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第三章
⑭あなたはJで、わたしはR
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新学期が始まってから、学園生活は毎日やることが多く、あっという間に時間が過ぎていった。
三学年のフェルナンドは、生徒会の引き継ぎもあって、忙しく動き回っているし、リリアンヌは学園の淑女コースの勉強に加えて、ロイスからお妃教育のハウツー本が山のように届き、専属の教師まで来てしまった。
唯一の癒し時間のランチタイム、食堂でローリエと女子トークに花を咲かせていた。
「それで、ちゃんと聞いてなかったけど、ローリエはどうやって、レイモンド様と婚約にこぎつけたの?」
「ふふふっ、実は人脈こそ、窮地を乗り切る鍵だと信じていて、幼少期から着々と人脈を広げて、レイモンドの手掛けている事業の出資者を募り、成功させたわ。あの人、商才はあるのよ。その後は、後継ぎが出来なくて、優秀な後継者を探している、高位の貴族を探したわ。それで見つけたのがハモンド公爵よ。三年かけて推薦文を送り続けて、レイモンドの方も事業はどんどん成功して莫大な利益をもたらすようになった。公爵は、元奥様の散財でかなりの資産を失っていて、お互い利害が一致。レイモンドは養子になって、お父様にも婚約を認めさせたの」
聞いているだけで、頭が混乱しそうなのに、それを時間をかけて、成功させたローリエは凄すぎる。敵にまわしてはいけない相手だと悟った。
「私なんかより、ローリエの方が、お妃として相応しいかも」
「あら、ヘコんでいるの?あの派遣されてきた年配の女教師は確かに厳しそうね」
「教師もそうだけど、ロイスから帰って来たら、テストを受けてもらうって言われていて…もう痩せる思いよ」
手強そうな男だけど、とローリエは言った。
「あの男はもう敵ではないわ。すでにリリアンヌの信者だから」
「な!なに言っているの!?ローリエ!あんな恐ろしい人!全然仲良くないし、信者とかそんなのありえないから!」
リリアンヌは恐れているが、ローリエは特殊能力の、観察眼で見抜いていた。
婚約の挨拶に行った時、リリアンヌ後ろに控えて、時折リリアンヌを見つめる瞳は優しさに満ちていた。鉄壁の自制心で手を出すことはないだろうけど。
「疑うなら、そうね。うるさすぎて面倒になるような事があれば、ロイって読んでみたら?静かになるわよ、きっと」
「からかってる?そんな事言ったら、何時間お説教させるか!絶対嫌よ」
「ふふふ、殿下も気苦労が多いわね……、ところで、あなた達、どこまで進んだの?」
リリアンヌは飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「どこまでって、ゲホッ……そんな……」
リリアンヌは、あの秘密を告白した夜を思い出した。覆い被さってきたフェルナンドの瞳の色は、いつもより熱くて、あの唇に触れられたら……
「手を繋ぐだけでもドキドキするのに…、もしそうなったら…」
「つまり、お手て繋いでいるレベルね」
「キス寸前までは、いったわ…!でもちょっと問題があって出来なくて、それからは、タイミングを失ったというか…」
目を泳がせて恥ずかしがっているリリアンヌは、それは可愛らしい。反応も悪くない。殿下もやっと報われる時がきたのだとローリエは納得した。
「まっ、あせらず、ゆっくりやっていきなさいよ。大切にされているんでしょう」
