悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

文字の大きさ
35 / 44
第三章

⑧遅く起きた男

しおりを挟む
 学園で起こった騒動の残務処理で、かなりの時間を取られてしまった。
 と言っても、予定よりも早く切り上げて、待っていてくれるであろう人の元へ向かった。

 ロイスから来た知らせでは、無事に到着したことだけ簡潔に伝えられて、詳しいことは何も連絡して来なかった。

 まぁ、あいつはそういう男だ。真面目で実直な堅物。そのくせ失礼な事を考えていたりするから、やっかいだ。

 リリアンヌの事も、口や態度には出していないが、気に入らない様子だ。
 そして、私には言わないが、リリアンヌには、ハッキリ言いそうだから、心配ではある。

 もう、10年の付き合いになるだろうか。父の再婚などで、ゴタゴタしている時、話し相手にと引き合わされた。
 歳は向こうが5歳上だから、将来を見据えた、サポートをしてくれるような、関係を作ることを目的とされたのだろう。

 出会った頃から、面白みのない男で、喋る言葉と言えば、だめです、やめましょう、いけません、その繰り返しだ。
 だが、真面目で有能、メキメキと仕事を覚えて、今では、王宮を取り仕切るまでに成長した。
 私が不在の時は、仕事のほとんどをカバーしてくれる、全くもって頼りになる男だ。

 ロイスが女性関係で口を出す事はなかった。ただ、早く婚約者をお決めにならないと、お妃教育の事もありますのでと言われ、そっと釣書の束を置いていかれた時は、彼なりに焦ってきたなというのは見てとれた。

 それでもって、リリアンヌを婚約者にすると言った時に、ロイスが言った言葉は、え?誰ですか?だ。
 せっせと釣書を作っていた男の、おすすめリストから外れた令嬢を選んだことは、まぁ気に入らないのだろうということは、明らかだ。

 夜通し馬車を走らせて、朝方やっと王宮にたどり着くと、ロイスが出迎えてくれた。
 不在時の政務の確認などがあるので、あちらはその後ですと引っ張られて連れていかれた。

 諸々の確認が終わり、ゲストハウスに向かう途中、ロイスが切り出してきた。

「私は、家柄も良く身辺も綺麗で容姿端麗、将来の王妃としての資質を兼ね備えた、文句のないご令嬢を殿下にご紹介しました。当然その中よりお選びいただけるものと考えておりました」

「色々と考えてくれていたのに、申し訳ないが、こればかりは私のわがままを叶えてほしい。私の婚約者は最高の人なんだ」

 何か考えるようにロイスの足が止まった。

「正直なところ、私はまだあの方がどういう方か掴みかねています…ただ、最初に持っていた印象とは、少し変わったというところですが」

「まぁ今はそれで良いのではないか。おいおい、分かる事もあるだろう」

「他人に対して攻撃的で、問題が多かったエイダン様を、いとも簡単に手懐けてしまって…何か良からぬ事を考えているのではないか…と」

「なんだ、エイダンがもう懐いたのか。心配するな、リリアンヌは策略家ではない。解毒剤のようなところがあって、お子様なんぞ効果覿面だ、ほら、いくぞ」

「は…はい」

 ゲストルームからは、賑やかな声が聞こえてきた。ローリエが遊びに来ているらしいが、どうやら、エイダンもいるらしい。
 こちらの姿が見えたので、慌ててメイドが扉を開けた。

 座っているリリアンヌに、しがみついているエイダンが見えた。
 ロイスが行こうとするのを、手で制した。
 ちょうど、ローリエがこちらに気が付いて、賢い人の話をした。彼女らしい見解だ。

 エイダンがリリアンヌと結婚したいと、子供らしいが核心をつくような事まで言い出した。
 兄弟の軋轢を生みかねない質問だが、リリアンヌは子供にも分かりやすく、かつ、誰も傷つけないように希望を持たせて説いていた。

 それを聞いたとき、この女性ひとを選んで良かったと思った。

 あの言葉はローリエに教えてもらった言葉だ。
 幼い頃より、様々な令嬢に引き合わされ、もう何が良いのか分からなくなっていた。
 実際に一人一人、付き合ってみたりもしたが、正直なところ、一緒にいてもいなくても何も変わらないし、完全に迷走していた。

 そんな時、王宮の庭園パーティーで、目を引く令嬢がいた。意思の強そうな目で聡明な印象を受けた。しかし、誰もが自分と話したがる中、彼女だけは、一切こちらを見ようともしなかった。
 興味本意で話しかけてみたら、彼女からは、びっくりするような言葉が出てきた。
 それは、自分が探していた答えだった。そして、そう感じる人が現れたら、絶対に逃さないと、そう、心に誓った。


 ひととき、リリアンヌを可愛がった後、エイダンを部屋に返した。

 その時ローリエが、折り入ってお話がと追いかけてきたので、ロイスにエイダンを託した。
 てっきりあの言葉のことかと思い、改めてお礼を言おうかとしたら、そんなのはもうどうでもいいと言われた。
 軽くショックだったが、次に聞いた話に驚かされた。

