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第二章
⑤青い果実
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夜の森を抜け、傷だらけになりながらも、騎士団の詰所に到着した時、先に着いていたのはローリエ様のみ、他の者は捕まってしまったようだった。
姉様が出てこられずに残ったことを伝えると、ローリエ様は慌てて戻ろうとしたので、詰所の団員の方に手伝ってもらい、何とか説得して止めた。
本部に報告が必要と言うことで、またまた急ぎ走って本部の騎士団の塔へ向かった。
塔に着くと、何やら騒ぎになっていて、フェルナンド様とアルフレッド様の姿があった。
どうやら、出ていこうとするお二人を、団員の方が必死に止めていた。
僕の姿を見つけたフェルナンド様は、一瞬安堵の表情になったが、姉様がいない事に気がつくと、恐ろしい顔で行方を尋ねてきた。
大変言いづらかったのだが、二人でローリエ様を助けるために、校舎に忍び込んだこと。無事見つけ出したが、脱出の際に、姉様だけ物理的要因で窓から出れなかったこと。僕に助けを呼ぶことを託して、残ったことをお伝えした。
殿下は真っ白になって、固まってしまったが、直ぐに、フレイムはどこだー!と叫びだして、団員の剣を奪って走っていってしまった。
慌てたアルフレッド様も、剣を借りて後を追った。
僕とローリエ様も急いで二人の後を追いかけた。
□□□□□□□□□
「おいっ、ちょっと、これは一体どうしたんただ?」
目の前の光景が酷いことになっていて、レオンは開いた口が塞がらない。
「サイロス副団長、その、必死でお止めしたのですが…力及ばず」
騎士団塔の監視用の部屋は、牢屋のように檻に囲まれているわけではないが、厚いレンガ造り壁と木の頑丈な扉で出来ていて、そう簡単に壊れるものではない。
それが扉は開け放たれて床に転がっているし、レンガも一部ボロボロに砕けている。部屋のなかは破壊されたベッドに、鉄で作られたベッドの支柱がバラバラになって転がっていた。
「はぁー、若いってやつは怖いねぇ。俺もこうだったかなー」
王子二人の処遇については、団長が来るまでは保留にして、情報を集めていたところだった。
だいたい、全貌が見えてきて、諸々の証拠も偽物、目撃者に至っては、切りつけた本人である可能性が出て来て、結論から言うと二人は無罪ではあった。
だが、こちらだって、忙しく駆け回っているのに、アルフレッドから今すぐ来てくれと連絡が入っても行けるわけがない。
一晩大人しくしてろと伝えさせたら、副団長、部屋が破壊されて、お二人が出ていってしまいましたとさ。
「副団長、アルフレッド様は、その、大人しかったのですが、まぁ。途中から色々やらされてましたが……」
「あー、アレンスデーンの坊っちゃんだろ。嫌だねー若いってのも、めんどくせー、んで?お二人はお揃いでどちらへ?」
「学園の奥の校舎だと思われます。実は、監禁されていたと訴える者が二名、助けを求めてきまして…、ちょうどお二人も一緒で…、フェルナンド様は、ますますお怒りになって、倉庫から剣を持って行かれてしまいました。あっ、他の皆さんも一緒です」
「おいおい、それを早く言え!これ以上怪我人が出たら大変だぞ!!」
副団長レオンと、団員数名は、急いで飛び出して行った王子達の後を追うのであった。
□□□□□□□□□
二年校舎の前は、見張りの者達が松明を灯したので、そこだけ明るい舞台のようなになっていた。
まるで私のために用意されたようだと、エリーナは嬉しくてたまらなかった。
思い起こせば、この学園の入学パーティーで、私は地獄を味わった。あのアルフレッド王子の態度にキレてつい頬を叩いてしまった。
たくさんの貴族令嬢や令息が集まるなか、私は不敬罪を言い渡され、これ以上ない恥をかかされた。
それでなくとも、うちは最下位の男爵家。爵位は金で買ったようなもので、贅沢をしていたら、あっという間に貧乏になってしまった。
私が贅沢な暮らしをするためには、少しでも上位の貴族との結婚しないといけない。そう、思って挑んだパーティーで、最悪の印象を持たれてしまった。
反省室という名の牢屋で、私は悔しさでむせび泣いていた。
