもしれないので、一応持っておくことにしたが、まるで主人公が手紙を受け取る話のようで気味が悪い。

 もしかしたら、他の貴族達はこの方法で勧誘されたのかもしれない。ローリエも招待状を受け取ったかどうか聞いてみようと、リリアンヌはローリエを探しに教室を出た。


 □□□□□□□□□□□

「いない…」

 思い当たる所は探してみたが、ローリエの姿はいっこうに見つからない。

 ついには、ユージーンにも、参加してもらい、日暮れを過ぎて、暗くなるまで、あちこち見て回ったが、やはり見つからなかった。
 先に帰ったのかと部屋を訪ねたが、一度も帰って来ていないとメイドも慌てていた。

 翌日、自習状態の教室で、ローリエの姿はなかった。
 ぽっかりと空いた席を見つめて、リリアンヌはどうしたらいいのか全く思い付かずにいた。

 そんな時、エレーナが声をかけてきた。

「リリアンヌ様、私見たのです。ローリエ様は、見知らぬ者から手紙を受け取っていました。ローリエ様はそれを見て招待状だと言っていらっしゃいました。私、危険だとお止めしたのですが、リリアンヌ様には黙っておくように言われまして…」

「それいつのこと!?」

「一昨日の帰りです。私を宿舎まで送っていただく途中で、見知らぬ者からローリエ様だけ声をかけられました」

(どういうこと?なぜ私に話してくれなかったの。心配をかけたくなかったから?昨日調べることがあると言っていたのは、そのことだったの…)

「教えてくれてありがとうエレーナ」

「気を落とさないでください。きっとすぐ戻られますよ」

(どうしよう、どうしたらいい…ローリエを助けに二年の校舎へ行かないと。どうやって侵入しようか?それに行くにしても、まずアルフレッドに相談しないと)

 その時、タイミング良く、教室の入り口にユージーンが現れた。

「姉様!アレックス・グリーンが見つかったよ。談話室に集合!」

 すぐに、エレーナとエリザベスに声をかけて、一行は談話室に急いだ。


 □□□


「結論から言うと、やはり二学年の校舎にいるらしい。しかし幽閉されているわけではなく、本人の意思だそうだ。俺もまだ直接本人に確認したわけではないが、探っていたら友を名乗る人物から接触があった」

「それはまた、怪しいですね」

「今のところ手掛かりはそれだけ。その友人の手引きで、アレックスに今日会うことになった。場所は道具室だ。こっちの校舎だからこちらも動きやすいし危険も少ない」

「その、アルフレッド様お一人で会われるのですか?」

 エレーナが心配そうにアルフレッドの袖に触れる。

「いや、フェル兄さんと一緒だ。向こうが指定してきた。上司だからな、謝る気持ちがあるのかもしれない」

 フェルナンドもと聞いて、胸が苦しくなった。

「私も一緒にいてはだめでしょうか。ローリエが消えてしまった事もあってどうしても心配で」

「ローリエの事は聞いたよ。すぐに探してやりたいところだが、まずはアレックスから何か証言が取れないか確かめる必要がある。申し訳ないが向こうもかなり慎重になっていて、人数が増えるのはヤバいんだ。ここは辛抱して俺たちに任せてくれ」

「分かりました。どうかお気を付けて、良い報告を待っております」

 何もできない事に気持ちは落ち込むばかり、ユージーンに肩を支えられて何とか足元を落ち着かせるので精一杯だった。

 一同は解散し、教室でそれぞれ待つことになった。

(あっ、招待状のこと言い忘れた)

 戻ってから思い出したが、今さら誰も気にしないだろう。
 教室内の人数は減ってばかり、だいぶ少なくなった。
 信者として行ってしまった者もいるが、宿舎に残って登校せずに事態が収まるのを待つ者がほとんどだ。

(あーーー!気になる。もうずいぶんや時間がたったけどどうなったの?)

 エレーナもやきもきしているかと見てみたが、席にはいなかった。
 いつも一緒にいるはずのエリザベスは机に突っ伏して寝ている。

「エリザベス!!エリーナはどうしたの!?」

 慌てて揺り起こしてみると、エリザベスはゆっくり目を開いた。

「ん…あ…、リリアンヌさん?私急に眠くなってしまって…、大変!エレーナ!きっと殿下が心配で見に行ってしまったのよ!!」

 その時、キャーーーーーー!!!という耳を劈くような女の悲鳴が聞こえた。
 まさか、エレーナと思い、エリザベスと目があった。

「リリアンヌさん!」

「ええ、行きましょう。道具室は三年の階の一番奥の部屋ね」



 □□□□□□□□□□□


 三年の階の廊下は人でごった返していた。
 先へ進めないように、途中で止められていて、バタバタと教員達が出入りしていた。

「おい、誰か怪我をしたらしいぞ」

「血がすごいって・・・」

 人だかりから、そんな話が漏れてきて、リリアンヌは生きた心地がしない。

(まさか…嘘でしょ…フェルナンド)

「これより、騎士団の調査がはいる!、生徒達諸君は自分の教室へ戻りなさい!!」

 ついに、サファイアの騎士団のが調査に入ることになったようだ。学園内で重大事件が起きた時にしか、介入しないはずだ。

(という事はやはり……なにか、良くないことが起きているんだ)

 皆、強制的に教室に戻された。少しでも近づきたくて、一人で騒いでねばったけど、騎士団の体躯のいい男に担ぎ上げられて、連れていかれてしまった。

「悪いね!レディにこんな真似したくないんだが、これも仕事なんだ。教室で大人しくしていてくれ」

 騎士団の重そうな西洋甲冑をつけながら、リリアンヌを担ぎ上げるとは、その腕力に驚いた。

「なにがあったのか、教えてくれませんか?中に…大切な方がいたのです…」

「それは、うちの王子の事かな?」

「いいえ、アレンスデーンの王太子です…あの、アルフレッド様も一応心配ですが…」

 教室へつくと、騎士団の男はリリアンヌを下ろした。
 兜を外した男は、燃えるような赤い髪に、緑の瞳で、目付きが鋭く少し強面だか、笑うと優しい印象を受けた。

「うちの王子も一応心配してくれて良かった。安心しな、王子は二人とも無事だ」

 安心して気が抜けて、膝から崩れ落ちそうになるのを、おっとと言いながら、男が支えてくれた。

「俺はレオンハルト・サイロス、サファイア騎士団の副団長だ。レオンと呼んでくれ。貴女はリリアンヌ嬢だろう」

「え?ええ。レオン…なぜ私の名を?」

「王子達から多分困っている美人がいると思うから、丁寧に保護するように言われてな。それにしても、アレンスデーンの王子はそうとうご機嫌が悪かったぞ」
 
 レオンは何故か寒そうにして、顔を震わせた。

「その、中で何があったのですか?なぜお二人に会えないのですか?」

「あぁ、それなんだか。ちょっと厄介な事になってな。お二人は身がらを拘束させてもらう事になった」

 一度ひいた嫌な汗が、また再びじっとりと背中を流れていくのを感じた。


 □□□
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...