「殿下、リリアンヌと同じ寝所にするか知りませんが、一応、お耳に入れておきます。本人は朝の記憶がないので、ただの寝坊助だと思っていますが、朝の寝ぼけ状態のリリアンヌは、脱衣癖があり、子供のようになってしまうそうです。丁寧に扱ってあげてくださいませ」

 頭を整理するのに時間がかかり、言葉が出てこなかった。


 □□□□□□□□

 元々、また婚約中という事で、自分の部屋で生活させるが、別々の寝所を用意していた。
 ローリエが言ったことが、そもそも本当なのか、少しふざけるくらいの事なのか分からないが、あまり離れるのは危険を感じたので、隣同士の部屋で、中扉で行き来できる部屋を用意した。
 今まで付いていたメイドはよく事情を知っているらしいので、引き続き担当してもらった。

 夕食が終わると、リリアンヌは、眠いと言って目を擦り始めた。
 私は仕事が残っていたので先に休ませて、不在時の連絡事項のチェックや、書類のサインに追われ、すっかり遅くなってしまった。

 部屋に戻ってから、扉を開けて様子を見たが、とてもよく眠っていた。そういえば、寝顔を見るのは初めてで、嬉しくなっておでこにキスをした。

 その後は、自分のベッドに戻り、寝入ってからしばらくして、ゴソゴソという物音で目を覚ました。
 外は空が白くなり始めて、朝の入り口に立っているころだった。

 物音が気になって、扉を開いて見ると、リリアンヌはベッドに座っていた。

「…リリアンヌ?もう起きたの?眠れなかったのか…?」

 呼ばれてこちらをゆっくり見たリリアンヌは、泣き顔で、目の焦点がどこか合っていない。

「フェルナンド…これ、あついの…ひもがとれない」

「!!」

 メイドのお手製だという、ガウンは、上から下まで、紐でこれでもかと止めてあり、リリアンヌは指に力が入らない状態で頑張って紐を解こうとしていた。

「そうか、これが寝ぼけた状態だな。おーい!リリアンヌ、目を覚ましなさい」

 とりあえず、近づいて、肩でも揺すって起こそうかとしたら、伸ばした手を捕まれて、令嬢とは思えぬ力でベッドの中に引っ張り込まれた。

「ふふふふっ、つーかまえた」

「え………」

「フェルナンド、まだ眠いの。一緒に寝よ…」

「たぁ!ちょっ、ちょっ、ちょっっと待って!え?ちょっ……」

「だいすき…離れたらだめ…」

 そう言って、リリアンヌは、首筋にキスをして、再び眠りについてしまった。
 気持ち良さそうな、寝息の音が聞こえた。

「だめだ…死ねる」

 朝日も遠慮がちに、窓辺に差し込んできた。
 私は眠気と興奮で気を失った。


 □□□□□□□

 日が高くなっても二人がなかなか起きてこないと、メイドが部屋に入れずにオロオロしているところを、ロイスが見つけて、問答無用で寝室に突入してきた。

 リリアンヌはなんと、先に勝手に起きていて、よく寝ているのでとそのままにしていたらしい。

 ロイスに叩き起こされ、いくら久々の再会でも、結婚前の令嬢のベッドにもぐり込んで寝るとはいかがなものか、少しくらい理性はないのかと、散々小言を言われた。
 いやむしろ理性のかたまりだったと弁解したが、冷たい視線をおくられた。

 リリアンヌの担当をしていたメイドと改めて打ち合わせた。
 最初からやっておけばよかったのだが。
 まず初日、リリアンヌは暑いと言って着ているものを脱いで、メイドをベッドに引っ張り込んで、くまさんのぬいぐるみーと言って寝てしまったらしい。
 翌日から、あの紐だらけのガウンで、脱衣の問題は解決したが、何かに抱きついて、再入眠したいらしく、綿を詰めた人形をさっとあてがって、背中をトントンすると、寝てくれてこれも解決。再び起きる時は、寝ぼけているが、大人しいという事が判明した。
 取り扱い説明書は出来たので、しばらくは共同で対処する事になった。

「でも、私の時は名前も呼んでくれませんでしたし、大好きとも言っていませんでしたよ。フェルナンド殿下限定ですのね。あっ、無防備な時って、本心が出るって言いますからね」

「…………君、ティファと言ったね。苦労をかけるから、手当てを増やすよう管理に伝えておこう」

「これは…もったいないお言葉。まいどありがとうございます」

 私の可愛い婚約者は、今日も私を困らせてくれる。
 でも私の人生がこれほどまでに色鮮やかに、生き生きと過ごせるのは、彼女のおかげなのだ。

 その手に触れれば、もう離すことはできない。
 彼女も同じ気持ちであることを願う。


 □□□
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...