36 / 44
第三章
⑨鬼が笑う
しおりを挟む
日差しが眩しくて目を覚ました。
気がつくと、いつも朝起こしに来てくれる、ティファの姿はなく、代わりに、ベッドの中には、熟睡しているフェルナンドがいた。
「え…びっくり…」
フェルナンドが帰ってきたことにより、部屋をゲストハウスから、中央の王子の部屋に移された。寝室は中扉が付いた隣同士の部屋で、確かにこちらは、ティファに案内されたので、自分の部屋のはずだ。
(フェルナンドのやつ…仕事しすぎで寝ぼけて、こっちのベッドで寝ちゃったのかな)
王子の姿があったので、ティファも遠慮して入って来れないのだろう。
揺り起こそうかと思ったが、目の下にはうっすら隈があり、熟睡している。
何時まで働いていたか分からないが、もう少し寝かせておいてあげようと思った。
いつもキッチリした襟つきの服を着ているが、今は楽そうな緩い服を着ていた。寝ている顔は、まだあどけない少年の面影があって、可愛いなと感じた。
簡単に身支度をすませたが、フェルナンドは相変わらず寝息を立てている。近寄って頬をツンツンしてみた。まだよく寝ている。
アルフレッドなどに、猛獣と呼ばれているこの男は、私にはとことん優しい。こんな可愛い顔で寝ているのを知っているのが自分だけだと気がつくと、何とも言えない気持ちになった。
(なんか…変な感じ…この気持ちが¨好き¨なのかな…、うーん、なんかもっと…愛おし…)
バーーン!!と豪快な音をたてて、両開きの扉が全開になった。
失礼します!と言いながら、ロイスが入ってきた。
「リリアンヌ様、おはようございます!いやもう遅いですが。殿下はこちらにいらっしゃいますね!」
「おはよう…ロイス。あっ、ごめんなさい、よく寝ているので、お疲れなのだと起こさなかったの」
「今日くらい、グースカ寝るのは良いとして、問題は、リリアンヌ様のベッドでグースカしている事です!」
ロイスは銀縁の眼鏡を指で引き上げながら、ベッドの前で仁王立ちしていた。
「あー…寝ぼけてこちらで寝てしまったみたいなの…昨日遅かったみたいだし…」
「そういうわけにいきません!起きてください!フェルナンド様!!」
「…んーリリアンヌ…だめだってば…」
ブチっと何かが切れる音が聞こえた気がした。恐くてロイスの方を見れない。
「起きろーーーー!!!!」
まさに叩き起こすとはこの事か。枕を持ったロイスがボカスカとフェルナンドを叩きまくった。
「なっなんだ、ロイス!分かった!もう起きているから…」
「分かったら、支度をするので、とっとと自分の部屋に行ってください!」
ロイスに追いたてられるように、挨拶する間もなく、フェルナンドは部屋から出ていかされてしまった。
交代するかのように、ティファが入ってきた。
「ティファ、待たせてしまったわね、ごめんなさい」
「いいえ。何があったのかは想像できますので……、それに私、こちらをセットするのを忘れておりました」
ティファは持ってきた人形を枕元へ置いた。
「げっ!それ、この部屋にも置くの…?」
それは、中に綿が詰められた大きな手作り人形で、ふわふわで触り心地は良いのだが、いかんせん、見た目は赤髪でボーダーの長袖にオーバーオールで、邪悪な顔。あの人形にしか見えなくて、気味が悪いのだ…。
「いけませんか?私が一生懸命作ったのです…、とっても可愛らしいと思うのですが…、リリアンヌ様も、チャッキーと名前を付けてくれたじゃないですか…」
「いや…まぁ、付けたというか、それにしか見えないというか」
どうも、ティファの可愛いの基準が不明だ。五寸釘つけた藁人形を、手作りアクセサリーと言ってベルトに付けていた時は、目を疑った。
それはいいよと言いたかったが、ティファが今にも泣き出しそうなので、前の部屋同様、枕元へ置くことを許可した。
(はぁ…ホラー系苦手なのに…)
「良かったです。リリアンヌ様に喜んでいただいて。ふふふ、また何か作ってきますね。手作りが趣味なんです」
(……全力で遠慮したい)
□□□□□□□
今日は婚約パーティー用のドレスの最後のチェックだ。
