悪役令嬢に転生―無駄にお色気もてあましてます―

朝顔

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第三章

⑬恋心は止められない

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 学園に着いたのは、夜の9時を過ぎたくらいだった。明日にしようかと迷ったが、ローリエが早い方がいいと言ってくれたので、そのまま、男子用の宿舎に向かった。

 本来ならば、令嬢が夜に忍び込むというのは、ありえない行為であるが、ユージーンの助けを借りて、中に入ることに成功した。
 ところが部屋には、フレイムしかおらず、フェルナンドは今日はずっと見かけていないと言われてしまった。
 では、校舎の生徒会室かと思われたが、役員でもない一般の生徒が夜に校舎に入ることなど不可能。

 ユージーンには、気を落とさないでと言われたが、なぜだか、このままずっと会えないような不安な気持ちになってきた。あの時、ちゃんと向き合わずに、逃げてしまったから。もしこのまま…終わってしまったら…。
 不安の影に全身が覆い隠されそうになったとき、リリアンヌと呼ぶ声がした。

 ちょうど、宿舎を出たところで、校舎の方から、こちらを見つけたフェルナンドが走ってきた。

「着いたばかり?すぐに会いに来てくれたの?ごめんね、急に呼び出されちゃって、リリアンヌを置き去りにして、先にこちらに来てしまうなんて、私としたことが…」

「フェルナンド、遅くにごめん。ちょっと話があるんだ。いいかな?」

「…ああ」

 リリアンヌのただならぬ様子を察知したのか、フェルナンドは真面目な顔になって、入ってと言って、部屋に入れてくれた。

 ベッドに腰かけて座っていると、お茶を持ってきてくれた。

「パーティーの時から避けていてごめん、自分の気持ちがおかしくなってしまって…、フェルナンドに知られたくなかったんだ」

「それは、どういう事?」

「えー…と、なにから話せばいいのか…。まず、フェルナンドに聞かれた答を話すよ」

「¨トーヤ¨のことだね」

「信じてもらえるか分からないけど、私は幼い頃、高熱にかかって、死の淵をさまよった。その時に、自分の前世を思い出した。前世で私は透哉という男で、家の揉め事に巻き込まれて殺されたんだ」

「リリアンヌとして生まれて、途中で前世の記憶を思い出した。それが¨トーヤ¨か…」

「リリアンヌとしての記憶も朧気ながらあるけど、意識っていうのかな、考え方とかは透哉である部分が強い」

「…なるほど、前世記憶というのは、古い書物で読んだことがある。それに、今日のリリアンヌはそうだし、いつもふとした時に、男のような喋り方になるだろう、不思議に思っていたんだ」

「気づいていたんだね」

「ん?それを、何でジェイドが知っているんだ」

 フェルナンドは真面目な顔から、ちょっとムッとした顔になった。

「あー、それは…、あの騒動でジェイドに捕まった時に、やめるように説得する過程で、ついポロっと…」

「ポロっと!?あんな男に話して、どうして私にはずっと黙っていたんだ!」

 フェルナンドは、怒りつつも傷ついた顔をしていた。

「ジェイドとは、母親のこととか、境遇が似ていたんだ。だから、バカなことはやめてもらいたくて、話した。それに、あいつに話して、どう思われようと構わなかった。仕方がないだろ!フェルナンドには、嫌われたくなくて…話せなかったんだよ!」

「…ん?聞き捨てならないな、嫌われる?」

「だってそうだろ!前世が男で、今も頭の中で男みたいに考えちゃうし、気味が悪いだろ!そりゃ見た目はリリアンヌだけどさ、気持ち悪いとかそういう気持ちが…」

「一切ない!」

「ええ!?」

 うじうじと悩んでいた気持ちをフェルナンドに一刀両断された。

「私のリリアンヌへの気持ちを舐めてもらったら困るね。私はリリアンヌの前世がどんな人間でも、この際、人間でなくて、蛙でも豚でも牛でも、全然構わない!」

「蛙とか…豚って…」

「リリアンヌも、その中にいたトーヤも、何一つ欠かすことは出来ない。全てが揃って君という人間なんだリリアンヌ。そして、私が恋をしたのは、そのリリアンヌなんだよ」

「いっ…いいのか!?こんな男女みたいなのが」

「くどい!」

(信じられない…フェルナンドが受け入れてくれるなんて…)

「まぁ、確かに、いつもその喋り方では困るから、私といるとき限定にしてもらうと助かるかな。……うん、世にも可愛いリリアンヌが男の言葉で話すのも、それはそれで堪らない…しかも、私の前だけでなんて…、あぁ、ちょっと待って、鼻血が…」

 なぜだか、急に鼻血を出したフェルナンドが、ハンカチで慌てて拭いているのを見ながら、受け入れてもらえた嬉しさが込み上げてきて、涙がポロポロと落ちてきた。

「フェルナンド…嬉しい…」

「リリアンヌ…」

「実は、最初に言ったあの、おかしくなったというのは、独占欲と嫉妬なんだ」

「え!?」

 ローリエの言葉を思い出した。二人に話したことを素直に……

「あのパーティーの夜、令嬢達に囲まれているフェルナンドを見たとき、私はおかしくなってしまったんだ。フェルナンドを誰にも渡したくなくて!誰にも触ってほしくなくて!ついには、フェルナンドが笑う顔を他の令嬢が見るなんて耐えられなくて!ユージーンには、これは、独占欲と嫉妬だと言われたけど、こんな黒くて汚ない感情を持ったことが、フェルナンドに知られたらと思うと怖くて…逃げしまった」

