悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

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第三章

②嵐の前の静けさ

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 久しぶりの帰宅を両親は温かく迎えてくれた。
 ずっと引きこもりだったので、こんなに長く屋敷を離れたことがなかったか。どこもかしこも懐かしく、また直ぐに離れなければいけないことがリリアンヌは寂しかった。

「あー、リリアンヌが、帰ってきたと思ったら、直ぐに送り出さなければいけないなんて…殿下は血も涙もない…」

「お父様、私が悪いのです。婚約パーティーの事をすっかり忘れていて、主催者として備えておくべき知識が足りない状態になってしまったのです」

 屋敷に着いてからというもの、お父様が引っ付いてきて離れない。
 着替えるからと言って部屋に入っても、部屋の前からペラペラ話しかけてきて、こんな人だったかなと困惑しかない。

 ファニールも、まぁアナタってば、リリアンヌが大好きなのね、ほほほほっ~と、笑っていて、全然止めてくれない。

 ユージーンは、苦笑しながら、お父様はリリアンヌがいつも家にいたから、急にいなくなって、寂しさを実感したみたいだよと耳打ちしてきた。

 そして、久々に四人で晩餐を囲んだ。
 当たり前だったことが、変わりゆくものだと、ここ数ヶ月でよく分かった。

「あー…ときに、リリアンヌ。向こうでは、その、殿下と一緒に寝ることになるのかな…?」

 突然のお父様の発言に、ユージーンはお茶を吹き出し、ファニールは目をキラキラ輝かせた。

(おいおい!親父!気まずいこと聞くなよな…)

「もう!それはそうよー!恋人同士なんだから、一緒のベッドで眠るのよ。キャー!」

 ファニールは女子高生の恋ばなみたいに、ひとりで盛り上がっている。

「いや…あの…一緒に暮らすのは構わないが、せめて、寝所は別にした方がいいと思うのだ」

「あら!アナタ!殿下は結婚前にそんな無理やりな事はされませんよ!ジェントルマンですもの、ちゃんとそこは守ってくださるわ」

 きゃっきゃっしていたファニールは、お父様を指差して、怒ってますという顔をした。

「いや、そういう事じゃなくて、まぁ、そういう事でもあるんだが…」

「僕も別にした方が良いと思います!」

 ここで、ユージーンまで参加してきた。

「殿下の安全のためにも、その方がいいかと!」

「ん?なぜ、殿下の安全なんだ!リリアンヌだろう」

「え??あのっ?あれ…ですよね?」

「なんの事だ?」

 ユージーンとお父様の会話は噛み合わないし、ファニールは愛とか恋とかしか言わないし、もう、よく分からないし、とりあえず、疲れたからと言って部屋に逃げてきた。
 さすがに、今度はお父様も追いかけてこなかった。

 簡単に湯あみをしてから、ベッドに入った。

「アニーも一緒だったら良かったのに…」

 いつも寝る前に、アニーは髪を乾かして、ブラシでとかしてくれた。

「…先ほどの旦那様が言われたこと、…私も心配なのです」

「いつも、朝はアニーじゃないと、目が覚めないものね」

 というか、ものすごい朝が弱くて、朝起きてからの記憶がいつもしばらくないのだ。
 気がつくと、アニーが身のまわりを整えて、鏡台の前で髪をといてくれている。

「…そうですね。それが心配です。王太子殿下が何とか慣れてくれるといいのですが…」

「慣れる?殿下は私の身のまわりの世話はしないわよ。さくっと起きて仕事にいってしまうわよきっと、忙しい方だから」

 そう言うと、アニーは苦笑した。
 何か言いたくても言えない感じだ。

(寝相とか寝言がひどいのかな。自分じゃ分からないけど)

 アニーが部屋から出ていってからも、なかなか寝付けずにいた。

 ローリエの話していた事が気になった。
 フェルナンドと話していたときも、要注意人物二人の名前はよく出ていた。

 ロイスは、小言が多くて…。ロイスがうるさいからだめになった…。

 エイダンはわがままに育ってしまって、先行きが心配…

(思い出しただけでも、いい感じの情報ではないなー伏魔殿みたいな所だったらどうしよう)

 よく考えたらアニーがいない事は、殿下以外に味方がいないことになる。

(不安しかなくなってきた、…本当に大丈夫かな…)

 いつの間にか空が白くなり、結局つらつら考えていたら朝になってしまった。

 □□□□□□□□

 翌日、王宮からの迎えの馬車が来て、三人に別れを告げ出発した。

 不安な気持ちとは逆に、窓の外にはのどかな景色が流れていた。
 荷物は予め家の者が用意して、事前に送っているので、持ってきた物といえば、小さなバッグと、招待客リストくらい。のんびりと馬車に揺られていた。
 昨晩はほとんど寝れなかったので、走り出してしばらくして眠気に負けて、寝入ってしまった。