事前にデザインの考えてもらい、サイズは採寸済みの記録をもとに作られていた。なるべく地味にというリクエストはことごとく却下されてしまった。
「あのー、ここまで出来てあれなんだけど、やっぱり胸が空きすぎでは…」
「いいえ。今の流行と照らし合わせて、デザイナーが考えたものです。まったく、おかしくはないですよ。失礼ながら、今までリリアンヌ様が着ていらっしゃったドレスは、ダサいですね」
「ぬおおおーそんな…」
ティファは大人しく見えて、ズバズバ来るので、彼女のキャラが分からなくなってきた。
「すっごく綺麗ですよー!リリアンヌ様いつも地味だから、これくらい華やかな方が似合います!うん!絶対良い!フェルナンド様も惚れなおしますよ」
様子を見に来たエミリーも目を輝かせて絶賛してくれた。こういう女子的な雰囲気は苦手だったのだが、最近は楽しめるようになってきた。ドレスは女性の戦闘服、適当に決めて良いものではないと理解した。
「リリアンヌ様が、ご実家からお持ちいただいたドレス類は、ご自身で決められて注文されたもののようですね。ただ申し訳ないのですが、こちらで返却させていただきました」
「わわわわっと!ええ!?」
「ここは王宮です。お妃になられる方がいつまでも地味なドレスを着ていてはいけません!これからは、王室デザイナーと協議を重ねながら、リリアンヌ様にピッタリなものを着ていただきます!」
「はい…分かりました」
ティファについての印象はもう訂正しよう。寡黙な美人だった。今は、笑顔でものすごく押しが強い人。最初は他人行儀で距離があったように感じたが、最近はぐいぐいくるので、慣れてくれたのだろうがしかし、本当の要注意人物は彼女だったのかもしれない。もちろん、こちらの事を考えてくれているのだから、なにも文句はいえないけれど。
「リリアンヌ様、聞いていらっしゃいますか?」
「はい!聞いてます!」
「じゃ、よろしいのですね」
「へっ?えっええ。って何が…?」
「やったぁ!!」
全く聞いていなかったのだが、エミリーがなぜか声を上げて喜んでいて、ティファも楽しみですわと微笑んでいる。
(ん?よくわからないけど、ドレスの事?まぁどうせ意見は反映されないのだからいいだろう)
□□□□□□
「明日は婚約のご報告ですね。緊張されていらっしゃいますか」
ティファがドレスの手配で走り回っているので、エミリーとお部屋でゆっくりお茶の時間になった。
「そうなのよ…。ずっと考えないようにしていたけれど、ついに来てしまったのよ。緊張しすぎて吐きそう。こういう時、なんて言えばいいの!?お嬢さんをください?あ!お嬢さんじゃなくて息子さん?でも婚約は向こうから申し込まれて、うちが了承したわけだし…、息子さんにお申し出頂いて、それを了承しましたとか?そんな上から目線でいいわけないよ、だったら不束者ですがってやつ?えーーどうしたら」
「落ち着いてください、私もよく分からないので、ロイスさんに確認したほうがいいと思いますが、自己紹介をして、向こうからの質問に答えればいいだけじゃないですか?」
パニックになっているところを、エミリーが冷静かつ、優しく意見してくれた。
「質問?普通こういう時って何を聞かれるのかしら」
まるで入試の面接のようだと思った。ならば予め、何を聞かれるか想定して答えを練習しておく必要がある。
「そうですねー、リリアンヌ様のご家族の事とか。生い立ちとか?えーなんだろう趣味とかですかね」
「そんな事でいいの?そう、分かった、カンペを作っておくわ」
「かんぺ?あの、厨房係の私などに分かる話ではないので、ちゃんとロイスさんに確認を取ってくださいね!!」
婚約者として疑問を持たれているロイスに聞くというのは、かなりやりづらいのだが、背に腹は代えられない。原稿を作ってロイスにチェックしてもらうことにした。
…このとき、二人して大事なことが抜けているのだが、それが分かるのはもう少し先のことになる。
□□□□□□
「私にも仕事があるのですが、フェルナンド様の婚約者様のお呼び出しという事で参りました。ぜひ有意義なお話をお聞かせいただきたいですね。さあ、時間がないので、どうぞ早めにお願いします」