そこに来てくれたのが、あの方だった。
可哀想にと言ってくれた。
僕と一緒に怨みを晴らさないかと言ってくれた。
あの方を一目見たとき、この人の隣に立つのは私しかいないと思った。
アルフレッドを騙すのは簡単だった。傷つけた責任をチラつかせ、純情なフリをすれば、ホイホイと私に夢中になった。
あの方に頼まれたことは、喜んでやった。いや、もっと喜んで欲しくて、やり過ぎてしまったのだけど。
お友達ごっこだって我慢してやったわ。エリザベスは上手く利用できたし、リリアンヌはなんか熱い説教たれてきたから、面倒くさい女だったけど。
王子二人を貶める時は最高だった。アレックスは目隠の状態で、予め痛めつけておいたので、そのまま、王子達が暴行したことにするのが計画だった。
それだけじゃ、きっとあの方は喜んでくれない。
どうせなら、もっと傷つけないとダメだと思った。
剣を道具室に隠しておいた。王子達が来る前に、アレックスを斬りつけた。めちゃくちゃに斬っているうちに楽しくなって、ついついドレスを汚してしまった。まぁ、きっとあの方は喜んでくれるだろう。
あの方は私を特別な目で見てくれる。
夜の闇の中で、明るく輝くこの場所で、あの方は私の手をとり、永遠を誓ってくれるに違いない。
もうすぐアルフレッド達がやってくる。そしたら、あの方は出て来て、アルフレッドの前で私を選んでくれるだろう。
学園がどうなろうと構わない。
いざとなれば、クラフト国へ一緒に帰り、私は王妃になるのだ。
さぁ、私はここでお待ちしております。
愛しい人、早くきて。
□□□□□□□□□
結局、フェルナンド様を見失ってしまい、僕とローリエ様は、アルフレッド様と一緒に、二年校舎までやってきた。
正面玄関の前は広場になっているのだが、松明が並べられ闇の中にで、そこだけぼんやりと浮かんでいるように見える。
広場の中心にはエリーナが立っていた。
両手をヒラヒラと動かして、ダンスを舞っているようだった。見てあれ、まるで、主役の気分ね、とローリエ様が呟いた。
エリーナの後ろには剣を構えた男達が、今か今かと待ち構えている。
「殿下は?先に来ているはずなのに…」
とっくに着いていると思われたのに、姿が見えない。
「おい、私はここだ」
「うわぁ!」
真後ろから声がした。いつの間にかフェルナンド様は、僕の後ろに立っていたようだ。
「殿下!良かった。一人で突っ込んで行かれたのかと思っていました」
「私はそんなに馬鹿ではない。私が来たのはリリアンヌを助けるためだけだ。こう人が多いと時間を取られるし、向こうには王殺しのライルがいる、私の剣ですぐにどうにかなるものでもない」
「だったら、どうするんですか!?今さら忍び込むなんて……」
「正面突破をするやつを連れてきた。戦いはこいつに任せればいい」
そう言って、フェルナンド様は、フレイム様の首根っこを掴んで、ぽいっと前に立たせた。
「えー?なにー?俺何する?」
「フレイム…思う存分…暴れてこい!」
フェルナンド様が、フレイム様に剣を投げた。
フレイム様は、こちらを見ることもなく、剣を受け取った。いつものぼんやりとは思えないくらいの俊敏な動きだった。
「え?え?どういうことですか?」
「ちょ、フレイム兄!!頼むー!殺しちゃだめだから!」
アルフレッド様が慌てて叫んだ。
「あのさー、それ俺に言ってんの?」
こちらをゆっくりと振り向いたフレイム様は、口調も目付きも別人だった。
「え?誰…?」
「この俺に剣を持たせたんだ。悪いが皆、地獄に落ちてもらう」
「いや、落としちゃだめでしょ」
ローリエ様の絶妙なツッコミが聞こえた後、フレイム様は、雄叫びをあげて、一人で正面から突っ込んで行った。
「うおおおおおおおおおおお!死ねええええええええええ!!!!」
始めは向こうも、このやろーとか怒号が聞こえたけど、それが、うわーとか、助けてーとかに変わっていった。
「よし」
「いや、殿下、よしじゃないでしょ」
「私はリリアンヌを助けに校舎に入る!お前達は適当にエリーナとジェイドにケリをつけて来い!」
そう言って、フェルナンド様は、走っていかれてしまった。
「さすが策士、たくましいわね」
校舎の中から、リリアンヌどこだー!という、フェルナンド様の絶叫が聞こえる。