 ずいぶんぐっすりと、寝ていたらしく、気がつくと、城下町まで来ていて、王宮に入る門で待たされている所だった。

「申し訳ございません。かなり時間がかかってしまって…」

 従者が謝ってきたが、ぐっすりと寝ていたのでこちらは全く問題ない。

「いいえ、貴方のお陰でよく眠れて、今気がついたところよ。ありがとう、貴方のお名前は?」

「え!?あっ…おっ俺はフリンと申します…」

「フリン、また貴方の馬車に乗れたら私は幸せだわ、ありがとう」

 フリンは帽子を深くかぶり直して、あたふたしていた。突然話しかけてびっくりさせてしまったのかもしれない。

 普段話している家の従者とは違って、王宮の従者は初対面なので、ちゃんとお礼を言っておいた。ここでは、まだまだ余所者なので、ちゃんと人間関係を作っていく事が大事だ。

 無事、門を通過して、王宮の敷地に入った。
 王宮で働く者達の住居、高位職の住居、貴族街を抜け、王族の住む宮殿へとはいっていった。

 しばらく進んだあと、馬車は止まった。
 ここに来るのは、二度目だ。あのフェルナンドとダンスを踊ったパーティーが昨日の事のように思える。
 降り立った場所は、あの会場とは違う、大きくてあまり装飾のないシンプルな外観の建物の前で、辺りは静かだった。

「リリアンヌ・ロロルコット様、ようこそお越しくださいました。」

 窓いくつあるんだろうと大口開けて眺めていたら、いつの間にか人が来ていたらしく、びっくりして声をあげそうになった。

 立っていたのは、メイドや使用人と思われる者達数名と、先頭にいたのは、ダークブロンドの髪を後ろに撫で付けて、銀縁の眼鏡をかけた、色白の若い男性だ。
 キュっと結ばれた口がいかにも神経質そうで、顔の細工は良いのに、ひどく勿体なく見える。

「リリアンヌ・ロロルコットと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 開けていた口を閉じて、慌てて礼をした。

 先頭の男性は、つかつかと近くに寄ってきて、値踏みするように、人の顔を見てきた。

「口元にヨダレと、頬には窓枠の跡が付いています。熟睡レベルですね。馬車を降りた後も、ボケーっと口開けて突っ立っていましたね。王族の立ち振舞いとして、全く問題外です」

「はっ…はい」

 鋭すぎる視線と言葉にそれしか言えなかった。

「あの…あなたは…?」

「私は、アレンスデーン王国国務補佐官、主にフェルナンド様の国務の補佐をしております。ロイス・メイフィールドと申します」

(わぁ…いきなり、要注意人物登場!しかも名前も、こちらが聞かないと教えてくれなかったよね…)

「申し遅れましたが、とても目に余る光景でしたので、先にそちらから、指摘させていただきました。大変失礼いたしました」

「あっ…いえ、そん…」

「誰か!お部屋にお連れしなさい!」

 ロイスは、こちらの返答はほとんど聞かずに、パンパンと手を叩いて、別の者に案内を頼んだ。

(なんというか…ひょっとしなくても…嫌われてるみたいね)

 案内された部屋は広く、外観と同じくシンプルな造りで、ただやはり、王宮だけあって、家具などの調度品は高級感がある。
 案内してくれたメイドは、ここはゲストルームで、フェルナンドが来たら王子の部屋に移動すると言っていた。
 色々話しかけてみたけれど、ちゃんと答えてはくれるが、素っ気なく感じた。

(…ゲストルームに来たお客様というより、完全に余所者って感じだな)

 広い部屋に、ポツンと一人。
 運び込まれた荷物には、慣れ親しんだものもあるが、それが今は、よけいに寂しさを誘う。
 べったりうざいお父様と、天然ファニールと、癒し系弟ユージーンを思い出した。

(あの家、なんだかんだで居心地が良かったもんな)

 荷物のなかに、フェルナンドから出された宿題の山を見つけた。

(あれを見ていよう。集中していれば、落ち着くし…)

 その時、ノックの音が聞こえた。

「はい、どうぞ」

 ドアを開けて入ってきたのは、ロイスだった。

「ロイスさま…何か…」

 ロイスはこちらの話を手を前にあげて止めた。

「ロイスで結構です。到着早々申し訳ないのですが、お伝えしなければいけないことがござましてよろしいですか」

ロイスは中指で眼鏡を軽く押し上げた。

「はい…」

「単刀直入に申し上げさせていただきます。私は、リリアンヌ様、貴女を、フェルナンド様の婚約者として認めておりません!」

 ただでさえ、ただっ広い部屋に、張り詰めた空気が漂った。

 前途多難とはこのことか。目の前の男がやけに大きく感じ、体は小さく震えた。

 もう、嫌な予感しかしなかった。


 □□□
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