エミリーにアドバイスをもらい、原稿が出来たので、ロイスに確認してもらおうと、部屋まで来てもらった。
いきなりプレッシャーをかけられて、やっぱり非常にやりづらい。
「お時間を取らせてしまって申し訳ないけど、明日の陛下と妃殿下との面接の件で、聞いてほしいのよ」
「・・・面接?婚約報告では?」
もうすでに間違えて、ロイスの顔が恐ろしくなっているので、全身が震えてきたが、勇気を振り絞る。
「そう!報告ね!自分で何を話したらいいか考えて作ってみたの。えーまず自己紹介から、初めまして。リリアンヌ・ロロルコットと申します。16歳になりました。趣味は刺繍と詩の朗読です。少しですが馬にも乗れます。勉学は得意ではないですが、頑張っております。好きなものはお菓子で、甘いものも好きですが…」
「ちょっとお待ちください」
一生懸命話していると、ロイスに急に止められた。
「まさか、それを陛下の前で披露するつもりではないでしょうね」
ロイスの目の辺りは漆黒の影になって、恐ろしいオーラが全身から出てきた。
「ひぃー!!うっ…こっこれは、まず世間話かなーと、簡単な自己紹介を…」
恐る恐るロイスの方を見ると、時間が止まったかのように静止していたが、だんだん小刻みに肩が揺れだした。
「…………くっ……くはっ!ははははははははははっっっっ!傑作だ!ははははははは」
突然壊れた人形みたいに笑いだしたロイスに、びっくりするというより、ホラー映画でも見ているようで恐怖でしかない。
「あの…何かおかしいところでも…」
「あっ、いや、失礼。まさか、そんな自己紹介をされるとは思っていなかったので、くっっくくくっっ」
笑いを必死に堪えて涙している様子は、普段の様子からは考えられない。
「あー、おかしかった。ここへ呼び出された時は、陛下によけいな事を言わないように、私を懐柔してくるのだろうと思っていましたが、まさか、そんな事だとは…本当に面白い人だ」
「かっ懐柔…ですか」
「今までフェルナンド様に近づこうとする令嬢達は、まず私を誘惑して懐柔させようとする者が多かったのですよ」
(いやいや、絶対無理でしょ。どんなチャレンジャーだよ)
「ひー、そんな芸当私には出来ませんし、今必死なんですよ!何を聞かれるか話すか!笑い事じゃなくて!必死なんです!」
「くくくっ…、そうですね。申し訳ございません。まぁ、楽しませていただいたので、ヒントをあげましょう」
「へっ…?ヒント?」
「簡単な事です。お二人と話すことが出来る時間は少ないです。世間話なんかして和やかに話していたらすぐ終了ですよ。だいたい、陛下はリリアンヌ様がどういうお方か、報告を受けておりますので、細かい自己紹介は必要ありません。ましてや趣味など…、くっくっっ、失礼。短い時間ですから、陛下が何を知りたいのか、よく考えてみてください」
「陛下が知りたいこと…ですか」
自分のような人間に陛下が知りたいことなどあるのだろうか。ローリエがいたら、知恵をかしてくれただろうが、こればかりは、自分で答えをださなければ、いけないのだろう。
仕事にもどるというロイスに、一応ヒントをくれた事と時間を割いてくれた事のお礼を言って送り出した。
陛下は国王でもあるが、フェルナンドの父親でもある。
息子が婚約をしたという時、父親が知りたいことと言えば…。
リリアンヌは雲の向こうにある答えを探すかのように、いつまでも窓の外を眺めていた。
□□□
気がつくと、いつも朝起こしに来てくれる、ティファの姿はなく、代わりに、ベッドの中には、熟睡しているフェルナンドがいた。
「え…びっくり…」
フェルナンドが帰ってきたことにより、部屋をゲストハウスから、中央の王子の部屋に移された。寝室は中扉が付いた隣同士の部屋で、確かにこちらは、ティファに案内されたので、自分の部屋のはずだ。
(フェルナンドのやつ…仕事しすぎで寝ぼけて、こっちのベッドで寝ちゃったのかな)
王子の姿があったので、ティファも遠慮して入って来れないのだろう。
揺り起こそうかと思ったが、目の下にはうっすら隈があり、熟睡している。
何時まで働いていたか分からないが、もう少し寝かせておいてあげようと思った。