僕とローリエ様は、アルフレッド様に付いてエリーナが逃げていったと思われる広場の奥へ向かう事にした。
□□□
姉様が出てこられずに残ったことを伝えると、ローリエ様は慌てて戻ろうとしたので、詰所の団員の方に手伝ってもらい、何とか説得して止めた。
本部に報告が必要と言うことで、またまた急ぎ走って本部の騎士団の塔へ向かった。
塔に着くと、何やら騒ぎになっていて、フェルナンド様とアルフレッド様の姿があった。
どうやら、出ていこうとするお二人を、団員の方が必死に止めていた。
僕の姿を見つけたフェルナンド様は、一瞬安堵の表情になったが、姉様がいない事に気がつくと、恐ろしい顔で行方を尋ねてきた。
大変言いづらかったのだが、二人でローリエ様を助けるために、校舎に忍び込んだこと。無事見つけ出したが、脱出の際に、姉様だけ物理的要因で窓から出れなかったこと。僕に助けを呼ぶことを託して、残ったことをお伝えした。
殿下は真っ白になって、固まってしまったが、直ぐに、フレイムはどこだー!と叫びだして、団員の剣を奪って走っていってしまった。
慌てたアルフレッド様も、剣を借りて後を追った。
僕とローリエ様も急いで二人の後を追いかけた。
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「おいっ、ちょっと、これは一体どうしたんただ?」
目の前の光景が酷いことになっていて、レオンは開いた口が塞がらない。
「サイロス副団長、その、必死でお止めしたのですが…力及ばず」
騎士団塔の監視用の部屋は、牢屋のように檻に囲まれているわけではないが、厚いレンガ造り壁と木の頑丈な扉で出来ていて、そう簡単に壊れるものではない。
それが扉は開け放たれて床に転がっているし、レンガも一部ボロボロに砕けている。部屋のなかは破壊されたベッドに、鉄で作られたベッドの支柱がバラバラになって転がっていた。
「はぁー、若いってやつは怖いねぇ。俺もこうだったかなー」
王子二人の処遇については、団長が来るまでは保留にして、情報を集めていたところだった。
だいたい、全貌が見えてきて、諸々の証拠も偽物、目撃者に至っては、切りつけた本人である可能性が出て来て、結論から言うと二人は無罪ではあった。
だが、こちらだって、忙しく駆け回っているのに、アルフレッドから今すぐ来てくれと連絡が入っても行けるわけがない。
一晩大人しくしてろと伝えさせたら、副団長、部屋が破壊されて、お二人が出ていってしまいましたとさ。
「副団長、アルフレッド様は、その、大人しかったのですが、まぁ。途中から色々やらされてましたが……」
「あー、アレンスデーンの坊っちゃんだろ。嫌だねー若いってのも、めんどくせー、んで?お二人はお揃いでどちらへ?」
「学園の奥の校舎だと思われます。実は、監禁されていたと訴える者が二名、助けを求めてきまして…、ちょうどお二人も一緒で…、フェルナンド様は、ますますお怒りになって、倉庫から剣を持って行かれてしまいました。あっ、他の皆さんも一緒です」
「おいおい、それを早く言え!これ以上怪我人が出たら大変だぞ!!」
副団長レオンと、団員数名は、急いで飛び出して行った王子達の後を追うのであった。
□□□□□□□□□
二年校舎の前は、見張りの者達が松明を灯したので、そこだけ明るい舞台のようなになっていた。
まるで私のために用意されたようだと、エリーナは嬉しくてたまらなかった。
思い起こせば、この学園の入学パーティーで、私は地獄を味わった。あのアルフレッド王子の態度にキレてつい頬を叩いてしまった。
たくさんの貴族令嬢や令息が集まるなか、私は不敬罪を言い渡され、これ以上ない恥をかかされた。
それでなくとも、うちは最下位の男爵家。爵位は金で買ったようなもので、贅沢をしていたら、あっという間に貧乏になってしまった。
私が贅沢な暮らしをするためには、少しでも上位の貴族との結婚しないといけない。そう、思って挑んだパーティーで、最悪の印象を持たれてしまった。
反省室という名の牢屋で、私は悔しさでむせび泣いていた。
そこに来てくれたのが、あの方だった。
可哀想にと言ってくれた。
僕と一緒に怨みを晴らさないかと言ってくれた。
あの方を一目見たとき、この人の隣に立つのは私しかいないと思った。