「ねえ、どうしてリリアンヌはそんな独占欲と嫉妬を感じたの?」

「そんなの決まってる!好きだからだよ!フェルナンドが…好き…だ…」

 自分で口をついて出た言葉に、はっとした。そうだ、こんなにも好きになってしまったのだ。

「良くできました」

 陛下にはお慕いしていると伝えた。それは嘘ではなかったが、こんなにも身体中から気持ちが溢れるくらい、好きなんだと初めて自覚した。

「あぁ、令嬢と話しただけで、嫉妬してしまうなんて、可愛いリリアンヌ。もし私が他の令嬢と手を繋いだりしたら、リリアンヌはどうなってしまうかな」

 想像しただけで、胸が苦しくなって、涙が出てきた。

「いや、いやだ…、そんなの…フェルナンド、いやだ…」

「あぁ、こんな時がくるなんて…、私のリリアンヌ。大丈夫だよ。手など繋がないよ」

 おいでと言われて、フェルナンドの胸に飛び込んだ。しっかりと抱きとめてくれて、やっと安心できた。

「それに、リリアンヌの嫉妬や独占欲なんて、可愛いものじゃないか。ちっとも、黒くて汚ない感情なんかじゃない」

「そんな、でも」

「私なんてリリアンヌの周りの人間全てに嫉妬しているし、リリアンヌが使う物にまで嫉妬するよ」

「もっ、物にも?…それは一般的というか、普通のこと?なの?」

「ああ、そうだ。愛し合う恋人同士ならよくあることだよ」

(なんだ…そういうものなのか。良かった。おかしくなったわけじゃないんだ)

「…フェルナンド、好きって気持ちってドキドキする?」

「もちろん。私はリリアンヌに触れたら、ドキドキするよ」

 フェルナンドが優しく髪を撫でてくれる。心が満たされていく、でもそれじゃ、それじゃ足りない。

「前は、よくこうやって、くっついていても、何も思わなかったんだけど…」

「うん」

 以前から生徒会の部屋で、たまに、フェルナンドに抱きしめられることはあった。その時はせまいなくらいで何も感じなかった。

「でも、今は…胸がドキドキして…、体は熱いし。これは…私、どうしよう、好きな気持ちが多過ぎて、やっぱりどこか…おかし…」

「おかしいわけないよ。ねぇ、リリアンヌ、君だけじゃないんだよ。私も同じ気持ちだよ」

「そうなの?」

「そういう時、恋人同士ならどうするのか?リリアンヌは知りたい?」

「うん」

 ベッドに優しく押し倒され、上からフェルナンドが覆い被さってきた。

「あぁこの瞬間…何度夢に見たことか…」

「フェルナンド?」

「リリアンヌ、目を瞑って…」

 フェルナンドの顔が近づいてきて、キスをされるのだと分かった。
 目を閉じようとした視界の端に、ありえないものが映って驚愕する。

「えっえっ?ひぃっ!!ちょっと!待って!」

「リリアンヌ…、もう待てないよ、そんなに焦らすなんて…」

 近づいてきてくる、フェルナンドの顔をなんとか手で押さえた。

「違うの!あの…あっち!フレイム様が!」

 フェルナンドの動きがピタリと止まり、二人で同じ方向を見た。

 男子部屋は同室で、大きな部屋の端と端にベッドが置かれている。
 向こうのベッドは、一見空に見えるが、ベッドと床の隙間に、月明かりに照らされて、フレイムの顔が見えた。

「やぁー、やっと気づいてくれた。良かった。いつ出ていこうかと、こまっていた」

 あーよかったと、フレイムが隙間からのそのそ出てきた。

「フレイム、いつからそこに!」

 そういえば、すっかり忘れていたが、先ほど訪ねた時、フェルナンドの不在を教えてくれたのはフレイムだった。あの時から、部屋にいたはずだ。

「冷たくてあそこ、好き。寝てたけど、二人の声聞こえて、起きた」

 フェルナンドは、ぶすっとした顔をしているが、さすがにフレイムの部屋でもあるし、何も言えないのだろう。

「あの、私、帰ります。ごめんなさい、急に押し掛けてしまって…」

「…ああ、この時間だ。宿舎まで、送るよ」

 恥ずかしすぎて、フレイムの顔が見れないので、慌てて部屋を出た。
 外に出たところで、窓から顔を出したフレイムが声をかけてきた。

「フェルナンドー、物にまで嫉妬、さすがに気持ち悪い」

「キッ!あいつ!!」

「え?何?よく聞こえなかった?」

「いいんだよ、リリアンヌ。あいつが喋っているのは、独り言だから。気にしないで」

「そうなの、それならいいけど…」

 帰り道はあっという間で、すぐに着いてしまった。
 手を繋いでいたけれど、離すのが名残惜しい気持ちになった。

 ちょうど、見回っていた宿舎の管理人の女性が、こちらを見つけて、早く入りなさいと、呼んできた。

「ほら、リリアンヌ、呼ばれているから行かないと、またすぐに会えるから…」

「フェルナンド…、今日はありがとう。本当に嬉しかった…」

「リリアンヌ…」

「…大好き」

 真っ赤になったリリアンヌは、またねーと言いながら走って行ってしまった。

 恋を自覚したリリアンヌの破壊力と、火を付けてさっさと帰っていく後ろ姿を、フェルナンドは、ただモンモンとする気持ちで眺めるのであった。

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