いつもキッチリした襟つきの服を着ているが、今は楽そうな緩い服を着ていた。寝ている顔は、まだあどけない少年の面影があって、可愛いなと感じた。
簡単に身支度をすませたが、フェルナンドは相変わらず寝息を立てている。近寄って頬をツンツンしてみた。まだよく寝ている。
アルフレッドなどに、猛獣と呼ばれているこの男は、私にはとことん優しい。こんな可愛い顔で寝ているのを知っているのが自分だけだと気がつくと、何とも言えない気持ちになった。
(なんか…変な感じ…この気持ちが¨好き¨なのかな…、うーん、なんかもっと…愛おし…)
バーーン!!と豪快な音をたてて、両開きの扉が全開になった。
失礼します!と言いながら、ロイスが入ってきた。
「リリアンヌ様、おはようございます!いやもう遅いですが。殿下はこちらにいらっしゃいますね!」
「おはよう…ロイス。あっ、ごめんなさい、よく寝ているので、お疲れなのだと起こさなかったの」
「今日くらい、グースカ寝るのは良いとして、問題は、リリアンヌ様のベッドでグースカしている事です!」
ロイスは銀縁の眼鏡を指で引き上げながら、ベッドの前で仁王立ちしていた。
「あー…寝ぼけてこちらで寝てしまったみたいなの…昨日遅かったみたいだし…」
「そういうわけにいきません!起きてください!フェルナンド様!!」
「…んーリリアンヌ…だめだってば…」
ブチっと何かが切れる音が聞こえた気がした。恐くてロイスの方を見れない。
「起きろーーーー!!!!」
まさに叩き起こすとはこの事か。枕を持ったロイスがボカスカとフェルナンドを叩きまくった。
「なっなんだ、ロイス!分かった!もう起きているから…」
「分かったら、支度をするので、とっとと自分の部屋に行ってください!」
ロイスに追いたてられるように、挨拶する間もなく、フェルナンドは部屋から出ていかされてしまった。
交代するかのように、ティファが入ってきた。
「ティファ、待たせてしまったわね、ごめんなさい」
「いいえ。何があったのかは想像できますので……、それに私、こちらをセットするのを忘れておりました」
ティファは持ってきた人形を枕元へ置いた。
「げっ!それ、この部屋にも置くの…?」
それは、中に綿が詰められた大きな手作り人形で、ふわふわで触り心地は良いのだが、いかんせん、見た目は赤髪でボーダーの長袖にオーバーオールで、邪悪な顔。あの人形にしか見えなくて、気味が悪いのだ…。
「いけませんか?私が一生懸命作ったのです…、とっても可愛らしいと思うのですが…、リリアンヌ様も、チャッキーと名前を付けてくれたじゃないですか…」
「いや…まぁ、付けたというか、それにしか見えないというか」
どうも、ティファの可愛いの基準が不明だ。五寸釘つけた藁人形を、手作りアクセサリーと言ってベルトに付けていた時は、目を疑った。
それはいいよと言いたかったが、ティファが今にも泣き出しそうなので、前の部屋同様、枕元へ置くことを許可した。
(はぁ…ホラー系苦手なのに…)
「良かったです。リリアンヌ様に喜んでいただいて。ふふふ、また何か作ってきますね。手作りが趣味なんです」
(……全力で遠慮したい)
□□□□□□□
今日は婚約パーティー用のドレスの最後のチェックだ。
事前にデザインの考えてもらい、サイズは採寸済みの記録をもとに作られていた。なるべく地味にというリクエストはことごとく却下されてしまった。
「あのー、ここまで出来てあれなんだけど、やっぱり胸が空きすぎでは…」
「いいえ。今の流行と照らし合わせて、デザイナーが考えたものです。まったく、おかしくはないですよ。失礼ながら、今までリリアンヌ様が着ていらっしゃったドレスは、ダサいですね」
「ぬおおおーそんな…」
ティファは大人しく見えて、ズバズバ来るので、彼女のキャラが分からなくなってきた。
「すっごく綺麗ですよー!リリアンヌ様いつも地味だから、これくらい華やかな方が似合います!うん!絶対良い!フェルナンド様も惚れなおしますよ」
様子を見に来たエミリーも目を輝かせて絶賛してくれた。こういう女子的な雰囲気は苦手だったのだが、最近は楽しめるようになってきた。ドレスは女性の戦闘服、適当に決めて良いものではないと理解した。