アルフレッドを騙すのは簡単だった。傷つけた責任をチラつかせ、純情なフリをすれば、ホイホイと私に夢中になった。
あの方に頼まれたことは、喜んでやった。いや、もっと喜んで欲しくて、やり過ぎてしまったのだけど。
お友達ごっこだって我慢してやったわ。エリザベスは上手く利用できたし、リリアンヌはなんか熱い説教たれてきたから、面倒くさい女だったけど。
王子二人を貶める時は最高だった。アレックスは目隠の状態で、予め痛めつけておいたので、そのまま、王子達が暴行したことにするのが計画だった。
それだけじゃ、きっとあの方は喜んでくれない。
どうせなら、もっと傷つけないとダメだと思った。
剣を道具室に隠しておいた。王子達が来る前に、アレックスを斬りつけた。めちゃくちゃに斬っているうちに楽しくなって、ついついドレスを汚してしまった。まぁ、きっとあの方は喜んでくれるだろう。
あの方は私を特別な目で見てくれる。
夜の闇の中で、明るく輝くこの場所で、あの方は私の手をとり、永遠を誓ってくれるに違いない。
もうすぐアルフレッド達がやってくる。そしたら、あの方は出て来て、アルフレッドの前で私を選んでくれるだろう。
学園がどうなろうと構わない。
いざとなれば、クラフト国へ一緒に帰り、私は王妃になるのだ。
さぁ、私はここでお待ちしております。
愛しい人、早くきて。
□□□□□□□□□
結局、フェルナンド様を見失ってしまい、僕とローリエ様は、アルフレッド様と一緒に、二年校舎までやってきた。
正面玄関の前は広場になっているのだが、松明が並べられ闇の中にで、そこだけぼんやりと浮かんでいるように見える。
広場の中心にはエリーナが立っていた。
両手をヒラヒラと動かして、ダンスを舞っているようだった。見てあれ、まるで、主役の気分ね、とローリエ様が呟いた。
エリーナの後ろには剣を構えた男達が、今か今かと待ち構えている。
「殿下は?先に来ているはずなのに…」
とっくに着いていると思われたのに、姿が見えない。
「おい、私はここだ」
「うわぁ!」
真後ろから声がした。いつの間にかフェルナンド様は、僕の後ろに立っていたようだ。
「殿下!良かった。一人で突っ込んで行かれたのかと思っていました」
「私はそんなに馬鹿ではない。私が来たのはリリアンヌを助けるためだけだ。こう人が多いと時間を取られるし、向こうには王殺しのライルがいる、私の剣ですぐにどうにかなるものでもない」
「だったら、どうするんですか!?今さら忍び込むなんて……」
「正面突破をするやつを連れてきた。戦いはこいつに任せればいい」
そう言って、フェルナンド様は、フレイム様の首根っこを掴んで、ぽいっと前に立たせた。
「えー?なにー?俺何する?」
「フレイム…思う存分…暴れてこい!」
フェルナンド様が、フレイム様に剣を投げた。
フレイム様は、こちらを見ることもなく、剣を受け取った。いつものぼんやりとは思えないくらいの俊敏な動きだった。
「え?え?どういうことですか?」
「ちょ、フレイム兄!!頼むー!殺しちゃだめだから!」
アルフレッド様が慌てて叫んだ。
「あのさー、それ俺に言ってんの?」
こちらをゆっくりと振り向いたフレイム様は、口調も目付きも別人だった。
「え?誰…?」
「この俺に剣を持たせたんだ。悪いが皆、地獄に落ちてもらう」
「いや、落としちゃだめでしょ」
ローリエ様の絶妙なツッコミが聞こえた後、フレイム様は、雄叫びをあげて、一人で正面から突っ込んで行った。
「うおおおおおおおおおおお!死ねええええええええええ!!!!」
始めは向こうも、このやろーとか怒号が聞こえたけど、それが、うわーとか、助けてーとかに変わっていった。
「よし」
「いや、殿下、よしじゃないでしょ」
「私はリリアンヌを助けに校舎に入る!お前達は適当にエリーナとジェイドにケリをつけて来い!」
そう言って、フェルナンド様は、走っていかれてしまった。
「さすが策士、たくましいわね」
校舎の中から、リリアンヌどこだー!という、フェルナンド様の絶叫が聞こえる。
僕とローリエ様は、アルフレッド様に付いてエリーナが逃げていったと思われる広場の奥へ向かう事にした。
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