でも!と珍しくリリアンヌがねばってきた。前に、他の令嬢に取られる話をしてから、リリアンヌが不安そうにしているのは、ローリエも気づいていた。
関係が進まないことが、不安なのだろう。
「仕方ないわね、リリアンヌ!耳を貸しなさい」
ローリエは、またもや一肌脱ぐことにした。
リリアンヌに耳打ちすると、えーと言って、納得できない顔をした。
「一度、ロイスにこう言えって言われた言葉を、フェルナンドに言ったら、直ぐにバレて、全然上手くいかなかったのよ」
「堅物男の拗らせた恋愛スキルと一緒にしないでもらえるかしら。ローリエ様の恋愛指南よ。一度はキス寸前まで言ったのでしょ!次に良い感じの雰囲気になったら言うのよ!さっきのセリフを!」
「わ…分かった、頑張る」
自分の言うことに、素直に従うリリアンヌは本当に可愛い。
ローリエその姿を見て、満足げに微笑んだ。
□□□□□□□
慌ただしく日々は過ぎて行き、学園は卒業式シーズンに突入した。
フェルナンドはますます忙しくなり、最近は一瞬言葉が交わせれば良い方で、瞬時に役員だったり、教師だったり、誰かしら走ってきて連れ去られてしまう。
ついさっきも、リリアンヌが足りないーと、言ってきたフェルナンドが、髪に少し触れたくらいで、屈強な男達の集団が来て、予算がサインがと言われながら、担がれて行ってしまった。
「私だって、フェルナンドが足りないよ…」
一瞬なんて寂しすぎる。一人残されて、空から吹いてくる風がやけに冷たく感じられた。
翌日もその翌日も、生徒会室を訪ねたが、門番みたいな男に、いないとか、忙しいとか言われて、様子さえ教えてもらえなかった。
(いい加減、こっちも頭にきた!なんだよ!生徒会長なんて引き受けるから、こんなに忙しいわ!会えないわ!)
「やってやろうじゃない!フェルナンドに会いに行くわ!どんな手でも使って!」
決意を込めて言った言葉を、横にいたユージーンが聞いていて、持っていたカップを落としそうになっていた。
「やっ…やめてよ姉様!姉様達はいいよ、もう卒業なんだから、こっちは後2年あるんだから、変な伝説作られたら困るんだよ」
「だって、こっちへ帰って来てまともに会えたのは、ほんの数回、ロミオとジュリエットだって、きっともっと会えてたわ」
誰それ?知らないしと言いながら、ユージーンが頬を膨らませた。
ここで、頭に閃くものが降りてきた。
「そうよ!ロミオとジュリエットよ!」
だから誰?と言うユージーンを連れて、まずフェルナンドが、どこにいるのか探ることにした。
□□□□□□
ユージーンの調べによると、フェルナンドは、生徒会の使っている建物の二階に軟禁されているらしい。
こんなに忙しいのは、ジェイドの騒動の際、重要な書類を、信者にほとんど燃やされたりして、処分されてしまったからで、それを何年にも遡って調べ直し、また新しく作り直しているらしいのだ。
おまけに、次の会長は、全然頼りにならないと、みんながフェルナンドばかり頼るので、ますます仕事が増えていく一方らしい。
「姉様、本当に何をするの?まさか、突入する気じゃないよね」
生徒会は、ジェイドの件があってから、警備に大量の予算を投入した。おかげで、ムキムキの屈強な男達が、建物の警備に付いている。
「馬鹿ね、散々門前払いされているのよ。入れてもらえるわけないじゃない。外から声をかけるだけよ」
へっ?とユージーンが気の抜けた声を出した。
「それくらいなら、良いでしょ。呼びかけて、反応がなければ帰るし。名付けてロミジュリ作戦!」
ユージーンが、明らかにホッとした顔をしたのが分かった。
(本当、携帯電話のない世界って面倒だ)
「フェルナンドは前に話したとき、仕事部屋からは、ユースの木しか見えなくてつまらないと言っていたわ。ここでユースの木が植えてあるのは、あそこね、そしてその二階っと…」
多分あそこだろうという部屋に目星をつけた。
「姉様、僕は正面入口でムキムキマン達に話しかけて、注意を引いておくよ。そのうちに、殿下とお話して」
「…ユージーン。なんて、良い弟なの…ありがとう」
頑張ってとウィンクして、ユージーンは先に走って行った。
「よし、行こう!」
(少しだけ、触れることは出来ないけれど…少しだけでも姿が見たい、声が聞きたい)
庭にまわって、警備が来ないことを確認した。
使い古された手だけど、小石を投げて窓に当ててみた。
カツンと音を立てて、上手く当てられた。
間もなくして、フェルナンドが窓を開ける姿が見れた。
「フェルナンド!こっち!」
「え!リリアンヌ?」
手を振ってアピールすると、こちらに気がついてくれた。
「会いに来てくれたの?リリアンヌごめん、全然会えなくて、まさか、君からこんなところまで来てくれるなんて……ごめん」
フェルナンドらしからぬ弱気な態度。疲れて元気がなさそうな感じが見てとれた。
(全く、こんなになるまで仕事して……義理堅いんだよね、姿も見れたから、気持ちだけでも伝えて帰ろう)
「急に来てごめん!仕事が忙しくて会えないのはしょうがないから。せめて、少しだけでも、姿が見たかったんだ」
フェルナンドが、何かブツブツ言っていて、聞こえないので、何を言っているのか聞こうとした時、ドカドカと足音がして警備のムキムキマン達がやって来た。
ムキムキマンの後ろでは、縄でぐるぐる巻きになったユージーンが運ばれていた
(あー、そんなーユージーン!!)
ムキムキマンの一人が不審者発見!と言って、こちらに掴みかかってきた。
「おい!その人に!乱暴するな!」
フェルナンドが叫んだとき、彼らの迫力に驚き、つい逃げるように抵抗してしまった。すると。
ムギュっと音がするかのように、ムキムキマンの手が、胸を鷲掴みにするかたちになってしまった。
「えっ…、きゃあああああ!!」
自分でもこんな時、きゃーって声を出すのかと、客観的に思ってしまった。
ムキムキマンもまさか、令嬢の胸を掴むつもりはなかったのだろうから、慌てて手を放して、謝ってきた。
あまり、いい気分ではなかったが、向こうも仕事なのだしと、気にしないように言おうとしていた。
その時、地響きの音が聞こえてきて、地震がおきたのかと思って、建物を見たら、剣を片手にこちらに近付いてくるフェルナンドがいた。
目が据わっていて、目の下の隈もミックスされて、完全にヤバイ人にしか見えない。
「誰だー!!!!リリアンヌの胸を揉んだヤツは!貴様かー!!ここで手を切り落とされたいらしいな!」
ムキムキマン達がざわつき、役員達も出て来て、みんなで、フェルナンドを止めにかかった。
「クソコラー!八つ裂きにしてやる!!!」
完全にぶちギレモードのフェルナンドを、ついには、ムキムキマン達も一緒になって止めに入るが、屈強な男が束になってもフェルナンドの暴走は止まらない。
(まずい…こんな大事にするつもりはなかったのに…私のせいだ…、流血沙汰なんかになったら大変!あの人だって、私が抵抗したからなのに!やばいどうしよう)
フェルナンドは暴れまくり、コロスコロスしか言わなくなって、もはや誰も止められないかと思われた。
(あーもー!行くしかない!ローリエ、あなたに言われた言葉に賭ける!最悪の雰囲気だけどそれしかない!)
「フェルナンド!」
呼び掛けると、暴走状態だったフェルナンドの動きが一瞬止まった。今しかないタイミングだ。
「フェルナンド、おっ…落ち着いて、あの…あの…、今すぐ…今すぐ私に、あの時の続きをしてください!!」
こんなに、大人数がいるのに、何の音も、誰かの息づかいも聞こえない。静寂につつまれた。
というか、みんな、え?続き?何?って感じでこちらを見ていた。
カシャン!と音を立てて、剣が地面に落ちた。
人の固まりの中から、人を押し退けてフェルナンドが出て来た。そのまま、すぐそばまで歩いてきた。
「…いいよ。リリアンヌ、しよう」
そう言って、フェルナンドは、上から覆い被さってきて。
…気絶するように、寝てしまった。
誰かが、あー会長、一週間寝てないからと言った言葉が聞こえてきた。
何とか、平和的に止めることが出来て、一同が安堵した。
リリアンヌとユージーンは、会長と話をしに行ったのだが、警備が過剰に反応してしまった、という事になった。学校側から気を付けるように言われただけで、この一件は大事にならずにすんだ。
フェルナンドは1日眠り続け、翌日スッキリ起きると、直ぐに、リリアンヌとユージーン、生徒会関係者を会長室に集めた。
「という訳で、私は引退する」
えーとか、ひーとか、やめてー!とか悲鳴が上がった。
「そもそも、私の仕事はもう終わっている。本来ならとっくに交代していないとおかしい時期だ。私自身、前の会長に助けられたから、ズルズルと続けてしまったのが間違いだった。新しい体制でやっていく必要があるのだから、みんなそれに慣れてもらわないといけない」
そう言われてしまうと、その通りであるので、誰も反対する者はいなかった。
「それと、副会長が決まらなくて負担をかけていたが、今回は私の推薦で決めたので、どんどん使ってあげて欲しい」
みんながザワザワと、周りを見渡す中、フェルナンドが名前を呼んだのは。
「ユージーン」
「ええ!?ぼっ僕!?」
「君の調査能力は優れていると聞いている。生徒会は、王族や高位の貴族が務める事が多い仕事だ。君の将来に渡って、有利になる経験がつめるだろう。頑張ってくれ」
ワァー!!と歓声が上がり、拍手がおこって、否応なしに、ユージーンは連れていかれた。こちらを、半泣きの目で見ていた顔が忘れられない。
「じゃ!後は任せた!」
名残惜しそうな悲鳴や、すすり泣きが聞こえる中、フェルナンドは颯爽とこちらに歩いてきた。
「リリアンヌ、行こう」
フェルナンドが自分の名前を呼んで、手を差し出した。
「はい」
そう言って微笑んで、王子様の手をとった。
□□□
三学年のフェルナンドは、生徒会の引き継ぎもあって、忙しく動き回っているし、リリアンヌは学園の淑女コースの勉強に加えて、ロイスからお妃教育のハウツー本が山のように届き、専属の教師まで来てしまった。
唯一の癒し時間のランチタイム、食堂でローリエと女子トークに花を咲かせていた。
「それで、ちゃんと聞いてなかったけど、ローリエはどうやって、レイモンド様と婚約にこぎつけたの?」
「ふふふっ、実は人脈こそ、窮地を乗り切る鍵だと信じていて、幼少期から着々と人脈を広げて、レイモンドの手掛けている事業の出資者を募り、成功させたわ。あの人、商才はあるのよ。その後は、後継ぎが出来なくて、優秀な後継者を探している、高位の貴族を探したわ。それで見つけたのがハモンド公爵よ。三年かけて推薦文を送り続けて、レイモンドの方も事業はどんどん成功して莫大な利益をもたらすようになった。公爵は、元奥様の散財でかなりの資産を失っていて、お互い利害が一致。レイモンドは養子になって、お父様にも婚約を認めさせたの」
聞いているだけで、頭が混乱しそうなのに、それを時間をかけて、成功させたローリエは凄すぎる。敵にまわしてはいけない相手だと悟った。
「私なんかより、ローリエの方が、お妃として相応しいかも」
「あら、ヘコんでいるの?あの派遣されてきた年配の女教師は確かに厳しそうね」
「教師もそうだけど、ロイスから帰って来たら、テストを受けてもらうって言われていて…もう痩せる思いよ」
手強そうな男だけど、とローリエは言った。
「あの男はもう敵ではないわ。すでにリリアンヌの信者だから」
「な!なに言っているの!?ローリエ!あんな恐ろしい人!全然仲良くないし、信者とかそんなのありえないから!」
リリアンヌは恐れているが、ローリエは特殊能力の、観察眼で見抜いていた。
婚約の挨拶に行った時、リリアンヌ後ろに控えて、時折リリアンヌを見つめる瞳は優しさに満ちていた。鉄壁の自制心で手を出すことはないだろうけど。
「疑うなら、そうね。うるさすぎて面倒になるような事があれば、ロイって読んでみたら?静かになるわよ、きっと」
「からかってる?そんな事言ったら、何時間お説教させるか!絶対嫌よ」
「ふふふ、殿下も気苦労が多いわね……、ところで、あなた達、どこまで進んだの?」
リリアンヌは飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「どこまでって、ゲホッ……そんな……」
リリアンヌは、あの秘密を告白した夜を思い出した。覆い被さってきたフェルナンドの瞳の色は、いつもより熱くて、あの唇に触れられたら……
「手を繋ぐだけでもドキドキするのに…、もしそうなったら…」
「つまり、お手て繋いでいるレベルね」
「キス寸前までは、いったわ…!でもちょっと問題があって出来なくて、それからは、タイミングを失ったというか…」
目を泳がせて恥ずかしがっているリリアンヌは、それは可愛らしい。反応も悪くない。殿下もやっと報われる時がきたのだとローリエは納得した。
「まっ、あせらず、ゆっくりやっていきなさいよ。大切にされているんでしょう」
でも!と珍しくリリアンヌがねばってきた。前に、他の令嬢に取られる話をしてから、リリアンヌが不安そうにしているのは、ローリエも気づいていた。
関係が進まないことが、不安なのだろう。
「仕方ないわね、リリアンヌ!耳を貸しなさい」
ローリエは、またもや一肌脱ぐことにした。
リリアンヌに耳打ちすると、えーと言って、納得できない顔をした。
「一度、ロイスにこう言えって言われた言葉を、フェルナンドに言ったら、直ぐにバレて、全然上手くいかなかったのよ」
「堅物男の拗らせた恋愛スキルと一緒にしないでもらえるかしら。ローリエ様の恋愛指南よ。一度はキス寸前まで言ったのでしょ!次に良い感じの雰囲気になったら言うのよ!さっきのセリフを!」
「わ…分かった、頑張る」
自分の言うことに、素直に従うリリアンヌは本当に可愛い。
ローリエその姿を見て、満足げに微笑んだ。
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慌ただしく日々は過ぎて行き、学園は卒業式シーズンに突入した。
フェルナンドはますます忙しくなり、最近は一瞬言葉が交わせれば良い方で、瞬時に役員だったり、教師だったり、誰かしら走ってきて連れ去られてしまう。
ついさっきも、リリアンヌが足りないーと、言ってきたフェルナンドが、髪に少し触れたくらいで、屈強な男達の集団が来て、予算がサインがと言われながら、担がれて行ってしまった。
「私だって、フェルナンドが足りないよ…」
一瞬なんて寂しすぎる。一人残されて、空から吹いてくる風がやけに冷たく感じられた。
翌日もその翌日も、生徒会室を訪ねたが、門番みたいな男に、いないとか、忙しいとか言われて、様子さえ教えてもらえなかった。
(いい加減、こっちも頭にきた!なんだよ!生徒会長なんて引き受けるから、こんなに忙しいわ!会えないわ!)
「やってやろうじゃない!フェルナンドに会いに行くわ!どんな手でも使って!」
決意を込めて言った言葉を、横にいたユージーンが聞いていて、持っていたカップを落としそうになっていた。
「やっ…やめてよ姉様!姉様達はいいよ、もう卒業なんだから、こっちは後2年あるんだから、変な伝説作られたら困るんだよ」
「だって、こっちへ帰って来てまともに会えたのは、ほんの数回、ロミオとジュリエットだって、きっともっと会えてたわ」
誰それ?知らないしと言いながら、ユージーンが頬を膨らませた。
ここで、頭に閃くものが降りてきた。
「そうよ!ロミオとジュリエットよ!」
だから誰?と言うユージーンを連れて、まずフェルナンドが、どこにいるのか探ることにした。
□□□□□□
ユージーンの調べによると、フェルナンドは、生徒会の使っている建物の二階に軟禁されているらしい。
こんなに忙しいのは、ジェイドの騒動の際、重要な書類を、信者にほとんど燃やされたりして、処分されてしまったからで、それを何年にも遡って調べ直し、また新しく作り直しているらしいのだ。
おまけに、次の会長は、全然頼りにならないと、みんながフェルナンドばかり頼るので、ますます仕事が増えていく一方らしい。
「姉様、本当に何をするの?まさか、突入する気じゃないよね」
生徒会は、ジェイドの件があってから、警備に大量の予算を投入した。おかげで、ムキムキの屈強な男達が、建物の警備に付いている。
「馬鹿ね、散々門前払いされているのよ。入れてもらえるわけないじゃない。外から声をかけるだけよ」
へっ?とユージーンが気の抜けた声を出した。
「それくらいなら、良いでしょ。呼びかけて、反応がなければ帰るし。名付けてロミジュリ作戦!」
ユージーンが、明らかにホッとした顔をしたのが分かった。
(本当、携帯電話のない世界って面倒だ)
「フェルナンドは前に話したとき、仕事部屋からは、ユースの木しか見えなくてつまらないと言っていたわ。ここでユースの木が植えてあるのは、あそこね、そしてその二階っと…」
多分あそこだろうという部屋に目星をつけた。
「姉様、僕は正面入口でムキムキマン達に話しかけて、注意を引いておくよ。そのうちに、殿下とお話して」
「…ユージーン。なんて、良い弟なの…ありがとう」
頑張ってとウィンクして、ユージーンは先に走って行った。
「よし、行こう!」
(少しだけ、触れることは出来ないけれど…少しだけでも姿が見たい、声が聞きたい)
庭にまわって、警備が来ないことを確認した。
使い古された手だけど、小石を投げて窓に当ててみた。
カツンと音を立てて、上手く当てられた。
間もなくして、フェルナンドが窓を開ける姿が見れた。
「フェルナンド!こっち!」
「え!リリアンヌ?」
手を振ってアピールすると、こちらに気がついてくれた。
「会いに来てくれたの?リリアンヌごめん、全然会えなくて、まさか、君からこんなところまで来てくれるなんて……ごめん」
フェルナンドらしからぬ弱気な態度。疲れて元気がなさそうな感じが見てとれた。
(全く、こんなになるまで仕事して……義理堅いんだよね、姿も見れたから、気持ちだけでも伝えて帰ろう)
「急に来てごめん!仕事が忙しくて会えないのはしょうがないから。せめて、少しだけでも、姿が見たかったんだ」
フェルナンドが、何かブツブツ言っていて、聞こえないので、何を言っているのか聞こうとした時、ドカドカと足音がして警備のムキムキマン達がやって来た。
ムキムキマンの後ろでは、縄でぐるぐる巻きになったユージーンが運ばれていた
(あー、そんなーユージーン!!)
ムキムキマンの一人が不審者発見!と言って、こちらに掴みかかってきた。
「おい!その人に!乱暴するな!」
フェルナンドが叫んだとき、彼らの迫力に驚き、つい逃げるように抵抗してしまった。すると。
ムギュっと音がするかのように、ムキムキマンの手が、胸を鷲掴みにするかたちになってしまった。
「えっ…、きゃあああああ!!」
自分でもこんな時、きゃーって声を出すのかと、客観的に思ってしまった。
ムキムキマンもまさか、令嬢の胸を掴むつもりはなかったのだろうから、慌てて手を放して、謝ってきた。
あまり、いい気分ではなかったが、向こうも仕事なのだしと、気にしないように言おうとしていた。
その時、地響きの音が聞こえてきて、地震がおきたのかと思って、建物を見たら、剣を片手にこちらに近付いてくるフェルナンドがいた。
目が据わっていて、目の下の隈もミックスされて、完全にヤバイ人にしか見えない。
「誰だー!!!!リリアンヌの胸を揉んだヤツは!貴様かー!!ここで手を切り落とされたいらしいな!」
ムキムキマン達がざわつき、役員達も出て来て、みんなで、フェルナンドを止めにかかった。
「クソコラー!八つ裂きにしてやる!!!」
完全にぶちギレモードのフェルナンドを、ついには、ムキムキマン達も一緒になって止めに入るが、屈強な男が束になってもフェルナンドの暴走は止まらない。
(まずい…こんな大事にするつもりはなかったのに…私のせいだ…、流血沙汰なんかになったら大変!あの人だって、私が抵抗したからなのに!やばいどうしよう)
フェルナンドは暴れまくり、コロスコロスしか言わなくなって、もはや誰も止められないかと思われた。
(あーもー!行くしかない!ローリエ、あなたに言われた言葉に賭ける!最悪の雰囲気だけどそれしかない!)
「フェルナンド!」
呼び掛けると、暴走状態だったフェルナンドの動きが一瞬止まった。今しかないタイミングだ。
「フェルナンド、おっ…落ち着いて、あの…あの…、今すぐ…今すぐ私に、あの時の続きをしてください!!」
こんなに、大人数がいるのに、何の音も、誰かの息づかいも聞こえない。静寂につつまれた。
というか、みんな、え?続き?何?って感じでこちらを見ていた。
カシャン!と音を立てて、剣が地面に落ちた。
人の固まりの中から、人を押し退けてフェルナンドが出て来た。そのまま、すぐそばまで歩いてきた。
「…いいよ。リリアンヌ、しよう」
そう言って、フェルナンドは、上から覆い被さってきて。
…気絶するように、寝てしまった。
誰かが、あー会長、一週間寝てないからと言った言葉が聞こえてきた。
何とか、平和的に止めることが出来て、一同が安堵した。
リリアンヌとユージーンは、会長と話をしに行ったのだが、警備が過剰に反応してしまった、という事になった。学校側から気を付けるように言われただけで、この一件は大事にならずにすんだ。
フェルナンドは1日眠り続け、翌日スッキリ起きると、直ぐに、リリアンヌとユージーン、生徒会関係者を会長室に集めた。
「という訳で、私は引退する」
えーとか、ひーとか、やめてー!とか悲鳴が上がった。
「そもそも、私の仕事はもう終わっている。本来ならとっくに交代していないとおかしい時期だ。私自身、前の会長に助けられたから、ズルズルと続けてしまったのが間違いだった。新しい体制でやっていく必要があるのだから、みんなそれに慣れてもらわないといけない」
そう言われてしまうと、その通りであるので、誰も反対する者はいなかった。
「それと、副会長が決まらなくて負担をかけていたが、今回は私の推薦で決めたので、どんどん使ってあげて欲しい」
みんながザワザワと、周りを見渡す中、フェルナンドが名前を呼んだのは。
「ユージーン」
「ええ!?ぼっ僕!?」
「君の調査能力は優れていると聞いている。生徒会は、王族や高位の貴族が務める事が多い仕事だ。君の将来に渡って、有利になる経験がつめるだろう。頑張ってくれ」
ワァー!!と歓声が上がり、拍手がおこって、否応なしに、ユージーンは連れていかれた。こちらを、半泣きの目で見ていた顔が忘れられない。
「じゃ!後は任せた!」
名残惜しそうな悲鳴や、すすり泣きが聞こえる中、フェルナンドは颯爽とこちらに歩いてきた。
「リリアンヌ、行こう」
フェルナンドが自分の名前を呼んで、手を差し出した。
「はい」
そう言って微笑んで、王子様の手をとった。
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