「リリアンヌ様が、ご実家からお持ちいただいたドレス類は、ご自身で決められて注文されたもののようですね。ただ申し訳ないのですが、こちらで返却させていただきました」
「わわわわっと!ええ!?」
「ここは王宮です。お妃になられる方がいつまでも地味なドレスを着ていてはいけません!これからは、王室デザイナーと協議を重ねながら、リリアンヌ様にピッタリなものを着ていただきます!」
「はい…分かりました」
ティファについての印象はもう訂正しよう。寡黙な美人だった。今は、笑顔でものすごく押しが強い人。最初は他人行儀で距離があったように感じたが、最近はぐいぐいくるので、慣れてくれたのだろうがしかし、本当の要注意人物は彼女だったのかもしれない。もちろん、こちらの事を考えてくれているのだから、なにも文句はいえないけれど。
「リリアンヌ様、聞いていらっしゃいますか?」
「はい!聞いてます!」
「じゃ、よろしいのですね」
「へっ?えっええ。って何が…?」
「やったぁ!!」
全く聞いていなかったのだが、エミリーがなぜか声を上げて喜んでいて、ティファも楽しみですわと微笑んでいる。
(ん?よくわからないけど、ドレスの事?まぁどうせ意見は反映されないのだからいいだろう)
□□□□□□
「明日は婚約のご報告ですね。緊張されていらっしゃいますか」
ティファがドレスの手配で走り回っているので、エミリーとお部屋でゆっくりお茶の時間になった。
「そうなのよ…。ずっと考えないようにしていたけれど、ついに来てしまったのよ。緊張しすぎて吐きそう。こういう時、なんて言えばいいの!?お嬢さんをください?あ!お嬢さんじゃなくて息子さん?でも婚約は向こうから申し込まれて、うちが了承したわけだし…、息子さんにお申し出頂いて、それを了承しましたとか?そんな上から目線でいいわけないよ、だったら不束者ですがってやつ?えーーどうしたら」
「落ち着いてください、私もよく分からないので、ロイスさんに確認したほうがいいと思いますが、自己紹介をして、向こうからの質問に答えればいいだけじゃないですか?」
パニックになっているところを、エミリーが冷静かつ、優しく意見してくれた。
「質問?普通こういう時って何を聞かれるのかしら」
まるで入試の面接のようだと思った。ならば予め、何を聞かれるか想定して答えを練習しておく必要がある。
「そうですねー、リリアンヌ様のご家族の事とか。生い立ちとか?えーなんだろう趣味とかですかね」
「そんな事でいいの?そう、分かった、カンペを作っておくわ」
「かんぺ?あの、厨房係の私などに分かる話ではないので、ちゃんとロイスさんに確認を取ってくださいね!!」
婚約者として疑問を持たれているロイスに聞くというのは、かなりやりづらいのだが、背に腹は代えられない。原稿を作ってロイスにチェックしてもらうことにした。
…このとき、二人して大事なことが抜けているのだが、それが分かるのはもう少し先のことになる。
□□□□□□
「私にも仕事があるのですが、フェルナンド様の婚約者様のお呼び出しという事で参りました。ぜひ有意義なお話をお聞かせいただきたいですね。さあ、時間がないので、どうぞ早めにお願いします」
エミリーにアドバイスをもらい、原稿が出来たので、ロイスに確認してもらおうと、部屋まで来てもらった。
いきなりプレッシャーをかけられて、やっぱり非常にやりづらい。
「お時間を取らせてしまって申し訳ないけど、明日の陛下と妃殿下との面接の件で、聞いてほしいのよ」
「・・・面接?婚約報告では?」
もうすでに間違えて、ロイスの顔が恐ろしくなっているので、全身が震えてきたが、勇気を振り絞る。
「そう!報告ね!自分で何を話したらいいか考えて作ってみたの。えーまず自己紹介から、初めまして。リリアンヌ・ロロルコットと申します。16歳になりました。趣味は刺繍と詩の朗読です。少しですが馬にも乗れます。勉学は得意ではないですが、頑張っております。好きなものはお菓子で、甘いものも好きですが…」
「ちょっとお待ちください」
一生懸命話していると、ロイスに急に止められた。
「まさか、それを陛下の前で披露するつもりではないでしょうね」
ロイスの目の辺りは漆黒の影になって、恐ろしいオーラが全身から出てきた。
「ひぃー!!うっ…こっこれは、まず世間話かなーと、簡単な自己紹介を…」
恐る恐るロイスの方を見ると、時間が止まったかのように静止していたが、だんだん小刻みに肩が揺れだした。
「…………くっ……くはっ!ははははははははははっっっっ!傑作だ!ははははははは」
突然壊れた人形みたいに笑いだしたロイスに、びっくりするというより、ホラー映画でも見ているようで恐怖でしかない。
「あの…何かおかしいところでも…」
「あっ、いや、失礼。まさか、そんな自己紹介をされるとは思っていなかったので、くっっくくくっっ」
笑いを必死に堪えて涙している様子は、普段の様子からは考えられない。
「あー、おかしかった。ここへ呼び出された時は、陛下によけいな事を言わないように、私を懐柔してくるのだろうと思っていましたが、まさか、そんな事だとは…本当に面白い人だ」
「かっ懐柔…ですか」
「今までフェルナンド様に近づこうとする令嬢達は、まず私を誘惑して懐柔させようとする者が多かったのですよ」
(いやいや、絶対無理でしょ。どんなチャレンジャーだよ)
「ひー、そんな芸当私には出来ませんし、今必死なんですよ!何を聞かれるか話すか!笑い事じゃなくて!必死なんです!」
「くくくっ…、そうですね。申し訳ございません。まぁ、楽しませていただいたので、ヒントをあげましょう」
「へっ…?ヒント?」
「簡単な事です。お二人と話すことが出来る時間は少ないです。世間話なんかして和やかに話していたらすぐ終了ですよ。だいたい、陛下はリリアンヌ様がどういうお方か、報告を受けておりますので、細かい自己紹介は必要ありません。ましてや趣味など…、くっくっっ、失礼。短い時間ですから、陛下が何を知りたいのか、よく考えてみてください」
「陛下が知りたいこと…ですか」
自分のような人間に陛下が知りたいことなどあるのだろうか。ローリエがいたら、知恵をかしてくれただろうが、こればかりは、自分で答えをださなければ、いけないのだろう。
仕事にもどるというロイスに、一応ヒントをくれた事と時間を割いてくれた事のお礼を言って送り出した。
陛下は国王でもあるが、フェルナンドの父親でもある。
息子が婚約をしたという時、父親が知りたいことと言えば…。
リリアンヌは雲の向こうにある答えを探すかのように、いつまでも窓の外を眺めていた。
□□□
21
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち
せいめ
恋愛
侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。
病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。
また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。
「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」
無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。
そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。
生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。
マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。
「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」
三度目の人生はどうなる⁈
まずはアンネマリー編から。
誤字脱字、お許しください。
素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる